東堂先輩と琴音
真の目の前に現れたのはまぎれもないあの東堂先輩だった。
「東堂先輩」
「悪い、遅れた」
そう言って東堂先輩は真の頭を乱暴に撫でた後、すぐに真の頭から手を離して丹越君の方を向いた。
真はゆっくりと立ち上がって自分の後ろを見る。やはり先ほどと変わらない黒い壁がある。
どうやって東堂先輩がここに来たのかは疑問だが今はそれどころではないことは真でも理解できた。
丹越君の方を見ると変わらずに青い血は流れ続けており、止まる気配はない。
そして丹越君は肩で息をしながらもこちらを冷たい色の瞳で睨み付けていた。
「なん…で、入ってこれた、わけ?」
丹越君は苦しそうな声で途切れ途切れだがそう尋ねてきた。
「笛のおかげだよ」
「笛…?さっき、僕が壊したあの金色の?」
「そうだ。あれを吹くのが一番手っ取り早いんだが、どうやら壊してくれたみたいだからな。あの笛が破壊された場合は十分後に俺が笛が壊れたあるいは壊された場所に移動することができるように作っておいた」
(そうだったんだ。というか、あのホイッスル、東堂先輩が作ったの!?)
今は驚く時ではないのだが、真は驚かずにはいられなかった。
「あ~ぁ…結局、助けは呼んでいたわけ、かー。奥橋ちゃん、ずっる…」
そう言ったかと思うと丹越君は自分の胸に刺さったナイフを乱暴に引き抜いた。
先程よりも大量の血が丹越君の身体から流血する。
人間ならすでに死んでもおかしくない量の血が地面に広がっていたのに丹越君はふらつきながらも立ち上がった。
そして何が可笑しいのかクスクスと笑いながらナイフの先端を東堂先輩に向けて突きつける。
「あんた、名前は?」
「東堂勇人」
「とうどうゆうと…ね。わかったー覚えとくー。じゃあ、東堂君?今回のお礼はまた今度にたっぷりしてあげるよー」
そう言って丹越君は黒い煙を手から出してドアのようなものを作り出した。
そしてそのドアの中に一歩足を踏み入れたが一度真の方を向いてニコリと笑う。
「奥橋ちゃん、また、来るねー」
そう言って手を振るとすぐに煙のドアの中に入り消えてしまった。
そして真を閉じ込めていた煙の空間は薄くなり、やがて消えた。
見えてきたのは観客席にいる沢山の人々の視線だった。
真は呆然とたちつくしてしまっていたのだが、東堂先輩はすぐに真の頭を掴んで引きずりながら試合場を後にした。
『えぇ…何があったのかはわかりませんが、勝者は奥橋真!!』
そんなアナウンスが控室に聞こえて真は頭痛がした。
そんなときに真の方に駆け寄ってくる足音。
「奥橋!!無事か!?」
肩を掴まれて目線の高さを合わせながら中丸先生がそう聞いてきた。
「はい、この通り、ピンピンしてます」
真は笑いながらそう言って安心させようとしたのだが、何故か中丸先生は眉を顰めて黙ってしまった。
よくわからない沈黙が起こり真が困惑しているとまた走ってくる足音が聞こえてきた。
「真っ!!大丈夫!?」
涙目で青い顔をしながら恋が真に抱き着いてきてそう尋ねる。中丸先生は弾かれた。
同じく琴音も心配そうな顔で真を見つめている。
「うん、大丈夫。東堂先輩のおかげで」
そう言って真は近くのイスに腰掛けてうつらうつら船を漕ぎはじめている東堂先輩の方を見た。
恋はそんな東堂先輩の方には見向きもせずに真の肩の傷を見つけ、すぐに「治す!」と言って肩に両手をかざした。
すると、キラキラと緑の光を放つ両手で真の肩の傷はすぐに跡形もなく消え去った。
「すごい…ありがとう恋」
「えへへ…良かった…傷があまり深くなくて」
照れたように笑う恋の姿が可愛すぎて思わず抱き着いてしまったのは許してほしい。
「勇兄!ちゃんと事情を説明して!!」
真はそんな声が聞こえたので思わず東堂先輩の方を再び見た。
すると、琴音が洟提灯を出して寝ている東堂先輩を揺すって起こしている最中だった。
「「勇兄…??」」
真と恋はそう二人同時に呟く。
そんな二人の反応には気づいていない琴音はなかなか起きない東堂先輩のおでこに思いっきりデコピンした。
ピシリと痛そうな音と共に洟提灯がパンと割れて「あだっ」と言いながら東堂先輩は目を開いた。
