0040
Side:橘八重
薄い墨が流れている方向に走り、俺は地面の色が変わっている場所から次の地形へと進んだ。
逃げた理由はたった一つ。
「後ろから襲ってきかねないヤツなんて助けるわけないだろ。
なんでそんな当たり前の事すら分からないんだ?
武器を貸せとか寄越せなんていうヤツを助ける探索者が居るなら、そいつは間違いなく早死にするね。
俺じゃなきゃ、どうでもいいけど」
本当に意味が分からないというか、頭がおかしいとしか思えない。
それに………
俺は砂漠に居るんだが、それよりも後ろを振り返って確認する。
しかし先程の女が俺を追いかけて来る事は無かった。
つまり、あの女とは別々の判定になったという事だ。
「やれやれ、あんなのと仲間判定になったらシャレにならないところだった。
とにかくもう追いかけて来ないみたいだから、これからはゆっくり出来るな。
まだ異界に入って来てあんまり経ってないから、そんなに儲かってないんだが……」
さっきの気持ち悪い敵は………一体換算でおそらく90SDというところだ。
氷の騎士よりは少ないけど、それなりには多いな。
とはいえ氷の騎士もさっきのも二つ目の地形ではある。
やはり持ち物に魔力が多く含まれてると、強いモンスターの居る地形に行きやすいんだろう。
俺は溜息を吐きつつ砂漠の上を歩きだした。
ジリジリと焼けるような暑さではあるが、フードを被っているので直接は日光を受けていない。
それでも暑いというより熱いだから、流石は砂漠としか言いようが無いな。
「あっつー………砂漠だから当たり前だけど、猛烈な暑さと日差しだな。
日本の夏とは別の意味で暑い」
俺はそんな事を口走りつつも、薄い墨が流れる方向に歩いていく。
360度を見渡しても砂漠、というか砂丘が連なっているだけであり、どちらに進んでいいか分からない見た目をしている。
俺はマスクがあるから分かるが、他の探索者はどうしてるんだろう?
俺と同じようにマスクのような効果のある物を持ってるのかな?
でないと氷の大地や砂漠ってなった瞬間、確実に詰むと思う。
だって行くべき方向すら分からないし。
それとも俺が知らないだけで、何かしらの攻略方法はあるんだろうか?
俺も契約含めて普通の異界探索者とは言い難いしな。
そのうえエルトアリアさんのおかげで装備がいい………違うか。
元々はアロハヌス家の御蔭だ。
あの記憶の宝珠を手に入れなければ、もっと苦労したり死にかけたりしてたんだろうか?
もしくは他の人達みたいに儲からなくて挫折していたかも……。
ドォン!!!
「うわっ!!!」
いきなり目の前の砂が吹き飛び、そこから現れたのは馬鹿デカイ蠍だった。
砂漠だから分からなくもないけど、尻尾の高さがボスの木窓くらいあるんだけど?
という事は3メートルくらいか?
「いやいや、3メートルの高さの尻尾を持つ蠍ってなんだよ!?
絶対におかしいだろ!!」
俺は左手のスパイクシールドを構えつつ、どうしたものかと思案する。
敵がデカすぎて、どう対処していいかが分からない。
そう思っていると、目の前の蠍が右腕を振るってきた
ガァン!!
そんな大きな音と共に、俺は後ろに吹き飛ばされた。
幸いSPを込めていたからか、そこまでのダメージは受けていない。
とはいえ吹き飛ばされるってシャレにならないぞ。
早めになんとかしないと、どうにもならない。
俺は素早く立ち上がると、再び左手の盾を前にして構える。
敵の攻撃は防いだら駄目だ。喰らったら確実に吹っ飛ぶ。
凄い威力だけど魔力的な防御が硬いからか、大したダメージは受けてなくて助かる。
もしかしたら銃弾を受けた悪魔の人達も、こんな感じなのかもしれないな。
「しかし相手の動きが遅いのが助かるな。
これで速かったら対処不能になるところだった。
おそらく体が大きすぎる事の弊害だろうなぁ。
これだけ大きければ甲殻も分厚そうだし、その分だけ重いんだろう」
口から色々と言葉が洩れるが、それだけ緊張しているのかもしれない。
それでも巨大な蠍に近づいていくと、再び右腕のハサミでブン殴ってきた。
今度もさっきと同じく防いでしまい、またもや吹き飛ばされる。
ガァン!
