早めに終了
炎で作った刀を海藤は構えなおす。
魔人のバラドから放たれている殺気は強さを増していた。
しんと静まり返る教室内。オズと魔人は今向き合って互いの隙を窺っている。
真はそんな彼らを隅っこの方にしゃがんで見つめていた。
一体どうすればいいのだろうか。
考えてみれば魔人がきっかり午前九時に学校に来ると信じきってしまったのが間違っていたのだ。
真は罠かもしれないと疑わなかった自分に激しく苛立ちを感じた。
私のせいでクラスの皆や海藤を危険な目に遭わせてしまっている。真は悔しくて唇を噛み締める。
どうする?いっそ私も魔人に何か攻撃を・・・・・
そう考えていた矢先、魔人のバラドが動いた。
ガキイィンと刃物と刃物が擦れ合う音が教室に響き渡る。
二人の攻防は目で追うことはできるものの真の体は絶対に追いついてくれないであろう速さだった。
これでは攻撃ができない。真は今の状況を考え直す。
何か私にできることは・・・・
そして考えた結果他のオズ学園の人たちにこのことを知らせに行こうと考え付いた。
しかし、そこで一つの疑問点が浮かび上がってきた。
どうして他のクラスの人たちはこの騒動に気づいていないのか。
今、海藤とバラドは決して静かではない戦い方をしている。なのに隣のクラスに待機しているはずのオズの人たちは何故助けに来ないのだろうか。
真は教室のドアをガラリと開けた。するとその向こうには、いつもの廊下ではなくただただ真っ暗な景色しかなかった。
一歩踏み出したら暗闇の中に真っ逆さまに落ちていくのではないかと思う程先が見えない。
どうやらこの教室はさっきまでいた場所とは異なる異空間に閉じ込められている状態らしい。
これでは助けを呼びに行くことができない。
どうする?
真が考えに耽っているとザクリと壁に魔人が持っていた鎌が突き刺さっているのが目に入ってきた。
二人を見ると海藤がバラドの首に刀を突きつけているところだった。
「なんだ、予想以上に弱いな。お前」
海藤が冷めた目でバラドを見つめながらそう吐き捨てる。
するとバラドは何が可笑しいのかククッと笑った。
「安心しろ。まだ、本気の『ほ』の字も出してねーよ」
そう言った途端バラドの体の周りから先程クラスの皆を倒れさせた強風が巻き起こる。
海藤は瞬時に後ろに飛んで回避した。
「海藤、魔人の本当の姿を見せてやろうか?」
バラドはそう言って何やらうめき声をあげた。
一体何が起こっているのだろうか?
真は強風が吹き荒れる中、目を凝らす。
と、その時突然強風がピタリと止んだ。
そしてバラドを見ると丁度同じような黒ずくめの一人に飛び蹴りをくらっている最中だった。
どしゃあぁぁぁっという音とともにバラドは床に突っ伏してしまいピクリとも動かない。
そしてバラドに飛び蹴りをお見舞いした方の人物は大きなため息をついた。
「まったく、目を離した隙にあなたはいろんな事をやらかそうとするんですね」
冷たく呆れかえった声でその人物はバラドに向かってそう呟く。
声からして女性のようだ。とその女性らしき人物の後ろからひょっこりと背の小さい黒ずくめが顔を出してきた。
どこから入ってきたのかはわからないが、味方ではないことは確かだった。
「あははー、バラド吹っ飛んだー」
黒ずくめの小さい方がそう言ってケラケラと笑う。声からして小さな子供のようだ。
そんな二人を海藤と真は呆然と見ていると、女性の方が海藤と真を交互に見据えてからバラドを見る。
「バラド、この二人のうちのどちらが学園の者ではないかわかりますか?」
バラドはムクリと起き上って女性の方を睨みつける。
「何邪魔してんだよ。メリス」
どうやら女性の名はメリスというらしい。
メリスと呼ばれた女性はまた大きなため息をつきながら答える。
「邪魔せざるを得ないでしょう?あなたが魔人の姿になろうとするから」
「だからって飛び蹴りはナシだろうが!」
「いえ、あの方法しかあなたを止めることはできませんでしたよ。きっと」
「絶対に嘘だろーが!お前ただ飛び蹴りやりたかっただけだろ!」
「で?あの二人の人間のどちらがオズ学園に通っていない子なんですか?」
「無視かよ!」
「バラドがメリスの言うこと聞かないから飛び蹴りとかくらう破目になるんだよー」
「ニコルは黙ってろ!」
ニコルという名がどうやら子供の名前らしいことがここで判明する。
「バラドに言われたくないしー」
ニコルは不機嫌丸出しの声でそう言ってメリスの後ろに隠れた。
「バラド、もう一度聞きますけど、あの二人のどちらが」
「女の方だよ」
「女」
メリスは真の方を見て少しの間黙る。真も真でどうすればいいのかわからずにただただメリスの方を見つめていた。
するとメリスは「成程」と呟いたあとあっさりとこう告げる。
「では、一旦帰りましょう」
この言葉にメリス以外の全員がポカンと口を開ける。
「メ、メリス、今お前なんて言った?」
バラドがおそるおそる聞き返す。
メリスは淡々とそれに答えた。
「一旦帰りましょう。と言いましたが何か?」
「ふざけんな!なんで「メリスーどうしてー」
バラドの言葉をさえぎってニコルがメリスに尋ねる。
「目的の人物はわかりました。彼女はまた後日にいただきましょう。今、この異空間が元の場所に引き戻されている最中です。しかも、九時からどうやら私たちが来ることを知っている学園側が何か厄介な仕掛けを用意しているようですのでここは一旦帰りましょう」
メリスはまた冷静にそう告げる。
「・・・わかったー」
「はぁ!?俺はわかってな「さぁバラド、帰るよー」
またもバラドの言葉をさえぎったニコルはバラドの腕を引っ張って突然姿を消した。
「待て!」
海藤がそう叫ぶが最後に残ったメリスはこちらを見ながらひとつ礼をしてニコル達と同じようにその場からいなくなった。
そして教室はその瞬間いつもの場所に戻ってきていた。
こうして運よく今日の事件は風のように早く幕を閉じたのだった。




