0075
Side:橘八重
ダッ! ザッザッザッザッザッ………!
俺は連中に背を向けて一気に走り始めた。
後ろから攻撃される恐れもあるが、先に走り始めた俺の方が圧倒的に有利だ。
それにローブが身を守ってくれるだろうから、余程の事が無い限りは連中の攻撃なんて通らないだろう。
後は地形が変わる場所まで一気に走るだけだ。
「待てや、コラァ!!!」
「待ちやがれ、テメェ!!!」
奴らが追いかけてきたが、俺は構わず一気に逃げる。
しかし流石は第二グループに名が挙がる連中だ。
先に隙を突いて走りだしたにも関わらず引き離せない、後ろから声が聞こえ続けてる。
厄介な事だと思った矢先、目の前からサボテンがやってきた。
最悪だと思った瞬間、サボテンをあいつらに押し付ければチャンスだとも閃く。
なので俺は敵のライダ〇キックを待つ。
そしてサボテンが跳躍した瞬間、俺は左に逸れて敵のキックを回避しつつ走り抜ける。
「うぉぁっ!? クソッ、こい……ふざけんなよ、テメェら!!!」
後ろをチラリと見ると、一人の盗賊がサボテンを押し付けられているのが見えた。
あいつら仲間を見捨てたらしい。
とことんまでに盗賊だな。
実に分かりやすい連中だし、仲間を見捨てたのも動画に撮られてるんだけど……
形振り構ってない気がするぞ?
「今すぐ止まれやぁ!!」
「止まらねーと、ブチ殺すぞ!!」
殺すって言われて止まるバカが居ると思ってるんだろうか?
頭が悪すぎる気がするし、そんな連中だからこそ盗賊をやるんだという事が分かる。
もちろん世の中には、そうと分からないように犯罪をやっている奴も居るんだけどさ。
それでも大半はあんな連中だ。
その連中から追いかけられてるわけだが、そろそろ次の地形に入れるらしい。
運が悪いと連中と同じ地形だが、運が良ければ俺だけ別の地形に行けるだろう。
とりあえず一気に走り抜けてしまうか。
足を止めずに次の地形へと突入した俺が見たのは、串刺しにされた死体が並べられた薄暗い場所だった。
道が続いているものの、その道の両脇には所狭しと串刺しにされた人間が並べられている。
冗談でも何でもなく、頭の中に魔女狩りとかヴァンパイアとか出て来たよ。
俺はそのまま走り続けるが、串刺しにされた死体の向こうから何かが跳んできたのがチラリと見えた。
「なんだコイツは?! おい、これって吸血鬼じゃねえのか!?」
「んな事は知らねーよ!! さっさと殺、うぉぁっ!?」
俺はそんな言葉にも耳を貸さずに走り続ける。
興味本位で止まったら、俺までヴァンパイアに襲われるのは確実だ。
本物のヴァンパイアっていうのも変だけど、物語のヴァンパイアに本気で追いかけられたら絶対に逃げられないだろう。
だからこそ逃げられるだけ逃げる!
ザッ!!
「グルォァァァァッァッ!!!!」
って、冗談だろ!? なんで前から狼男が来るんだよ!
お前は多分だけどヴァンパイアと関係ないだろうに!!
「グルァ!!」
ガァン!! ザーーッ!
「くっそ、どんなパワーしてやがる。
耐えられたけど、1メートルぐらい後ろに滑ったぞ。
漫画みたいな事が現実に起こるとか止めてくれよ、本当」
俺は盾を構えなが半身になって近づく。
向こうは明らかに二足歩行の狼だ。
しかもゲームのコボルトなんて目じゃないくらいに強いぞ。
このままだと後ろのヴァンパイアも来て殺されるかもしれない。
コイツを素早く倒すには……
「グォァァァァ!!」
そう叫びながら狼男が突っ込んできたので、SPを3ほど篭めて体当たり、つまりシールドバッシュを敢行した。
そしてそれは上手い具合に殴りにきた狼男とカチ合い、派手に吹き飛ばす事に成功。
俺は素早く近づくと、小角杖にSPを3込めて脳天に振り下ろす。
ゴシャッ!!