「ぐっ! ………吹っ飛ばされたダメージは碌に無いけど、砂の上に叩きつけられたダメージはあるんだよなー。
それも積み重なると大きなダメージになりそうだ。
気を付けないと、そういうダメージで動けなくなるかも」
口に出しているのは緊張か確認の為か。
もはや自分でも分からないけど、それでも止められないので諦めよう。
俺は再び盾を前に出しながら近づいていくも、ふとした違和感を感じた。
いったい何に違和感を感じたのかと思ってすぐに気づく。
それは蠍の右腕の爪が壊れかけている事だった。
「長い方、つまり前にある爪が壊れてる?
……もしかして俺が防いだ部分か?
となると………」
俺は再び盾を前に出しながら蠍に近づいていく。
すると今度は左腕を動かしたので、俺は気にせずSPを3ほど込めて盾で防いだ。
ドガァン!!
そんな大きな音と共に吹き飛ばされた俺は、素早く立ち上がる。
すると、蠍の左腕は大きく折れており、折れた部分は爪が砂の上に落ちて消えていった。
なるほど、コイツの倒し方はこうするのか。
……いや、駄目だ。
それだと時間が掛かりすぎる。
もっと素早く倒せる方法があるはずだし、そういう方法を見つけないと先に進めない。
SPは回復できるとはいえ限度がある。
SDも使えるけど………
俺は盾を構えて再び蠍に接近していく。
こんな事を繰り返していたら、別の蠍に襲われるかもしれない。
だから早く倒してしまわないとな。
そう思った俺は蠍に接近していき、そして右腕が動き出したらバックステップで避けた。
ドン!
蠍の右腕は砂の地面を叩くだけ終わり、俺はここぞとばかりに蠍の腕を小角杖でブン殴る。
ドガァン!!
「ギィィィィィィィッ!??!!?」
込めたSPの量は1だけど、それで十分に蠍の右腕を破壊できた。
爪が中ほどから壊れ、中の爪肉が見えてしまっている。
痛覚があるのかは知らないが、少なくとも大きなダメージを受けたのは間違いないだろう。
俺はバックステップで離れた後、仕切り直しで近づいていく。
すると怒ったのか、蠍から近づいてきて左腕を動かした。
当然のように俺はバックステップで回避し、前に出た左腕をブン殴る。
ドガァン!!
「ギィィィィィィィッ?!?!!」
再び声を上げたので、これも十分に効いているだろう。
残るは最も怖い尻尾と、その先に付いている針だ。
おそらく高い確率で毒針だろうけど、嫌な予感しかしないな。
確か蠍って尻尾の動きも速いんだったはず。
果たして俺に対処できる速さなのか。
その辺りが怖いところだけど、ここまで来たらやるしかない。
俺は気合を入れて盾を前に出すと、ゆっくりと蠍に近づいていく。
蠍の方はジッとしていて、おそらく俺を待ち構えるつもりだろう。
爪も半ばから壊れているので、後は尻尾の攻撃しかない。
「後は尻尾。後は尻尾………。
アレをかわして攻撃だけど、出来れば頭を潰したい」
俺はジリジリと近づきつつ、蠍の後方にある尻尾に集中する。
アレを喰らったら、間違いなく一撃で死ぬ。
だから絶対に喰らっちゃ駄目だ。
それが分かっているだけに、出来得る限り集中しながら前に出る。
そして、その時は訪れた。
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