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 Side:橘八重



 戦闘訓練を十分に行った後、戻ってきたエギルターサさんに言われて、グラドウェムさんは俺と七尾さんをタワーマンションに送ってくれた。

 俺達はタワーマンションの鍵を預かったが、それを持って食事を買いに行く。

 こっちは夕方だったので、もう夕食を買いに行かないといけない時間だ。


 タワーマンションをエレベーターで下りると、一階にコンビニがあった。

 どうやらタワーマンションの住人は、外に出ずとも色々買えるようになっているらしい。

 そういう意味でも便利な場所だと思う。

 わざわざ住民にだけ解放されている訳じゃないけど、直通で来れるのは凄く助かる。

 色々な意味で流石はタワーマンションだ。


 俺はいつも通り飲み物と弁当を買うと、七尾さんはサンドイッチなどを購入していた。

 その後はエレベーターで戻るんだけど、七尾さんがちょっと困ってる雰囲気を出している。

 いったいどうしたんだろう?


 「あー………服とかね、元の家に置いたままなのよ。

 明日取りに行かないといけないし、引っ越しと解約の手続きもしてこないといけないの。

 橘君は無料の所からの引っ越しだから、そこまで気にする必要は無いんだけどね。

 私は普通の転居だから」


 「なんだか大変なんですね。

 それはともかく、流石に俺も服を買いに行った方がいいかな?

 少ないながらもあった服も下着も無くなってるし、ついでにカメラもパソコンも無くなったんですよね。

 アレも弁償なんてしてもらえないし、200万ぐらいが一日で無くなりましたよ」


 「それもとんでもないと思うけどね。

 とりあえずは夕食を食べて、さっさと寝ようか。

 大きなあのソファー、ベッド代わりになるヤツだから」


 「そうだったんですね。

 実家にもソファーなんて無かったですし、あのオンボロアパートには当然置いてないですから知りませんでしたよ」


 「詳しくないならそんなものじゃないかな? っていうか実家にも無かったの?」


 「実家は祖父母の家ですし、あそこは古い木造家屋なんですよ。

 年季が相当に入ってるっていうか、外からの見た目は相当に古い古民家って感じです。

 補修して使い続けてますからね」


 「へー………そんな家に住んでたんだね」


 へーの後に微妙な空気があったな。

 おそらくニュースなどで流れてた家族構成を思い出してたんだろうな。

 俺の両親がデマ記者で悪魔の人達に殺された事なんかだろうけど、俺は本当に感謝していて、これっぽっちも悪魔の人達を怨んでない。


 俺を学校でイジメていた奴らは、それも気に食わなかったみたいだけどな。

 俺の両親の事でイジメていた癖に、両親の事で怒らない俺が気に入らないとか意味が分からないんだよ。

 何度思い出しても意味が分からない連中だと思う。

 ま、イジメられるなら何でもよかったんだろうけど。


 俺と七尾さんは買ってきた物を食べた後、ソファーをベッドに変形させる。

 その後は雑談をするんだけど、その際に気づいた。


 「そういえば七尾さんって、SCS専用機器やナノマシンを使えるようにしてもらわないといけないんじゃ……」


 「あっ! そうだ、忘れてた。

 SCCに行ってもう一度起動してもらわなきゃいけないし、再登録もしてこなきゃ。

 確か再登録はすぐに終わるはずだから、明日は引っ越しの手続きとかSCCに行く事になりそう」


 「俺はそろそろ一度異界に行ってきます。

 色々ありましたけど、精神自体は休めてる……と思いますから」


 「少しでも気がかりがあるなら休んだ方がいいよ。

 とはいえ本人が自覚しなきゃ意味は無いんだけどね。

 それも経験するしかないから難しいところかな。

 こういう類のは経験しないと身につかないから」


 「そうなんですね」


 そんな雑談をしつつ眠たくなったら横になり、俺はさっさと眠る事にした。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 次の日。

