0067
Side:橘八重
「そうですね。
両者ともに貴方を殺そうとしましたが、それぞれの動機は別です。
まず最初に警察に通報した時の事ですが、これは警察内部の正義警察の者達が止めて無かった事にしています。
つまり貴方の通報を握り潰したという事ですね」
「碌な事をせんな。
通報を勝手に握り潰されるのでは、警察組織そのものを信用できんぞ」
「次に彼の家を勝手に訪ねて来てビデオカメラで撮影しようとした者ですが、これは単なる小物でした。
動画配信で有名になれば儲かると思って、彼の悪評を作り出して叩こうとしていた者達ですね。
既に下の者どもが虚界に連れて行ったので、今では搾り取られているでしょう。
拷問も加えながら」
「………」
祖母ちゃんが固まったけど、悪魔の人達ってこんなもんだよ。
というか、そこまでされないからバカな事をするんだ。
だからこそ罰は徹底的に厳しくするべきだろう。
だってそれよりも遥かに多くの、罪を犯していない人達が居るんだしね。
その人達の為にも厳しくするべきなんだよ。
犯罪者に手加減するって事は、巡り巡って犯罪をやっても大した事が無い世の中にするって事だ。
それって真面目に生きる人が損をする世の中って事なんだけど、犯罪者に温情をとか言ってる奴らは本当に理解してるのかね?
俺は理解できない。
「その後に来たテレビ局の者は、単純に彼を叩いて視聴率という数字を稼ごうとしたわけです。
そして彼が自分の思い通りに動かない事で、ヤクザに依頼して彼を殺そうとした。
本当に理由はそれだけであったので、私も驚きましたよ。
あまりにも愚かすぎて」
「自分の思い通りにならぬから殺すなど、そやつは独裁者か何かか?
頭が狂い過ぎていて理解できん」
「本当に……。
誰にどうやって育てられたら、そんな者になるのやら?」
祖父さんも祖母ちゃんも理解できないって事で、怒りよりも困惑してる感じだなぁ。
でも、世の中には頭のおかしいヤツなんて他にも居るんだ。
<正義警察>とか<人間解放同盟>とかさ。
それに<悪魔崇拝者>の奴らもそうだし<魔法真理教>の連中も同じ。
トチ狂った奴らなんて世の中に幾らでも居るよ。
その中でも極めつけは<共産主義者>だけどね。
連中はまだ生きて暴力革命とか言ってるんだから、アレって間違いなくカルト宗教だと思う。
悪魔の人達に潰されても、しつこく草の根運動とかしてるんだから、完全にカルト宗教の狂信者にしか見えない。
「そしてヤクザが突っ込んだ後、彼の住んでいた家畜小屋が壊れ、そこにあった物を警察が押収。
それを確認した所長の息子が<人間解放同盟>の者に指示。
彼を犯人に仕立て上げ、彼の装備一式を奪おうとしたという事です。
その際に自白の強要をしようとしたものの、彼に見破られて発砲。
殺そうとした」
「八重が生きておるから呆れるだけで済んでおるが、これで死しておったら怒り狂っておるところじゃ」
「本当に!」
祖父さんと祖母ちゃんが怒ってるけど、それでも何かが出来るわけじゃない。
そこが人間の限界なんだろうなとも思う。
実際に一人や二人に大した力なんて無いんだ、それが正しい現実ってものだからね。
「心配は要りません。
彼が本当に死んでいたら、今頃は私が日本人を皆殺しにしています。
生かす価値がありませんからね」
「「………」」
うん、まあ、目の前に居るヒトって最高位悪魔だからね。
そのうえ、その中でも最強ときてる。
だから、どう足掻いても殺される未来しかないんだよなぁ。
そもそも逃げる事すら無理だと思うんだよ。
だってエルトアリアさんが本気で暴れ始めたら、多分だけど他の悪魔も味方するだろうからね。
島国である日本だと、本気で逃げ場が無いとしか思えない。
船で出た所で沈められるだけだろうし、仮に他の国についても、その国が日本の悪魔に通報して終わりだと思う。
