エントリー
「東堂先輩!!あの、今さっきのは冗談ですよね?」
真は必死に東堂の顔を覗きこみながらそう問いかける。
今、真は東堂先輩の脇に抱えられて身動きがとれなかった。
「冗談って何が?」
東堂先輩は真には一切見向きもせずにどこかへ黙々と足を運びながらそう答える。
「だから、さっきの話で私をオズ戦にエントリーさせるとかいう」
「冗談じゃねぇよ」
「はいぃ!?何でですか!?確かに私が東堂先輩に失礼な態度をとってしまったことは謝ります。でも、だからといってそんな酷い仕打ちをしなくたって」
「酷い仕打ち?別に悪い事させようとしてる訳じゃねぇだろうが」
「いいえ、してます!!私にとってオズ戦に出場することは死刑宣告と一緒なんですよ!?」
「あー、わかったわかった。そりゃー可哀そうなこった」
駄目だこの人全然話を聞く気がないよ!!もう最後の言葉とか棒読みだったし!!
なんでこう、学園ライフを楽しもうとすると私に災難が降りかかるんだろうか。
もう本当に涙がでてきそうだっつーの。
しかもさっきから周りの視線が突き刺さってくるので正直下してほしいのだが東堂先輩は目的地に着くまで下してくれる気はないらしい。
あ~ぁ、オズ戦に出場とか絶対に嫌だと思っていたらこれだよ。
「…お前、急に静かになったな」
真は自分の不幸さにただ落胆していただけなのだが、東堂先輩は突然黙った真に少し興味を持ったようだ。
「いえ、いつもこんな感じです」
「…いつもしゃべるだけしゃべって突然黙るのか?」
「違いますよ。いつもは突然黙ったりしません」
「…しゃべりっぱなしなのか?」
「う~ん、まぁ、結構しゃべりますかね」
「そうか、じゃあ、何で今回は突然黙ったんだ?」
「自分の運の無さに泣けてきただけです」
そう言って真はわざと両手で顔を覆って泣きまねをする。
すると東堂先輩は軽く笑ってから突然真の腰から手を離した。
自動的に真は重力に従い下に落下することになったのだが、あまり高さはないので落ちた衝撃は少し痛い程度で済んだ。
「ぐひゃっ」
「着いたぞ。ほら、さっさとエントリーしに行け」
「だから、何で私がオズ戦に出場しなきゃいけないんですか!!」
「お前、銀城と勝負して勝ったんだってな?」
「あ、れは~…たまたま勝ってしまったんですよ」
東堂先輩はそんな真の苦し紛れの言い訳をスルーして真の頭をガシリと掴んで引っ張っていく。
うわぁ、まだ死にたくないよぉぉ
真は「嫌だ~」と言いながらもズルズルと引きずられていきとうとうエントリー会場まで来てしまった。
受付にはなんと生徒会長の麗矢先輩がいた。
そして真達を目にするなり少し驚いた表情をしたがすぐに元の爽やか笑顔に戻り迎えてくれた。
「やぁ、東堂に真ちゃん!!随分と珍しい組み合わせだね。というか二人共知り合いだったんだね」
そう言って気がついた時には麗矢先輩は真の手の甲に軽くキスをした。
なんという早業。と真は一人感心してしまった。
「今日、いや、正確に言えば昨日知り合った。真城、コイツをエントリーさせろ」
「東堂…?一応俺は三年生なんだけど、敬語はどうした敬語は?」
「真城会長、この人がオズ戦に出場したいソウデス」
「まぁ、若干棒読みではあるけど許してあげるよ。で、真ちゃん…エントリーするのかい?」
そう言って麗矢先輩の金色の瞳が真を移した。
真はその瞳に少し見惚れてしまったがすぐさま冷静になって勢いよく首を横に振る。
「おや、真ちゃんは嫌がっているみたいだが?」
「んじゃ、キングの特権で推薦する」
「へぇ…東堂が推薦するなんて、真ちゃん一体何したの?」
あ、そういえば東堂先輩はキングの一人だったっけか。
というかそんな特権があるの?すごく迷惑なんですが。
「真ちゃん?」
麗矢先輩に呼びかけられて自分がずっと黙っていたことに気づいた。
「私はオズ戦に出場する気なんて一ミリもありません!」
「と言ってるけど?東堂?」
「だから、俺の特権で推薦するんだよ」
「結構です!」
すると、麗矢先輩は困ったように微笑んでから真の肩にそっと手を置いて小さい子に言い聞かせるような口調で話し出す。
「でも、推薦を受けたら真ちゃんに拒否権はないんだよ…残念だけどね…だから、エントリー…しようか?」
「えぇぇぇ!?そんな理不尽な!」
「煩い。さっさとエントリーしろ」
「何で私を推薦するんですか!?」
「お前が何者か知りたいから」
「は?」
「お前が何者か知りたいから」
二回同じことを言われた。大事な事なので二回言いましたってことか?
