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 Side:七尾はる



 結局、何だかんだと言って一昨日と昨日の配信は盛り上がった。

 レトロゲーム好きって多いし、自分の知っているゲームだと安心して見るって人は多い。

 更には知らなくても古いゲームは分かりやすいから、理解しやすいっていう部分が大きいのよ。


 橘君は成功したとは思っていないみたいだけど、アレは完全に成功と言っていい。

 何も皆が押しかけて混雑するのが人気じゃないし、ああいうゆるーい人気があっても悪くないと思う。


 実際、魔王様じゃないエルトアリアさんの人気は恐ろしかった。


 あのメイドさん喋りだと色々な妄想が捗(はかど)るっていうのも分かる。

 魔王様からのイメージで完璧メイド。

 もしくは完璧に見えて失敗するドジメイド。

 他にも様々あったけど、元々はメイドの裏が魔王様だから、最初からキャラが強すぎるのよね。


 そんな下らない事を考えていたら鳥居の前までやってきた。

 本当にここは変わらないけど、もうトラウマが無いのは自分の状態を考えれば分かる。

 予想以上にネガティブな事は感じないし、なんだか帰ってきたっていう感じしかしない。


 「大丈夫ですか? 駄目そうなら無理に行かなくても……」


 「違うの。

 予想以上に何も感じてなくてね、自分でもちょっと驚いてる。

 ただ、帰ってきたって感じるだけ。

 本当に私は異界探索者だったんだなって思うのよ。

 ここまで懐かしさを感じると」


 話しながらも、私達は列の最後尾に並ぶ。

 周りから口々に「お帰り」と言われたので、多くの人に「ただいま」と返す。

 かつて次に来る人の為にって考えて、丁寧に色々な事を解説したりとか、初心者がお金を稼ぐにはって考えて伝えたり。

 そういう事が間違ってなかったんだって本当に分かる。


 こうやって温かく迎えてもらえるって本当にありがたい事だし、あの時に色々な人を助けてたのが、今自分も助けられてる理由だって実感が湧く。

 本当に色々な事があったけど、人助けって無駄じゃない。

 <情けは人の為ならず>って言葉が身に沁みるわね。


 そんな温かい言葉を受けつつ、私は鳥居の渦に入って異界の入り口へと移動する。

 相変わらずの狂った景色を見ていると気分が悪くなってくるので、私は早々に橘君と共に異界へと飛び込んだ。




 最初の地形は森だった。

 まさか最初から高難度の地形に当たるとは、復帰したばかりなのに幸先が悪い。


 「どうしたんですか? 急に溜息を吐いて?」


 橘君がマスクを着けた顔でこっちを見て来る。

 そういえば相変わらずだけど、橘君って完全にモブ顔よね。


 とはいえブサイクモブじゃなくて、どこにでもいるという意味での本当のモブ。

 代わりに嫌な感じがしないっていうか、平均顔だから嫌われにくい顔をしてる。


 両親があんなじゃなかったら、案外誰からも好かれてたんじゃないかな?

 いや、誰からも嫌われ辛いから、一部に超絶なアンチが居るのかも。

 平均的な顔って見ている人は安心するらしく、嫌われにくいって言われてるからね。

 だからこそ気に入らないって連中は出てきそうなのよ。


 「最初の地形が森でしょ? 森の地形は、次への場所が非常に分かり難いのよ。

 ついでに物が落ちていても分かり難いし、モンスターとも戦い辛い。

 正直に言って難易度の高い地形なのよね。

 橘君は森の地形に当たった事は無いの?」


 「無いですね……。

 林っぽいのがある場所はありましたけど、ここまでガッツリ森っていう場所は初めてです。

 とはいえ似た装備をしてるんですから大丈夫ですよ」


 「装備はね」


 私が身につけている物も、橘君と然して違いは無い。

 私の身長より低い150センチの棒と円い盾、それにフード付きのローブ。

 本当に橘君の装備とよく似てる。


 ちなみにローブはメイドさんの部屋で埃を被っていた物だ。

 それを洗って綺麗にしただけなんだけど、それでもSD濃度は102もある。


 棒はSD濃度92で、円い盾がSD濃度88。

 正直に言って、現役の頃より遥かに良い装備で笑いそうになったぐらい。

 今の方が恵まれてるっていうのも不思議な気分。


 「問題は次に進む為の場所よ。

 そこに辿り着くまでにウロウロしなきゃいけないから、その分だけ危険なの。

 森は当然だけど見通しが悪いわ、つまりどこから不意打ちを受けるか分からない」


 「それは確かにそうですね。

 素早く抜ける為にも出発しましょうか」


 「え、ええ……そうね」


 橘君は理解してるのかしら?

