救世主って誰?
新キャラが少し登場します。
「ねぇ、聞いた?昨日学園内に悪魔が現れたんだって」
朝、食堂にて奥橋真はその言葉に内心で密かにビクリとする。
「なんか、悪魔に女子生徒二人が襲われそうになったのを助けた奴がいるんだって」
「でも、その人保健室にその子達を送り届けて名前も言わずに去っていったらしいよ!」
「わかってるのは学年が高校一年で女子生徒ってことぐらい」
「何その謎の救世主!?すごい気になる~!」
今日の朝から学園内の高等科は『救世主』の話題で持ちきりだった。
…情報ってすぐに広まるんですね…
にしても早すぎじゃない!?
真は平然とご飯を口に運びながら内心では冷や汗ものだった。
昨日、確かに私は悪魔から生徒を二人救うという形になった。でも、こんな学園中で騒ぐ程の事でしょうか!?だって悪魔をたった一匹倒しただけじゃん!そんな救世主呼ばわりされる事じゃないはずだ。
「…真、お茶碗の中もうご飯入ってないよ?」
すごく控えめな小さい声で大きくて可愛らしい赤色の瞳を持つ恋がこちらを心配そうに見つめている。
「あ、あぁ、いけないいけない!!ボーっとしてた」
真は慌てて卵焼きに箸をのばして口に頬張りモグモグと動かした。
実は恋に昨日の出来事を言っていないのだ。
いや、隠すつもりはなかったんだよ…?ただ、言わなくてもいいかなぁ…なんて…
あ、どうしようこの場に美夏がいたらものすごく冷たい目で私を見ているに違いない。
やっぱり言った方がいいよね。よし、言うぞ!
真は卵焼きをよく噛んで飲み込み一口水を飲む。
コップをテーブルにコトンと置いて真は隣に座る恋の方に顔を向けて口を勢いよく開いた。
「あのさ、れふぐッ」
口の中に何故かご飯の塊が入れ込まれた。
「真、ご飯、もっと欲しかったんでしょ?」
恋は悪気のない笑顔で可愛らしくそう言った。
真はモグモグしながらどうしようかと考える。
うーん、これは完全にタイミングを逃したな…というか恋ちゃん?まさかさっきボーっとしていた私はそんなにご飯が食べたそうに見えていたのか!?それはそれで問題だなぁ…
すごい食いしん坊みたいじゃないか…
真はご飯を呑み込んでから「コホン!」と一つわざとらしく咳払いをして再び口を開いた。
「あの、ご飯はもう大丈夫。恋のおかげでお腹は満たされたよ。ありがとう」
なぜこんなことを言ったのかというと恋はいつ持ってきたのか茶碗に山盛りにされた白米を先ほど口に詰め込まれた大きさと同じくらいお箸で摘み、真の口にいれるために準備していたからだ。
「そう?遠慮しなくてもいいよ…?」
「いや、本当、大丈夫!そのお気持ちだけ受け取っておく!ごめんね!!」
おせっかいを妬いてくれるのはありがたいが恋は少々、いやかなりの天然ちゃんであることがこの二週間前後一緒に過ごしてわかった。
そしてもう一つ発覚した事がある。それは恋は皆から嫌われているのではなく皆から『不思議ちゃん』として一歩距離を置かれているだけということだ。ただ、本人が嫌われていると思っているだけで他の皆は見てて飽きない面白くて癒される子というイメージを抱いているようだ。
別に嫌いというわけでなく周りで傍観する人のような存在に恋はなっているのだろう。
まぁ、確かに、恋と会話をすると話が噛み合わなくなることが多々ある。でも、素直でとても優しい子だと私は思う。
兎に角、気を取り直してもう一度真は水を一気に口に流し込んで飲み込もうとコップを持った。
「真…救世主?」
「ぐふぉっ」
恋の一言で思わず水を吹き出してしまった。でもまぁ、なんとか飲み始めようとしたばかりだったので被害は最小で済んだのでホッとする。
いや、そんなことより!!!
「恋…今のはどうゆう意味で…?」
「昨日の救世主の件、詳しく知ってる?」
「うん、最初からそう言おうね。あまりにも言葉を省略しすぎて思わずびっくりしてしまったから」
「ごめん…」
「いやいや、全然大丈夫だから!で、救世主…だっけ?」
「うん、何か知ってる?」
「うーん…」
どうしよう、『私がその救世主なんだ!あはは!』…いや、なんか違う。
『そういえば昨日ね、放課後に悪魔を倒したんだ~』…同じじゃん!!
真が頭の中でどう説明しようか悩んでいると恋が口を開いた。
「昨日、現れた悪魔、かなり凶暴で危険な奴だったって先生が言ってた」
「先生?」
「うん、中丸先生」
うわ、あの人が絡んで来たら何かとバレそうで怖いな…
「そ、それで?」
「普通生徒一人で倒せるレベルじゃないはずだって言ってた…実技クラスの中でも上のランクの人じゃないと倒せないって」
成程ね…だからこんなに大騒ぎになっているんですね!!
