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Side:橘八重
バキィッ!!!
「ぐぅぉぉっ!?!!」
針金人形というか、針金束人形の攻撃を受けた俺は吹き飛ばされ、一撃で盾が壊された。
一応はSPを込めていたんだが、一撃にさえ耐えられないとは思わなかった。
とはいえ大怪我をしなかったので助かったとも言える。
吹き飛ばされた際に金属バットが飛んでしまったので慌てて周りを見ると、落ちていた物が見えた。
どうやら灰色の棒らしいが、それよりSCSのARに情報が表示される。
そこにはSD濃度1と異界浸食率1%という表記があった。
これは講習で聞いた異界の中で手に入る武器だ。
地球の武器には何も無いが、異界の中で手に入る武器には色々とある。
その中でもSD濃度と浸食率は、いわゆる武器の攻撃力に影響がある数値だ。
俺は素早く立ち上がると、落ちている武器を手に持って構える。
両手で構える意味は無いが、それでも両手で持った方が安定するので両手持ちで持つ。
そして相手を見据えながら、少しずつにじり寄っていく。
講習でも言われた、「危機の時ほど前に出ろ」と。
多くの場合、追い詰められて及び腰になると押し込まれて負ける。
そうならない為には危機の時ほど前に出なきゃいけない。
だからこそ、俺は今前に出ている。
にじり寄ると、ある程度の距離で針金束人形の腕が横に上がる。
すぐに薙ぐと分かったのでバッスステップを二度行って大きく下がった。
すると目の前を通過していったので、一気に近づいて全力で棒を叩きつける。
ドガァン!!
その威力は思っている以上に高かったが、それは手に入れた武器の御蔭だろう。
俺は攻撃した後でバックステップを行い、再びある程度の距離を離れた。
針金束人形は叩きつけで倒れたが、未だ元気に起き上がってくる。
俺は視界の端のSPを確認するが、先程の一撃で残りが11まで減っていた。
盾で1減ったのだから、先程の攻撃は5を消費したという事だ。
全力で込めたんだが、それでも5しか込められなかったらしい。
仕方がないが、長期戦になりそうな気もする。
再び針金束人形が腕を上げ始めたが、今度は前に上げ始めた。
俺は突きが来ると思いすぐに右へと飛ぶ。
すると「ボッ」という音と共に突きが通過した。
っていうか、攻撃が速すぎるだろう。
なんで突きだけそんなに速いんだよ。
俺はその突きの腕が戻るまでに攻撃を開始。
再び両手でしっかり持って、SPを十分に込める。
「おりゃぁっ!!」
ドゴンッ!!
先程より音が重いが、しっかりと攻撃は入った。
おそらく先程よりも近くて攻撃しやすかったからだろう。
再び倒れたので、起き上がるまで棒で突き続ける。
SD濃度や浸食率がある武器は、SPを込めなくても相手にダメージが与えられる武器だ。
ただしSD濃度が1で異界浸食率が1%では、モンスターに微々たるダメージしか与えられないだろう。
それでもSP無しでダメージが与えられるだけでありがたい。
俺は立ち上がるまで突き続け、立ち上がったらすぐにバックステップで離れる。
流石にSPが篭もらない攻撃では、立ち上がる邪魔は出来なかったようだ。
武器が良ければ出来るかもしれないが、ゲーム的に言うとスーパーアーマー状態だった。
まったく欠片もバランスが崩れないんだから、どうしようもない。
あくまでも微々たるダメージが与えられるだけ。
それでも再び相対し、敵の攻撃を見極める。
すると針金束人形は突然足を縮めたので、俺はすぐに横っ飛びで逃げた。
流石にジャンプ突きはマズい。
針金束人形のなんて、喰らったら死ぬ。
「ふぉっ!? あぶねえ!!」
ガァン!!
変な声が出たものの回避できたので、すぐに立ち上がる。
すると、ジャンプ突きが地面に突き刺さったのか、抜けなくて困っている針金束人形が居た。
それを見た俺はチャンスとばかりに棒で叩き続け、針金束人形が腕を地面から抜いた直後にSPを込めた攻撃を叩きこむ。
ドガァン!!
