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 Side:橘八重



 俺は休憩を終えて立ち上がると、地面の色が変わっている所から先へと踏み込んだ。

 その瞬間、周りの景色は洞窟じゃなくなり草原に変わる。

 そして後ろを見ると何もない。

 洞窟だった場所が跡形もなく消えている。

 本当に異界って不思議な場所だなぁ。


 俺は再び前を向くと、まずは情報を集める。

 特に出てくるモンスターを把握しておく事は重要だと習ったしな。

 どの探索者も嫌うのが、小さくて素早いモンスターだ。

 こいつらが厄介なのは、簡単に捉える事が出来ないからでもある。


 人間の攻撃速度が遅く、攻撃した時には既にそこに居ないという事があるんだ。

 それなら大きなモンスターの方が、まだ戦う方法があるくらいで、小さなモンスターは本当に嫌われている。


 何故そんな事を考えているかと言えば、目の前の草原にはネズミのような姿のモンスターが見えているからだ。

 目が悪いのかこっちには気づいてないが、困った事になったと頭を抱える。

 アレは速鼠と呼ばれるモンスターで、とにかく足が速いモンスターなんだよ。


 倒すには範囲が広い攻撃方法で倒すしかない。

 俺が見た動画では地面に膝をついて構え、長い槍で強引に薙ぎ払ってた。

 そうしないと当たらないくらいに足が速く、広範囲を攻撃する武器がないと逃げた方がいいくらいだと解説がついていた。


 探索者動画には、割と悪魔からのアドバイスがテロップのように出ている事が多い。

 そこに出てるって事は、悪魔からの注意事項という事だ。

 俺の武器は………1メートルない棒なんだよな。

 これで果たして大丈夫なんだろうか?


 ……悩むものの、試してみるしかないよなぁ。

 そうしないと分からないし、結局は自分で試さないと結論は出ない。

 誰かが出来るからといって、自分が出来るかは分からないんだ。

 ならば、やるしかないだろう。


 「よし! 戦ってみる事は決めた。

 でも金属バットが邪魔だな? とはいえ今は持って進むしかないか。

 捨てるには勿体ないし、無くて困ったなんて事になったら嫌だからな」


 俺は少しずつ進んで行き、速鼠がこちらに反応したかと思ったら、すぐに地面に膝立ちになって構える。

 とはいえこっちに気づいた訳ではなかったので、速鼠は向かっては来なかった。

 来ないのかよ! と思うが、同時に安堵の息も吐く。


 相手は素早い動きをする鼠なうえ、当然ながら齧(かじ)ってくる。

 しかも噛みつきは齧歯(げっし)類のものだから強烈。

 こいつは肉を嚙み千切ってくるぐらい嚙む力が強いので、そういう意味でも嫌われている。


 俺は立ち上がって数歩前へと歩くと、再び速鼠がこっちを向いたので膝立ちになり待ち構える。

 速鼠は目を逸らさずこっちをジッと見ているので、試しに金属バットを投げてやった。

 すると……


 「ヂュ!!」


 こっちに敵が居ると分かったのか、すぐに突進してきた。

 なので俺は動画の通りに薙ぎ払う。

 それは速鼠に直撃したが、吹き飛ばしただけで終わる。


 どうやらSP1では一撃で倒せないらしい。

 俺は素早く吹き飛んだ速鼠に向くが、こちらへの突進は速鼠の方が速かった。


 間に合わないと思った俺は咄嗟に左手で速鼠を叩いてしまう。

 そんな事をしても意味が無いと思ったが、速鼠は潰れて消えて行った。

 ………どういう事だ?


 視界の右上端にはSD2278と出ている。

 先程の速鼠を倒し………あれ? 計算が合わなくない?

