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Side:橘八重
「<魂璧破壊鎖>は魂を剥き出しにする為の鎖で、これで縛られると魂そのものに直接ダメージを受けるという大変危険な物です。
防御を失うので、最悪は一気に魂滅という事すらあり得ます。
そして<焦体虐熱環>は、嵌められると精神と肉体を炙られ続けるという幻覚を見せる物です」
「幻覚……」
まあ、幻ならそこまででもないのかな?
そう思っていると無慈悲な一言が追加された。
「幻といえど、それで精神が焼き切れると本当に死にますからね。
調子に乗って軽く見てると死ぬんですよ。
最初は幻覚だと見破っても、それを常に受け続ける訳でして………。
最後には精神が焼き切れて死ぬんですよねー」
「「………」」
本当に容赦がないなぁ。流石は悪魔だとしか言いようが無い。
他に表現する言葉も無いし、本当に悪魔だわ。
悪魔が悪魔すぎて何も言えなくなるけど、そもそも悪魔なので言っても仕方ないんだよ。
人間には悪魔らしさを見せてなかっただけだとも言えるのかな?
「さて、道具の話はともかくとして、戦闘訓練を始めましょうか。
ここに来た理由はそれですしね」
そう言って棒と盾を渡されたので、俺は前と同じように構えてにじり寄る。
そして突きを放つのだが、これはフェイントとして使う。
そして一度引き戻し、二度目を本命として放つんだけど……
カン!
「うぐっ………!」
またも後ろに倒れてや尻餅を突く形で負けた。
なんでフェイントだって分かったんだ?
少なくとも心は読まれていないはずなのに……
「何故フェイントがバレたんだ? っていう顔をしてますけど、体に力が入っていないんですよ。
だからフェイントだと簡単に分かる訳です。
本命の攻撃に力を篭めないなんてあり得ませんからね。
それも戦闘訓練を続けていけば分かるようになりますよ」
「それじゃあ、次は私ね」
俺は負けたので七尾さんと交代して後方に下がった。
とりあえず上手い人のを見て学ぼうと思い、ジッと見るんだけど………
カァン!
「あれ? ………えっ? 負け?」
「そうですよ。
それにしても元探索者とは思えない弱さですねー。
いや、探索者がそもそも強くない?」
「いや、何百年どころじゃなく千年以上生きる方達と比べれば弱いに決まってます。
人間の寿命は80年から100年ぐらいですよ?
その間に修行し続けたとしても、その高みには届かないでしょう」
「………あー、そんなに短かったんでしたっけ?
すっかり忘れてたけど、人間の寿命って短すぎないですかね?
流石に主様の夫となる方が、そんなに早く死ぬのはちょっとマズいんですけど……」
「どうも俺は進化するみたいですけどね?
異界の中で色が変わってる扉があり、そこに入ると変な光景を見たんですよ。
そ「橘君も?」の光景は……」
「あ、ごめん。話を遮っちゃって。
でも私もあったの、その色違いの扉。
実は進化した人達の全員が、その扉に出会ってるんだよね。
だから探索者の間では<進化の扉>って言われてるの。
あまり知られてないんだけど、知ってる人は知ってるって感じかな?」
「そうなんですか。
俺はその中というか見えた光景では、【精魂の雫】の更に先へと進化する、みたいな事を言われたんですよ」
「【精魂の雫】の先!? そんなものがあるなんて!!」
「【精魂の雫】って、多分だけどサキュバスの人達が欲しがってる精が多い人の事だよね? 橘君ってそうなの?」
「どうやらそうみたいなんです。
エルトアリアさんがサキュバスキラーと呼んでましたけど、サキュバス以外の悪魔にはそこまで効かないみたいです。
人間だと鈍感なのでサッパリ効かないって言ってましたし」
「そうですね。
サキュバスは男の精に対して敏感なんですよ。
それに【精魂の雫】は強すぎる魂の力が精に溶けだす者と言われています。
