第四十話 負けず嫌い
「潔く負けを認めろ、奥橋」
「負けるのは海藤君だと思いまーす」
只今、私、奥橋真は海藤拓斗君とにらめっこをしている。
ただし、二人とも刀を双方に突きつけた状態で。
この時に至るまでに時間は三十分程前にさかのぼる。
学園祭二日目の午後三時ごろからオズ戦の二日目は始まった。
昨日のオズ戦で勝った者同士が今日戦い、優勝者を決める。
このオズ戦の優勝者にはポイント100000000pがもらえるらしいのだが、正直に言って真はポイントなんて進級に必要な数だけあれば別にもうどうでもいいものであった。
だから、すぐに負けるつもりでいたのだが、相手が海藤君だったせいで真の計画は狂ってしまったのだ。
試合直前のことだった。海藤君が真の方にさっと近寄ってきて真剣な目つきで見てきた。
「お前、俺と戦うってことになったが、大丈夫か?」
「…何が?」
「いや、一応お前も女だから手加減をした方がいいのか?」
真剣な顔つきなので悪気はないことはわかる。だが、
(『一応女』ってなんだよ!)
「別に?一応女ですけどそんな情けは無用ですが」
敢えて『一応女』の部分を強調して言ってみたが海藤君には伝わっていなかったらしい。
「そうか、一応女なのにか?」
いっそそこまで言われるとわざと?と疑いむかつくよりも違う意味でのデリカシーの無さに呆れてくる。
「ウン。ヘイキダヨ」
「…そうか」
海藤君は本気で真がどうしてこんな複雑そうな顔をしているのかが分かっていないようだった。
ここで真はこの気持ちを海藤君にも味わわせてあげたい!という感情が湧いてきた。
このイライラとモヤモヤな気持ちに海藤君をさせてあげるためにはどうしたらいいのだろうかと考えてすぐさま思いついた。
(そっか、試合で勝てばいいんだ!!)
真がニヤリと笑ったら海藤君が変なモノを見る目でこちらを見つめている。
「海藤君、私は君に絶対に勝つ!」
真は堂々と指を海藤君に突きつけてそう宣言した。
すると海藤君は少しの間黙っていたがすぐに「は?」と言ってから何言ってんだと言いたげな顔でこちらを睨んできた。
「私は勝つことにしますよ!」
「唐突だな」
「いや、唐突じゃないよ!これはちゃんと海藤君が私に対して挑発してきたからだよ!」
「いつ挑発なんざしたって?」
「今さっき」
「今さっき?」
海藤君は少し考えた後に首を傾げてから真の顔を見て「何もしてねぇだろ」と言い返す。
「はい、もうその時点で私に喧嘩売ってるー!!あ~ぁ!!最後のチャンスだったのにー!!!」
「知るか。ってか、さっきは心配して声を掛けてやっただけだろーが」
「心配?さぁなんのことやらデリカシーの欠片もない言葉なら聞いたけども?」
海藤君の方からピキリという音が聞こえたかと思ったらものすごい威圧感が伝わってきた。
「お前、俺に勝てると思ってんのか?」
「やばい、余裕で勝っちゃうかも~☆」
「ほぅ…言ったな?」
「うん、言いましたよ?」
「じゃあ、賭けるか?」
「いいよ?」
すると海藤君は悪い笑みを浮かべた。
「勝った方が負けた方の命令を何でも一回聞く」
「…わかった。その勝負、乗った!!」
こうして海藤君と真の間にバチバチと火花が散ることになったのだった。
そして試合開始から十分後の事、真と海藤君はそれぞれ風で作った刀と炎で作った刀を交えて両者引けを取らない動きで攻防を繰り返していた。
だが、一瞬真の力が海藤君に押し負けて体勢が崩れたのを狙って海藤君が一気に攻めてきた。
真は寸でのところで海藤君の刀を受け止めるがそこから動くことができない。
(さすがに、力が強いよなぁ)
真の体勢は膝をついた状態でそんなことを思ってしまう。
「何だ、もう終わり?」
意地悪い顔で海藤君は真を見つめながらそう呟く。
真はその言葉によってどこからか力がみなぎってきて海藤君を一度突き放す事に成功した。
「全然?まだ始まり」
真はそう言ってから風を使って高く上空に舞い上がって狙いをつける。
そして、刀を構えて海藤君に向かって勢いよく落ちていく。
その間に海藤君の周りを囲むように竜巻が地面からいくつも出てきた。
そのせいで海藤君の動きは一瞬止まってしまう。それが狙いだった。
真は落ちて行きながら風を使って自分の身体を加速させ、刀にはより切れ味が良くなるように鋼のコーティングをした。
「はあああああああっ!!」
「甘い」
海藤君はそう言ってから竜巻全部を炎で覆った。すると竜巻は炎を消すことなく逆に一体化して炎でできた竜巻に変化した。
「あっつい!!」
「だろうな!!」
真が炎の暑さに驚いている間に海藤君が目の前に迫ってきていた。
だが、真もすかさずに刀を海藤君に向けて突き出した。
音をたてて風の加勢もあっていっそう勢いよく燃え上がる火の粉の中、真と海藤君の首筋にはお互いの刃がピタリと突きつけられている。
少しの間、黙って睨み合う二人。
「潔く負けを認めろ、奥橋」
「負けるのは海藤君だと思いまーす」
「「…」」
まるでにらめっこをしている感覚に陥る。
お互い相手の目を見つめて決して逸らそうとしない。
なぜなら、逸らしてしまったら負けてしまうと真は直感で思ったからだ。
(絶対に勝ってやる!)