「東堂が興味を持つなんて、真ちゃん何者なんだい?」
そう言って麗矢先輩は真の手に何かを握らせた。
真は自分の手の中にあるものを見る。そこには『20』と書かれた小さなカードが載っていた。
「…麗矢先輩、これは?」
「ん?真ちゃんのエントリーナンバーだよ。そのカード自体は失くしても構わないけど自分の番号は必ず覚えておいてね」
「…」
もう運命は変えられないっていうのか。どうしてだ、神様。
「戦う女の子も俺は好きだよ。頑張ってね」
そう言って麗矢先輩は真をギュッと抱きしめてから名残惜しそうだったが次のエントリー者の対応へと向かっていった。
真はしばらくその場で固まってしまっていたが、そんな真の手からカードをひょいと取り上げた東堂先輩は「20か」と言って真の頭をガシリと掴んで自分の方を向かせた。
「奥橋、遅れんなよ?」
「東堂先輩、私すぐに負けますよ?」
「負けるなら負けるでも構わねぇが、多分、お前は期待を裏切らない」
「…何ですか、その自信」
「さぁな、ただの勘だ」
東堂はそれだけ言うと真の頭から手を離してさっさとどこかへ行ってしまった。
取り残された真は少し首を傾げながらも自分の手元のカードをくしゃりと潰してゴミ箱に投げ捨てた。
なぜなら番号は覚えたのでもういいだろうと判断したからと、できるだけ現実逃避をしたかったからだ。
オズ戦は夕方から始まり深夜まで続くらしい。だからオズ戦はほぼオズ学園全員が見に来るといっても過言ではないそうだ。
そんな中で私は戦うのか。もう、今からでも逃げたいなぁ…
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そこからオズ戦までまだ時間があったので恋達と再び合流して思いっきり楽しんだ。
もう、オズ戦があることを忘れるくらいにはしゃいで楽しんだ。
でも、楽しい時間はすぐに過ぎ去ってしまうもので時刻はオズ戦開始三十分前になっていた。
真は仕方なくオズ戦の会場に向かって歩き出していた。
そして到着したら入口付近に東堂先輩がいたのだ。
まぁ、遠目でも威圧感のある雰囲気はヒシヒシと伝わってくるもので真は先ほどまでの楽しかった思い出が遠い昔のことのように感じた。
真は東堂先輩の目の前まで来てから「どうも」とだけ言ってさっさとその場からいなくなろうとしたのだが、東堂先輩はまたガシリと真の頭を掴んで強制的に自分の方を向かせる。
「何ですか?」
「お前、なんか慣れてきたな」
「まぁ、一日に何回も同じ事されると人間すぐ慣れるもんですよ」
すると東堂先輩はつまらなそうに真の頭から手を離した。
「そうか。まぁ、いい。で、お前に一つ忠告しておく。いいか、どうしてもまずい状況になったら俺に合図しろ」
「…どういうことですか?」
そう言った真の目の前に金色のホイッスルが現れた。
「いいから。兎に角、嫌な予感がしたらこれを吹け。いいな?」
東堂先輩はそう言うと真の手にホイッスルを押し付けてもう一度言う。
「とにかく、危ない時はこれを吹け」
「??」
真はわけがわからなかったがとりあえずコクリと頷いた。
危ないって今からあなたが私をこんな危ない試合に出させるんでしょうが!
と言いたいのを我慢して真は手の中のホイッスルを見つめる。
「これを吹いたら、どうなるんですか?」
「俺が助けてやる」
「…それって、試合上ルール違反にはならないんですか?」
「ならん。多分」
「多分!?というか、私が試合に出る理由が未だに曖昧なままなんですけど」
「いいんだよ、曖昧で。そこは問題じゃねぇから」
「??」
ますますわけがわからない。じゃあ、なんで私がオズ戦に出場しなければいけないんだよ!!
「じゃ、俺は観客席で拝見させていただく」
そう言うが早いか東堂先輩はさっさとどこかへ行ってしまった。
もう、頭の中が疑問でいっぱいだった。が、その時
『オズ戦出場者のエントリーナンバー1から20の方は控え室に入ってください』
というアナウンスが耳に入ってきたので真は重い足取りで控室へと向かうのだった。
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控室に行くと総勢四十人のエントリー者が集まっていた。
オズ戦は学年ごとに分けられている。だから、一年の優勝者、二年の優勝者、三年の優勝者という感じで事実上、優勝者は各学年に一人ずつということになる。
生徒は沢山いる中で何故四十人しかエントリーしていないのかというとこのオズ戦、誰でも出場できるのだが、一年生は先着四十名しかエントリーできないのだ。
しかも、推薦枠が毎年三枠用意されるので実際は先着三十七名なのだ。
その推薦枠の一人に私が入るなんて…
「奥橋、真ちゃん??」
「はい?」
「よかった~、間違ってたらどうしようかと思ったー!!」
「あの、どちら様?」
「僕は丹越 瑠夏だよ。君のことは噂で知ってる。今日はお互い敵だけどよろしくね!」
そう言ってきたのはマリンブルーの髪と瞳の美少年で少し年の割には童顔に見え、声も少し高めだった。
「こちらこそよろしく!」
真は丹越君から差し出された手を握り返した。
その時、丹越の瞳が鋭く光ったことには誰も気づかなかった。
ここまで読んでくれてありがとうございました!!




