第五十話 お引越し
「ここが今日からお前らの住む場所だ」
中丸先生は大きく欠伸をしながらそう言ってその建物の扉を開けた。
昨日まで住んでいた寮とは違い、まるでお屋敷を思わせる大きな建物が真達の目の前にあったのだ。
皆何も言葉がでないのかただただ黙って中丸先生の後について行く。
中に足を踏み入れるとますます真達は固まった。
大きなシャンデリアが中央リビングらしき部屋につるされており、いかにも高価な品々のテーブルやソファー、テレビ、冷蔵庫などが備え付けられている。
真はめまいがしてきた。
(ここ、本当に寮?)
あまりに広い部屋がたくさんあるので真はそう思わずにはいられなかったが口にはしなかった。
何故なら、まだ皆お互いのこと(特に瀬木君と柏谷君)を知らないので少し会話が続かずに何とも言えない空気になっていたからだ。
だが、そんなことを一切気にしない者もいた。
「広いなぁ!!俺ら十人しかいないのにこの屋敷みたいなとこで住むの!?」
いつものキラキラ笑顔で新崎が中丸先生にそう尋ねては周りを忙しなくキョロキョロと見ていた。
「屋敷じゃなくて寮な」
中丸先生はしれっと訂正を入れつつ建物内の説明を淡々と進めていく。
どうやらこの屋敷…寮は二階建てになっており、上に各個人の部屋が一つずつ用意されてある。
「男子と同じ階の部屋…」
恋がはっきりとした口調で顔はこの世の終わりとでも言いたげにそう言って涙目になっていた。
「だ、大丈夫だよ!恋!!何も怖くないよ!?」
「そうだよ!!もしも男子の誰かが恋に何かしたら私がこらしめるから、ね?」
そう言いながら琴音が男性陣の方を向いてニコリと微笑む。
真達女性陣側には琴音の顔は良く見えなかったがきっと黒い微笑みをしたのだろう。
男性陣が皆一瞬ビクリとしてからものすごい勢いで頷いた。
皆本能でわかったのだろう、この人を怒らせてはいけないと。
「さて、これで説明は一通り終わったが、質問は、あるわけないよな!んじゃ、今日の午後まで自分の荷物運びと仲間との交流でもしておけ。正午からお前らには特別授業が用意されている。楽しみにしとけよ?じゃ、俺は行くぞ」
中丸先生はそう言うが早いかさっさと出て行ってしまった。
真達はとりあえず皆各々の荷物を部屋に運び終わった後、自然とリビングルームに集まっていた。
真は恋や琴音、愛奈たちと会話をしているのだが、中丸先生は仲を深めろと言っていたので一応自己紹介でもした方がいいんじゃないかと考えていると、誰かが手を鳴らして皆を注目させた。
「せっかく、これから一緒の寮で暮らすので、自己紹介でもしませんか?」
そう言って微笑んだのは天使(真が勝手につけたあだ名)こと光だった。
金髪碧眼美少年が微笑みながらそんな提案をしてきたので真には断る理由などなかった。
「僕は実技中心クラス 戦闘学科の若宮 光といいます。これからよろしくお願いします」
そして安定の天使の微笑みで光はそう言った。
「俺も光とおんなじクラス、学科、名前は新崎 霧!よろしく!!」
こちらも安定のキラキラ眩しいスマイルでそう言ってのけた。
霧の横に立っていた拓斗はだるいという表情をしながらも口を開いた。
「コイツと同じクラス、学科。 海藤 拓斗」
そう言ってから大きく欠伸をしてから近くのソファーに寝転んで眠りはじめる拓斗。
そんな拓斗に少しびくびくしつつ緊張した声で
「か、柏谷 凪。あ、実技中心クラス戦闘学科…です。よろしく」
そう言って一度深く礼をする柏谷君に真は好印象を持った。
(やっと、まともな人が…)
そんな失礼なことを考えているなど誰も知らずに自己紹介は続いて行く。
「実技中心クラス 防御学科 足影 麓だ。よろしく」
足影君はそう言ってから橙色の瞳を少しだけ細めた。
もとの顔が綺麗な女の人みたいなのでもう真はいっそ女の子なんじゃないかと思った。
「学問中心クラス 分析学科 瀬木 蘭丸」
ぼそりとそう言ったかと思うとすぐに瀬木君は分厚い本に目を移していた。
「実技中心クラス 戦闘学科 白木 琴音です。よろしく」
はい、女神様は安定の美しさでした!!あ、鼻血が…
「琴音と同じクラス学科の宮崎 愛奈ですわ。よ、よろしくと言ってあげても構わなくてよ?」
