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 Side:橘八重



 「………またこの天蓋か」


 どうやら俺はエルトアリアさんのベッドに寝ているらしい。

 いったい何があったのか思い出せないが、ここに連れて来られて寝かされたのが事実だ。


 とりあえず体を起こしてみるものの、特に異常は見当たらない。

 なにかあったとはいえ、今までもそうだが体に後遺症が残った事は一度も無いんだ。

 今回も魔法で治してもらえたんだろう。


 それはともかくとして、ここに居る以上は地球に戻るのは無理だな。

 エルトアリアさんか屋敷の方に【転移魔法】を使ってもらうしかない。

 そもそも俺は虚界のどこにアロハヌス家の屋敷があるかもしらないしさ。


 起き上がって適当に物事を考えていると、外が何やら騒がしくなった。

 気になった俺はドアに近づいてみるも、突然ドアが開いて女性が入って来たので驚く。

 なんか凄い見た目の人だな? 初めて見た感じはしないけど……


 「あら、ちょうど起きてたみたいね?

 私の名はアルヴェーダ・リュグ・ウェルトハーン・クォルヌス。

 色欲の国の女王をしているわ」


 「あ、はい。俺は橘八重と言います」


 なんでいきなり目の前に色欲の国の女王が来るんだ?

 エルトアリアさんに用があったんだろうか……って、ちょっと待て。

 このヒト<搾精のアルヴェーダ>と呼ばれる虚界十三傑の一柱じゃん。

 シャレになってない!!


 「あのー……エルトアリアさんはおられませんよ?

 俺もどこに居るのかは分かりませんので、お役に立てないと思います」


 「あら? 何か勘違いしているみたいね。

 そもそも私が来たのは貴方が理由よ?

 【精魂の雫】である貴方がね」


 「………俺に何か用でしょうか」


 「なんで固まるのか知らないけれど、獲って食おうという訳じゃないわ。

 いえ食べるんだけれど、それはエルと話がついているからよ。

 とにかくそこのベッドに座りなさい。

 私が来た理由を教えてあげるから」


 「分かりました」


 まあ、とって食うという訳じゃないのなら、大人しく言う事を聞くのが一番いい。

 俺だって流石に搾り殺されたくはないし、そんな死に方はゴメンだ。


 とはいえ、襲われないなら素直に言う事を聞いておかないと危険でもある。

 相手は最高位悪魔、流石に逃げる事すら出来ない相手じゃね。

 どうにもならない。


 俺がベッドに座ると、女王様はベッドの側の椅子に腰かけた。

 なので俺は話が始まるまで待つ。


 「さて、まずは何から話しましょうかね?

 まず第一に、エルとの間で取引が済んでいるわ。

 それは貴方の精を頂く代わりに、【共魂の契約印】に関して教えるというものよ。

 契約印についての最低限の知識はあると思うんだけど……」


 「はい、一応講習で習いました。

 相手との間にパスを通して縛る物だと。

 ですが代わりに契約した相手から力を貸してもらえる物でもあると聞いています」


 「物凄く適当な説明ねえ。

 まあ、大筋で間違ってはいないんだけど、適当過ぎるでしょうよ。

 とはいえ人間には使えないし、ならその程度で問題はないのかしらね?

 それはともかく、契約とはお互いに繋がるというものよ。

 それを強固にした物が契約印」


 「お互いに繋がる……?」


 「貴方たち人間も同じでしょう?

