0099
Side:七尾はる
下らない事を考えていた所為で集中できてなかったけど、これからは異界探索に集中しないとね。
そう思って進んで行くんだけど、橘君が迷いも無く進んで行くから気楽なものだわ。
私は近くを警戒しながら進めばいいだけだし、ここで出て来たのは緑鹿だった。
毛も角も緑っていう不思議な鹿だけど、モンスターとしては強くない。
それでも最も弱い部類には入らないけどね。
レベルとしては3ぐらいかな?
3+までは行かない程度のモンスターってところ。
橘君は分かってないというか、情報収集をしてないっぽいのよね。
モンスターはそれぞれ強さで分類されてるって事も知らなさそう。
あくまでも異界探索者が勝手に分けてるだけだから、講習なんかでは教えられないのでしょうね。
「という事で、緑鹿は3ぐらいよ。
流石に最新の分け方までは知らないし、個人の戦いやすさによっても変わるから、あくまでも目安にしかならないけどね。
後、前回の探索でヴァンパイアが出てたけど、あれトップ探索者でも苦労する相手だからね?
勘違いしちゃ駄目よ」
「えっ? そうなんですか?
トップ探索者の方ってチーム組んでますし、もっと簡単に倒すんだと思ってました」
「チームを組んでるし、連携も上手いわよ。ただし装備している物が違い過ぎるけれど。
普通は必死になって防ぎ、その間に他の人が攻撃。これが基本よ。
一対一なんて絶対に戦おうとしないわ。
だってヴァンパイアの強さはレベル12+だもの」
「レベル12……プラス」
「前に出て来てた狼男。
アレがレベル9だと考えれば分かるはずよ、どれだけ強いのかがね。
異界って弱いモンスターはとことん弱いけど、強いモンスターは理不尽なくらいに強いのよ。
あり得ないくらいにね」
「知ってます。
俺だって肉骨戦車に勝てるとは思ってませんし、あんな地形に行ったら即座に帰りますよ」
「にくほねせんしゃ?」
「肉と骨で出来た戦車、だから肉骨戦車です。
<記憶の宝珠>で見たんですけど、砲身とか砲塔とかキャタピラが骨で、後は肉で出来ている戦車が出てくるんです。
異界では」
「………えっと、ホラー枠?」
「内臓の中みたいな地形でしたし、ホラー枠かもしれません。
その戦車が骨を固めた砲弾を撃ってくるんです。
とんでもないですよ? 機銃も付いてますし」
「それ本当に殺されるしかないじゃない。
存在するならレベル30ぐらいじゃないかな?
あり得ない強さしてるでしょうしね」
「それでも勝つ事は可能ですけどね。
実際<記憶の宝珠>で見た方は、肉骨戦車一台は倒していましたし」
「倒せるんだ………。なら悪魔の方の記憶を見たのかな?」
「まあ……そうですね」
私は話しながらピンときたので、それ以上を口にするのは止める。
おそらくはアロハヌス家の人だったんでしょう。
たしか<記憶の宝珠>でアロハヌス家の人を見て、それを伝えに行ったから魔王様と知り合ったんだったはず。
となるとアロハヌス家の人が異界で亡くなったとみて間違いない。
そこは動画に乗せて良い部分じゃないでしょうし、黙ってるのが一番いい。
おしゃべりなヤツって信用されないしね。
私達は緑鹿を警戒しながら進み、避けられないものは倒していく。
そして橘君の言っていた通り、地面の色が変わる場所までやってきた。
本当に一直線に来た感じねえ………これってバレるとマズいでしょ。
もう手遅れだけど。
「それじゃ先に進みましょうか?
