0036
Side:橘八重
流石にそろそろ帰してもらおうと思った俺は、エルトアリアさんに言って鳥居まで送ってもらおうと声を掛ける。
いつまでも悩んでいられても困るしな。
そう思っていると、何やら予想外の返事が返ってきた。
「鳥居に送る事はしません。
あそこ、よくよく調べてみると監視カメラが付いていました。
貴方を監視カメラに映すと女王にバレる恐れがあるのです。
なので極力映さない方がいいでしょう」
「監視カメラが………でも、映らなければ余計に怪しまれませんか?
あの映っていたヤツが急に映らなくなったと」
「…………それもそうですね。
となると、適度に映っておくのが一番いいのでしょうか?
しかし適度といっても、どれぐらいの頻度ならよいのか難しいですね。
とにかく私と一緒に鳥居の前に行くのはマズいのは確実。
女王でなくともバレますし、確実に報告が行くでしょう」
「<木を隠すには森の中>と言いますし、人混みに紛れるのが一番いいんですけどね。
ですがそれは出来ません。
事故防止の為に5秒待ってから入る事に決まってますから、顔は絶対に映ると思います」
「なるほど、5秒空いていれば確実に顔は映るでしょうね。
となると先程言っていた通り、人間の数が多い時間帯に紛れ混む形で移動するのが一番でしょう。
数多くいる内の一人なら分かり難いはずです」
「それですかね。
となると朝早くに移動するのが一番良さそうです。
なので明日から……って、しまった。
明日の前に今日店に行って盾を買ってきておかないと」
「いえ、それよりも送る前に適当な物を探しに行きましょう。
私の普段使いでは駄目でも、何かマシな物があるでしょう」
そう言って着替えを手早く済ませるエルトアリアさん。
やっと服を着てくれたけど、随分と粘ってたなぁ。
絶対に話に集中してるフリだけだったろ。
これみよがしに見せつけてきてたしさ。
「やはり駄目でしたか。
明らかに興奮していないのが分かるのですよね。
なぜなのかは分かりませんが、もしかして男が相手でないと駄目なのですか?」
「違います!」
「ですよねえ。
私がアピールするまでは、散々チラチラ見てましたし。
にも関わらず見せつけようとしたら見ないとか、嫌がらせですか?」
「それも違います。
堂々と見せられても困惑するだけなんですよ。
俺が説明するのもどうかと思いますけど、いわゆるチラリズムの方が良いって事です」
「チラリズム?」
「チラリズムというのは、チラチラと見えそうで見えないのを好むという事ですね」
「何ですかそれは。
見えない事に何の意味があるので? 訳が分かりません」
「あー……、んー………まあ、いいか。
隠されているからこそ暴きたくなるという気持ちと同じで、見えそうで見えないから必死に見ようとするんです。
最初から見えているうえにアピールされると冷めるんで………」
「意味は分かりますけど、どうかしましたか?」
「い、いえ………」
もしかしてエルトアリアさんって、飢えに慣れてたから誘惑するの下手くそなんじゃ……。
だって精を補給する時はインキュバスの人を拉致してたんだろうし。
「………」
あっ、しまった!! 筒抜けなの忘れてた!!
「………確かに貴方の言う通り、私は誘惑などをほとんどした事がありません。
そういう意味では、正しく私は初心者みたいなものでしょう」
「いえ、初心者かどうかは知りませんが、ただ他の精を集めているサキュバスの人達よりは下手なんじゃないかなぁ……と」
「たとえ他のサキュバスより下手であろうと、私には何の問題もありません。
私は貴方が誘惑できればそれでいいのですし、そもそも私と貴方以外はこの世に必要ないでしょう。
ええ、私達が男と女として在ればいいだけです」
あれ? なんか怖い事を言い出したぞ?
