突然
私は予知夢でクラス全員が倒れている場面を見た。
私の予知夢は内容がいい時も悪い時も関係なく必ず当たる。
「奥橋さん、大丈夫?」
若宮が天使のような眼差しで真を覗きこみながら話しかけてきた。
あぁ、なんであなたはそんなに美男なんですか?と思わず感嘆のため息が漏れそうになる程の青年若宮を見つめながら真はひとつ頷く。
大丈夫、もう覚悟はできた。・・・まぁ自分がオズだとバレないように頑張ってきたのに自ら正体を明かす事になるとは夢にも思っていなかった。
今までの苦労を返せと誰かに叫びたくなったがとりあえず今日の出来事が無事に解決したらそうしようと真は自分に言い聞かせる。
今はこの後すぐに起こるであろう事件に備えておかなければ。
「じゃあ、さっき話した通りに行動するように。解散」
中丸先生はそう言うとテレポートを使い目の前から一瞬で姿を消した。
「行くぞ」
海藤が真を含め他のオズ生徒にそう言うと、足早に教室に向かって行く。
そして次々に海藤に続いて歩き出すオズ生徒達を見て真はただただ尊敬した。
皆すごく堂々と前を向いて歩いている。今から、危険な場所に行くというのに。
恐怖の「き」の字も見えない表情で海藤達は向かっている。
そんな海藤達を見ていると真は自分がどうしようもないくらいに情けなく感じた。
駄目だなぁ私、オズを使えるくせに普通の人みたいに暮らそうとばっかりして。
今まで自分と向き合おうとは一度もしなかった。
これからもずっと向き合うつもりなどないはずだったのに。
真は深く息を吸い込んでゆっくりと吐き出す。
しょうがない、今日は、今日だけは、オズである自分と向き合おう。
そして、今から起こる事件が終わったら美夏にすべてを話そう。
真はそう強く決心した。
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~午前八時~
「美夏!おはよう!」
「・・・・今日も、真がっ、私よりも先に来てる・・・?」
美夏は大きな瞳をさらに大きく見開きながらそう呟いて真を見つめている。
「だから、美夏さん、私もやれば出来る子なんですからね・・?いい加減驚くのやめてくれないかな?」
「・・・・明日は何が起こるっていうの!?」
「人の話聞いてる!?完全に無視はひどくない!?」
「あぁ、神よ、私をどうか災厄から守ってください」
「なんで私が遅刻ギリギリで登校しないだけで災厄になるんだよ!」
そこから十分程度この掛け合い?が続いた。
真は時計をチラリと横目で見る。
朝のHRは八時半から始まり一時限目は九時丁度に開始となるのだが今日は変更になる予定だ。
なぜなら魔人が襲ってくるからだ、とは口が裂けてもこのクラスの皆には言えない。
「・・・こと、真!!」
「は、はい!」
「何突然ぼーっとしてんのよ!」
美夏はそう言って真の頬をつまんで引っ張る。
「いだだだだ、ごめんって!少し考え事」
「まーた考え事?」
「うん、ごめんね」
「・・・いいけど」
美夏は少し寂しそうにフイッと顔をそらした。
今まで美夏はいつもこうやって私の我が儘を許してきてくれた。
とても心配性で優しい私の親友。
「美夏」
「何よ」
まだ少しいじけているような口調の美夏に真は真剣な眼差しを向ける。
美夏もそれを察したのか真剣な顔になった。
「今日の放課後に、話したいことがあるんだ。だから」
「わかった。やっと、話してくれるのね・・」
美夏はやれやれと頭を振りながらため息をわざとらしく吐く。
「まだ、最後まで言ってないんですけど」
「じゃあ、今日の放課後に屋上に集合ってことで!よろしいかしら?」
最後の言葉はおふざけ交じりだった。
「場所指定まで!?わかったよ、美夏様の仰せのままに」
真も苦笑しながらもそう言って恭しくお辞儀をして見せた。
美夏はそれを見て笑った。つられて真も笑ってしまった。
「はい、皆席に着いてください!」
藤崎先生はいつもと変わらぬ美しさで今日も黒板の前に立ち、口を開いた。
「今日の一時限目は緊急で全校集会となりました」
この言葉でクラスが一気に騒がしくなる。ただ、真と海藤は平然としていた。