緑鹿じゃ大した事は無いし、新人は無理でも慣れてきたら倒せる程度でしかないしね」
「それじゃ行きます」
あまり離れると別の地形に飛ばされるので同時気味に進む。
その結果2人同時くらいに次の地形に出たけど、またもや運が悪い地形に当たったわね。
まさか2つ目の地形で<白>がやってくるとは思わなかったわ。
明らかに早すぎる。
「まさか2つ目の地形で最早<白>が出て来るなんてね。
ここも森と同じく極めて厄介な、どっちに行っていいか分からないタイプの地形よ。
おそらく橘君には見えているんでしょうけど」
「ええ。薄い墨の流れは見えてますから、どっちに行けばいいかは分かります。
それじゃ、行きましょう。
こんな所に居ても仕方ないですし」
「そうね。さっさと抜けられるなら、さっさと抜けるに限るわ。
ここで出て来るモンスターは一種だけ。
それが<白玉>と呼ばれる、白くて浮いている玉よ。
とはいえ厄介なんだけどね」
「厄介ですか?」
「こいつ白い棘を飛ばしてくるのよ。
一本ずつしか飛ばして来ないからいいけど、それでも結構な速さをしていて危険なのよね。
出来ればさっさと通り抜けたいところ。
遠距離攻撃を持っているモンスターって、本当に厄介だから」
「異界探索には絶対に盾が要る、というのは講習でも習います。
遠距離型が居る限り、盾で防がないと死にますしね。
どう足掻いても盾無しじゃ勝てませんよ、悪魔の人達でもない限りは」
「あの人達って魔法が使えるもの。
だから遠距離攻撃できるし、その人達と比べてもね……」
と言いつつ、私はSDを使った【疑似魔法】が使える。
水の弾を敵に飛ばして当てるものだけど、攻撃力が低いのが玉に瑕。
代わりにSDの消費が少なくて牽制に使えるものとなる。
流石に橘君のような攻撃力が高いものじゃない。
ミミックを一撃で倒してたぐらいだもの、あの時の【火魔法】。
あれほどの威力の魔法なら相当にSDを消費するだろうと思ったけど、本人に聞いて驚いたわ。
一度で1500もSDを消費するなんて思わなかった。
トップ探索者の一人である<アークメイジ>ぐらいしか、1000SDを越える消費量の【疑似魔法】なんて持ってないんじゃないかな?
他にも<槍聖>の天童明日花や<何でも屋>の加納栄悟とか居るけど、<アークメイジ>の堀越愛堵瑠しかそれほどの【疑似魔法】は持っていない。
「ああ、名前で呼ばれるとブチギレる人ですね。
名前なんですからどうにもなりませんし、それが本名なんですから仕方ないと思いますけどね?
御蔭で誰も彼もが堀越さんとしか呼べない人」
「下の名前がアレじゃねえ、名前で呼ばれたくない気持ちは分かるわよ。
おまけに名字が堀越だし」
「かつてのアイドル御用達、堀越学園と同じ堀越ですしね。
しかも名前がアイドルっていうんじゃ、どう考えてもそっちに寄せてるでしょう。
俺としては、そうとしか思えませんけどね。
ご本人には気の毒ですけど」
「っと! 出て来て早速棘を飛ばしてくるなんて、相変わらずねえ。
すぐに遠距離攻撃してくるし、こいつ逃げるから嫌いなのよ。
まあ、こいつを好む人なんていないけどね。
ずっとついてくるし、棘ばっかり撃ってくるしで鬱陶しいし」
「完全に嫌がらせモンスターですね。
【疑似魔法】が無かったら、どうやって倒すんでしょう? 武器を投げる?」
「そんな危険な事をするわけないでしょう、普通は縄を持ち込むのよ。
私の鞄にも入ってるけど、それを鞭のようにして叩きつける。
そうすれば<白>は簡単に地面に落ちるわ。
そして再び浮き上がるんだけど、それには時間が掛かるの。
そこを攻撃して倒す、それが基本的な倒し方」
「縄を持ち込むんですか………。
俺も持っておいた方がいいんですかね?」
「どうだろう?
色々な物を括ったり、あるいは体に結び付けたりとか、使い道は結構あるのよ。
色々な事に使える道具は持ち込んでおくべきでしょうね。
その御蔭で助かった、なんて事もよくあるし」
「へー………」
素直に関心してるのはいいんだけど、棘を防ぎながらの会話も普通は駄目な事なのよね。
私達は守れるからいいけど<白>の棘って強い部類に入る攻撃だから。