という音と共に、派手に頭が潰れて横に倒れる狼男。
上半身を起こしたタイミングで俺にカチ割られた為、そういう死に方になったようだ。
そして………
「ギャッ!? あ、ああ……あ………あー」
その声の方を向くと、後ろの方でヴァンパイアに噛み付かれているのが見えた。
ハッキリと見えた訳じゃないけど、かろうじてその輪郭は見える。
そして他にも2人倒れているのが見えた。
となると女性だけが居ない? もしかして外に転移した?
盗賊から血を吸っていたであろうヴァンパイアは、それが終わったのか放り捨て、そして俺の方を向いた。
間違いなく今度は俺を襲う気だろう。
そうなるとおそらく逃げられないだろうし、脱出するか勝つかしかない。
ヴァンパイアに対して盾を構えつつチラリとAR表示を見ると、SDが790増えていた。
狼男一体で790か……それだけ強かったに違いない。
俺は装備が良いから勝てたけど、普通ならあいつらと同じように殺されるしかなかったはず。
よくもまあ、こんな所に新人の俺が居るもんだ。
思わず笑ってしまった。
それでもヴァンパイアに対して盾を構えつつにじり寄ると、向こうはいきなり物凄い速さで突っ込んでくる。
俺は反応するのもやっとだったので、盾に5SPほどを篭めると全力で踏ん張った。
ドゴォン!!!
そんな音と共に派手に吹っ飛ばされる俺。
「ぐふっ!? ぐっ………!」
背中が地面に叩きつけられたが、なんとか決死の思いで起き上がる。
すると、ヴァンパイアも吹っ飛んでいたのか倒れていた。
しかし流石はヴァンパイア、何事も無かったかのように「むくり」と起き上がり、そして再びこっちに走ってくる。
尋常じゃない。
SPを5も篭めたのは初めてだが、それでも大した痛痒を与えられなかったっぽい。
残りのSPは18だ。
砂漠で回復なんて出来ないし、挙句にここまでは走ってきたんだ。
回復なんて出来ているはずもない。
俺は盾を前に出して敵の動きを見る。
それでも目が追い付かないが、肝心の激突の瞬間さえ分かればいい。
そう思っていると、なんとヴァンパイアが飛び上がり、俺の後方へと飛んでいく。
慌てて後ろを向いて盾を構えたが、その時にはもう攻撃の瞬間だった。
俺は盾にSPを適当に篭めて後ろへ飛ぶ。
ドゴォン!!
再び派手に吹っ飛ばされたが、元々飛ばされるつもりで後ろへ飛んだのだから、それだけ衝撃を逃がす事が出来た。
前よりもダメージ少なく起き上がると、再び倒れていたヴァンパイアは「むくり」と起き上がってくる。
傷を受けても問題ない体と、無限に動ける体力に訳の分からない筋力。
あますところなくヴァンパイアの強みを使って攻撃してくるので、本当に厄介極まりない。
なんとか打開策を見出さないと殺されるぞ。
せっかくここまで来たんだ、せめてヴァンパイアの一体ぐらいは倒して帰りたい。
そう思った俺は再び盾を構えてにじり寄る。
すると、再び猛烈な速度で走ってくるヴァンパイア。
俺はその段になって、ある事を思い出した。
そして………
ドガァァァン!!
派手に吹っ飛んでいくヴァンパイアと、その場に立ったままの俺。
完全に明暗が分かれたが、俺がやったのはSDを武具に篭めるという事だ。
それが出来るのを思い出した俺は、盾にSDを100篭めてシールドバッシュ。
その結果がヴァンパイアだけ吹っ飛ぶという現実となる。
俺は一気にヴァンパイアに近づくと、起き上がろうとしているヴァンパイアに対してSD100を込めた小角杖でブン殴る。
当然狙ったのは頭なのだが……
ドパァン!!
凄い音がしてヴァンパイアの頭が弾け飛ぶと、その一撃で首から下も地面に叩きつけられた。
その後は構えて待つものの、ヴァンパイアが復活してくる事はなく消えていく。
どうやら頭を吹き飛ばしたら勝利できるらしい。
「やれやれ………何とか勝ったか。
盗賊に追いかけられたら、ヴァンパイアと戦う羽目になるとは……人生って何が起こるか分からないな」
多分だけど、俺以外にこんな目に遭う人も居ないだろう。
とにかく疲れたので、少し休もうかな。