あれだ、ヤンデなんとかみたいな感じで、ちょっと思考がヤバい方に向いてないかな。
激しく嫌な予感がしだしたぞ。
「ええ、全くもってそうなのです。
そもそも他の者どもなど必要性がどこにもないのですよ。
貴方を誘惑するのは私だけでいいのです。
他の者など存在すら必要ありません。
ええ、存在する事自体むしろ邪魔でしょう」
なんかメチャクチャな事を言い出したぞ?
<精魂の雫>ってサキュバスを病ませる力の事なの?
狂わせるって、そっち系?
こういう時って、いったいどうしたらいいんだ?
なんか思考がどんどんヤバい方に行ってるぞ。
早く何とかしないと、マジでヤベー事になる未来しか見えない。
だってこのヒト最高位悪魔だし、かなりの事をやりたい放題に出来る実力の持ち主だし。
「そうと決まれば早速動かなければいけませんね。
邪魔な者は須らく滅ぼしてしまわないと……」
もっとヤベー事を言い始めたぞ。
こうなったら、男、橘八重。
やってやろうじゃねえか!
ドサッ
俺はエルトアリアさんを止めるようにベッドに押し倒し、そして
チュッ
「!?」
流石にヘタレと言うな。俺はここで限界だ。
それでも何とか無い知識をフル動員してキスを始める。
これで止まらなかったら色々とマズいんで、なんとか止まってくれ。
「…………チュル」
「!?」
ぬあっ!? なんか舌が入ってきたんだけど、なにコレ!?
もしかしてディープってヤツか。
おのれ、知識にはあんまり無いぞ。
どうしよう?
…
……
………
「襲ってきてくれたのはいいのですか………なんだか微妙でしたね」
「すみません。
っていうか、キスしたのも初めてなんですから勘弁してください。
アレが限界です」
「まあ、それでも貴方から襲ってきてくれましたかね。
そこは前進というか進歩した部分でしょう。
それにしても今なら分かりますが、私は相当にマズイ事を考えていましたね?」
「ええ。冗談という雰囲気ではありませんでしたよ。
本気で滅ぼそうとしていました。
流石にシャレになっていませんし、本気だったなら、とんでもない戦争になっていたかも……」
「まさか<精魂の雫>がここまで強い影響を齎すとは思いもしませんでした。
定期的に摂取するのも考えなければいけないか、それとも貴方から襲ってもらう事で解消しなければいけませんね」
「は? なんでそうなるのでしょう?」
「おそらく私が暴走しかける最大の理由は、<精魂の雫>よりも欲求不満が解消されないからだと思います。
そもそも気絶している相手にしても、それで解決する話ではありませんからね」
「まあ、やっている事は強姦ですしね」
「そういう事ではありません。
別にサキュバスは精だけを欲している訳ではないのですよ。
そこに至るまでの精神やら魂の高揚なども含めて食事なのです。
ですが気絶している貴方は当然意識が無いので……」
「つまり、精神や魂という部分が全く無い?」
「ええ、そこが満たされない故の暴走でしょう。
むしろ精だけは満たされるので、余計に強い不満になっているのだと思われます。
それがおかしな形で出ている故の暴走なのでしょうね。
さっきのは色々駄目で下手でしたが、少なくとも精神の方は多少ありましたからね。
それで少々だけ落ち着いた感じです」
「少々だけ、ですか……」
結構自分から行くって大変だったんだけど、それで少々だけかぁ……。
かなり腹を括らないと出来なかったんだけど、あれ以上となると相当に気合を入れなきゃ無理だぞ。
「そんな気合など要らないのですよ。
もっと、こう………私を貪ろうとして下さい。
性欲の全てをぶつけるのです。
それが私達サキュバスにとって大きな意味を持つのですから」
それ、猛烈にハードルが高いんですけど?
そもそも性欲の全てをぶつけるって、色々と駄目すぎる気がする。
もちろんエルトアリアさんはサキュバスなんだけどさ。
こう……なんか違う気がする。
リアクションありがとうございます




