0068
Side:橘八重
実家を後にした俺とエルトアリアさん達は、次に文京区の警察へと行く。
理由は俺の装備を返してもらう為だ。
そもそもだけど、俺の装備を瓦礫の下から集めたのは構わない。
むしろ俺としては助かるぐらいだ。
しかし何故それを奪おうとしたんだろうな? そこが分からない。
「単に売って儲けようとしただけですよ。
その程度の頭しかない俗物だから、簡単に証拠も集まりましたしね。
私達に証拠など必要ないのですが、人間には必要なようですから集めたのです。
驚くほど簡単ですし、なによりネットワークに証拠を残してはね」
「電子空間という場所には証拠が残るのですよ。
どれだけ頑張っても消し去る事は出来ないのです。
その為に構築してありますし、アレは地球を監視する為の物ですからね。
だからこそ一度書き込んだ言葉は消せないのです。
消したと思っていても、それは表示されなくなったに過ぎません」
「その辺りを理解していない、隙のある連中は多いですからね。
それにアレって便利ですから、監視されていると分かっても使い続けるでしょう。
怠惰は簡単に拭い去れないから大罪なのですしね」
ごもっとも、と言うしかないなと思っていると、俺が連れて行かれた文京区の警察署に来ていた。
中に入って話をし、俺の装備を返してほしい事を言うと、すぐに手続きが始まった。
それは良いんだが………
「小角杖にローブ、そしてスパイクシールドにどうでもいい棒。
それはともかく軍手とマスクが無いんですけど?」
「軍手とマスク……ですか?
その……普通の物の事を言われても困ります」
「違います。
軍手は片手しかないんですけど、異界浸食率19%の物で、マスクは<オペラ座の怪人>が着けているようなマスクです。
こっちは異界浸食率が44%もあるんですよ。
何故か異界浸食率が高い装備だけ無くなってるんです」
「え!? そんな物がですか?
…………やはり回収した物の中に軍手とマスクはありませんね。
もしかしたら回収当初から誰かが盗んだのか、それとも回収されていないのかもしれません。
あの事故で壊れたとか、または唯の軍手として捨てられたのかも……」
「軍手はともかくマスクを捨てるかな?
しかも異界浸食率が高いから、車でも壊せないと思うんだけど……」
「その軍手やマスクにSDを通した事は?」
「何度もありますけど………何かあるんですか?」
「SDは魔力に似た物とはいえ、一度取り込めばその者の色が付くのですよ。
そしてその色は一人一人違うのです。
つまり貴方の色を見分けるのは、私にとってそこまで難しいこ……見つけました」
「………確かにありますね。こんなに近くにあるとは驚きです。
さっさと行って取り戻しましょう。
軍手とかいう物はともかく、そのマスクは重要そうですし」
「異界浸食率44%というのは、思っている以上に高いですからね。
マスクですからおかしな事には使えないと思いますが、用心しておくに越した事はありません」
「では近くに飛びますから、装備を身につけておいて下さい」
エルトアリアさんにそう言われ、急いで装備を身につける俺。
終わったらエルトアリアさんに両肩を掴まれたが、何故かほとんど毎回こうしてから転移となる。
何故だろう?
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Side:七尾はる
「それにしても困ったな。
私はあんな事があったから、まだ体の中にナノマシンや機器が入ったままなのよね。
もちろんネットに繋いだりは出来なくなってるんだけど、でもSD濃度などは分かるままなのよ。
で、コレは……」
私の目の前には軍手とマスクがある。
マスクは変な形状の仮装パーティーで着けそうなマスクで、軍手は唯の軍手。
しかも片方しかない。
両方あったのかもしれないけど、瓦礫の中からも見つからなかった。
現場にあった証拠みたいな物は警察が持って行ったんだけど、これは瓦礫の間に挟まっていて見つけられなかったみたい。
橘君に返さなければいけないんだけど、彼がどこに行ったか分からないから渡す事も出来ないまま。
御蔭でこんな葛藤がずっと続いてる。
どこかで会えると返せるんだけど、今のところは彼に会う手段が無い。
挙句の果てには何故か管理人を解雇されちゃったしなあ………
でもさ、そもそも私の所為じゃないし、ヤクザが車で突っ込んだのを管理不行き届きと言われても困る。
正直に言ってメチャクチャでしかない。
まさにお役所仕事というか、どこかに責任を被せて逃げようっていうのが丸わかり。
こうな「ピンポーン」ったら、って誰か来た?
