0098
Side:七尾はる
結局、何だかんだと言って一昨日と昨日の配信は盛り上がった。
レトロゲーム好きって多いし、自分の知っているゲームだと安心して見るって人は多い。
更には知らなくても古いゲームは分かりやすいから、理解しやすいっていう部分が大きいのよ。
橘君は成功したとは思っていないみたいだけど、アレは完全に成功と言っていい。
何も皆が押しかけて混雑するのが人気じゃないし、ああいうゆるーい人気があっても悪くないと思う。
実際、魔王様じゃないエルトアリアさんの人気は恐ろしかった。
あのメイドさん喋りだと色々な妄想が捗るっていうのも分かる。
魔王様からのイメージで完璧メイド。
もしくは完璧に見えて失敗するドジメイド。
他にも様々あったけど、元々はメイドの裏が魔王様だから、最初からキャラが強すぎるのよね。
そんな下らない事を考えていたら鳥居の前までやってきた。
本当にここは変わらないけど、もうトラウマが無いのは自分の状態を考えれば分かる。
予想以上にネガティブな事は感じないし、なんだか帰ってきたっていう感じしかしない。
「大丈夫ですか? 駄目そうなら無理に行かなくても……」
「違うの。
予想以上に何も感じてなくてね、自分でもちょっと驚いてる。
ただ、帰ってきたって感じるだけ。
本当に私は異界探索者だったんだなって思うのよ。
ここまで懐かしさを感じると」
話しながらも、私達は列の最後尾に並ぶ。
周りから口々に「お帰り」と言われたので、多くの人に「ただいま」と返す。
かつて次に来る人の為にって考えて、丁寧に色々な事を解説したりとか、初心者がお金を稼ぐにはって考えて伝えたり。
そういう事が間違ってなかったんだって本当に分かる。
こうやって温かく迎えてもらえるって本当にありがたい事だし、あの時に色々な人を助けてたのが、今自分も助けられてる理由だって実感が湧く。
本当に色々な事があったけど、人助けって無駄じゃない。
<情けは人の為ならず>って言葉が身に沁みるわね。
そんな温かい言葉を受けつつ、私は鳥居の渦に入って異界の入り口へと移動する。
相変わらずの狂った景色を見ていると気分が悪くなってくるので、私は早々に橘君と共に異界へと飛び込んだ。
最初の地形は森だった。
まさか最初から高難度の地形に当たるとは、復帰したばかりなのに幸先が悪い。
「どうしたんですか? 急に溜息を吐いて?」
橘君がマスクを着けた顔でこっちを見て来る。
そういえば相変わらずだけど、橘君って完全にモブ顔よね。
とはいえブサイクモブじゃなくて、どこにでもいるという意味での本当のモブ。
代わりに嫌な感じがしないっていうか、平均顔だから嫌われにくい顔をしてる。
両親があんなじゃなかったら、案外誰からも好かれてたんじゃないかな?
いや、誰からも嫌われ辛いから、一部に超絶なアンチが居るのかも。
平均的な顔って見ている人は安心するらしく、嫌われにくいって言われてるからね。
だからこそ気に入らないって連中は出てきそうなのよ。
「最初の地形が森でしょ? 森の地形は、次への場所が非常に分かり難いのよ。
ついでに物が落ちていても分かり難いし、モンスターとも戦い辛い。
正直に言って難易度の高い地形なのよね。
橘君は森の地形に当たった事は無いの?」
「無いですね……。
林っぽいのがある場所はありましたけど、ここまでガッツリ森っていう場所は初めてです。
とはいえ似た装備をしてるんですから大丈夫ですよ」
「装備はね」
私が身につけている物も、橘君と然して違いは無い。
私の身長より低い150センチの棒と円い盾、それにフード付きのローブ。
本当に橘君の装備とよく似てる。
ちなみにローブはメイドさんの部屋で埃を被っていた物だ。
それを洗って綺麗にしただけなんだけど、それでもSD濃度は102もある。
棒はSD濃度92で、円い盾がSD濃度88。
正直に言って、現役の頃より遥かに良い装備で笑いそうになったぐらい。
今の方が恵まれてるっていうのも不思議な気分。
「問題は次に進む為の場所よ。
そこに辿り着くまでにウロウロしなきゃいけないから、その分だけ危険なの。
森は当然だけど見通しが悪いわ、つまりどこから不意打ちを受けるか分からない」
「それは確かにそうですね。
素早く抜ける為にも出発しましょうか」
「え、ええ……そうね」
橘君は理解してるのかしら?
