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 Side:七尾はる



 あの後で何故か私も悪魔の人達と同じタワーマンションに住む事になった。

 意味が分からないけど、橘君と共に異界に挑むならタワーマンションに住んだ方がいいとのこと。

 何故かと言うと、彼を追いかけて悪さをする者が出て来るのが理由。


 「そこまで彼を追いかけるような連中が居るんですか?」


 「居るというより出てくると言った方が正しかろう。

 人間の欲もまた尽きぬ以上、必ず愚か者は現れる。

 己の欲で彼を殺そうとした者が出た以上、今後もそれが無いとは誰も言えぬ」


 動画を見た多くの人が彼女を「魔王様」と言ってたけど、本当にそうだと思う。

 こっちの喋り方が本来のものらしいけど、凄い「魔王様」感が出ていて感動してる。

 本当にリアルでこんな喋り方をする人が居るとは思わなかった。


 漫画やアニメの魔王様は作られたものだって分かる。

 だって本物はオーラがこんなにも凄くて、圧倒されてしまうもの。


 「何に喜んでおるのかと呆れるばかりだが、それは横に置いておくか。

 先程も言っておいた通り、彼の巻き添えを喰う可能性がある。

 その事は頭の隅に入れておけ。

 つまり彼に言う事を聞かせる為に、お前を人質にとるなどという形だな」


 「そんな事が本当にあるんですか? と今までなら思ったと思います。

 ですが橘君がされた事を考えると、無いとは言えないというか、むしろあるでしょう。

 そう考えておいた方がいい、そういう事なんですよね?」


 「そうだ。今後なにも無いなどという事はありえん。

 この日本にもおかしな連中はいるし、おかしな組織を作っている愚か者どもがおる。

 で、ある以上は警戒しておかねばならん。

 それに……」


 「それに? ……なんでしょう?」


 「どうかは分からぬが、人間を代理にしての戦争も無いとは言えん。

 かつては我らも虚界で争っていたのだ、今は無いというか小康状態だがな。

 しかしだからこそ、人間を代理にした戦争を吹っ掛けて来る可能性はある」


 「被害も人間だけなら、そこまで私達も目くじらは立てませんからね。

 それに向こうも人間同士の争いという形にするでしょう。

 つまり悪魔が前面に出なければ、そこまで悪魔同士の争いにはならないという事です」


 「私達の虚界も危うい均衡の上で成り立っていた部分はありますからね。

 なのでその均衡のまま、地球の人間どもを使って争いを始める者は出るでしょう。

 我々としては頑張りなさいとしか言えませんね。

 守ってやる義理が無いので」


 「早急に法律とやらを変えないと、対抗できないかもしれませんね。

 それこれも貴方達がやる事ではありませんけど」


 「そうですね。

 そもそも日本は日本のままで居させてもらえてますし、日本という国の事は政治家がするべき事でしょう。

 多くの敵性工作員みたいな人達は殺されてますし」


 「まあ、昔に比べたら邪魔者は減っているから、政治家も活動しやすいとは言われてるけど……。

 でも野党のようなのも生き残ってるし、難しいところね」


 実際に結構な人数が悪魔の人達に殺されたけど、ああいうのは組織的にやっているから、新たな人員が選挙に出て来るだけなのよね。

 そして今までの人達のようにボロを出すような事はせず、分かり難く日本を攻撃してるって言われてる。


 実際に与党はアレだけど、野党はボロを出さずに上手く立ち回ってる。

 そうならないと悪魔の人達に殺されるからだろうけど、代わりに与党が隙だらけになってると嘆いている書き込みがあった。


 党内野党とも言われる与党内の反与党。

 こういう連中がワザと隙を晒しているのか、その所為で与党が批判される事が多くなってる。

 御蔭で野党の数が減って大した事が無い小粒なのに変わったっていうのに、与党の支持率が上がっていない。


 ま、政治の方は政治家に頑張ってもらうとして、私は昔使っていた装備を使って練習しないといけないわ。

 確実に動きが悪くなってるでしょうし、昔の動きに戻すのに時間が掛かりそう。


 「ならば、そなたも虚界の屋敷でメイド達に手ほどきをしてもらえ。

 我は家畜牧場を見に行ったりと色々せねばならんのでな。

 エギルターサかグラドウェムが教えても構わんぞ」


 「はいはーい! なら私が教えまーす!

