0039
Side:橘八重
俺は左手のスパイクシールドを前面に出し、右手の小角杖を後ろにしてにじり寄る。
未だにイケメンは腰をクネクネしながら元の立ち位置から動いていない。
いったどういう事なのかと思うが、俺は少しずつ慎重に近づいていった。
そして一息に近づける距離になったら、いきなりヤバいヤツは飛び込むような形で俺に接近。
抱き着く為なのか、頭の後ろで組んでいた腕を横に広げて跳んでくる。
いわゆる脇を前に見せる形で、頭の後ろで手を組んでいたんだ。
ボディビルであんなポーズを見た事があるが、あんな腰クネは見た事が無い。
というかキモいから止めてくれと言いたくなるくらいだ。
倒れている男性達はいったい何を喰らったんだろう?
俺は跳んできたヤバいヤツを杖で突き、決して俺には近づけさせない。
というか男性達は抱き着かれた結果だと言っていたし、女性2人は必死にこのモンスターを牽制していたみたいだ。
俺が杖で突いたヤツは一撃で倒すとはいかなかった。
やはりここのモンスターはそれなりに強いな。
SD濃度124の杖でも一撃では倒せない。
俺は敵を強い奴らだと認め、SPを込めて戦う事にした。
再び盾を前面に出しながらにじり寄ると、再び同じように跳んできたので、SPを込めて水平にブン殴ってやった。
ドゴン!!
「あふん♪」
「「「………」」」
女性達も何か言いたいようだが、俺と同じ様に必死に耐えているらしい。
気持ちはよく分かる。
間違いなく相手にしたくないし、なんでこんな連中がモンスターとして出てくるんだよ。
初めて見たうえ、敵として嫌すぎる連中だ。
音の割にはダメージを受けたという手応えが無く、おかしな声を発して倒れて消えていく。
倒せてはいるものの、何か納得できない感じが漂う。
本当に色々な意味で戦いたくない連中だ。
それでも俺はにじり寄り、盾で体当たりをしたり、小角杖で殴って倒していく。
全部で12体いたんだけど、それも後は2体であり、倒したからこれで最後!
そう思った矢先、腰をクネらせていた敵は、横ではなく前後に腰を揺らし始めた。
「マジ、サイテー……」
「なんなの、コイツ……」
言いたい事はメチャクチャよく分かる。
だけどな、あんたらも座ってないで戦ってくれないか?
全部を俺に任せるってどういう事だよ。
っていうか、もしかしてこいつら相当に強い?
俺は武器が良いから勝ててるだけ?
腰を前後に揺らし始めた敵は腕を頭の後ろで組んだまま近づいてきた。
そのポースはそのままなんだなと思うも、俺は今までと変わらず盾を前面に押し出して近づいていく。
腰を前後に揺らしながら歩いて近づいてきた敵は、もう少しという距離から一気に跳躍。
こちらに接近してきた。
それも唯の跳躍じゃなく、俺の顔の高さに相手の股間が来ている。
どんだけ跳躍力があるんだよ、コイツ。
流石にあんなモノを喰らいたくはないので、俺はバックステップで距離をとる。
すると着地して即こちらにジャンプしてきた。
またもや顔の高さに股間が来てる。
こいつどこまで嫌がらせに特化してるんだよ!
