大役
大役は断りたいならお早めに。
オズ学園の生徒が転入してきた次の日。
真はいつも通り遅刻寸前の時刻に教室に入ってきた。
美夏は息を切らせている真を呆れ顔で見ている。
真はそんな美夏の視線に気づかないフリをして席につく。
すると、黒板の前に立ちはだかる我らが担任藤崎先生はいつも通りの美しい笑顔で生徒を見渡しながら言った。
「おはようございます!早速だけど今日の朝礼は全校集会に変更になりました。今から急いで体育館に移動して下さい」
体育館の壇上の上には噂のオズ学園の生徒達が皆揃っていた。
全校生徒達のほとんどが騒ぎ出して体育館がまるでどこかのアイドルグループのコンサート会場のような場所に変わった。
そんな中、
「静かに」鋭く深みのある声がマイクを通して体育館内に響き渡る。
生徒全員が騒ぐのをピタリと止めた。この学校の校長である小松茂人が全校生徒を壇上の上から見渡しながら何者も許してはくれなさそうな鋭い目つきをしながら再び「静かに」と言った。真は何も騒いでいたわけではないのに自然に自分の口をよりきつく結んでしまっていた。この学校の校長であるこの学校の校長は本当に厳しく容赦ないことで他校にも知られている程有名だった。
生徒達からは影で「鬼畜野郎」と呼ばれている。
校長は静まったのを確認し、変わらず鋭い目つきで生徒達を見渡しながら話し出した。
「今回、我が校にオズ学園の方々が来てくれた。とても光栄な事だ。ここでオズ学園を代表して若宮光君が挨拶をしてくれる」
若宮光はマイクを校長から受け取る。彼は今からでもモデルなどの仕事ができるぐらいの完璧な容姿で金髪碧眼だった。
彼は堂々と全校生徒に向かって話し出した。内容は最近、オズを持っていながら普通科の学校に通っている生徒などが行方不明になる事件が多発しているらしい。そこで全国の普通科の小・中・高の学校にオズ学園の優秀な生徒を動員して一人でも多くのオズを持っている生徒を見つけるために調査しに来た。ということだそうだ。
最後に若宮光は
「どうか皆さん、正直になってください。」
と言って深々と礼をしてマイクを校長に返し、説明が終わった。
その後他のオズ生徒が一人一人自己紹介をしていたが、真の耳には入ってこなかった。
大丈夫。私は普通なんだ。いつもオズを使っているわけではないし、そもそも、今まで生きてきた中でバレたこともないし自分からバラしたこともない。
「こと…真!」
突然美夏の声が耳に入ってきた。
「美夏、どうしたの?」
「それはこっちのセリフなんだけど?さっきから何回も声かけてるのに」
「ごめん…少しボーッとしてた」
「何?考え事?」
「そんな感じ」「ふーん…」
美夏は他にも何か言いかけたが、口を閉じた。
全校集会が終わり教室に戻る途中藤崎先生に真は呼び止められた。
放課後、海藤を連れて職員室に来いとのことだった。
「先生…それは私じゃなければダメですか?」
「えぇ、あなたじゃなければダメなのよ」
まさか、私がオズってことが知られて…?
「私は何をしに職員室に?」
「あなたには大役を任されてもらうわ」
ここで私は走って逃げるべきだった。
「大役って?」
「あなたはオズ学園の生徒達と一緒にこの学校内にいるオズを持っている生徒探しをしてもらうわ」
「………」
先生、あなたの目の前にいますよ。
真は内心でつぶやく。
「あなたにしかできないことよ」
私の頭の中で非常ベルが鳴り響く。
「ま、待って下さい!私以外の人でもオズ探しはできるはずですよ!?」
「確かに、そうかもしれない。でもね、あなたは皆と違う」
先生はやっぱり私がオズだと気づいて…?
藤崎先生は私にビシッと指をさしながら言った。
「あなたは海藤君を見ても惚れていない!!」
「……は?」
真面目な顔をして何を言っているのだろうかこの人は。
「あなた以外の生徒は皆オズ学園の生徒の誰かしらの虜になっているわ。でも、あなたは彼らの誰一人にもたじろいでいない!」
「…それが、私を選んだ理由ですか?」
「えぇ、そうよ」
このとき、私は初めて藤崎先生に怒りの感情を持った気がした。
これは引き受けるわけにはいかない。
「先生、私には無理ですよ」
「あら、どうして?」
「私はオズを持っている生徒を見つける能力はありません」
「そんなの誰だって同じだわ」
「じゃあ、他の人でも!」
「でも!私はあなたに頼みたいの」
そう言って先生は真の手をそっと握る。
何、これ。何の感動シーンでもないのに何で先生はこんなに真剣なの?
「あなたに、頼みたいの」
先生は私の目を見つめたままそらさない。
冷や汗が止まらない。
いや、駄目だって!真!こんな役を引き受けたらリスクが高すぎるって!
真は内心で自分に言い聞かせる。
「いや、私、あの、テスト近いし、家で勉強したいな~って」
「ならちょうどいいわ!オズ学園の若宮光君はとても頭がいいんですって!教えてもらったらいいじゃない!」
いやいやいや!何でそうなる!?
「いや、家で一人きりでしないと勉強はかどらないんですよ~」
「大丈夫よ!先生からも頼んでみるから!だから、ね?」
この人は私の話を聞いていたのだろうか?
だから、ね?って何?
「先生、私は」
藤崎先生は私の前でスッと人差し指を立てて「しーっ」と言う。
「このことはあまり多くの人にバレてはいけないの。だから、他の子には内緒でこっそり職員室に来てね!」
「…いや、だから」
「いいの!心配しないで。勉強のことは私が責任を持って若宮光君に頼んでおくわ。だから、奥橋さんは余計なことは考えずに大役を任されてちょうだいな」
つまり、もう逃がさないってわけですね?
瞬間移動でもして逃げてしまおうかな…
真は真剣にそう思った。
私が黙っていたのをいいことに藤崎先生は「じゃあ、放課後に」と言ってどこかへ去って行った。
真は少しの間その場に立ち尽くしていた。
どうしようどうしよう!?
何で断らなかったんだ私!タイミングなんて関係なく断ればよかったのに!
後悔で真は押し潰されそうだった。
「大丈夫ですか?」
真は自分にかけられている言葉だとは思っていなかった。
「大丈夫ですか?」
二回目で真は声のする後ろを見る。
「あ、」
思わず声が漏れる。
そこにいたのは若宮光だった。
金髪碧眼の美少年がこちらを心配そうに見つめている。
「さっきから立ち尽くしていたので…」
「すみません!ボーッとしてて…」
「体調が優れないのですか?」
「いや、大丈夫です!ただ考え事してただけなんで」
「そうでしたか。考え事の邪魔をしてすみませんでした」
さっきから思ってたけど、言葉遣いが丁寧だなぁ
「あの、もうすぐ授業が始まる時間では?」
若宮は優しい口調でそう言った。
「本当だ!あ、気づかせてくれてありがとうございました!」
真はお辞儀をして逃げるようにその場から去った。
目の前にいざ自分の正体がバレてはならない人が来ると焦ってしまう…
若宮君は同じ高校生とは思えない程大人の雰囲気があったな…
真はそんなことを思いながら授業を受けていた。
頭の中はこれからバレないためにどうすればいいのかしか考えていなかった。