その攻撃を喰らって地面に叩きつけられた針金束人形は、そのまま立ち上がる事なく消えていった。
「やれやれ、何とか勝てたか………
あー、マジで助かったぁ!! 死ぬかと思ったわ、本気で!!」
俺は気が抜けたからか、ついつい普段の口調で喋ってしまう。
本当なら真面目で寡黙な感じにしたかったのだが、やっぱり自分を偽る事は出来ないらしい。
「危なかったぁ! マジで本当に危なかったっての!
なんで初めての異界探索で、閉じ込めボス部屋みたいなのが出てきてんの!?
マジで難易度調整ミスってるだろ!!」
ゲーム的だと考えちゃいけないんだけど、流石に初見で攻略しろは無い。
正直に言って運が良かっただけだ。
マジでいつ死んでても不思議じゃなかった。
「探索動画を何本も見たけど、マジで舐めてた。
ここまで理不尽かましてくれるとは、本気で予想外だったわ。
冗談抜きで慎重に行動しないと死ぬ。
慎重に行動してるはずだけど、全然足りてねえ!!」
口から出さなきゃやってられないぐらいに、あの針金束人形は強かった。
あんなの動画内で見た事なかったので、おそらくトラップ用ボスなんだと思う。
おそらく誰か遭った事のある人は居るだろうけど、俺の見た動画内では一切ない。
つまり少なくとも俺に関しては、間違いなく初見攻略のようなものだ。
ゲーム的に考えちゃいけないんだけど、説明というか理解はゲームで例えるのが一番分かりやすい。
「おっと、通路が開いたけど戻る道じゃないか。
となると、ここは棒が貰える部屋ってわけね。
盾が壊れたけど、武器が貰えただけマシって、うぇぁ!?」
視界のARにSD1211と出てる。
さっきの針金束人形を倒したので、おそらく1000貯まったんだと思われる。
「SDが1211って、あいつ一体で1000SDもくれんの?
となると、かなりのレア個体だった可能性が高いな。
本当に改めて勝てて良かったわ、マジで」
俺は安堵の息を吐きつつも、金属バットを拾って元の通路へとさっさと戻る。
この部屋には元々7体か8体居たんだ。
またそいつらが復活してきたら、おちおち休憩も出来やしない。
なので通路を戻りつつ、ある程度の場所で立ったまま休憩する。
SPが全回復するまでは休憩したいが、確認するとSPの最大値が3増えていた。
さっきの針金束人形は色々とプラスになる相手だったらしい。
美味しいモンスターだったと思うが、同時にそれは勝てたからだと思い直す。
勝てなかったら死んでいたわけで、今更ながらに背筋に寒気が走る。
本当に命が軽い場所なんだと、改めて認識した。
今回は本気でだ。
「マジでここは死にやすいんだな、改めてそう思う。
これはきっと経験しなきゃ分からないんだろう。
だからこそ初めての生還率が7割しかないんだと思うし、3割は舐めたまま死ぬんだ」
口に出すと改めて命を懸けるという意味が分かる。
冗談でもなんでもなく、本当に命を懸ける仕事なんだ。
それでも俺は止める気なんてない。
これに人生を懸けると決めたからこそ、必死になって講習を受けて来たんだしな。
今さら他の道なんて無理だし、何より今までの努力を否定したくない。
まだ15年しか生きていないけど、それでも努力を簡単に手放す気になんてなれない。
何よりそんな情けない事は流石に出来ないんだ、色々と言ってきてるし。
中学までは義務教育だから通ったが、俺は当初から探索者になるって言い続けて来た。
動画だって出るんだ。
情けない姿を晒すのは仕方がないが、逃亡する姿は晒せない。
何より、そんな情けないヤツだと思われるのは嫌だ。
唯でさえ親がクソなんだ。
あのクソの子供もやっぱりクソなんだと思われたくない。
クソなのは親だけで俺は違う。
それを示さなきゃいけないんだ。
じゃないとクソ親の汚名が、いつまでも俺を追っかけてきやがる。
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