森は地球でだって遭難する可能性がある危険な場所なのよ?
進んでいると思ったら、ぐるぐると回っていただけ。
なんて事が当たり前にある危険な場所、それが森っていう怖い場所なんだけど、って躊躇なく進むわね?
「迂闊に進んでも迷うだけよ、まずは目印になり「大丈夫です」そうな……」
「今まで色々と面倒なんで口には出さなかったんですけど、このマスクを着けていると薄い墨が見えるんですよ」
「薄い墨?」
「ええ。
それが流れていっている方向に行くと、確実に次の地形への場所に着くんです。
なので迷う事は無いんですよ」
「なにそれ? そんな物を手に入れてたの?」
「ええ。
ただ結構な貴重品の可能性があったんで黙ってたんです。
でも今は言っても大丈夫かと思いまして……」
「魔王様も女王様も後ろ盾だから大丈夫だと思うけど、貴重品を奪おうとするバカはどこにでも居るからね。
注意しないと駄目よ。
それに、次の地形への場所が分かる道具なんて聞いた事が無いわ」
「えっ?」
橘君が驚いたので、私はもう一度同じ言葉を言う。
彼が理解できるように。
「聞いた事が無いわ」
「…………あれ? 言わない方が良かった?」
「多分だけど言わない方が良かったとは思う。
でも、真っ直ぐ正解の道へと進んでるとなると、どこかでバレてたとは思うけどね。
明らかにおかしいから」
「それはそうですね。
これは氷の大地の地形で手に入れたんですよ。
氷の騎士を倒して手に入れた物で、その氷の大地でも次に行く場所が分かったんです。
なのでそういう地形の場所で手に入るんだと思ってましたよ」
「んー………多分だけど、皆も総当たりで調べて突破してると思うわよ?
最初の頃から変わらないし、そんな便利な物があったら話題になるはずでしょ。
仮に他に持ってる人が居ても、絶対に黙ってるでしょうね。
そんな便利な物を持ってたら、狙われない保障がどこにも無いもの」
それに、もし見える装備を持ってるんだとしたら、必ずどこか不自然になるはず。
明らかに道が分かってるっていう動きになるから、橘君もそうだけど疑われるでしょう。
でも、今までにそういう情報は聞いた事が無い。
だから上手く誤魔化してるか……
「持ってても上手く誤魔化してるか、それとも橘君しか持ってないか。
そのどちらかでしょうね」
「………」
今更ながらに、また面倒な事になると思ったのでしょうね。
完全に黙ってしまったわ。
でもね、もう無かった事にはならないから諦めた方がいい。
考えたって意味は無いし、なるようにしかならないもの。
「さて、進みましょうか? 考えたって良くなる事は無いわ。
申し訳ないけど、諦めるしかないわね」
「……ですね。諦める事にします」
さっき橘君の事をモブ顔って思ったけど、モブなのは顔だけなのよね。
人生は全くモブじゃなくて、むしろ様々な騒動に巻き込まれる主人公系なのよ。
でも最近はモブ顔主人公系の作品もあるから、橘君のようなのが主人公でも変じゃないか。
それによくある主人公の一つ、<恵まれた血筋>も持ってる………血筋?
橘君って確か【精魂の雫】ってヤツよね?
それって血筋なの? それとも違う?
「七尾さーん、行きますよ!」
「あ、ゴメン! すぐ行くー!!」
危ない、危ない。
久しぶりの異界なのに、なに立ち止まって考え事してるのかしら? 危な過ぎるじゃないの。
しっかりしろ、私。
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