0064
Side:橘八重
何故か起こされたが、どうやら無理矢理に寝かされたらしく、その間に搾られたそうだ。
ただ女王様は猛烈に不満だったらしく、次は起きている間にすると言っていた。
いや、勝手にそんな事を言われても困ると思ったんだけど、エルトアリアさんとの話し合いで、今のところは寝ている間しか駄目だと決まっているらしい。
つまりは当分の間、俺には手を出さないという事らしいのだ。
俺にとっては助かる事でしかないので、曖昧に濁して話を終わらせた。
更に突っ込まれても困るしね。
俺はこの後どうしようかと思ったが、そうして困っていると部屋にメイドの人達が来た。
何かと思ったらベッドメイクが必要なので来たとのこと。
俺は邪魔なので部屋から出ようとすると、メイドさんの一人が俺についてくるように言った。
なので素直について行くと、そこは屋敷の裏庭だった。
なんでこんな所にと思ったら、近くにある小屋のドアを開けて中に入ったメイドさん。
しばらく見ていると中から出てきたが、その手には木の棒と木の盾があった。
………なんだか嫌な予感がするぞ?
「何か勘違いしているみたいですけど、貴方にするのは戦闘訓練ですよ?
エルトアリア様より、戻ってこなかったら訓練をさせておいてくれと頼まれていますので」
「は、はぁ………いいんですか? お仕事があると思うんですけど」
「他の仕事をしなくていいのですから気楽なものです。
それに私は勝ちぬいてこの役を得たので、問題はありませんよ」
そう言いつつ渡されたので、俺は右手に木の棒と左手に盾を持つ。
木の棒は1メートル50センチぐらいだろうか? 木の盾は直径60センチぐらいの丸い盾だ。
もちろん内側に反ってなどいない、丸い板のような形状をしてる。
俺は左手で盾の裏の取っ手を握り、木の棒の下から三分の一ぐらいを持って構える。
幾ら木の棒と言っても、1メートル50センチの物をブンブン振り回すのは無理だ。
ある程度は短く持って構えるしかない。
一番下を持って振り回すなんて不可能だしね。
盾を前面に押し出す半身の構えでメイドさんに近寄ると、俺は右手の棒を突き出す。
始めの声は掛かってないけど、既に目の前のメイドさんの雰囲気が違うんだよ。
あからさまに戦闘態勢というか戦闘気配って感じなんだ。
これで始まってる事が分からないほど、俺もマヌケじゃない。
「ふっ!」
「はい」
カァン!
俺が突き出した木の棒は、同じく突き出された盾で弾かれた。
というか、押された形で俺は後ろに倒れ尻餅を突く。
そしてその瞬間には首元に棒を突きつけられていた。
「まいりました。
……というか、何となく何をやられたかは分かるんですけど、あんな事が出来るんですか?」
「大して難しい事ではありませんよ。
ああいうのも練習すれば出来ますし、元々選択肢は少ないんです」
「選択肢が少ない?」
「盾を前面に出して半身になっているのです。
しかも人間には長くて扱いにくい。
となれば袈裟か水平か突きか、このどれかしかありません。
そのうち袈裟と水平は長さ的に、振った後の体が泳ぐ可能性がある。
という事は?」
「突きの可能性が一番高いという事ですか……。
でもそれに合わせてというのは簡単ではないような?」
「そうですね。
ですが出来るだけ垂直になるようにやればいいだけです。
つまり相手の棒の先に対して、垂直に盾を当てて押す。
そうする事により、相手は押されて倒れるしかなくなる。
唯でさえ突きの最中なのでバランスは崩れてますからね。
簡単なものですよ」
「何度考えても、棒先に垂直に盾を当てるのは簡単ではないでしょう。
もしかしてそれの練習ですか?」
「そうですよ。
そもそも生き残る為には防御の練習を主体にしなければいけません。
アロハヌス家でまず最初に習うのは防御術です。
生き残らなければ、お役に立てませんからね」
「そ、そうですか………。宜しくお願いします」
「はい。では続けましょうか」
その言葉と共に俺は盾の扱いや防御の仕方を習う。
とはいえ相手は流石悪魔と言うしかなく、人間如きじゃ相手にもならない。
こっちも防御をしているはずなのに崩されるんだ。
盾に引っ掛けるような形で崩されたり、目線を塞ぐような盾の使い方をされたりと、知らない技術が大量に使われる。
そうした一つ一つの技術に翻弄されていると、エルトアリアさんが戻ってきた。
どうやら何かが終わったようだ。
「ふむ、戦闘訓練をしていたか。
とはいえ………重心が安定しておらんな。
戦いも無いあの星では仕方がないのかもしれぬが、虚界にて戦闘訓練を続けた方が良い。
幾ら何でも基礎すら出来ておらぬとは……」
「エルトアリアさん、お帰りなさい。
とはいえ随分と話し方が変わりましたね?」
というか雰囲気も変わってる?
