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Side:橘八重
このまま右の道を進もうかどうしようかと考えて引き返す。
チキンだと笑いたければ笑えばいい。
なんだか嫌な予感がするっていうのはバカに出来ないものだ。
予感で済むなら、そっちの方が良いに決まってる。
本当にヤバかったら俺の人生が終わりなんだから、チキンなくらいでちょうどいいんだ。
俺は左右に分かれている道まで戻り、今度は左側の通路を進む。
再び3体出て来たので、少し離れたところから様子を見る。
すると、いきなり足を縮めて伸ばしてきた。
いきなり突っ込んできたので盾で防ぐのが精一杯だったが、まさかこんな動きをするとは予想外だ。
慌ててSPを込めてブン殴り、1体の針金人形を始末した。
すると2体目は普通に薙いできたので防ぎ、3体目は突いてきた。
それも防いだ後で右の針金人形に一撃。
それで倒した。
最後の1体の攻撃も防いで反撃。
それで勝利する事が出来たが、さっきの戦いは反省しかない戦いだったな。
まさか前にジャンプするように跳んで突いてくるとは……防げなかったら死んでたかもしれない。
やはりモンスターは侮っちゃ駄目だ。
その思考が危険すぎる。
とにかく安定している戦い方があるんだから、安定して戦えばいい。
計算外の事が起こるのは怖すぎる。
「ちょっとやってみよう」、「これぐらいなら大丈夫だろう」。
それがいかに危険かって事が、ハッキリと分かった戦いだった。
とにかく針金みたいな相手だけど、舐めちゃいけない。
敵はこっちを殺しに来てる。
それを分かったうえで、しっかりと地に足をつけて戦おう。
俺は深呼吸を繰り返し、自分で落ち着いた事を何度も確認してから進む。
さっきの戦いを思い出しても、探索者の3割が最初の挑戦で死ぬという事に納得した。
さっきの俺と同じようなヤツが、きっとたくさん居たに違いない。
探索は「慣れてきた時が一番怖い」なんて言われたが、慣れてもいない状態で慢心を起こすなんてバカ過ぎる。
本当に慎重に行かないと死ぬぞ、俺。
ここは異界で既に逃げ場は無いんだ。
SDを1000貯めないと日本に帰る事すら出来ない。
その事をしっかりと自分に言い聞かせてから進む。
流石にさっきのは肝が冷えたので冷静になれたが、肝が冷えた程度で済んで良かったよ、本当。
改めて気合を入れて左の通路を進んで行く。
どこも高さは3メートルくらいで横幅は8メートルくらいある、割とスペースに余裕のある通路だ。
チームを組んでいると狭いだろうが、ソロだと十分過ぎるほどに広い。
むしろ1対1にしかならないような狭さを希望したいところだ。
「おっと、今度は2体か。
まずは素早く1体を倒してしまおう」
俺は敵の攻撃を防いだ後、素早く反撃して1体を倒す。
残り1体となった相手を見ると、相手は右手を下から上げた。
そういえばあの突きの時の攻撃って……
俺は腕を伸ばして突いてきたのでかわし、そして針金の腕を戻す相手に一撃を加えて倒した。
………さっき気づいた事が本当なら、敵は腕を下から前に振り上げた際に突いてくる?
