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 Side:七尾はる



 下らない事を考えていた所為で集中できてなかったけど、これからは異界探索に集中しないとね。

 そう思って進んで行くんだけど、橘君が迷いも無く進んで行くから気楽なものだわ。

 私は近くを警戒しながら進めばいいだけだし、ここで出て来たのは緑鹿だった。


 毛も角も緑っていう不思議な鹿だけど、モンスターとしては強くない。

 それでも最も弱い部類には入らないけどね。


 レベルとしては3ぐらいかな?

 3+までは行かない程度のモンスターってところ。


 橘君は分かってないというか、情報収集をしてないっぽいのよね。

 モンスターはそれぞれ強さで分類されてるって事も知らなさそう。

 あくまでも異界探索者が勝手に分けてるだけだから、講習なんかでは教えられないのでしょうね。


 「という事で、緑鹿は3ぐらいよ。

 流石に最新の分け方までは知らないし、個人の戦いやすさによっても変わるから、あくまでも目安にしかならないけどね。

 後、前回の探索でヴァンパイアが出てたけど、あれトップ探索者でも苦労する相手だからね?

 勘違いしちゃ駄目よ」


 「えっ? そうなんですか?

 トップ探索者の方ってチーム組んでますし、もっと簡単に倒すんだと思ってました」


 「チームを組んでるし、連携も上手いわよ。ただし装備している物が違い過ぎるけれど。

 普通は必死になって防ぎ、その間に他の人が攻撃。これが基本よ。

 一対一なんて絶対に戦おうとしないわ。

 だってヴァンパイアの強さはレベル12+だもの」


 「レベル12……プラス」


 「前に出て来てた狼男。

 アレがレベル9だと考えれば分かるはずよ、どれだけ強いのかがね。

 異界って弱いモンスターはとことん弱いけど、強いモンスターは理不尽なくらいに強いのよ。

 あり得ないくらいにね」


 「知ってます。

 俺だって肉骨戦車に勝てるとは思ってませんし、あんな地形に行ったら即座に帰りますよ」


 「にくほねせんしゃ?」


 「肉と骨で出来た戦車、だから肉骨戦車です。

 <記憶の宝珠>で見たんですけど、砲身とか砲塔とかキャタピラが骨で、後は肉で出来ている戦車が出てくるんです。

 異界では」


 「………えっと、ホラー枠?」


 「内臓の中みたいな地形でしたし、ホラー枠かもしれません。

 その戦車が骨を固めた砲弾を撃ってくるんです。

 とんでもないですよ? 機銃も付いてますし」


 「それ本当に殺されるしかないじゃない。

 存在するならレベル30ぐらいじゃないかな?

 あり得ない強さしてるでしょうしね」


 「それでも勝つ事は可能ですけどね。

 実際<記憶の宝珠>で見た方は、肉骨戦車一台は倒していましたし」


 「倒せるんだ………。なら悪魔の方の記憶を見たのかな?」


 「まあ……そうですね」


 私は話しながらピンときたので、それ以上を口にするのは止める。

 おそらくはアロハヌス家の人だったんでしょう。


 たしか<記憶の宝珠>でアロハヌス家の人を見て、それを伝えに行ったから魔王様と知り合ったんだったはず。

 となるとアロハヌス家の人が異界で亡くなったとみて間違いない。


 そこは動画に乗せて良い部分じゃないでしょうし、黙ってるのが一番いい。

 おしゃべりなヤツって信用されないしね。


 私達は緑鹿を警戒しながら進み、避けられないものは倒していく。

 そして橘君の言っていた通り、地面の色が変わる場所までやってきた。


 本当に一直線に来た感じねえ………これってバレるとマズいでしょ。

 もう手遅れだけど。


 「それじゃ先に進みましょうか?

