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 Side:橘八重



 現代の追い剥ぎ、または盗賊とも言われる<追っかけ>を殺した俺は、一人ずつマスクを外して顔を映していく。

 こいつらはマスク、といっても普通に風邪などの時にするマスクだが、それをして顔を隠していた。

 なので映っても微妙に分かり難い姿になっていたんだ。


 その変装とも言えない変装を一人ずつ剥がし、素の顔を正確に記録させていく。

 全員の顔は見た事が無かったが、もしかしたら警察のデータベースにはあるかもしれない。

 そんな事を考えながら連中の持っている物を調べていくが、犯人の特定に繋がるような物は無かった。


 「俺でさえ財布とか持っているっていうのに、こいつら何にも持ってないな?

 お金だって裸で持ってるし、財布すら使ってない。

 だからカード類も持ってないし、徹底的に個人情報を隠してる。

 ここまで徹底してると怪し過ぎるんだけど……それも殺した後にしか分からないか」


 それにしても、思っていたよりダメージを受けてないな?

 俺、間違いなく人を殺したはずなのに、何も思うところが無いのはどうなんだ?


 「………変だな? 人を殺したにも関わらず、マジでなんにも無いぞ?

 もっと、こう……やっちまったとか、俺がこの手で殺してしまった。

 なんていう感じの葛藤があるんじゃないの? もしくは手足が震えて来るとかさ。

 漫画とかアニメでよく見るシーンだけど、俺なんにも無いぞ?」


 困った事に冷静になったと思う今でも無い。

 どうなってるんだ? 俺が元々冷血な人間とか、もしくは相手が犯罪者だから何も思わない………駄目だな。

 考えたって何も分からないし、そもそも俺も初めての経験だ。

 分からなくても仕方ないと思う。


 「他にも俺みたいに何も思わない人も居るかもしれないし、俺だけが特別変だという事も無いかもしれない。

 それよりも先に進んで1000SD手に入れたら、異界をさっさと出よう」


 まだ異界に入ってきて大した時間も経っていない。

 帰還する為のSDはあるんだけど、記録をとっているので多くのSDを持っている事は知られたくないんだよな。

 無駄な足掻きだとは思うけど一応。


 「しっかし………人間相手でも、魔力の多く篭もっている武器は効くんだな?