 むしろ速鼠を倒す前より減ってる気がする。


 何故か分からないので記憶を探るものの、何か特別な事をしたようには………

 あっ! もしかしたらだけど、分かった気がする。


 俺は記憶の悪魔のように拳に魔力を篭めて、目の前の空間をブン殴る。

 とはいえ何も無いのだから空振るだけだ。

 そして視界の右上端を見ると、そこの数字はSD2256になっていた。

 やっぱり予想通りか。


 「俺は人間だから魔力が無い。

 代わりにSDを篭めて敵をブン殴れるようになったみたいだ。

 もしかしたら武器にもSDを纏わせられるかもしれない。

 しかし少し使っただけで、結構消費してるんだよな。

 収入源でもあるし、出来れば持って帰りたいんだけど……」


 背に腹は代えられないし、決して無駄にはならないと思う。

 とはいえメインはSPであり、SDはどうしても勝てないモンスターとかに使おう。

 流石に勿体ない。


 俺は立ち上がって金属バットを回収し、再び速鼠の近くまで行って膝立ちになり棒で薙ぐ。

 今回は一撃で倒す事が出来たし、消費は2だった。

 悪魔の経験を得てなかったらもっと消費してたかもしれないし、やっぱり<記憶の宝珠>を使ったのは正しい選択だったと思う。


 鼠や蟻のモンスターに集られて死ぬという事もあるらしいので、そんな死に方をしたくない俺は一匹ずつ確実に始末していく。

 近い場所に2匹いる場合は金属バットを投げて誘(おび)き出して倒す。

 その形で安全を担保しながら進む。


 すると、どう考えても怪しげな物が置かれていた。

 っていうか、宝箱とか流石に無いわ。

 こいつは確定でミミック、つまりモンスターの一種だ。


 何故なら異界においては宝が入った宝箱なんて存在しないからな。

 つまり100%アレはミミックとなる。


 そういう意味ではロマンの無い場所でもあるんだよ、異界って。

 一攫千金というロマンはあるんだけどさ。


 それと、ミミックを倒すと必ず何かが出てくるのは分かってる。

 つまりアイツはボーナスモンスターでもあるんだ。

 初心者が勝てないレベルで強いというのを抜きにすればね。


 とはいえ………俺は【疑似魔法】が使えるようになってる。

 少なくともあの肉戦車が倒せる【火炎嵐】の【魔法】は使えるんだ。

 最後にあれだけ使って帰るのも悪くない。


 最初のアタックでここまで出来れば十分だろう。

 それに外に出た後どれだけ疲れるかも分からないし。


 「すぅ、ふぅ………よし! じゃあ、使ってみるか。

 ……デウ・オスム・ディ・アオグ・ガ・ソレイ・テス・オルアグ!!」


 あの記憶のように魔力を篭める感覚で詠唱する。

 するとミミックの居る地面が赤くなると、真っ赤な炎が五本ほど上空に向かって吹き上げる。

 あの記憶と同じ【魔法】が再現されている事に感動するが、俺は慌ててミミックを確認。


 「GYUGSDDGGTHTY?!?!」


 意味不明な叫び声をあげたので【魔法】を止めると、箱が倒れてミミックは消えた。

 あの肉戦車を倒せたぐらいだから凄いと思ってたけど、本当にとんでもない威力だ。

 そして視界の右上端を見るとSD2627となっていた。


 ミミック1体で300ぐらいか?

 と思ったけど【疑似魔法】で消費したのを思い出す。

 となると………


 「駄目だ。

 空撃ちしてみないと消費量は分からないけど、ミミックを倒して300SDぐらいしか手に入ってないって事は相当に消費したはず。

 流石に空撃ちする勇気は持てない。

 1回で1000SD消費していても不思議じゃないくらいだぞ、ミミックが一撃なくらいだし」


 そんな事を口に出しているとミミックが消えた所に何かが出現。

 それはよく見なくても簡単に分かる物だった。


 「なんで軍手が出て来るんだ?

 しかもよくある安物の白い軍手じゃないか。

 滑り止めすら付いてないヤツ」


 園芸用品の店なんかで、5個まとめた形で売られている軍手。

 しかもそれが片手分しかない。

 ………探索者を舐めてんの? 異界って。


 視界にARが表示されたが、SD濃度31、異界浸食率19%と出ている。


 「いやいやいやいやいやいや。

 ちょっと待って、おかしい!

 確かにミミックを倒したよ? それは間違いない。

 だけどさ、唯の白い軍手がSD濃度31、異界浸食率19%っておかしいだろう!

 明らかに白い軍手の性能じゃねーよ!」


 なんで白い軍手が灰色の棒より強いんだよ。

 異界の基準ってどうなってんの?

 せめて強い物は強そうな見た目にしてくれよ、頼むから!


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