 だって家畜牧場へ行っても、まだ始まってなくて暇ですし」


 「何もしないから暇なのですよ。

 ま、居たとしても貴女に出来る事は無いでしょうけどね」


 「そうそう。

 だから戦闘訓練の相手をしてた方がマシですしね。

 それじゃ、行きましょう。ルヲンヌ」


 突然目の前が別の風景に切り替わり、私は後ろに倒れてしまいました。

 今までソファーに座っていたのに、急に無くなったのだから当然ですけどね。

 そういう配慮は一切ありませんでした。


 「ま、アレです。<習うよりも慣れろ>というヤツですよ。

 転移ってそういうものだと分かったでしょう?

 じゃあ早速練習を始めましょうか」


 そういってグラドウェムさんは小屋に入っていきましたが、橘君は特に気にしていませんね?

 何故でしょう?


 「ああ。

 俺、実は少し前にアロハヌス家のメイドさんに戦闘訓練を受けたんですよ。

 手も足も出なかっただけで終わりましたけど。

 なのでグラドウェムさんが棒と盾を取りに行ったっていうのを知ってるだけです」


 「あの小屋の中に棒と盾があるんですか?

 ………大きなお屋敷の裏庭みたいですけど、こんな所に?」


 「ここはアロハヌス家でも鍛錬をする場所としてよく使われるんですよ。

 外の者達に見られるわけにもいきませんし、メイドの実力を表に出す訳にもいきませんからねえ」


 「もし弱いと知られたら攻めて来る、とかですか?」


 「逆です、逆。

 強いとバレると攻めてきませんからね。ですから強さを隠す必要があったんですよ。

 今は主様が顔を出されるようになったので意味はありませんけど、かつては顔を知られていませんでしたからね。

 最高位悪魔である主様が屋敷に居ないと思わせていたのですよ」


 「………何の為にでしょう?」


 「もちろん愚か者を捕まえて、色々とする為ですよ。

 <高次圧縮精神触媒>にしたり<邪魂縛鎖結晶>にしたり、<肉魂単一環>の材料にしたりですね。

 それ以外にも<魂璧破壊鎖>や<焦体虐熱環>の材料にする事もありますよ」


 「色々な物の名前が出てきましたけど、どれもこれも語感からして嫌な予感しかしないんですけど」


 橘君が言いましたけど、私も同じ気持ちです。

 ハッキリ言って嫌な予感しかしません。


 「その感覚は大事ですから覚えておいた方がいいですよ。

 それはともかくとして<邪魂縛鎖結晶>とは、魂を責め続ける結晶体に閉じ込めてしまう物ですね。

 もう少し正確に言うと、体の表面部分を結晶化する事で、内部に精神と魂を閉じ込めてしまうのです。

 その状態であらゆる苦痛と絶望を与えられ続ける。

 そういう置物を<邪魂縛鎖結晶>と言います」


 「碌なもんじゃなかった………」


 本当に同意します。

 というか、体の表面を結晶にされて生き続けるという事でしょう? 完全な生き地獄でしかありませんね。

 流石は悪魔の方々、容赦がない。


 「<肉魂単一環>は簡単で、首に嵌めると肉体と魂を縛り上げるという物です。

 まあ、日本人が作る物語によく出て来る<奴隷の首輪>。

 まさにアレですね」


 「「OH………」」


 私と橘君の声が重なりましたが、まさかあんな物が本当に実在するとは……


 「ちなみに家畜牧場の家畜にも使われる予定ですから、絶対に家畜は逃げる事が出来ません。

 もし逃げられたとしたら、同胞が逃がしたしかないんですね。

 まあ、そんな事をするヤツは滅多に居ないでしょうが」


 それはそうでしょう。

 女王様も魔王様も関わっているなら、敵に回す相手が強大すぎます。

 絶対に勝てないどころか、どう足掻いても殺される未来しかありませんしね。

 余程の愚か者しかしないでしょう、そんな事は。


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