 朝からコンビニでパンと飲み物を買って戻り、飲み食いしたら出発。

 鍵を七尾さんに預けて、俺は新宿区歌舞伎町へ。


 そして鳥居の渦に入るんだが、周りから凄く見られてるな。

 どうもネットで騒ぎになったのが影響しているみたいだ。


 良い意味なのか悪い意味なのかは別にして、顔とか名前が売れるっていうのはこういう事なんだと思う。

 現に……


 「よう! お前話題になってたヤツだろ? オレ達と一緒に行こうぜ」


 「あー……すみませんけど、お断りします。

 流石に何をされるか分からないですし、前に嫌な事があったんで……」


 「それって中林の連中だろ? オレ達はあんな事しねーよ」


 「すみませんが、お断りさせていただきます」


 「いやいや、オレ達ってああいうクズじゃねえから」


 「すみませんが、お断りさせていただきます」


 「チッ! ノリの悪いヤツだぜ」


 そう言って俺を勧誘しようとしたヤツは離れていったが、正直に言ってウザ過ぎる。

 そもそも違うって言われてもな、俺からすればその言葉のどこに保証があるんだ? っていう話だ。

 身の危険があるなら回避するのが当たり前だろうにさ。


 それにあんなノリの軽い連中、怪しんでくれと言わんばかりじゃないか。

 残念ながら他人を勧誘する前に、自分達の信用されないチャラさをどうにかしろよ。

 あんなチャラそうなのを信用する方がどうかしてる。


 俺はそのまま列の最後尾で待ったが、他に声を掛けてくるのが居なくて安堵したよ。

 順番が回ってきたので5秒待ってから渦に入った俺は、すぐに歩き出して異界の方へと向かう。

 今日はビキニアーマーの人は居ないらしい。


 何を期待してるんだと思いつつも、俺は異界に近づいて………一旦離れた。

 何だか近くでこっちを見ている奴らが居たので、入るのを止めて人気の無い方へ歩いていく。


 ちょっと気になったからなんだけど、案の定そいつらは俺の行く方向へとついてくる。

 あれ間違いなく強盗の一種で<追っかけ>と呼ばれる連中だ。


 良い装備を持っている人をターゲットにし、追い越すような形で同時に進入を果たす。

 そして中に入ったらすぐに襲い掛かり、装備を奪って逃走。

 そういった事をする連中を<追っかけ>と呼んで犯罪者だとしてる。


 この犯罪が何故捕まらないかと言うと、入ってすぐだと記録が開始されないんだ。

 異界に入って10秒ほど経たないと記録は始まらない。

 そしてすぐに倒されると、地面しか見えなくて記録には犯人が映らないんだ。


 この追っかけをする奴らは、大抵が分からないように服を二重に着こんでいて、上はフードなどで隠している。

 そして奪った後は上の服を脱ぎ捨てて別人のように変わるわけだ。


 異界の中で捨てたゴミは勝手に消える、それを利用しての悪事をする連中。

 それが<追っかけ>と呼ばれる犯罪者集団になる。


 最初の10秒はこいつらの記録にも残らないので、誰がやったかは不明なままになる。

 すぐに抜け道を考え出すのは犯罪者あるあるだけど、よくもまあ仕様の穴を突こうとするもんだと思う。

 犯罪者ってそういうものだけどさ、それにしても強引過ぎる連中だ。


 しかしこのまま連中がついてくると、俺は異界に入れないんだが………どうしよう?


 そんな事を考えていたら、ちょうど先程のビキニアーマーの人を思い出した。

 流石に悪魔の人達が居る場所には近づかないだろう。

 そう思い、俺は風俗店がある方へと向かう。

 それでも連中は追いかけて来るが、流石に途中で離れて行った。


 「悪魔の人達にバレるとマズいって事なんだろうけど、なんであんな連中が野放しなんだ?

 悪魔の人達だって異界の前に来る事があるのにさ。

 それで捕まらないっておかしいだろ」


 俺は首を傾げてしまうも、連中を確認しつつ異界の入口へと進む。

 ある程度は迂回(うかい)しながら進んだので、おそらく連中は居ないだろう。

 それでも異界の入り口の前で周囲を確認すると、後ろから走ってくる奴らが居た。


 素早くそいつらの体当たりを大きく避けると、真ん中の奴がコケて異界の中に入って行ってしまった。


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