 1SPくらいしか込めてないのに<追っかけ>がブッ飛んでたし、あんな威力が出るとは思わなかった。

 しかも一撃で瀕死状態になるぐらいだし。

 となると……」


 もしかしたら、弱い相手だともっと適当に振ってもいいかもしれない。

 いや、適当という言い方はアレだけど、速さを重視して振った方が良いんじゃないかって事を考えたんだ。

 素早く返したりするアレね。


 物理的な力よりも魔力が優先されるなら、そもそも力を入れて武器を振るう意味が無い。

 もしくは薄いんじゃないかと思う。

 さっきの<追っかけ>だって、俺の力で小角杖を振っても普通はブッ飛んだりなんてしない。

 でも現実にはブッ飛んだ。


 この現実を考えると、大事なのは魔力と速さであって力じゃないという事になる。

 威力に関してを魔力が担当してるなら、物理的な筋力じゃ大して威力は上がらない。

 もしくは筋力以上に魔力での強化の方が大事。

 という図式になる。


 「講習では教えてくれなかったし、動画にもそんなのは出てなかったけど、それが一番事実に近いと思う。

 だからこそSD濃度が高い武器に、多くの異界探索者が殺到するわけだし」


 そう、SD濃度の高い武器に探索者が群がる理由もその辺りにありそうなんだよな。

 単にSD濃度が高い方が強いんじゃなく威力に直結してるなら、あんな高値で武器を買うのもよく分かるんだ。

 筋肉に価値が無いとは言わないけど、異界探索に必要なのは筋力じゃなくて体力の方だろう。


 そして軽くてリーチの長い武器と、盾を持って探索をする。

 それが一番効率良く、かつSDが手に入る道だと思う。

 それにSD濃度が高い武具を持ってると、早くモンスターが強い地形に行ける。

 そういう意味でもSD濃度が高い武具を持つべきだろう。


 「それじゃ、そろそろ行くかって思うも、地形をちゃんと見なくても草原だよなぁ。

 それもだだっ広いだけの草原」


 行くべき方向は分かってるからいいけど、こういう場所に物が落ちていても分かり難い。

 っていうか、分からないと言った方がいいだろう。

 たまたま偶然で見つけない限り、ここに何か落ちていても気づかないと思う。


 「草の高さは20センチぐらいだけど、こうも大量に茂ってたら落ちている物があっても気づかないだろ。

 人間の眼なんて良くないし、気づかないままに通り過ぎて終わりだろうな」


 そんな事を言いつつ、俺は薄い墨の流れの方向に歩いていく。

 すると早速モンスターが現れたが、それも草だった。

 しかも転がってくるヤツ。


 「これタンブルなんとかってヤツだ。西部劇なんかで転がってくる草の塊。

 何でも火を着けると火車みたいに燃えながら転がって行って、火事になったりするメチャクチャ危険な物だって聞いた事がある。

 あるけど……なんでコレがモンスターとして出て来んの?」


 俺はこっちに転がってくるタンブルなんとかに対し、小角杖にSP1を込めて殴りつける。

 その程度であっさりとブッ飛んだタンブルなんとかは、そのまま消えて行った。

 どうやらモンスターで間違いないらしい。


 「もしかしたら地形的な罠かな? と思ってたんだけど、やっぱりモンスターで間違いないらしいな。

 それにしてもタンブルなんとかがモンスターとか、一部の州のアメリカ人は激怒しそうな光景かも。

 特に毎年困ってる州の人なんかは怨みも凄いのかもしれない」


 日本にはあんな物が転がってくる場所が無いから何とも言えないが、アメリカは広いからなぁ。

 あんな訳の分からん物が転がってくる州があるんだもん、地球の神秘って感じがするわ。

 マジで。


 その後も俺は薄い墨の方へと進んで行くんだけど、その途中で流れが変な場所があった。

 一つは右斜め前へと流れており、もう一つは左下へと流れてる。


 ……っていうか、地面に対して流れてる?

 こんな薄い墨の動きは初めてだけど、もしかして……


 俺は地面に向いている薄い墨の流れに近づくと、そこの地面を見る。

 すると予想通りに落ちている物を発見した。


 「なんだコレ? っていうか釘バット?

 誰かが持ち込んだのかもしれないけど、こんなのヤンキーか極左暴力集団しか持ってないだろ」


 ARに表示されたけど、SD濃度1で異界浸食率1%らしい。

 俺は無言で釘バットを放り投げ、そのまま右斜め前に続く薄い墨の流れへと進む。

 誰かが死んだ時に異界に取り込まれたんだろうけど、どうでもいい棒レベルの代物だったな。


 あの当時は持っている物よりマシだったから拾ったけど、今はマジで荷物にしかならないから要らない。

 持って帰っても然したる値で売れる訳でもないし、おそらくは数千円から一万円が限度かな?

 その為に釘バットを持って帰るのかと考えたら、捨てる選択肢しか俺には無い。


 というか、俺みたいに良い武具を持っていなくても、新人以外は皆が捨てるだろう。

 バットって割と大きいし、釘が邪魔で仕方ない。

 そう考えたら無駄な荷物でしかないんだよ、本当。


 「おっと、色が変わっている場所を発見。

 次はどんな場所なのか分からないけど、ここからは気合を入れないとな。

 前回も二つ目の地形から他の探索者が出て来たし、ちょっと早すぎる気がする。

 おそらくは身に着けている物のSD濃度が高いからだろうけど」


 この情報は上げておいた方が良さ気なので、あえて記録に乗るように呟いておく。

 SD濃度が高ければ何でも良い訳じゃない。

 おそらくそういう方向に向いていくと思う。

 実際に経験も大して無いのに一気に進むって、相当に危険な事でもある。


 俺はそれだけ良い装備だから助かってるけど、一つか二つが良い装備なだけで飛ばされる場合、殺される確率が飛躍的に高くなるだけだ。

 なので危険な事もあるという情報は誰かの為になると思う。

 幸い、俺の動画って見てる人がそれなりに居るらしいし。


 その人達がきっと情報を拡散してくれるだろう。


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