0087
Side:橘八重
インキュバスの人がもう2人来て、連中を【転移魔法】で連れて行ってしまった。
当たり前だけど警察なんて介入させたりしないし、問答無用で連れて行って様々な事をされる。
連中は間違いなく理解するだろう、悪魔の人達の本当の恐ろしさを。
「君が橘八重君か。
私は異界探索者の一人で天童明日花という。よろしく」
「トップ探索者の天童さんですか、橘八重です。よろしくお願いします」
俺はそういって差し出されたを握り、握手をした。
なんだか宝塚の男役みたいな人だな?
クール系美女探索者と言われてるけど、どちらかというと美形男役探索者って感じ。
もちろん宝塚は関係ない人なので、この人は天然でこういう人だという事になる。
俺は握手が終わったので手を離して引っ込めつつ、気になったので聞いてみた。
「あの、俺みたいな新人になにか用ですか?
特に用があるとは思えないんですが……」
「先程の男達はおそらく君のそのローブなど欲しさに絡んでいたようだが、あいつらと何か関係はあるのかい?
何故か偽者の警察官の恰好をしていたのが気になってね」
「ああ、あれは多分ああやれば騙せるか、言う事を聞かせられると思ったんだと思いますよ。
あのチーマー連中、昨日も俺に寄越せとか言って突っかかって来ましてね。
新宿の〇〇にある、し〇むらの前だったんですけど」
「昨日もかい?
それで今日はSCCと………訳の分からない連中だな。
何故あんな奴らがこんな所に居たのやら?」
「二度目に殴られたヤツが、ここの講習に来ていたみたいですね。
逆ギレして出て来たところに俺が居まして、それで目が合ったら昨日と同じように寄越せと騒ぎ出したんですよ」
「なんだそれは? あまりにあまりで意味が分からないレベルだ。
そもそも他人の物を寄越せと喚いたところで、悪魔の人達に見つかったら終わりだろうに。
いや、警察に見つかっても終わりだぞ」
「そんな事は無いのでは?
昨日また通報したんですけど、緊急通報センターは今回も動きませんでしたよ。
嘘を吐いたら罪に問われると、何故か通報した俺の方が犯罪者扱いされました。
だから二度と通報しない事に決めましたよ、あんなところに言っても無駄ですし」
「………また? 君の通報は握り潰せとでも決まっているのか?
警察が国民を守らない、もしくは取り締まらないなら、警察の存在意義など無いだろうにな。
自分達の首を自分達で絞めていると理解していないようだね」
「ま、もうどうでもいいです。
そもそも俺が警察を信用する事はありませんし、あれらに助けてもらおうなんて思いませんしね。
自助努力で解決しなければいけないなら、そうするだけですよ。
それが法律を破る事であっても、法律は俺を守ってくれないのですから仕方ないでしょう?」
俺がそう言うと、あからさまに溜息を吐かれたよ。
とはいえ俺の言っている事は間違っていないはずだ。
チラッとだが聞いた事があるしな。
俺も詳しくは知らないけど、そこまで大きく間違っていないはずだ。
「君の気持はよく分かるが、法律は守ってくれ。
今もそうだが、私は大抵を配信している。
機器は小型の物を持っていてね、反応を返せないが今も配信中なのだよ。
君がまた通報しても無視された事は配信にきちんと乗っている、おそらく警察の上層部も動くだろう。
だから法律はきちんと守るように」
「え? イヤですけど?
国家が国民の生命と財産を守るから、国民は法を守るんでしょう?
俺の生命も財産も守られないんですから、俺が法に従わなければいけない理由なんてありませんよね?
警察が動かないって、そういう事でしょうに」
「いや、まあ……そう解釈出来なくもないが、それでも君は日本国民だろうに」
「いつから国は国民を守らず金だけ寄越せという組織になったんです?
今日もSDを売りに来ましたけど、あの売値って既に国家に半分は取られてるんですよ?
更に税金も支払うのに、国家が国家の責務を果たさないじゃないですか。
だったら国家より上の悪魔の人達に従った方がマシでしょう」
「んー……………そもそもなんだけど、なぜ緊急通報センターは君の通報を疑ったんだ?