うん、わかってる。愛奈の性格はよく知ってるから微笑ましく見ておこう。
「クラスは愛奈と同じ。治療学科。赤姫 恋。よろしく」
最後の方の言葉は掻き消えてしまいそうなほど小さい声量だったが、顔を真っ赤にしながらも恋は言い切った。これでも成長している!真は恋の成長が嬉しくて目頭が熱くなった。
って、これ、私しか残っていない。
「えっと、恋と同じクラスで防御学科の奥橋 真です。よろしくお願します」
一通り自己紹介が終わった途端の出来事だった。
突然柏谷君が真の目の前にスタスタと歩いて来た。
「お、奥橋さん!馴れ馴れしいかもしれないけど一つ聞いてもいい?」
「どうぞー」
「銀城先生と戦って…圧勝したって本当?」
「………あー、それね」
どうして噂というものは一人歩きするのだろうかと思いながらもあの時のいきさつを柏谷君に説明する。
一方、そのとき、新崎は瀬木の方に近づいて本を覗きこんだ。
「何読んでんだ?」
いきなり話しかけられたので瀬木は少しビクリとしたが淡々と答える。
「オズの属性についての本」
「…それ、見てて楽しい?」
「あぁ、楽しい」
無表情だが瞳がキラキラと輝いている瀬木を見て新崎は「そっか」と笑う。
「俺のこと、霧でいいからさ、お前のこと蘭丸って呼んでいい?」
「構わない」
「よし!んじゃ、光と拓斗のことも呼び捨てでいいから!」
「いいのか?本人の許可なしで」
「いい!なぜなら、俺だから!」
「……そうか」
あえて何もツッコまない瀬木はきっと優しいな、と光は一人思っていた。
恋はジッと足影を見つめる。
「……あの、何か?」
耐えきれなくなった足影は恋にそう問いかける。すると、恋はすごく真面目な表情で
「あなた、本当に男の子?」
と聞いてきたので足影は即答で「男だ」と言った。
「…ということで私は銀城先生に圧勝したわけじゃないんだよ」
「そうだったのかぁ!いやぁ、噂では奥橋さんってすごく怖いって聞いてたからなんだか安心したよ」
「安心…」
「うん、だって実際会って話してみたら普通に優しいし可愛い」
「…そ、そっか?」
「うん」
黒髪黒目の柏谷君はふわふわとした笑みを浮かべて真を見つめる。
(こ、この子天然タラシだ!気を付けよう!)
真は顔の火照りを覚ましながらそう思った。
「蘭丸さ、学問中心クラスで唯一のキング入りだろ?本当にすごいよな!」
「そうか?たまたまだろう」
「いや、違うだろ!なぁ?愛奈!」
「ふぇっ!?わ、私!?」
突然話を振られた愛奈は顔を真っ赤に染めながらあたふたしだす。
一つ咳払いをした後に愛奈は腰に手をあててから
「ま、まぁ、この私に及ばなかったにしろ、キングに入ったのはまぎれもない事実。誇りに思っていいのではなくて?」
「……」
「つまり、愛奈は『すごいよ!もう、自慢しまくっていいと思うよ!』って言ってるんだよ」
「こ、琴音!?何ですの、その意訳は」
「……そうだったのか。ありがとう」
あまりにも素直に瀬木にお礼を言われて愛奈はさらに顔を真っ赤にする。
「か、かかか勘違いなさらないでっ!?別に、私は」
「おー、照れてる照れてるw」
「き、霧っ!!照れてなどいませんわっ!!」
そんな愛奈を瀬木、霧、琴音は微笑ましく見ていた。
恋は未だに足影に詰め寄っていた。
「別に隠さなくても大丈夫だy」
「いや、だから違うと言っているんだが」
「私の服…貸してあげようか?」
「何でそうなる!?」
「あ、スカートはフリフリレースのやつd」
「話を聞いていないのかっ!?」
足影は悲鳴に近い声でそう叫んだ。
そんな中、拓斗は大きく口を開けたまま爆睡中だった。
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「まぁ、なんとか上手くやっていけそうだな」
中丸先生はそう言って双眼鏡を目から離す。
「本当は一番心配していた教師の心生徒知らず」
そうステラは中丸に抱き着きながらそう言う。
「本当にそうだなってか、おい、苦しいから離れろ」
「嫌、好きって言ってくれないと離れない!!」
「すき」
「えっ!?」
「やき食いたい」
中丸がステラの拳を頭に食らったのは言うまでもない。
基本キングの子たちは良い子ですww
ここまで読んでくれてありがとうございました!




