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 Side:橘八重



 俺は針金束人形との戦いを始めるが、こいつの動きを幾度か見て理解した。

 さっきの針金束人形と同じだ。

 なので俺は敵の攻撃をかわして反撃を繰り返す。


 正直に言って一度勝てたという経験は大きかった。

 二度目は危なげなく倒せたので、初見の敵がどれだけ危険かがよく分かる。


 それよりも、針金束人形を倒した後で部屋の中央にある物が出現した。

 俺はそれを見て目が点になったよ。

 それはいわゆるところの<記憶の宝珠>と言われる物だったからだ。

 ここは時間と空間が捻じ曲がってるが、そこには稀に誰かの経験や記憶が篭もった玉が見つかる。


 ゲーム的に言うと<スキルオーブ>という感じだろうけど、実際にはどこかの誰かの記憶を体験するだけだ。

 中には訳の分からない意味不明な物もあるらしいが、狂ったりする事などは無いらしいので使っても問題ない。


 とはいえ<記憶の宝珠>は高く売れるんだよ。

 誰かの記憶を追体験する事で、その人の感覚などを身につける事が出来るからだ。

 中には達人の動きを可能とするような物もあるらしいので、使うかどうか猛烈に悩む。


 …………どうしよう?


 「売るならコレを持ってすぐに脱出だ。

 実際に最低価格でも500万は下らない。

 それこそ強いモンスターの居る所の物なら1000万を超える事すら当たり前の代物だ。

 だからこそ猛烈に悩む………」


 とはいえ入ってきてすぐの所の物だ。

 中身が良い物である可能性は低い。

 それなら俺が使っても構わないよな?

 最低価格でも売れない可能性を考えたら、自分で使って強くなれるかもしれない方に賭けるべきだろう。


 「よし! ウダウダ悩んでても仕方ない。

 男は度胸だ、ここで使おう!!」


 俺は地面に武器を置き、そして記憶の宝珠を手に取る。

 大きさはバレーボールくらいで割とデカい。

 そんな<記憶の宝珠>を持ち上げると、何かが俺の中に流れ込もうとしてきた。

 これを弾くと使わない事になるんだが、俺はその流れ込む物に身を委(ゆだ)ねる。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:???



 クソッ! ふざけやがって!

 何が大量に食事が手に入るだ!!

 意味不明な空間の捻じ曲がり方をしてやがるぞ、ここは。


 間違いなく異常な空間だ。

 おまけに時空間が捻じ曲がってる所為か、転移もかなり阻害されてやがる。

 簡単に外に脱出する事も出来ねえ。


 訳の分からない、おかしな姿の生物まで居やがるし、ここは間違いなく準備をしてから来る所だ。

 こんな碌な準備も無いままに来ていい場所じゃねえ。


 ドドドドドドドドドド!!!


 「おい、しっかりしろ! 大丈夫か!?

 ……このクソッタレが!!」


 仲間がどうやら死んだようだ。

 オレは魔力を拳に溜めて後ろからブン殴るが、敵は多少のダメージを受けただけらしい。

 明らかに異常な強さをしてやがるが、どういうこった?

 普通はこれだけ魔力を込めれば十分な威力になるぞ。

 なんで大して効いてねえんだ!?


 「アヴロ・デア・ウルム・ドゥ・ルルム・オセ・アグ!!」


 【火弾】の【魔法】を放つものの、然したるダメージを与えられなかった。

 この程度じゃ、どうにもならねえか。

 仕方ない。ここは多くの魔力を使ってでも確実に敵を倒すべきだな。

 くらえ、奇怪なバケモノめ!!


 「デウ・オスム・ディ・アオグ・ガ・ソレイ・テス・オルアグ!!」


 オレが使える最も威力の高い【魔法】である【火炎嵐】の【魔法】だ。

 これなら十分に効いたろうが!!


 オレが心の中でそう思っていると、奇怪な姿のバケモノは萎(しぼ)むようにして消えて行った。

 それと共にかなりの量の食事がオレの中に入り込んでくる。


 「はははははは!! どうだバケモノが!

 オレの【魔法】はお前ら如きに負け「ドォン!」るも………」


 !?!!?!?!!??!



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



  Side:橘八重



 「ぷぁっ!? はー! はー! はぁ………

 あの最後、間違いなく殺されたな。

 しかしなんだよ、あの戦車は!?

