試練①
「お前が旅人か?」
「は、はい。旅人なんだと思います」
只今、真は大きな宮殿の中の大広間にいた。そして、この国の王様という人の目の前で跪いているという状況だ。
今、真を目の前で上から見下ろしているのは銀髪で浅黒い肌をした見た目はまだ若々しい王様。
「オズ、なのだな?」
「えっと…そうです」
「そうか、なら話が早い。顔を上げよ」
「は、はい」
まさかそんな偉い人が自ら旅人に深く頭を下げるとは誰も予想していなかった。
勿論、真はあんぐりと口を開いたまま硬直する。
「頼む。この国を守ってほしい。俺と共に」
「………えっ?」
そう真が声を発した直後王様は顔を上げて真を見つめてきた。
金色の瞳が真を映しこんでいる。
顔はまさにアラビア系で濃いがとても整っていた。
金色の瞳は強い光を持っており、まさに上に立つものの威圧感を感じる。でも、どことなく優しい眼差しも兼ね備えているという不思議な瞳だった。
思わず真はその瞳に見惚れてしまいそうだったが、そんな感情を一気に振り払いつつ先ほどの王様からの言葉の返事を考える。
この国を守ってほしい…ってどこかで聞いたような…
って、そういえば、あの看板に書いてあった内容とまんま同じじゃないですか!!つまり、これが試練ってわけか…
真は本来の目的を今まですっかり忘れていた自分が情けなくなったが、落ち込むのは後回しにして王様の言葉に答えた。
「私でよければ力になります!!」
その言葉を聞くや否や王様はすごく良い笑顔を見せた。
「そうか、ありがとう。では、行くぞ!!」
そう言って王様はツカツカとどこかへ歩いて行く。
「え、あの、すみません、王様?」
「アリババでよい」
「いや、王様をそれはちょっと…じゃ、じゃあ、アリババさん。一つ聞いていいですか?」
「何だ」
「今から、行くんですか?」
アリババ王はその言葉を聞くと思いっきり顔を歪めて不機嫌そうな声で答える。
「今から行く以外にないだろう。あの怪物は夜まで待ってはくれないだろうからな」
「怪物…それって」
「説明は後だ。今は俺について来い」
アリババ王はそれだけ言うとさっさと歩きだしたので真は慌ててその後について行った。
口調が命令形なのは王様という役柄上仕方がないのかもしれないがなんというか少し横暴に感じた。
少し誰かさんに似ているせいかイラッとしてしまったのだ。
宮殿内の秘密の抜け道を使って国の外、つまり砂漠の広がる景色の場所へと着いたのだが、アリババ王は少し歩いたところで突然座り込み、胡坐をかいて空を見上げた。
真はその行動の意味がわからずにとりあえずアリババ王のそばで立ち止まる。
今は、ちょうどお昼の時間帯で人々は外でひしめき合っており声が外の砂漠にまで聞こえてくるほどだった。
「俺はこの国を必ず守ると父上と約束した。だが、一人では限界があると理解したのだ。だから、今度は一人で挑むのではなく魔法使いの手も借りることにした」
真の方は見ておらずただ、空を仰ぎ見ながらアリババ王はそう話し始めた。
「魔法使い?」
「お前たちの世界では『オズ』というそうだが、俺たちの世界では魔法使いなんだよ」
「世界…世界が、違うんですか?」
「そうだ。こことお前のいた世界は違う。似たようで異なる世界だ」
「…話が大きすぎて信じられません」
真が真面目にそう言うとアリババ王は声をたてて笑う。
「お前、面白いな」
「こちとら全然面白くないんですけども」
「そうか、なら良い」
「どこが!?」
アリババ王はそんな真の反応を見て楽しんでいるようだったのでますます真は誰かさんを思い出してしまった。
「戦いの前に適度な力が抜けた。感謝するぞ、魔法使い……そういえば、名は?」
「今さら!?もう、魔法使いで結構ですよ」
「言え。俺が納得いかん」
「えぇー…奥橋、真です」
「オクハシマコト」
「苗字が奥橋で名前が真です」
「そうか、なら真」
「はいはい」
「これからお前には俺と共に怪物を退治してもらう」
そう言ってアリババ王は空を映していた瞳を真の方に向ける。
「やれるか?」
たった一言だったがとても責任重大な役目の確認のための一言。