私の馬鹿!!もう、だって悪魔の強さのレベルなんて知らないしさ!!
頭の中で自分で自分に言い訳をするが空しくてやめた。
「そんなに、強い悪魔だったんだね…」
「うん、でね、実は昨日の悪魔って分析学科から脱走した悪魔らしいの」
「脱走?つまり、分析学科は悪魔を調べてたの?」
「そうみたい。でもなんらかの不具合で悪魔を隔離してた檻から悪魔が逃げて昨日の事態を引き起こしたんだって」
「へぇ…」
そうだったんだ。ん?というか恋は治療学科だよね?
「恋、何でそんなに詳しい事情を知ってるの?」
「中丸先生がしゃべってた。廊下で」
「…へぇ…あ、じゃあ、恋は中丸先生に直接聞いた訳じゃなくて」
「うん。聞いてない。通りすがり」
「…そっか」
中丸先生、あんまり廊下でぺらぺら話すもんじゃないでしょうに…
そして恋はちゃっかり全部聞いちゃってるのね。意外とやる子だわ…
「しかもね」
「まだあんの!?」
「うん、被害に遭いそうになった女子生徒たちは顔を覚えてないって言うの。ただ覚えてるのは女子生徒で制服には黄色のリボンがついてたってことぐらいだって」
確かにあの時彼女たちは混乱していて自分のことで精いっぱいだったし私もあまり顔を見せなかった。
まぁ、覚えていなくても不思議ではない。
しかし、私は彼女達の顔を覚えている。あの子達は同学年であったが学科は違うので正直ホッとした。
「同学年でそんなに強い人がいるんだね…」
「うん、一体誰なんだろう…」
「…」
もう、タイミングがないぜ。消滅だ。ここから打ち明けることなどできそうもない!!!
あぁ、話を遮ってでも言えばよかった!!
その時授業開始五分前のチャイムが鳴り響いた。
「あ、もう行こうか」
「うん」
真達は急いでそれぞれの学科の授業へと別れて行く。
~実技訓練(防御学科)~
真の頭の中は後悔でいっぱいだった。
恋にはやっぱり本当のこと言ったほうがいいのかなぁ…
いや、いいにきまってるじゃないか自分!!だってあんなに優しくて素直でいい子なんだよ!?
いや、……だからこそ巻き込みたくないのかもしれない。色々な面倒事に。
いや、ただの私の利己心か…バレたくないっていう。
「奥橋!!何ボーっとしてる!」
「あ、すみません!!」
防御学科の担任は新羅 空海という先生だった。
新羅先生は長めの黒髪を後ろで軽く束ねており、灰色でギョロリとしておりいつも何を考えているのかわからない瞳がチャームポイント(自称)。
結構おしゃべりで男勝りな性格の今年三十路に突入で彼氏絶賛募集中のおもしろい女性だ。
スタイルはとても引き締まっており申し分ない。むしろ羨ましい程の胸…この話はよそう。
兎に角、元気いっぱいの新羅先生に叱咤された真は集中して訓練を受けていた。
今訓練を受けている部屋はこの学園に来た初日に入ったまるで外にいるかのような感覚に陥った場所である。
今日は自分達が敵(悪魔)を結界で閉じ込めるための訓練だった。
すこしやり方のコツをつけめばすぐに習得できた。
これでまた一つ使える防御が増えたと思ってウキウキしているとものすごい音を立てて部屋の扉が開いた。
「邪魔するぜ?」
そう言って巨人かと思う程大きな体で煙草を加えた男が入ってきた。
目はサングラスをかけていて見えない。髪は銀髪でツンツンしている。
ドカドカと入ってきたその男を見るや否や新羅先生は「おや」と言ってにっこりとほほ笑んだ。
「どうしました?銀城先生」
周りの生徒は皆騒ぎ出した。
「あれって、あの噂の銀城先生?」
「え、あの人が銀城先生?」
「喧嘩大好きっていう先生?」
…というかあの人先生だったんだ。どこぞのヤンキーかと思った。
「少し、用があってなぁ」
声もまた怖いくらいデカい。もう皆縮こまってしまいましたよ!?
「用?聞いてませんが?」
新羅先生が首を傾げる。
「あぁ、抜き打ちだからなぁ」
「抜き打ち?」
銀城先生はニヤリと笑みを浮かべながら自分の煙草の燃えている赤い部分を手で消す。
ジュッという音がしたかと思うと煙草が巨大化してまるで大砲のように見えた。
「ぎ、銀城先生!?一体何を」
「おい、お前ら、今から一発撃つぞ。覚悟はいいな?」
「ちょ、銀城せんせ」
部屋に大きな大きな大砲が撃たれた。
ドガァァァァァン
目の前に突風が来て思わず吹っ飛ばされる。
その日は代々受け継がれる『銀城伝説』の話の一つとなる出来事だった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。