そもそも、そこがおかしいと思うのだが?」
「さあ? それは緊急通報センターに聞いてください。
どうせ自分達の都合の良い事しか言わないでしょうし、今頃は俺が通報した証拠の音声も消してるんじゃないですか?
どのみち興味ないですし、どうでもいいです。じゃあ、これで」
俺はいちいち面倒くさくなったので、話を切り上げて帰る事にした。
トップ探索者とか言われてる人だけど、いちいち踏み込んできて鬱陶しい。
トップ探索者なら協力者なんて山のように居るだろうが、こっちは唯の新人だ。
同じにしないでもらいたいよ。
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Side:天童明日花
「しまったな……彼の機嫌を損ねたか。
話の仕方に失敗したな」
『あんなの放っておけばいいじゃん』
『そうそう。
契約だか何だか知らないけど、何様のつもりだよ、アイツ。
新人が調子に乗ってんじゃねえよ』
私のAR表示に配信視聴者の書き込みが出る。
これは新しく試験的に始められたシステムで、まだ私を含めて一部の者しか持っていない物だ。
それで書き込みが見えているのだが、この流れは非常によろしくない。
「君達も勘違いしているようだが、彼が日本国民でなくなったら終わりだぞ。
あの魔王様は相当に彼の事が気に入っているようだからな。
必要なら配信で言っていたように、冗談ではなく日本人の半数が殺されかねない。
それは自覚しておくように」
『それってアイツが脅してくるって事か?
それならそうなる前に潰すべきだろ。
あんなヤツに命を握られるなんて御免だぞ!』
『そうだ! そうだ!』
「どうやら私の配信にも大陸か知らないが、怪しい扇動者が入り込んでいるらしいな。
そうやって彼と日本人の対立を煽って潰し合わせようという魂胆だろうが、そうはいかない。
……もしかして緊急通報センターにいるのは、工作員の仲間か?」
私は少し考えた持論を喋ってみる。
もちろん何の根拠も論拠も無い妄想に過ぎない。
しかし結果は劇的なものだった。
『途端に煽ってた連中が書き込まなくなっててワロタwww』
『少しは工作員だって事ぐらい隠せよwww』
『また大陸か。
それにしても緊急通報センターにまで入り込んでるのかよ!
あいつら本当に碌な事をしねえな』
どうやら悪い流れになっていたのではなく、悪い流れにしたい連中が騒いでいただけのようだ。
「どうやら本当に工作員のようだが、となると本国から指令が出ているな。
彼の名が出て来たのは最近であって、前からじゃない。
にも関わらず、ここ最近の彼への攻撃は異常だ。
間違いなく彼を基点に日本を潰せという指令が出ていると見ていい。
あそこは日本以上に「右向け右」の国だからな」
『まるでマスゲームみたいな国だからな。
実際にマスゲームも得意だし』
『そもそも魔王様との関わりは橘しか持ってないし、魔王様って橘以外どうでもよさそうなんだよな。
どれだけの日本人が死のうが興味なさそうな感じ』
『確かにそうだろうと思う。
なんで魔王様があんなに橘を好んでるのか知らないけど、マジで橘に何かあったら魔王様が出張ってくるんで止めてもらいたい』
『止めてもらいたいっていうか、バカを調子に乗らせないようにするしかないだろ。
さっきのチーマーどもなんて、唯の難癖つけるバカでしかないぞ。
大陸とか工作員とか関係ない、マジの大バカだ。
ああいうのを何とかしないと、マジで魔王様が暴れかねない』
それは本当に書き込みの通りだ。
彼にちょっかいをかけて、笑って済まされるなんて思うのは愚かに過ぎる。
彼の後ろには最高位の悪魔が居て、その人達は容易に日本を壊滅させられるのだ。
それを理解していない者が多すぎる。
いや、それを理解できない平和ボケが多すぎる。
悪魔に支配された時から世の中は変わったのに、今でもそれ以前のように生きられると思い込んでいるんだ。
あまりにもバカで呆れるしかない。
自分達のやった事が引き鉄で、日本人の半数が殺されるかもしれないというのに。
その自覚が足りない者がどれだけ居るかを考えると………頭が痛くなってくるな。本当。