真は自然と拳を握りしめて力強く頷いた。
「やれます!ってか、何が何でも倒しましょう!!」
「ハハッ!!そうだな。その意気だ」
アリババ王はどこか眩しそうに真を見つめていたがすぐに視線を砂に移動させた。
そして掌を砂の言えに叩きつける。
「奴はこの下で呑気にくつろいでおる。そして日が一番熱く照りはじめる頃になると顔を出してこちらに襲い掛かってくるのだ。奴は何もかも、飲み込んでいった。」
そう言いながらアリババ王は砂を握りしめて震えていた。
「俺の国の民をこれ以上傷つけるわけにはいかん。絶対に…」
「了解です」
きっと悔しかったのだろうなと真は勝手に思った。
アリババ王は見た感じ真よりも少し年下に見えた。真の感覚で言うと中学生。この生意気な王様はきっと今まで必死でこの国を守ってきたのだ。だからこそ、大切な者たちを守れなかったことが悔しいんだろうな。
そう思ったら自然と真は目の前で悔しさに打ちひしがれている王様が可愛らしく見えてきた。
なので、軽くアリババ王の頭にチョップを入れた。
トンッ
「……おい、真。俺は王だぞ?」
「うん、でも、私はただの旅人ですので」
「…理由になってはいないが、お前が馬鹿なのは理解できた」
「ひどいっすねー!せっかく元気を出させてあげようと思ってたのに」
「俺は落ち込んでなどいないが!?」
「嘘つけい!!さっきまで肩震わせて悔しがってたじゃないですか」
「うるさい、違う」
「はいはい、悪うございました」
「お前、後で覚えておけよ?」
少し顔を赤くしたアリババ王を見て、あ、少しやりすぎたかもしれない。と真は思ったが、アリババ王の元気が戻ったのでよしとした。
アリババ王は少し納得いかないと言ったような表情をしていたが何かが吹っ切れたのか次の瞬間には口元が笑っていた。
「お前のせいで一気に緊張がなくなってしまった。まったく、どうしてくれるんだ」
「というわりにはニヤニヤしてません?」
「してない!!」
なんか少し弟ができたような感覚を味わっている感じになった真は嬉しくなった。
そんな真を睨み付けながらもアリババ王は口をへの字にしつつ一つ咳払いをした。
「兎に角!!奴はもうすぐここに来る。いつでも戦えるように準備しておけよ?」
「はーい」
「…ちなみに俺も『オズ』だ」
「……えっ?」
「俺の血筋は代々、砂を操る能力を持っている」
「そっか、わかった。私は風を操るオズを持ってる」
「風か。わかった。上手く利用させてもらう」
「そうじゃなくて協力するんだよ!お互いに」
真はそう言いつつ胡坐をかいているアリババ王と同じ目線までしゃがんでそう言った。
すると、アリババ王は一瞬目を丸くしたあと、「まぁ、そう、だな」と言ってからふいと視線を逸らした。
少し顔を赤らめているのはまた怒ってしまったのかもしれないが、まぁ、いいや。
そう思ってアリババ王を観察していると、突然地面が揺れ始めた。
ゴゴゴゴゴゴッ
「!?」
「来るぞ!!」
そう言ってからアリババ王は立ち上がり腰に掛けていた短剣を引き抜いた。
その瞬間目の前の砂が波のように浮き上がって何かが出てきた。
真は思わず固まる。
そこにいたのは宮殿と同じくらいの大きさのサソリのような悪魔だった。
全体は毒々しい青色の身体で鋭い毒針もしっかりと持っている巨大なサソリに見える。
目はサイコロの六の目が顔に張り付いたような感じで口には毒針に負けない程の鋭い牙をぎらつかせている。
勿論、極めつけは両手の大きな大きな二つのハサミ。かみ合わせるたびに音がガチンとなっており、挟まれたら一発であの世逝きだろうなと真は思った。
「あ、アリババさん。これが例の怪物ですか?」
「そうだ!気をつけろよ!奴の毒針をくらったら五分ももたないぞ」
「まじかよ!!」
真は目の前の悪魔を見上げてゴクリと息を飲む。
これが、試練…あまりにもハードではないだろうか!?
そんな悲痛な叫びを内心で留め、真は目の前の悪魔をどうやって倒すかを必死で考えるのだった。
命の保証などない試練。こわいですね。
ここまで読んでくれてありがとうございました!!