 契約を結ぶ事で他人と契約を介して繋がるじゃない。

 契約内容を遵守する事、って感じでね」


 「まあ、確かにそうですね」


 「貴方がエルと結んだ契約は【共魂の契約印】。

 これは魂同士が密接に結びつくという、契約の中でも最も古い物の一つなのよ。

 その契約の拘束力は極めて強く、お互いの隠し事は不可能なほどなの。

 片方が人間だから使い方を分かってなくて力が発揮できていない。

 それを解消する為に私が来たというわけね」


 「はあ………力が発揮できない、ですか?」


 「そうよ。

 片方が魂の結びつきで力を使っても、それは大して意味が無いの。

 何故ならもう片方が契約の力を使えなければ、“お互いに”繋がっているとは言えないのよ。

 つまり一方通行にしかなっていないわけ。

 これでは契約の本当の力を発揮できない」


 「一方通行……」


 「この契約は“お互いに結びつこう”として、初めて意味のある契約なの。

 それをあのバカは、貴方の監視がしやすいという理由で結んだのよ。

 呆れるほどに色欲の悪魔失格としか言えないわ」


 「え? 失格ですか?」


 「ええ。

 何故なら【共魂の契約印】とは、お互いの全てをさらけ出す契約だもの。

 魂というものを結びつける以上、自分というものを偽れないの。

 つまり絶対に嘘を吐かないという契約なのよ。

 別名【愛欲の契約】とも呼ばれる、色欲の悪魔にとって大きな意味のある契約。

 それを知らずに結ぶんだから、本当に呆れるしかない」


 【愛欲の契約】………。

 最も古い契約だと聞くし、何かしらの大きな意味があるみたいだ。

 ただ、どんな意味かはサッパリ分からないけど。


 「先程も言ったけど、この契約が正しく発揮されれば貴方は全てをエルにさらけ出す事になる。

 本来はお互いに確認し合ってから契約を結ぶんだけど、あのバカも知らずにやった事だから諦めてちょうだい。

 それよりも契約の力の使い方を説明するわね」


 「あ、はい。お願いします」


 「ええ。とはいえ特に難しい事ではないのよ。

 目を瞑ってエルの事を考えなさい。

 そしてどこかにある魂に、自分の魂を重ねるイメージを持てばいいわ。

 まだ最初だから難しいでしょうけど、出来ないならエルと一緒に居ればいいわ」


 「エルトアリアさんと一緒に居るだけでいいんですか?」


 「………どうやら、その辺りも全く説明していないみたいね。

 いえ、エルも知らなかったのかしら? 今は横に置いておきましょうか。

 簡単に言うと肌を重ねていればいいのよ。

 ただし性行為はしないようにね。

 それは魂を重ねる上で雑音になるわ。

 慣れてくれば問題ないけど、魂を重ねられるようになって、そのうえ慣れるまでは止めた方がいいでしょう」


 「分かりました」


 っていうか、魂を重ねるっていうのが意味不明なのに、そんな事してる場合じゃないでしょうよ。


 「そして魂が重ねられるようになったら、エルが感じ取れるようになるはずよ。

 そしてそこから更に深く結びついていけば、エルが魂の奥底から渇望しているモノが分かるようになるわ。

 【共魂の契約印】とは元来そういうものなの。

 お互いの齟齬(そご)を完全に無くす為の契約、それが【共魂の契約印】よ」


 つまりそれってエルトアリアさんからだけじゃなく、俺もエルトアリアさんの事が分かるという事なのかな?

 今は一方的に心が読まれてるけど、これが使えるようになれば俺もエルトアリアさんの心が読めるようになると……


 でもそれって微妙な気もするな。

 正直に言って、相手の心が分かるって揉め事しか起きない気がするんだよ。

 ガ〇ダムの作中だって、ニュ〇タイプ同士で揉めてばっかだしさ。

 きっと碌な事にならないと思う。


 「とりあえず目を閉じて、しっかりとエルを感じ取る事から始めなさいな。

 それじゃ、スエルプ」



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:アルヴェーダ



 「さて、教えるべき事は教えたんだし、これで【精魂の雫】を頂いてもいいわよね?

 エルだって眠らせればいいって言ってたんだし、文句を言われる筋合いは無いわ。

 ふふふふふふ………楽しみにしてたのよ。

 エルを敵に回してまではと思っていたけど、エルがあっさりと認めたからねえ」


 まさかあんなに簡単に認めるとは思わなかったけど、それでも言質(げんち)を取った以上は文句を言わせないわ。

 【精魂の雫】が死ぬまで搾り取れないのは残念だけど、流石にエルと全面戦争をする訳にもいかないからね。

 そこは諦めてあげるわ、人間。


 それじゃ、いただきます♪


 …

 ……

 ………


 「なるほど、何故ああも簡単にエルが許可を出したか分かったわ。

 まさかこの私を持ってしても、全てを吸い尽くせずにギブアップするしかないなんて……」


 流石は伝説の【精魂の雫】だとしか思えないわ。

 エルがあそこまで執着するはずよ。

 この人間なら間違いなくエルの精の器すら満たせる。

 最高位悪魔の中でも群を抜いて最強であるエルの器がね。


 それにしても………ここまで精の力が強いだけに腹が立つわね。

 確かにエルが不満を抱えるのも分かるわ。

 精が満たされてるのに納得がいかない感じが強いし、満たされてるだけに、他の器が満たされない腹立たしさがある。


 エルはあまりにも満たされなかったから分かり難いんでしょうけど、満たされた事がある者からすれば、これは不満の元でしかない。

 早めに欲望に忠実になってくれないと困るわね。

 これなら食べない方がマシだったかもしれないわ。


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