アレだ、好きな連中だと魔王様とか言い出しそうな雰囲気と喋り方だな。
元々そうなのか、戦いの時には性格が変わるタイプなのかな?
「戦いの時に性格が変わったりなどはせん。
元々私はこういう話し方なのだ。
そなたに見せていたのは、あくまでもメイドの時の我という事になる。
ところで女王は来たか?」
「来ました。
そして契約の使い方も教えてもらいましたよ。
何でもエルトアリアさんの事を考えろとの事です」
「う、うむ………そうか」
何か急に下を向いたけど、これってもしかしなくても照れてる?
何というか、思っている以上に可愛い人な気がするのは気のせいじゃないな。
前もそんな反応があったし。
「わ、我の事はどうでもいい! それよりも女王から何かされなかったか?」
「「………(ニヤニヤ)」」
あの人達は放っておこう。見ない方がいい気もするし。
「女王様は教えてくれた後に俺を眠らせて………だそうです。
なんか物凄く不満だから、次は起きてないとしないと言っていました。
俺としては助かるんですが、そんなに不満なんですかね?」
「あー、うむ。やはりあの色欲の権化でも不満であったか。
前にも説明したが、我ら色欲の悪魔は精の器が最も大きいのだ。
精神と魂の器は普通ぐらいであろうが、精の器が突出して大きいと考えれば分かりやすい。
我はその中でも、普通の者達の10倍以上の大きさがある。
これは生まれた時からだ」
そうエルトアリアさんが言うと、シニョン? とかいう髪型のメイドさんが前に一歩出て話し始めた。
さっき「ニヤニヤ」していた内の片方の悪魔の人だ。
「訂正を。主様の精の器の大きさは、色欲の高位悪魔の平均の10倍以上です。
つまり木っ端の者どもから比べたら、プールとコップぐらいの差があります。
それもオリンピックのプールでしたか? あれと普通のコップを比べれば分かります」
「いやいや、その器を満たすのは無理でしょう? どう考えても」
「だから我が子を成すのは不可能だったのだ。
万年に一柱、もしかしたら満たせるインキュバスが生まれるかもしれぬ。
それぐらいの可能性でしかなかった」
「ところが地球に伝説の存在が居たという事で、問題はあっさりと解決した訳ですが……」
そこで一旦言葉を区切ったシニョンメイドさん。
すると、斜め後ろに控えていたウルフカットのメイドさんが前に一歩出て話し始める。
「今度は【精魂の雫】の所持者が、異常なほど強固な理性を持っているという事が判明したんですねー。
これはちょっと驚きなんですけども」
「主様が何度か淫気を放っているにも関わらず、碌に効いていないと聞きます。
流石に最高位の色欲の悪魔であり、虚界十三傑の中でも最強と言われる主様の淫気が効かないのも不自然。
もちろん伝説の存在がそうだと言われれば、返す言葉が無いのですが……」
虚界十三傑の中で最強!?
「驚くのは、そっちか……」




