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 Side:橘八重



 ガァン!!


 俺が尻尾に集中し過ぎていたからだろうか?

 まさか壊れた爪で攻撃してくるとは思わず、かなり吹き飛ばされてしまった。

 そのうえSPを込めていなかったからか結構痛い。


 「まさか爪肉まで見えている状態で攻撃してくるとは思わなかったな。

 それならそれで戦闘を組み立てるだけなんだが、そういう時に限って尻尾で攻撃してくるんだろうなぁ……」


 そもそも俺が尻尾に集中していると蠍(さそり)も感じ取ったんだろう。

 だからこそ右腕で攻撃してきたんだろうしな。

 どう考えても行動が読まれてた。


 今度は色々と気にしながら前へと出よう。

 どんな攻撃でも、動き出しが見えたらすぐに後ろに引けばいい。


 俺は再び盾を前に出して蠍(さそり)に近づいていく。

 一つに集中せず、全体を見つつも尻尾に気を付ける。

 そんな難しい事を考えながら近づくと、上下に動いた気がしたので即座に下がった。


 ズドッ!!


 今度は尻尾の攻撃だったが、戻しが速く攻撃は出来なかった。

 流石に尻尾の速さは腕の比じゃないらしい。

 なので攻撃して壊せないし、アレがある限り、こっちも迂闊(うかつ)に接近できない。


 盾を前に出しながらも、俺は先程の事を考えていた。

 つまり、あの尻尾こそ盾で壊すべきなんじゃないか、と。


 俺が近づいていくと、再び蠍(さそり)は待ち構えるように身動きをしなくなった。

 どの攻撃を狙っているのかは分からないが、とにかく最後の砦たる尻尾をどうにかしないと勝てない。

 なのである程度の距離からは慎重に近づいていく。

 そして……


 ズガァン!!


 「ギシャァァァァァァァッ!!?!?」


 そんな派手な音と共に、蠍(さそり)の尻尾の先は完全に壊れた。

 俺は地面に押さえつけられる衝撃に膝をついてしまうが、それでも防ぐのには成功した。

 ついでに破壊出来たんだから、文句の無い出来栄えだ。


 俺はすぐに立ち上がると、一気に蠍(さそり)を攻めるべく動く。

 ここで倒してしまわないと、いつまで経っても戦闘が終わらない。

 そう思い、一気に接近すると顔面に向かって小角杖を振り下ろした。


 ドゴォン!!


 そんな音と共に頭が壊れ、体液を吹き出しながら力が抜ける蠍(さそり)。

 俺の一撃は蠍(さそり)を確実に始末したらしく、力の抜けた蠍(さそり)は消えて行った。


 「やーっと、終わったー!! どんだけ強いんだよあの蠍(さそり)。

 大きさもさる事ながら、強さがシャレにもなってないだろ。

 むしろよく勝てたよ、俺は。

 自画自賛したくなるくらいだ」


 ようやく勝った事に喜びつつも、俺は視界の右上端の総SDを確認する。

 すると1800ほど増えていたので、ミミック並みの強さだった事が分かった。


 「SDで1800もくれるのかよ。そりゃ強いわ。

 ここ、ボス並みにザコがSDくれるけど、代わりにボスより遥かに強いな。

 やはり最初の地形なんかで出て来るボスはボーナスモンスターか……」


 講習でも不思議だと言われていたが、最初の地形の方に出て来るボスは手に入るSD量に比べて妙に弱い。

 未だに理由は分かっていないけど、異界に入ってきたヤツを奥へ誘い込む為じゃないかと考えられている。


 現に悪魔の人達だって、地球を支配して人間を送り込むぐらいだし、それくらいSDは魅力的なんだろう。

 実際に子供を為すのにも使えるわけだし、となると悪魔の人達にとっては重要な物なんだというのが分かる。


 俺は深呼吸をすると、薄い墨が流れている方向に向かって歩き出す。

 このままここに留まっていても意味は無いので、先へと進むしかない。


 この砂漠じゃ、とてもじゃないけど立ち止まってのSP回復は難しいからだ。

 流石に枯渇しかかったら仕方なく立ち止まるけど、極力はお断りしたい。


 俺が歩きだして10メートルくらいだろうか?