だって匿うメリットが無いし。
既存の国同士の関係であれば、メリットとデメリットがあったんだろうけど、今や地球は悪魔の人達に支配されてる。
なので他国の者なんて百害あって一利なしなんだよ。
幾ら助けても、そいつに権力なんて無いからさ。
悪魔の人達が罷免してしまえば、そいつは一気に何の権力も無い一般人にしかならないんだ。
最上級の一番上に悪魔が存在する以上、それより下の人間にはそこまで価値は無い。
なので悪魔の人達を受け入れるならまだしも、他国の人間を受け入れるメリットが存在しない。
「とりあえず今は警視庁とやらが動いていますので、様子見というところです。
これで納得いく結果が出なければ、出るまで順番に虚界に連れて行く。
という事になりますね」
「順番に連れて行く……ですかな?」
「ええ。
既に虚界の我が国では、家畜牧場の建設が始まっています。
生かす価値も無い者は家畜牧場に収容し、未来永劫、死ぬまで搾り取る家畜として生きる事になりますね。
優しくしてやったら、つけ上がったのです。
ならば優しくしてやる必要など無いでしょう?」
「………そうですな。
選別の時が終わったと考えれば、当然の結果かと。
どのみち必ずや甘ったれは出て来ておったでしょうから、悪魔の方々からすれば予定通りでもありますか」
「女王はその予定だったようですね。
私は最高位悪魔ですが、そもそも政治に興味は無いので関わって来なかったのですよ。
その所為で知りませんでしたが……」
「主様が政治に嘴を突っ込むと、碌な事になりませんからね。
女王派と主様派で揉める事になるのは目に見えています。
そしてそんな面倒な事をする主様ではありません」
「面倒事、大嫌いですもんねー。
私も面倒なんて嫌いなので関わりたくないですし」
「当然です。
そもそもあの女王が真面目に女王をしている時点で驚きなくらいですよ?
あの女王も私と同じくらい面倒事は嫌いなはずですから」
「先代様から譲られたのですから、どうにもならなかったのでは?
そもそも女王の【共魂の契約印】の相手こそが、我が国の先王ですからね。
女王に搾り取られ過ぎて亡くなりましたが」
「あれは先王が悪いでしょう。
当時の先王は100以上のサキュバスとヤってましたからね。
それ自体は色欲の悪魔として何の問題もありませんでしたが、女王の相手をしていなかったんです。
それは搾られても文句は言えません」
「あの女王も手加減無しに搾ったようですからね。
結果的に搾り殺される事になった、と」
「まあ、先王は高位悪魔ではありましたが、今の女王ほどの力はありませんでした。
精々が高位悪魔の下の方でしかない以上、高位悪魔の最高位を相手にすれば……」
「存在ごと搾り殺されるのは仕方ないでしょうね。
女王もそこまで心に傷を負ったわけではないみたいですし、となると心が離れていたのは分かったんだと思います」
「おっと。
話が逸れましたが、人間に愚かな者が多いので私が預からせていただきます。
つきましては、この書類にサインを」
そういえば何故かアタッシェケースを持っていたから不思議に思ってたんだけど、書類を中に入れてたのか。
俺が未成年だから保護者の許可が必要だし、その為の書類なんだろう。
成人してたら、こんな煩わしい事も無いんだろうけど、今はまだ無理だな。
諦めるしかない。
祖父さんと祖母ちゃんが書いて、ハンコを押して完成。
その書類があれば問題ないんだろうけど、今度はタワーマンションかぁ……。
最上階までエレベーターで昇るの大変そうだけど、慣れるしかないかな?
階段は………足腰は鍛えられるだろうけど大変そうだし、毎日は流石に勘弁してもらいたい。
なのでエレベーターに慣れるしかないな。
普段の生活にエレベーターが追加されるって、ちょっと不思議な気分だ。