仮にそれが事実なら、薙ぎも回避できるぞ。
突きが分かってるなら当然薙ぎも分かるわけだし、そうなれば後はかわすだけになる。
さっき危険な事はしないと思ったが、しかしそれでも敵を調べて対策が打てるようにしておきたい。
未だ3体までしか出てきてないが、しかし3体までしか出ないなんて事は無い。
絶対に4体以上出て来るし、その際に逃げられない可能性だってある。
となると、しっかりと戦えるだけの情報がほしい。
「そういう時にしっかりと出てきてくれて助かる。
1体だからじっくりと見よう」
俺は盾を構えながらにじり寄ると、針金人形は右手を横から上げていく。
これが薙ぐ動作か? そう思って上げた後で後ろに下がる。
すると斜めに「ビュン」と目の前を通り過ぎた。
そして再び針金人形に近づく。
少し盾を構えて睨み合っていると、今度は下から前へと腕を上げる。
これが突きのはず。
俺が素早く右へと飛ぶと、「シュッ」と音がする突きが繰り出された。
やはり間違いない。
そして足を曲げるのが前方ジャンプ突きだ。
これがおそらく全ての攻撃方法だと思う。
針金人形というモンスターだからこそ、こうやって決まってるんだろうけど、知恵のあるモンスターなら動きは決まっていないだろう。
フェイントだって仕掛けてくるだろうし、裏の裏を掻いてくる事もあり得る。
しかしそれでも、今は有利になる情報だ。
俺はその後も色々と敵にやらせたが、やはりパターンが変わる事は無かった。
なので攻撃して倒し、SDを手に入れて先へと進む。
これで針金人形は楽に勝てるようになった。
舐める気はないけど気は楽だな。
左の通路を進んで行く間も、出てくる針金人形を次々に倒していく。
一度分かれば対処は容易い。
俺は倒して休憩を繰り返しながら進んで行く。
すると、通路の途中で色が変わっていたので慌てて引き返した。
向こうは駄目だ、変な場所に飛ばされるかもしれない。
せっかく安定してきたのに、今のこの状況を壊したくないんだ。
せめて針金人形で1000SDを稼いでからだろう。
じゃないと怖くて挑戦も出来ない。
入ってすぐの所は、必ずと言っていいほどに敵モンスターが弱いんだ。
そこは確定で決まっている。
でなければ、いきなり強いモンスターの所に行かされて全滅などという事があり得るんだ。
流石にそれは理不尽だからか、不思議と最初だけは楽なんだよ。
異界を作ったヤツがいるなら、この異界を踏破させようとしているんじゃないかという憶測もあるくらいだ。
俺だってそんな気が今はしてきている。
引き返して戻ってきた俺は、正面を進もうとしたが右へと行く。
先程のリベンジじゃないが、やっぱり気になるので納得できるまで調べよう。
そう思い、再び出てきていた針金人形を倒しつつ進む。
先程戻った場所を通り過ぎ、更に先へと進んで行くと、そこには部屋があった。
しかもラッキーな事に、部屋の中心に何かが落ちている。
とはいえ、あからさまに怪しいのが何とも言えない。
飛ばされる可能性が高そうだ。
どうしようかと思うも、まずはモンスターを倒そうと部屋の中へと踏み込む。
遠くが見づらいが、部屋の中には7体か8体ほどの針金人形が居るようだ。
俺はそいつらに分かるように金属バットと盾をぶつけてアピール。
そして敵がこっちに気づいたら通路へ。
戻ろうとしたら、入ってきた通路が無くなっていた。
どうやら、そういうトラップだったらしい。
マジかよ……
俺は仕方なく走り、針金人形の攻撃が始まる前に殴りつけた。
そして攻撃しつつ走り抜ける。
部屋が大きいから出来る戦法だが、出来て本当に良かった。
針金人形の移動はそこまで速くない。
だから走り回れば俺は勝てる。
これも敵を調べたから分かった事だ。
走り回りながら敵を倒していくものの、最後の一体になると何故か体が赤色に変化した。
元々は鉄の色だったのにだ。
そのうえ沢山の針金が集まってきて、針金人形にくっついていく。
最終的には針金を束ねた体を持つ人形になった。
手足も何もかもが針金を大量に束ねた形で、明らかに針金人形とは違うボス級の存在みたいに変わる。
幾らなんでも反則だろ。
そう思うけど、今更この部屋から逃げるなんて出来ない。
そもそも出る為の通路が無いんだ。
完全に閉じ込められてる。
現在のSPは17。
実は戦ってる最中に最大SPが1伸びていたんだ。
たった1だけど、無いよりはマシだろう。
もしかしたら、この1ポイントで勝てるかもしれないんだし。
俺は手始めに盾を構えてにじり寄り、基本の戦い方を始める。
すると、ある程度近寄った所で右手を横から上に上げた。
という事は鞭のような攻撃か。
俺は素早くバックステップをして距離を放すと、なんと針金人形では届かなかった所まで攻撃が飛んできた。