 再び蠍(さそり)が砂の下から現れた。


 正直に言って、思っている以上に蠍(さそり)は多いのかもしれない。

 厄介な事だが、それでも戦って進まざるを得ないな。

 駄目ならすぐに帰ろう。


 盾を前に出した半身の構えになると、俺は蠍(さそり)に近づいていく。

 そして右腕が動いたのですぐにバックステップ。

 叩きつけられた右腕の出来るだけ付け根の方に攻撃。

 右腕を破壊した。


 「ギィィィィィィィィィッ!?!?!?」


 「この声も地味に鬱陶(うっとう)しいなぁ。耳が痛いし、厄介な攻撃かも」


 そう思いつつ一旦離れると、再び盾を前に出して近づく。

 この方法が一番良いのだろう。ある程度のSPを使うのは仕方ない。


 思っているよりも奥かもしれないし、俺は早く来すぎているんだろう。

 その所為で、ここまで来れるベテランに比べてSPの上限が低い。

 そう考えると良い装備を持つのも善し悪しというか、弊害があるとも言えるのかも。

 ……っと!! 左腕を振り下ろしてきた。


 ドスン!!


 「かーらーのー、そうりゃぁ!!!」


 ドゴン!!


 「ギュィィィィィィィッ!!?!?」


 「なんかさっきまでと違う叫び声だな? なんでだ?」


 よく分からないものの、一気に近づいた俺は蠍(さそり)の頭に小角杖を振り下ろして叩き潰した。

 ふとした思いつきだったんだが、もしかしたら当たってたのかもしれない。

 蠍(さそり)がデカい声を出している間は無防備なんじゃないかってさ。


 人間だって激痛を受けながら冷静に動くなんて無理だ。

 その激痛を何とかする方に意識が向いていて、とてもじゃないけど戦う事なんて出来やしない。

 となると蠍(さそり)でも同じなんじゃないかと思ったけど、それは正しいっぽいな?


 俺は少し休んで呼吸を整えた後、再び薄い墨の方に向かって歩く。

 そしてまたもや出て来た蠍(さそり)と戦うのだが、腕を壊した後で頭を潰すと、それだけで勝ってしまった。

 まさかのパターン確立。


 「こうなってくると、勝ちパターンが出来た蠍(さそり)との戦いはありがたいな。

 こいつ一匹で1800SDもくれるし、出来れば大量に狩りたいところだ。

 とはいえ、こういう時には冷静にならないといけない。

 つまりは脱出」


 そう、今は勝ちパターンが確立できたと興奮しているが、絶対に体というか精神の方がヤバいはずだ。

 そもそもあのブーメランパンツの所為で、自分がどうだったかの記憶があまりない。

 そこが怖いので、この時点で脱出する事にした。


 正直に言って、1800を三匹も倒してるんだから、一回の収入としては十分すぎる。

 ここは命の安全をとった方が絶対に良い。

 そう思った俺は、善は急げとばかりに<帰還転移>を選択。

 異界から脱出した。




 「うぉっ!?」


 外に出た俺は、その一瞬で膝から崩れ落ちる。

 正直に言って、ここまでだと思ってなかった。

 どうやら今の俺の状況は良くないらしい。

 とりあえずどこかで休もうと思い頭を上げると、そこにはエルトアリアさんが居た。


 「どうも様子がおかしいと思って飛んできましたが、まさか異界にやられているとは思いませんでしたよ。

 そんなに長く居たので?」


 エルトアリアさんが俺を抱きあげるものの、それはお姫様抱っこだった。

 流石にこれは恥ずかしいので止めてもらえませんかね?


 「前に一度しているので今さらですよ。

 それに立ち上がる事も出来ない者が言っていいセリフではありませんね」


 あ、はい。すみません。

 長く異界に居たつもりは無いんですけど、面倒なのに絡まれまして……


 「面倒なの? ……ルヲンヌ」


 転移で景色が変わると、俺の意識はブラックアウト。

 一瞬で気を失ってしまった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:エルトアリア



 「失敗しましたね。

 そういえば虚界でさえ辛い時には、人間を地球に運んではいけないのでしたっけ?

 ま、とりあえず治療しておきますか。

 カムトアル・ディコス・ヴェルアーラ」


 私は彼を治療しましたが、ここは安静にさせておくのが一番いいでしょう。

 よって、今は床に寝かせておきます。

 まだこの部屋には寝具なども何も無いので、今はベッドに寝かせる事も出来ないのですよね。


 「とはいえ彼をどこかに連れて行くのも危険ですし、私の目の届く所に居てもらわないとい困ります。

 なので寝具が無いのは諦めてもらいましょう」


 屋敷のメイド達の中でも古参の者達に手伝ってもらって、なんとか確保した部屋を良くしている最中ですからね。

 その手を止めるわけにもいかないのですよ。

 本当は止めて付きっきりで居たいのですが、逢瀬の為にも急がないといけません。


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