0037
Side:エルトアリア
人間にも色々と居るとは聞きました。
しかしながら<精魂の雫>である彼が、ここまで強固な理性を持つとは計算外です。
もっと性欲に素直になるのかと思っていたら、碌な経験が無いのは横に置いても冷静さをここまで残すなど……
性欲は強いので安易に考えていたのですが、これは方針転換をせざるを得ません。
説明しましたが、サキュバスは相手の精神と魂と精の全てを受けて満足するのです。
私は精を受けるという事の満足を得ましたが、精神と魂の満足は得られないまま。
その事がここまでの不満を持ち、それが暴走に繋がるなど………。
色々な意味で伝説の存在に相応しいとは言えますけどね、この状況は完全に想定外です。
それでも現状に対処しなければいけませんし、彼と離れるなどという事はあり得ません。
どのみち精に満足していなかった頃には戻れませんし、明らかに私の体に活力があるのが分かるのです。
悪魔は肉体に依存していないとはいえ、肉体に意味が無いわけではない。
それに肉体の影響も受けます。
ただし影響自体は肉体より精神や魂の方が大きいというだけ。
そしてそちらの不満が強いからこそ、精で満足する以上の影響を不満から受けているという事になる。
冷静に分析するとそのような感じなのですが、結局は解決する方法が一つしか思い浮かびません。
それは彼が性欲に素直になり、私を欲望のままに貪る事です。
その充足は私の充足にもなりますので、彼には性欲に素直になってもらわねば………
とはいえ私以外の者に手を出させるのは危険。
彼の精の強さは並のサキュバスにとっては強すぎますし、何より私の心情的に許せません。
最初に彼に襲われるのは私です、それは絶対に譲れないこと。
何かしらの策を考えねばなりませんね。
それはともかくとして、まずは彼に渡す武器と盾になりそうな物を探しますか。
私の本気装備はグローブですので、彼にはそもそも合わないのですよね。
足運びを見た段階で素人だと分かりますし、そんな素人では接近距離で戦えないでしょう。
なのでリーチを稼ぐ必要があるのですが………何かありましたかね?
記憶を掘り起こ、ああ、アレがありました。
アレなら彼が使っても問題ありませんし、新しく作るのも問題ありませんからね。
それにあそこには、もう一つの物もあります。
「こっちって、確か拷問がどうとか言ってませんでしたか?」
「ええ。こちらは拷問部屋です。
そこに使い古しの物が幾つかあるので、それを持って行けばいいでしょう。
特に問題なく使える物ばかりですし、使い古しですから遠慮なく持って行って下さい」
「逆に遠慮したくなるのは気のせいですかね?」
「道具には何もありませんよ。
精々が恐怖や絶望が染み付いているぐらいでしょう。
大したものではありません」
「恐怖や絶望………」
それらが染み付いているとしても、大した意味など無いのですがね。
しょせんは最高位悪魔たる私に喧嘩を売ったゴミどもです。
どうにもならない相手に喧嘩を売ったのですから、道具の染みになったとしても仕方ないのですよ。
拷問部屋の中に入り、私は彼が使えるであろう物を壁から取り外します。
まずはコレですね。
「これって………トゲ付きの棒?」
「ええ。
小角杖というのですが、このトゲ部分が皮膚に食い込んでズタズタにするのですよ。
【治癒魔法】を使いながら、何度も何度も繰り返し行う為の物ですね。
なので恐怖や絶望が染み付いているわけです」
「…………まあ、ステッキより長いですから使い勝手は良さそうですね。
拷問用の道具だとい、SD濃度124!?
ステッキよりも高い!!」
「これは拷問用なので意図的に魔力濃度を減らして作っているのです。
でなければ一撃で殺しかねませんからね。
これはあくまでも拷問用であり、苦痛を与えねばなりませんからこの程度なのです」
「いや、この程度って………」
「あの剃刀などは、SD表記で2100ほどありますよ?
あれはインキュバスの股間のアレを縦に切り裂く用ですからね」
「…………聞きたくなかった」
「心配ありません。
切り裂いた後で治して、また切り裂きますから」
「もっと聞きとうなかった!!」
「玉を切り落として再生したりもしましたね。
あれは特に切れ味を良くした物ですから、痛みはむしろほとんどありません。
ま、後になって激痛がやってくるのですが」
「でしょうね。
鋭利過ぎる刃は切られてすぐだと痛みを感じないと聞きますし、あの剃刀はそういう類の物だというのはSD濃度からも分かります」
「他にはあの針ですかね?
あれもSD表記で言えば2000ぐらいあるでしょう。
目に突き刺したり、口を縫い止めたりと色々とする為の物です」
「容赦ねえ………マジで悪魔だ」
「いえ、そもそも悪魔ですよ?」
「分かってます。
いえ、分かってませんでした!
こうもハッキリと悪魔なところを見ると、やっぱり悪魔なんだと改めて理解しましたよ。本当」
「流石に誰も彼もにやったりしませんよ?
これはあくまでも私の敵になった愚か者に対するものでしかありませんしね。
流石に誰も彼もにやると思われるのは心外です」
「いえ、そんな事は思ってませんよ……」
ええ、知っています。
とはいえ、ちょっと引きすぎだと思えるくらいに引いているので、多少はマシにしておきたいのですよ。
コレが原因で私から一歩引かれても困りますからね。
あくまでもゴミどもを潰す為の場所でしかありませんし。
後もう一つを渡したら、さっさとここから出ましょうかね。
ここは彼を連れ込んではいけない所だと分かりましたし。
「もう一つはコレです。
盾としても使えるようにデザインした、いわゆる遊びのような物ですね」
「ベッタリと赤いのが付いてるんですけど………っていうか、スパイクシールド?」
「おっ、地球にもあるのですか?
それなら分かりやすいですね。
これは構えて突進し、相手を突き刺して遊ぶ用の拷問具です。
盾としても使えるようにした拷問具なので、結構な数の者の血が染み付いていますよ」
「………構えて突進って事は体当たりって事ですよね?」
「そうですよ」
「それって拷問じゃなくて戦闘って言いません?
いや、相手が鎖に繋がれていたら拷問でしょうけど。
もしくはそこの磔台のような物に固定されるとか」
「固定される、ではなくて、固定してから使う物ですよ?」
「やっぱりか! 逃げ場がねえ!!」
おかしな事を言いますね? 拷問なんですから逃げ場を作る訳がないでしょう。
そもそもですが、そこの磔台は特注の品で、SD表記で3000ほどあるうえ呪い付きなのですがね?
もちろんゴミを逃がさない為にそうしてあるのですが、最高位悪魔には効かないのが難点でしょうか。
そこにも効くようになれば更に優秀になるのですが、流石に虚界の素材でもそこまでの物は作れないのです。
可能性があるとしたら異界なのですが、あそこはまだ探索できていないのですよね。
私が行くわけにもいきませんし、困ったものです。
あの厄介な空間、なぜか魔力を多く保持している者ほど殺そうと牙を剥いて来るのですよねえ……。
虚界に出来たものだからでしょうか?
その辺りの研究結果は私にさえ明かされていないので、おそらくは分かっていないのだと思います。
結構多くの者が犠牲になっていますし、今は各国ともに悪魔はほとんど入っていないはず。
下っ端の悪魔ならそこまで危険は無いのですが、実力者であるほど入れないという面倒なルールを持っています。
本当に厄介なのですよね。




