バラド
「海藤君…」
真は思わずそう呟いた。
倒れていたと思っていた海藤が目の前に立っていることを現実か確認するために真はもう一度呟く。
「海藤君…?」
「あぁ、そうだ。二度も言わんでいいだろうが」
「す、すみません」
何故か機嫌が悪い海藤に思わず敬語で誤ってしまった自分にガックリきた。
だって、倒れてたからさ!心配してたのに!!
という反論が喉まで出かかったが真は空気を読んで何も言わなかった。
今はあの男をどうにかしなければならないのだ。
真は海藤から黒ずくめの男に意識を戻した。
すると男は海藤に向かって先ほどよりも楽しそうな声で話し出す。
「おいおい、お仲間がいたとは聞いてないぜ?もしかして、学園側の奴か?」
「あぁ、そうだ。だから何だ」
「そうツンツンすんなよ」
そう言って男は真の方を見て大げさに首を傾げてみせる。
「見るからに嬢ちゃんは学園側じゃあなさそうだな?」
「…」
「ってことは…チクったのか?」
「ちが「チクる?おい、奥橋どういうことだ?そもそもコイツを知っているのか?」
沈黙が少しの間続いた。
どうして真が否定の言葉を述べようとした直後それに被せるように海藤が真に話しかけてきたのだろうか。
真はこの言葉の意図がわからずに困惑していた。
私、予知夢のこと話したよね?
そう海藤に目で訴えてみた。すると海藤もジッと真の目に何かを伝えようとしている。
「なんだ、知らねぇのかよ。つまんねーの」
「奥橋、お前は何を知ってるんだ?」
「あ、えーっと、」
答え方がわからずに言葉を詰まらせていると男のほうが痺れを切らしたようだ。
「知らないなら好都合だぜ。俺の目的はそっちだしな」
そう言って真の方に鎌を向ける。そっちとはやはり真のことのようだ。
ここで真は海藤の言葉の意図がわかった。
私が学園に魔人達のことを話したという事実がこの男にバレたら即座に今倒れているクラスメイト達が殺されてしまうかもしれなかった。だからわざとこの男の前で「知らない」などと言ったのだ。
考えてみれば当たり前のことだったのかもしれない。もし私がさっきの男の質問に「違う!」と焦りながら言ったとしても全然説得力がない。下手をすれば最悪の事態を招いていたかもしれないのだ。
そう思ったら急に手先が冷たくなった。
一歩間違えれば皆が死んでしまうところだった。そう考えると自分の鼓動が速くなるのがわかった。
どうしよう、私のせいで皆が死んじゃったらどうしよう。
そんなことを今悩んでも仕方がないと思うのにその考えが頭の中を埋め尽くしていく。
そんな真の心情など知らない男は平然とした口調で「さてと」と言って首を一回ゴキッと鳴らした。
「来ないなら、こっちから行くぜ?」
男は真に向かってそう呟く。だがそれと同時に真と男の間に海藤が壁のように立ちふさがった。
「あ…」
「詳しい事情は知らないがとりあえずコイツは危険ってことだな?」
海藤は男から目は話さずに真に問いかける。
真は海藤の背中がやけに大きく感じていた。同い年なのにどうしてこんなにも頼もしく感じるのだろうか。
「奥橋!」
「はい!」
痺れを切らした海藤の声で自分がボーっとしていたことに気づいた。
「コイツは危険なんだな?」
海藤は二回目のこの言葉の時顔だけ真の方にチラリと向けた。
そのとき、海藤の口が動いた。
真はその言葉を理解した後大きな声でこう告げる。
「そう!すっごく危険!」
すると海藤は少し笑いを含んだ声で呟く。
「了解」
その次の瞬間男が海藤の目の前に来て鎌を振り下ろそうとしていた。
「海藤君!」
真は思わず叫んでしまう。
だが、海藤は平然と振り下ろされた鎌を素手で受け止めた。
「…ほぅ」
男はそう呟いて一旦後ろへと飛んで距離をとる。
「奥橋、下がってろ」
海藤に言われた通りに真は教室の限界まで下がった。
「お前、名前は?」
男は唐突に海藤にそう問いかけた。
「…言ってどうなる?」
「そう冷たくすんなって。俺はただ強ぇ奴には興味が湧くんだよ」
「なら、お前が先に言えよ」
「いいぜ。俺はバラド。ちなみにオズじゃなく魔人だ」
「…海藤拓斗」
「そうか、海藤か。よしわかった。明日まで覚えといてやるよ」
「「短っ!」」
この時バラドはドヤ顔だったが海藤と真はツッコミを同時に入れてしまった。
海藤の脳内でバラドは「馬鹿」のカテゴリーに追加された。
バラドはそんな失礼なカテゴリーに入れられたとは露知らず、突然フードをとった。
これが魔人?本当にただの人間なんだ…
真はバラドを見つめながらそう思った。
バラドという男は二十代ぐらいの顔立ちで短いツンツンした銀髪の髪に瞳は主張の強そうな吊り目で色は深い赤だった。
魔人という点を除けばただの人間にしか見えない。しかも顔は強面ではあるが整っている。
海藤は先程と変わらずにバラドを見つめつつただただ構えている。
「反応なしかよ」
「反応の仕様がないだろう」
「まぁ、そうか。んじゃ、続きをやろうぜ?」
そう言った途端にバラドの雰囲気が急変した。
空気が一気に重くなり殺気がビリビリと肌に伝わってくる。
海藤もすかさず手に何かを持った。
真は目を疑った。今、炎で刀を作った?
海藤の持つ刀の刃は所々炎のように赤々としている。
その刀を海藤はしっかりと構えなおした。