「はーい!」
私の家に来るなんて誰もいないはずなんだけど………って、橘君と悪魔の人?
なんでここに来たのかしら?
ガチャッ
「橘君、久しぶりね。
なぜ私の住んでるマンションを知ってるのかは別にして、何かあったの?」
「七尾さんの部屋だったんですか。お久しぶりです。
それでですね、俺の軍手とマスク……ありますよね?」
「ええ、あるわよ。
瓦礫の隙間から見つかったんだけど、どうしていいか分からなかったし、異界浸食率が高くて誰かに拾われるとマズかったから持って帰ってきたの。
とりあえず上がって」
「ええと、失礼します」
お客さんとして来たわけじゃないけれど、私も暇だったしちょうど良かったかな。
それに………
「ふむ。
彼と一緒に異界探索がしたい、ですか……」
「!?」
なんでそのこ……そうだった。この方達が悪魔なのを忘れてた。
そりゃ心の中なんて簡単にバレるわよね。
だったら遠慮する必要なんて無いかな。
ハッキリ言っちゃった方がいいと思うし。
「実はあのアパートの管理人を辞める事になったの。それも一方的に。
理由は管理不行き届きで管理人失格って事だったんだけど、ヤクザが車で突っ込んできたのを私の所為にされても困るのよ。
あそこは探索者に貸し出すから区の管轄なんだけど、お役所仕事そのものだと思わない?」
「お役所仕事………つまり誰か適当なのに罪をおっ被せて、自分達は逃げようって事ですか?」
「そう! だってヤクザが車で突っ込んでくるのを、どう管理しろっていうの?
そんなの無理に決まってるじゃない」
「それはそうですね。
そもそも管理するなんて不可能ですし、ヤクザが悪いで終わる話でしかありません。
なぜ犯罪者じゃなくて七尾さんが悪い事になるんでしょう?」
「そうなの! 納得がいかないし、ムカついて仕方がないのよ!」
「まあ、それなら探索者をすればいいのでは?
かつて漏らして恥を掻いたようですから、しっかりと確認してから行けばいいでしょう。
とはいえ異界なんて勝手に綺麗になるでしょうから、しても問題は無いと思いますけどね」
流石は悪魔。トラウマを容赦なくズバズバ抉ってくる。
とはいえ笑い話程度には出来るようになったし、そこまで昔のようにダメージを受ける訳じゃない。
なので問題は無くなってるかな?
「宜しいのですか? この女………」
「彼に多少の好意を持っているようですね。
これはこれで面白いですけど、いいんですか?」
「構わん。
この女がそうなれば、彼の積極性も上がるかもしれん。
私だけでは無理そうだからな、方針転換だ」
「淫気でさえ狂わない理性ですから、仕方がないのかもしれませんね。
まずは積極的になってもらうのが先ですし、そうなってもらわないと器が満たせません。
そこまでいかないと困る訳で、だったら必要な事なのでしょう。
私達にもチャンスがありますかね?」
「さてな。それは分からん」
いんきで狂わない理性ってなに?
いえ、そもそもいんきって何かしら………?
そういえば橘君ってサキュバスの人達と居るのに普通な感じなのよね。
これってつまり、サキュバスの人達の影響を受けないって事なのかな?
だとしたら凄い事のような気がする。
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