だから彼は精の力というより魂の力が強いんですよ」
「魂の力が……」
それエルトアリアさんにも言われたんだけど、サッパリ意味が解らなかったんだよなー。
そもそも魂っていうのが分からないから、その力が強いと言われても「ふーん」としか思えないんだよ。
だって分かんないし。
「魂の力が強いと言っても、今はそこまで活かす事は出来ないでしょうけどね。
人間の魂って、硬直してるというか固まってるのが多いんで、まずは魂を解すのが先になるでしょう。
一番良いのは魂を喜ばせる事なんですけど、言っても難しいかな?」
「魂が喜ぶっていうのが全く分かりません。
喜ぶっていう言葉の意味は分かりますけど、魂が喜ぶって言われても………」
「まあ、人間に把握するのは難しいでしょうね。
それはともかく、戦闘訓練をつづけましょうか。
そっちがメインですしね」
その後は会話を楽しむ余裕はなく、散々に打ち払われて叩かれた。
途中からは二対一で戦うものの、俺も七尾さんも手も足も出ない。
当たり前だけど、高位悪魔の人達が尋常じゃないっていうのがよく分かる。
こんな人達に対して傷を受ける事も無く、淡々と始末していったエルトアリアさんは想像もつかないな。
叩かれ武器を落としたり、手を打たれたかと思うと脛を蹴られたりする。
そんな戦闘訓練を休憩を入れながら行うんだけど、悪魔の人ってタフでもあるんだよ。
俺と七尾さんはダウンしてるのに、俺達を相手にしていたグラドウェムさんは呼吸一つ乱れてない。
「体力が無いのもありますけど、それ以上に無駄な動きが多すぎますね。
戦闘ではなるべく無駄な動きをしないようにするべきです。
一にも二にも体力であり、体力が無くなったら身動きが出来ません。
それは死を意味しますから、極力無駄な動きは無くす努力もしましょうか」
「仰る事は分かるんですけど、それって一朝一夕にはいかないのでは?」
七尾さんがそうグラドウェムさんに言うけど、俺も同じ意見だ。
もちろん意識してそうしていくのは大事なんだろうけど、そうそう簡単に出来るようになったら誰も苦労なんてしない。
そういう類の技術なんじゃないの?
「そうですね。
そもそもそれの最高峰に居るのがメイド長であり、<静止のエギルターサ>と呼ばれる方です。
あまりに無駄が無く、かつ自然に動くので捕らえるのが難しいんですよ。
ちなみに捕縛という意味では無く、認識に捕らえるという意味ですから間違えないでください」
「認識に捕らえる……」
「つまり自然に動きすぎて当たり前の景色のように錯覚するのですよ。
もちろん明るかったりしたら分かりますけどね。
ですが多少薄暗いとなれば話は別で、非常に認識し辛くなるんです。
目の前に見えているけど認識できない。
意識の中に捕らえる事が出来ないという事です」
「んー………。
もしかしたらだけど、視覚を含めたレーダーから消えるって感じなのかな?
だから目の前に居てもレーダーに感が無くて見失う。
そんな感じだと思えば分かりやすいのかも」
「あー、橘君の言う感じで正解なんじゃないかな? 多分だけどそんなイメージなんだと思う。
それでも見えてるはずなのに見えないって凄いよね。
自然に溶け込むって感じなのかな?」
「自然に溶け込むのを超えて、自然と一体化してる感じですね。
だから認識を誤るんですよ。
そしてそこを突いてくるのがメイド長という事です。
私はそんな変態的な動きなんて出来ませんので、最大パワーで破壊してきました」
変態的な動きって………本人が居たら絶対に怒られそうな事をサラッと言うなぁ。
居ないからだろうけど、どこから告げ口が行くか分からないのにね。
よくやるよ、とは思う。
さて、そろそろ体力も戻ってきたし、戦闘訓練の続きを始めようかな。
出来るだけ多くを学ばないと損だし、こんな豪華な講師なんて普通はあり得ないんだ。
より多くを学ばせてもらおう。
下手過ぎて浅い事しか分からないだろうけど。