そう固く決意して真は海藤君を睨み付ける。すると、そんな中海藤君が突然「あ」と呟いて真の後ろを見つめる。
「銀城先生」
「っ!!?」
真は海藤君の言葉につられて思わず後ろを振り返る。
が、誰も見当たらない。ここで真はすぐに自分が失敗を犯したと気付く。
すぐさま海藤君の方を向き直ると自分の刀が海藤君の手で押さえられていた。
「うわっ」
「詰めが甘すぎだ、バーカ」
そう言いながら海藤君は真の腕を掴んで自分の方に引き寄せて首元に腕を回し、真を固定して刀を再び首筋に突きつけた。
「…っっ」
「俺の勝ち」
耳元で囁くように言われて余計に腹が立った。
『勝者は海藤拓斗!!』
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「真ー、惜しかったなー!!最後気を抜かなかったら良かったのにな!!でも、結構いい線いってたと思うよ?俺は」
試合後の控室で新崎君が真の座っているソファーの隣に座って笑いながら励ましてくれた。
(ちくしょう、あんなコスイ手に引っかかる自分の馬鹿さがむかつく!!)
そんなことを頭の中で考えながら真は大きなため息を吐く。
「…ま、元気出せって!!じゃ、俺は次の試合があるから行ってくる!」
「あ、頑張ってね!!」
「おう!!」
新崎君はキラキラ笑顔のまま試合に行ってしまった。
そんな新崎君いなくなった後、真は一人でイライラしていたのだが、すぐに隣に誰かが座ってきたのでふと目を移した。
するとそこには今最も会いたくない奴である海藤拓斗が偉そうにドッカリと座っていた。
そしてこちらをジッと見つめている。
真もすかさず睨み付けると海藤君はニヤリと笑いながら「賭けは俺の勝ちだったな」と言った。
「まぁ、そうですね」
「んじゃ、願い事一つ聞いてくれるな?」
「どうぞーなんなりと」
(パシリでも土下座でも上等だ!!)
そのように真はもうやけくそになっていたが海藤君の発した言葉に耳を疑う。
「真」
「………ん?」
「俺の事は『拓斗』って呼べ」
「……ハイ?」
「わかったか?真」
「それが、願い事でいいの??」
「それ以外に今のとこお前に頼むことはない」
「そう、ですか。じゃ、じゃあ、了解です」
真はそう言ってから海藤く…拓斗から目を逸らす。
すると、拓斗の方から少しため息のようなものが聞こえたかと思ったら、真の頭に大きな手が優しく乗せられてきた。
そして、くしゃくしゃと乱暴に撫でるとすぐに手は離れていき拓斗がソファーから立ち上がってスタスタとどこかへ去って行った。
その手が拓斗のものであると気付いたのは真が数分間呆けた後のことだった。
「わけがわからないでしょ…」
真は一人そう呟いてから顔の火照りを必死で覚まそうと手で風を送ることしかできなかった。
きっと拓斗君はお願い事を真に言ったあと照れたのであの場から逃げたのでしょうww
ここまで読んでくれてありがとうございました!!