 森は地球でだって遭難する可能性がある危険な場所なのよ?


 進んでいると思ったら、ぐるぐると回っていただけ。

 なんて事が当たり前にある危険な場所、それが森っていう怖い場所なんだけど、って躊躇(ちゅうちょ)なく進むわね?


 「迂闊(うかつ)に進んでも迷うだけよ、まずは目印になり「大丈夫です」そうな……」


 「今まで色々と面倒なんで口には出さなかったんですけど、このマスクを着けていると薄い墨が見えるんですよ」


 「薄い墨?」


 「ええ。

 それが流れていっている方向に行くと、確実に次の地形への場所に着くんです。

 なので迷う事は無いんですよ」


 「なにそれ? そんな物を手に入れてたの?」


 「ええ。

 ただ結構な貴重品の可能性があったんで黙ってたんです。

 でも今は言っても大丈夫かと思いまして……」


 「魔王様も女王様も後ろ盾だから大丈夫だと思うけど、貴重品を奪おうとするバカはどこにでも居るからね。

 注意しないと駄目よ。

 それに、次の地形への場所が分かる道具なんて聞いた事が無いわ」


 「えっ?」


 橘君が驚いたので、私はもう一度同じ言葉を言う。

 彼が理解できるように。


 「聞いた事が無いわ」


 「…………あれ? 言わない方が良かった?」


 「多分だけど言わない方が良かったとは思う。

 でも、真っ直ぐ正解の道へと進んでるとなると、どこかでバレてたとは思うけどね。

 明らかにおかしいから」


 「それはそうですね。

 これは氷の大地の地形で手に入れたんですよ。

 氷の騎士を倒して手に入れた物で、その氷の大地でも次に行く場所が分かったんです。

 なのでそういう地形の場所で手に入るんだと思ってましたよ」


 「んー………多分だけど、皆も総当たりで調べて突破してると思うわよ?

 最初の頃から変わらないし、そんな便利な物があったら話題になるはずでしょ。

 仮に他に持ってる人が居ても、絶対に黙ってるでしょうね。

 そんな便利な物を持ってたら、狙われない保障がどこにも無いもの」


 それに、もし見える装備を持ってるんだとしたら、必ずどこか不自然になるはず。

 明らかに道が分かってるっていう動きになるから、橘君もそうだけど疑われるでしょう。

 でも、今までにそういう情報は聞いた事が無い。

 だから上手く誤魔化してるか……


 「持ってても上手く誤魔化してるか、それとも橘君しか持ってないか。

 そのどちらかでしょうね」


 「………」


 今更ながらに、また面倒な事になると思ったのでしょうね。

 完全に黙ってしまったわ。


 でもね、もう無かった事にはならないから諦めた方がいい。

 考えたって意味は無いし、なるようにしかならないもの。


 「さて、進みましょうか? 考えたって良くなる事は無いわ。

 申し訳ないけど、諦めるしかないわね」


 「……ですね。諦める事にします」


 さっき橘君の事をモブ顔って思ったけど、モブなのは顔だけなのよね。

 人生は全くモブじゃなくて、むしろ様々な騒動に巻き込まれる主人公系なのよ。


 でも最近はモブ顔主人公系の作品もあるから、橘君のようなのが主人公でも変じゃないか。

 それによくある主人公の一つ、<恵まれた血筋>も持ってる………血筋?


 橘君って確か【精魂の雫】ってヤツよね?

 それって血筋なの? それとも違う?


 「七尾さーん、行きますよ!」


 「あ、ゴメン! すぐ行くー!!」


 危ない、危ない。

 久しぶりの異界なのに、なに立ち止まって考え事してるのかしら? 危な過ぎるじゃないの。

 しっかりしろ、私。


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