今日の魔人の襲撃に備え、全校生徒は結界の張ってある体育館に避難させることになったのだ。
各自家に帰すにも途中で襲われる可能性がある。まずは安全な場所に移動させるのが最善だろうと中丸先生は言っていた。ただし、本当のことは体育館に全員が集まって落ち着いたら話すということになっている。
そしてその間オズ学園の生徒、教師たちは魔人を捕まえるために動くということらしい。
真は皆と一緒に体育館で避難することになっているが海藤達だけが危険な場所に行くことに少し申し訳なく思っていた。
まぁ、大丈夫と海藤達に散々言われたので不安ではない。はずだった。
「ということで皆今から急いで体育館に」
藤崎先生の言葉が突然途切れた。クラス全体が「?」という空気になる。
その直後バタンという音と共に藤崎先生が倒れた。
「・・・・え?」
誰かがそう呟く。
真はただただ呆然と藤崎先生を見ていた。
嫌な汗が額に浮かんできているのがはっきりとわかった。
前の席の生徒数名が藤崎先生に駆け寄り何度も声を掛けている。
それと同時にまたクラスが騒がしくなり始めた。
真は咄嗟に海藤を見る。すると同じく海藤も真を見ていた。そして海藤は焦るなと声には出さずに口を動かして真に呟く。
一体これはどういうことなんだろうか、確か魔人は九時にここにくると言っていたはずなのに・・・・
真は海藤の言葉に少し落ち着きを取り戻しながら冷静に考える。
「おいおい!マジでお前らの中にオズがいんのかよ?クズなのしかいねぇじゃねーか」
突然男の声がクラス中に響いた。
一体どこにいるのかと周りを見渡そうとした時に真は固まった。
藤崎先生のすぐそばに黒いフード付きのローブのようなものをまとっている、明らかに今さっきまでここにいなかったと思われる男が立っていた。
顔はフードで隠れていて見えないが口元は不気味に笑っている。
皆一体何が起こっているのかわからずに放心状態でその黒ずくめの男をただただ見つめている。
男はそんなクラス全員を一度ぐるりと見たかと思うと小さく舌打ちをした。
「めんどくせぇから、クズは消えてろ」
そう呟くと同時に男の周りから強い風が巻き起こった。
「っ!」
真は思わず目をつぶり腕で顔を守る。
風が止んだので真はゆっくりと目を開いた。
皆はさっきと変わらずに男を見つめている。と思った。
真は再び固まった。クラス全員が目の前からいなくなっていた。
おそるおそる真は首を下に向けて見る。
皆が倒れている、一人残らずに倒れている。海藤も倒れていた。
あぁ、これはこの光景は・・・
「夢と同じ・・・」
真はそう呟いてガタリと席から立ち上がった。
あまりの恐ろしさにこの場から逃げ出したくなる衝動をグッと堪えゾクリとする視線の先を見る。
男はさっきからじっと真を見ていたようだ。
大きなフードのせいで顔は見えないが口元が先程よりも笑っていない。
「オズがお前か?」
男の声は耳にずっと不快に残るようなしわがれた声だった。
真は声を出そうとするが歯がカチカチと震えてうまく話せそうになかった。
「まぁ、俺の魔力をくらっても立ってるってことはそうなんだろうな」
男は真が話さなくても口を開き続ける。
「で?お前、強いのか?」
「・・・・」
真は声はでなかったができる限り目に力を込めて男を睨み付けた。
すると男は口元を不気味に歪めて舌なめずりをした。
「ふーん・・・ま、お手並み拝見といこうじゃねーか」
そう言うが早いか男の手に死神の鎌のようなものがあらわれている。
そして次の瞬間男が目の前にいた。
思わず後ろに体制が崩れる。
男が今まさに鎌を振り下ろそうとしているのがスローモーションのように見えた。
私、死ぬんだ。
そう覚悟した。
でも次の瞬間男がサッと後ろに飛びのいた。
真は盛大な尻餅をつく。
痛いとも思ったがそれよりも先に男がどうして飛びのいたのだろうかということに気を取られた。
「なんだよ、もう一人いたのかよ」
男は面白そうなものでも見つけたかのように嬉しそうな声でそう呟く。
もう一人・・・・?
真は男が見ている方向を同じように見た。
そこには手から炎を溢れさせている海藤が立っていた。




