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Side:エルトアリア
「う……ん?」
「ようやく起きましたか。
さっきから顔を叩いていたのですが、意外にも起きるのに時間が掛かりましたね。
で、自分の状況が理解できていますか?」
「……いや、状況って言われてもですね。
俺は家で寝てたはずで………って、ここどこですか?」
「ここは貴方が住んでいた家畜小屋の残骸ですね。
車というのが貴方が住んでいた部屋に突っ込んできていまして、その所為で家畜小屋が壊れたようです」
「いや、車が突っ込んできたって言われても、いったいどう「無事ですか?!」いう事です?」
話を遮るように大きな声を上げたのは、ここの管理人とかいう女ですね。
この者は私の夫に多少の好意を持っていますので判断に迷うのです。
排除した方がいいと思わなくもないのですが、排除すると彼からの心象が悪くなりそうですし。
それにそれだけでは無いのです。
この女を利用すれば、彼の積極性を引き出せるのではないかと思うのですよ。
サキュバスの私に手を出しにくいのであれば、人間のこの女に手を出させればいいのです。
そこで慣れたら私に移行させれば良いだけ。
そういう方法も考えているので、この女を邪険に扱えない部分もあるのです。
それはともかくとして、そろそろ話に割って入りましょう。
「すみません。
俺も何故こうなったか分からず……」
「それは仕方がないでしょう。
どうやら寝ていた間に、あの車が突っ込んできたようですしね。
何かしらの理由があって突っ込んできた可能性はありますが、それらを含めて現状では何も分からないというところでしょう」
「そうですか………それよりも無事で良かったです。
2階の方も隣の部屋の方も無事でしたが、橘君だけ見当たりませんでしたから……」
「流石に瓦礫の下のままという訳にはいきませんからね、私が移動させました。
何故こうなったのかに関しては私も分かりませんよ。
そもそも私は事が起こってから転移してきましたので、起こる前を知りませんし」
「この場所は居眠り運転などで車が突っ込んでくるような場所じゃありません。
確実に狙って突っ込んでこないと、こんな事には絶対にならないんです。
という事は……」
「車の持ち主が故意に行った可能性が高いって…………俺のカメラとノートパソコン!!」
彼は慌てて起き上がると、一目散に瓦礫の下へと行きました。
カメラとノートパソコンがどうしたのか分かりませんが、大事な物だったのでしょうかね?
瓦礫を排除しながら探しているようです。
私も手伝おうかと思っていると、彼が急に膝を地面に突いて座り込んでしまいましたね?
「なんてこった………今日っていうか、昨日買ったところなんだぞ。
カメラは120万、ノートパソコンは79万もしたのに……」
「120万に79万!?
よくそんなお金がありましたね? まだ新人でしょうに」
「色々とあるんですよ。
それにテレビ局の嫌がらせに負けない為にも、良いカメラとかを持っておいた方が良いと思いましてね。
それで買ったのに……」
愕然としているようですが、SDを貯めれば買えるでしょう。
それに私が買って渡してもいいですしね。
120万や79万など端金にもなりません。
大した金額でもないのですから、気にしなくてもいいでしょう。
「そんな事よりも、住む場所が無いのでしたら私の所に来ますか?
さすがに家畜小屋がこれでは住めないでしょう」
「家畜小屋………」
女が驚いていますが、家畜小屋なのは事実でしょう。
幾ら美化して言おうが、家畜小屋は家畜小屋です。
それはともかく、彼には住むところが無いのですから、私の下に来るのは自然な事でしょう。
特におかしな事でも何でもありません。
「いえ、流石に人間が虚界に住民票を移す事は出来ませんよ。
犯罪者が向こうに消えるならまだしも、彼は犯罪者でもなんでもありません。
そんな子を勝手に連れて行くのは駄目でしょう」
「そもそも虚界に連れて行くわけではありませんよ。
別に連れて行っても良いのですがね。
それはともかく、私は新宿という所に居を構えていますので、そこに住めばいいというだけです」
「それはヒモみたいで嫌なんですけどねー……とはいえ背に腹は代えられないかな?
流石に探索者用の住宅って増えてないって聞きますし、オンボロの有効利用ですからね。
他の所も入り切ってるなら、俺が入れる部屋が無いし」
「ならば問題ないですね。
私が住んでいる所で一緒に住みましょう。
家畜小屋では駄目なので困っていたのですよ」
「あの、それは良くないと思います。
流石に住む所を出汁に、そういう事を強要するのは犯罪に当たります。
たとえそれが女性側からでも。
……それに、そもそも彼はまだ未成年です。
20歳にならないと成人とは認められません」
「??? ……認められないから何なのです?
心配しなくても、虚界の我が国では違法でも何でもありませんよ。
それにインキュバスが精を売るのは、我が国では合法です。
違法などではなく立派な職業なので、卑下するような言い方は良くありませんね」
「ごめんなさい。しかし日本では良くない事なんです。
そしてここは日本ですから、悪魔の方々も日本の法に従って貰わないと困りますよ」
「実際は、私達に日本の法を強制する事は出来ませんけどね。
法を執行するには、法に従わせるだけの力が必要です。
それがなければ従う必要もありませんよ。
あくまでもこちら側にいる同胞は、日本の法に自ら従ってやっているだけです。
力で法を無効化する事が出来るにも関わらずやっていないだけ」
「それは……」
「地球でも同じでしょう。
法に従わせるには力が必要で、それが無いから従わせる事が出来ずに好き勝手をされた。
この国にもあったでしょう、他国の者なので手が出せないとかね」
「………」
黙りましたか。まあ、当然ですけどね。
法や秩序というのは、それを裏打ちする為の力が必要なのです。
無ければ法を執行する事も出来ないのは当たり前すぎる話でしかない。
力で法や秩序を破られれば、何の役にも立たないものに成り下がる。
それが法や秩序なのです。
人間の住む地球でも古くは同じだったでしょうが、そもそも混沌が先に在るのですよ。
で、ある以上は元々下地は混沌なのであり、その上に法や秩序を乗せているに過ぎない。
なので力でひっくり返るのです。
「力ある者が黒と言えば黒なのですよ。
たとえそれが白であってもね。
そんな事は虚界であっても、地球であっても変わりません。
もしそれに反発を覚えるなら、貴方は幻想の中に生きているというだけです。
絶対の真理に対して見ないフリをしている」
「………」
「俺がどこに住むかって話から、急に真理の話に変わってますから戻しますよ。
それはともかく、住む所は別にして一度実家に帰る必要があります。
祖父母に話して転居する許可を貰わないといけませんし」
「住民票を移す際、未成年は保護者の同意が必要です。
これは学校の寮などでも変わらない事ですので、必要な手続きですね」
「では一旦私の住んでいる所に行き、そこから彼の実家に行けばいでしょう。
こんな状態では全ての物が壊れているでしょうしね」
「財布は無事なので良かったですよ。
いつも寝る時にはパジャマのポケットに入れて寝てたんですけど、それが功を奏したって感じです。
一人暮らしだと危険だから、肌身離さず持っておけって祖父母から言われてたんですよ。
本当に守ってて良かった」
「それでは行きまし「待ってもらえますか?」ょうか」
急に話しかけて来る者が居たのでそちらを向くと、そこには「けいさつ」と呼ばれている者が居ました。
いったい何の用でしょうね?