そして明らかに不機嫌な顔で琴音の方をギロリと睨んだが、すぐにキョトンとした顔になり呟く。
「なんだ、琴音か」
「なんだじゃないでしょ!真に何があったかちゃんと説明してよ!まさか、勇兄が真に何かしたんじゃないでしょうね?」
「あ~?眠いからパス」
「説明しなさい!!」
そんな二人のやりとりに真と恋はポカンと見入ってしまう。
そんな驚いている二人に説明をしてくれたのは中丸先生だった。
「あの二人はまぁ、同じ時期にこの学園に入ってきてその頃から兄妹みたいな間柄なんだよ」
「へぇ…そうだったんですか…」
いつも面倒見がよく大人びている琴音が東堂先輩とのやりとりでは確かに軽くあしらわれておりまるでどうしようもない兄をしかりつけるが相手にされていない妹に見えて新鮮だった。
「勇兄?説明をしてくださいな!!」
「うるせぇな…中丸先生ー、help,help」
「俺に押し付けんなよ」
「中丸先生、事情を詳しく教えてくれますよね?」
「いや、俺はその場にいなかったからわからn」
「ほらー!!中丸先生わかんないって言ってるじゃない!」
「そりゃー、気の毒なこった」
「勇兄…」
琴音の周りから怒りのオーラがでているのが真でもわかった。
そして、琴音の身体からビリビリと電気が漏れていた。
そういえば、琴音のオズって雷だったっけ…??
真は思わず後ずさる。以前琴音が一度怒った場面に出くわしたことがあったのだが、もう相手が可哀そうに見えてくる程の仕打ちであったことは覚えていた。
だから、真は東堂先輩に心の中で逃げてと訴える。が、東堂先輩は全然気づいておらず、大きな欠伸をしながらまた懲りもせずに寝ようとしていた。
なので真は慌てて琴音を止めるために「私が説明するよ!」と言うと琴音は真の方を見てコクリと頷いた。
どうやら怒りも治まったらしく真の手を両手で包み込みながら東堂先輩がひどい事をしていないか、あるいは変な事をされていないかなどを聞いてきた。
真が大丈夫だと答えると琴音は心底安心したらしく大きなため息を吐いた。
そ、そんなに東堂先輩は危ない人なのだろうか?
まぁ、今回は何事もなかったのでいいか。
真はそう思って深く考えるのを止めたのだった。
その後は中丸先生から少し事情を聞かれ、すぐに休めと言われた。
「突然の出来事できっと身体が疲れているだろうからゆっくり明日に備えて寝とけ」
中丸先生はそう言うが早いかすぐにどこかへ行ってしまった。
言われた通りその夜はすぐに眠りについた。
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また、夢を見た。
私は雨の中どこかに立ち尽くしている。そして、目の前には誰かが私と同じように雨でびしょ濡れのままこちらを見つめていた。
私が小さいのか相手の背が大きいのかわからないが、とにかく私は首を結構あげてその目の前の人物を見ているのだ。
雨のせいで視界が何度もぼやける。何度も何度も目から雨を拭い、目の前の人物に目を凝らす。
そして、はっきりとわかったのはその目の前の人物はマリンブルーの瞳と髪だった。
でも、丹越君ではない。なぜなら目の前の人物は女性だったからだ。
すごく綺麗な人だと思ったと同時にひどくその女性からは冷たさを感じた。
瞳の色は本来ならとても綺麗で温かい色のはずなのに、彼女の瞳はひどく冷たくなんの感情も見えない色に思えた。
まるで、魔人だとバレたときの丹越君の瞳と同じだった。
その女性は私に近づいて来て私の目線に合わせるためにしゃがんだ。
そして女性の口が開かれる。
「十年程、待ってやる」
確かにその女性は私にそう言ってから去っていった。
雨音はうるさかったにもかかわらず、女性の声は私の耳によく響いていた。
女性が去っていく後姿を私はただただ黙って見つめていた。
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が、その後、自分が発した言葉で私は目が覚めた。
「ゆるさない」
まるで、自分の声なのに他人の声のように聞こえた。
ここまで読んでくれてありがとうございました!!