 緑鹿じゃ大した事は無いし、新人は無理でも慣れてきたら倒せる程度でしかないしね」


 「それじゃ行きます」


 あまり離れると別の地形に飛ばされるので同時気味に進む。

 その結果2人同時くらいに次の地形に出たけど、またもや運が悪い地形に当たったわね。

 まさか2つ目の地形で<白>がやってくるとは思わなかったわ。

 明らかに早すぎる。


 「まさか2つ目の地形で最早<白>が出て来るなんてね。

 ここも森と同じく極めて厄介な、どっちに行っていいか分からないタイプの地形よ。

 おそらく橘君には見えているんでしょうけど」


 「ええ。薄い墨の流れは見えてますから、どっちに行けばいいかは分かります。

 それじゃ、行きましょう。

 こんな所に居ても仕方ないですし」


 「そうね。さっさと抜けられるなら、さっさと抜けるに限るわ。

 ここで出て来るモンスターは一種だけ。

 それが<白玉>と呼ばれる、白くて浮いている玉よ。

 とはいえ厄介なんだけどね」


 「厄介ですか?」


 「こいつ白い棘を飛ばしてくるのよ。

 一本ずつしか飛ばして来ないからいいけど、それでも結構な速さをしていて危険なのよね。

 出来ればさっさと通り抜けたいところ。

 遠距離攻撃を持っているモンスターって、本当に厄介だから」


 「異界探索には絶対に盾が要る、というのは講習でも習います。

 遠距離型が居る限り、盾で防がないと死にますしね。

 どう足掻いても盾無しじゃ勝てませんよ、悪魔の人達でもない限りは」


 「あの人達って魔法が使えるもの。

 だから遠距離攻撃できるし、その人達と比べてもね……」


 と言いつつ、私はSDを使った【疑似魔法】が使える。

 水の弾を敵に飛ばして当てるものだけど、攻撃力が低いのが玉に瑕(きず)。

 代わりにSDの消費が少なくて牽制に使えるものとなる。


 流石に橘君のような攻撃力が高いものじゃない。

 ミミックを一撃で倒してたぐらいだもの、あの時の【火魔法】。


 あれほどの威力の魔法なら相当にSDを消費するだろうと思ったけど、本人に聞いて驚いたわ。

 一度で1500もSDを消費するなんて思わなかった。

 トップ探索者の一人である<アークメイジ>ぐらいしか、1000SDを越える消費量の【疑似魔法】なんて持ってないんじゃないかな?


 他にも<槍聖>の天童明日花や<何でも屋>の加納栄悟とか居るけど、<アークメイジ>の堀越愛堵瑠(あいどる)しかそれほどの【疑似魔法】は持っていない。


 「ああ、名前で呼ばれるとブチギレる人ですね。

 名前なんですからどうにもなりませんし、それが本名なんですから仕方ないと思いますけどね?

 御蔭で誰も彼もが堀越さんとしか呼べない人」


 「下の名前がアレじゃねえ、名前で呼ばれたくない気持ちは分かるわよ。

 おまけに名字が堀越だし」


 「かつてのアイドル御用達、堀越学園と同じ堀越ですしね。

 しかも名前がアイドルっていうんじゃ、どう考えてもそっちに寄せてるでしょう。

 俺としては、そうとしか思えませんけどね。

 ご本人には気の毒ですけど」


 「っと! 出て来て早速棘を飛ばしてくるなんて、相変わらずねえ。

 すぐに遠距離攻撃してくるし、こいつ逃げるから嫌いなのよ。

 まあ、こいつを好む人なんていないけどね。

 ずっとついてくるし、棘ばっかり撃ってくるしで鬱陶(うっとう)しいし」


 「完全に嫌がらせモンスターですね。

 【疑似魔法】が無かったら、どうやって倒すんでしょう? 武器を投げる?」


 「そんな危険な事をするわけないでしょう、普通は縄を持ち込むのよ。

 私の鞄にも入ってるけど、それを鞭のようにして叩きつける。

 そうすれば<白>は簡単に地面に落ちるわ。

 そして再び浮き上がるんだけど、それには時間が掛かるの。

 そこを攻撃して倒す、それが基本的な倒し方」


 「縄を持ち込むんですか………。

 俺も持っておいた方がいいんですかね?」


 「どうだろう?

 色々な物を括ったり、あるいは体に結び付けたりとか、使い道は結構あるのよ。

 色々な事に使える道具は持ち込んでおくべきでしょうね。

 その御蔭で助かった、なんて事もよくあるし」


 「へー………」


 素直に関心してるのはいいんだけど、棘を防ぎながらの会話も普通は駄目な事なのよね。

 私達は守れるからいいけど<白>の棘って強い部類に入る攻撃だから。


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