そう思いながらも今度は左に大きく跳んで回避。
すると、こちらに向き直った後で再び跳んできた。
何としても俺の顔に押し付けたいらしい。
だって飛ぶ際にも股間を一番前に押し出してきてるんだ、何を狙っているかも分かる。
なので俺は丁度いいと思える距離までバックステップ。
そして小角杖を下から振り上げる。
それは狙いを外れる事無く、着地した敵の股間に対し、下から掬い上げる形で直撃した。
「Foooooooooooooooo!!!!!」
凄い絶叫の後で大変イイ笑顔をこちらに向けて来ると、ヤバいヤツは倒れて消えて行った。
最後の最後までアレなやつだったなー。
「キモ………」
「なんであんなのが出てくるのよ………」
言いたい事はよく分かるし、俺も同じ気持ちだ。
っていうか、俺って人型の敵すら初めてなのに、なんであんなヤツが最初なんだよ。
もうちょっと色々とあるだろう。いや、本当。
「とにかくあの敵は横に置いておくとして、それよりも男性3人は大丈夫か?」
「う、ぐ………ああ、何とか大丈夫だ」
「く、そ……なんか抱き着かれた途端、体の力が抜けたぞ」
「オレ、も、そうだ……。
なんだったんだ、さっきの頭のおかしいのは」
男性達は何とか起き上がったものの、それでも体を起こすのが精いっぱいだったらしい。
今は下を向いて座っているだけだ。
顔を上げる気力と体力すらあまり無いのが現状らしい。
「流石にその状態じゃ戦えないでしょうし、帰った方が無難では?」
「そうなんだけど………さっきの地形で私が【疑似魔法】を使ってて、私だけ帰れないのよ。
私も置いて行かれると困るの、一人じゃモンスターと戦えないしさ」
「すま、ないが。君に頼め、ないか………?
オレ達は、簡単に回復、しそうにない」
「ああ、これは地球に、帰るのも遅、れるかもな」
「何を吸われたの、か分からな、いけど……体に、力が入、らねえ」
「これ………相当以上に厳しそうなんですけど」
「やっぱり君がどうにかしてくれるしかないんじゃない?
私達もここじゃ戦えないし」
「………」
あんまり言いたくないが、助けるんじゃなかったとしか思えないな。
っていうか、何で俺が脱出まで面倒を看る事になってるんだろう?
俺は一言も了承してないんだけど?
こいつらを助けるのと、脱出まで面倒を看るのは別だろ。
なんで俺が面倒を看て当たり前になってるんだよ。
「すまんが、あと、たのむ」
「すまねえ……」
「悪い。誰か知ら、んが、頼む」
そう言って男性陣は脱出していった。
男性陣は分かる、傍から見ていても戦えるような状態じゃない。
でも女性の片方は違うだろ。
戦えるのに戦わないとか言い出してるし、俺が面倒を看るのが当たり前みたいに考えてる。
「それじゃ、後でね。頑張って早く脱出しなよ」
「言われなくとも、すぐに脱出するわよ」
そんな会話をして、女の片方は消えて行った。
おいおい、マジかよ。
男性陣と違って一言も俺になかったぞ。
幾ら何でもクソ過ぎるだろ。
「じゃあ、行こっか。
それと私が止めを刺さないと帰れないから、その武器貸してよ」
「えっ、嫌ですけど?
なんで知らない人間に武器を貸さなきゃいけないんです。
自前の物でなんとかしてください」
「は? 私が早く帰るのに協力するんが当たり前でしょ」
「もしかして動画で撮られてるって事を忘れてますか?
盗賊行為を働く者もいるので、武具の貸し借りや道具の貸し借りは禁じられてるんですけど」
「そんなのどうでもいいから貸しなさいよ!」
「ははははは。今すぐ脱出しても、俺は罪にも問われませんよ。
人の武器を寄越せと言っている相手は盗賊と見做して構わない。
そう決まってるので、帰ればこの動画が証拠になりますからね。
俺がここで見捨てても、何の罪にも問われないんですよ」
「チッ!」
「あー、こりゃ駄目だ。じゃ、コレで」
俺は舌打ちまでしやがったバカを無視して歩き出す。
もしかしたらさっきのチームには恨まれるかもしれないが、他人の武器を貸せだの寄越せだの言う相手は見捨てたって構わないし許されている。
「待ちなさいよ!!」
待つわけないだろ、バカじゃねーの。
盗賊行為を堂々とやろうとするヤツなんて、助けると思ってんのかよ。
むしろあんなのと絡んでたら俺が殺される。
「待てっつってんでしょうが!!」
「それが本性かよ。完全に盗賊じゃねーか。
後ろから襲ってくる可能性が高いヤツと誰が一緒に行くんだよ。あり得るわけねーだろ。
まともな神経も持ち合わせてないとは思わなかったぜ」
「ふざけんな!
お前マジで置いていくつもりじゃないでしょうね!!」
俺は無視して走りだすと、薄い墨の流れる方向へと向かう。
生きて戻れば動画が証拠となる為、俺が罪に問われる事は無い。