 間違いなくおかしいだろ!!

 何で異界の中で戦車が出て来るんだよ。

 おまけに肉の塊みたいな戦車だったぞ!!」


 見た目はグロテスクな肉の塊に、骨のキャタピラが付いたような戦車だった。

 何かの汁みたいなのが滴(したた)っていたし、機銃と大砲も骨で出来ていた。

 弾はたぶんだけど骨を飛ばしてるんだと思う。

 そして追体験した人は悪魔だ。


 「それにしても肉の塊と骨で出来た戦車って………

 どんだけSAN値を削るつもりなんだよ、グロ過ぎるだろ。

 おまけに数が多くいたみたいだしさ。

 どんだけこの異界って頭がおかしいんだよ。

 そのうえ周りの地形も肉の塊の内部みたいだったし」


 肉の塊の地形だから、あんなモンスター? だったのかもしれない。

 とはいえ、あんなの戦いたくはないぞ。

 絶対に嫌だし、殺される未来しか見えない。

 やはり最初の方で1000SD貯めてから進むべきだな。

 いつでも逃げられるようにしておかないと危険すぎる。


 俺は地面に置いた武器を拾うと部屋の中を見回す。

 そして通路が戻る道しかない事を理解した。

 つまり最初から左が次に進む為の道だったらしい。

 とはいえ武器と<記憶の宝珠>が手に入ったので、相当に俺は恵まれていると思う。


 普通はモンスターしかおらず次の地形に進む事になるんだ。

 それに比べれば恵まれすぎだな。

 代わりに命の危険があったから、リスクとリターンが釣り合ってるとも言えるけど。


 心の中で色々と考えつつも、俺は戻って左の道へと進む。

 そして色が変わっている場所を前に座って休憩をする事にした。

 色の変わっている地面から先、そこへ進まない限りモンスターが襲ってくる事は無いと講習で学んだ。

 だから手前からしかモンスターはやってこない。


 安全ではないけども、それなりには安全に休める場所ではある。

 ここでSPが全回復するまで休憩だ。

 流石に座って休んで、心も落ち着けたい。

 先程の追体験の最後、自分が死ぬという衝撃はキツいものがあった。


 「そうだよな。

 誰かの追体験をするって事は、高い確率でその人が死んだ体験なんだよ。

 当然死の衝撃はあるわけだし、それも追体験してしまうんだ。

 最初から予想しておくべきだった。

 とはいえ予想してても本人の追体験だからなぁ……自分の死は衝撃だろう」


 あの砲撃か何かを喰らった後のパニック。

 あれはどんな言葉を使っても伝えられないと思う。

 それぐらいのパニックと衝撃だ。

 自分の全てが貫かれたような気分だったけど、おそらく肉体だけじゃなく精神も魂魄もブチ抜かれたんだと思う。

 その衝撃はとんでもなかった。


 さっきの悪魔の追体験で得られたのは、魔力を拳に篭める方法と【魔法】だ。

 とはいえ人間は【魔法】を使えないので、俺はSDを使った【疑似魔法】しか使えない。

 体がエルフに変わった人は魔力を使えるようになったらしいけど、人間の肉体じゃ無理だ。


 それでも疑似的に【魔法】が使えるだけマシか。

 切り札として使えるだろうし。


 それと魔力が無いので、魔力を拳に篭める事も出来ない。

 ただしSPを篭める方法と似ていたので、あの悪魔の真似をすれば上手くなれると思う。

 凄く自然に使ってたし。


 何というか、あれこそが生粋の悪魔の感覚なんだなと思うぐらい当たり前なレベルで自然だった。

 むしろ呼吸をするように魔力を操ってて、俺みたいに気合を入れなきゃSPを込められない感じじゃないんだ。

 あれぐらい出来れば威力も上がるのかも……


 イージェルさんが人によるって言ってたのも、その辺りが理由なんだろう。

 つまり上手いヤツほど同じSPでも威力が高いんだ。


 効率的に使えると言うべきだろうか?

 なんせ人間よりも遥かに鋭敏な感覚で使ってるんだ。

 当然すぎるほど、その結果も違ってた。


 それでも大したダメージが与えられなかったんだよ、あの肉戦車には。

 強力な【魔法】を使わなきゃいけないレベルって、異界探索者のトップ層でも倒せるか分からないレベルだぞ。

 多分だけど、それは間違いない。


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