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 Side:橘八重



 流石にずっと裸で話をするのもなんなので、俺はさっさと服を着た。

 その際に装備も確認したんだが、何故か円盾とステッキが無い事に気付く。


 「あれ? ローブとマスクはあるのに、円盾とステッキが無い?」


 「ああ、あの二つなら盗人どもが持っていたので、【火柱】と【爆発】の魔法の巻き添えで壊れました。

 今頃は残骸を掃除して捨てたのではないですかね?」


 「え、えぇ………

 武器も盾も無くなったって事ですか?

 まあ、家に手に入れた棒は置いてありますけど……」


 「代わりに私が使っていた箒(ほうき)とトレイをあげましょう」


 「いや、箒(ほうき)とトレイって………」


 そう言うと、目の前にその箒(ほうき)とトレイが出された。

 なので確認すると、ARの表示にSD濃度1741と1829と出た。

 


 「…………いや、おかしい。

 おかし過ぎて驚きすぎて、言葉が上手く出ない。

 っていうか、絶対に普通の箒(ほうき)とトレイじゃないよ。

 SD濃度1741と1829ってなに?

 幾ら何でも異常過ぎるでしょ」


 「私の普段使いの物は、こんなものですよ?」


 「普段から何と戦う事を想定してんの? これ悪魔の人達でも殺せるでしょうよ」


 「??? ……何を言っているのか分かりませんが、当たり前でしょう。

 いつでもどこでもゴミをブチ殺せる。

 その為に私自らわざわざ作ったのですから」


 「え? 自分で作ったの!?

 こんなメチャクチャな物を?」


 「メチャクチャではありませんよ。

 そもそも普段使いだからこそ、この程度なのです。

 戦闘用の物は遥か上ですし、この程度の物ではありません。

 こんな物では虚界十三傑には傷一つ付けられませんからね」


 「うわぁ………これで傷一つ付かないってシャレになってない。

 流石は最高位悪魔の人達だ、尋常じゃないな」


 「ですので人間如きにSD濃度でいうところの100が出回っても何の問題もないのですよ。

 私達にとってはSD濃度、つまり魔力に似た物の濃度より、異界浸食率の方が厄介です。

 あれの所為で魔力防壁が破られる可能性が高いですからね」


 「ああ、異界浸食率か。

 そういえば、このマスクなんですけど、何故か異界の中で次に行くべき方向が分かるんですよ。

 薄い墨みたいな物が流れていく様が見えまして、で、そっちの方向に行くと次の地形に行く為の場所だったんです」


 俺はせっかくなので、マスクのよく分からない効果をエルトアリアさんに聞いてみる事にした。

 目線は当然逸らしている。

 だってこの美人さん、わざと見せつけてくるんだよ。

 そろそろ服を着ればいいのにさ。


 「そんな事を考えながらチラチラ見ているのですから、説得力は欠片もありませんよ。

 むしろ堂々とハッキリ見て興奮して、そして襲ってください」


 「なんでそこまでウェルカムなのかはともかく、話を続けたいので服を着てください。

 ハッキリ言うと話に集中し辛いんですよ」


 「仕方ありませんねえ」


 そう言いながら俺にアピールするようにワザと動くの止めてもらっていいですか?

 流石にワザとらし過ぎます。


 「む? 少し冷めてきたのが感じとれます。

 コレは失敗でしたか」


 いったい契約を何に使ってるんですか。

 それ絶対に魂が繋がってるから把握できるんですよね?

 色々とおかしな使い方をしている気がするんですけど?


 「サキュバスにとっては正しい使い方ですよ。

 ええ、サキュバスにとってはこれ以上は無い正しい使い方です」


 女王の事を色欲の権化と言ってたけど、エルトアリアさんも十分に色欲の権化な気がするぞ?

 サキュバスだから普通だとは思うけど。


 「全然違いますよ。

 色欲とはそもそも不特定多数の者と関わりを持つ事を色欲というのです。

 つまり不貞とよく似た意味ですね。

 私が誘惑しているのは貴方だけなのですから、これは色欲には当たりません。

 恋人や夫を誘惑しても、それは普通の事でしかないのですよ」


 「へー、そうだったんですね。

 知りませんでした」


 「他の者達も同じです。

 例えば努力して手に入れた能力に自信を持つのは、傲慢とは関わりありません。

 正当な怒りを持つ事は、憤怒には当たらないのです。

 結果として誰かや何かを助ける事になるのであれば、それは強欲ではありません。

 自らを高める為のものであれば、それは嫉妬とは言わないのです。

 そして不必要な事をしないのは怠惰とは言いません。

 必要な分なのであれば、食べ過ぎても暴食にはならないのです」


 「う、うーん…………

 つまり、それぞれの大罪には範囲があって、そこに入っていなければ大罪には当たらない?」


 「そうです。

 それぞれの好みによって、ぞれぞれの系統の悪魔に変わっているだけ。

 それが悪魔というモノなのですよ。

 つまり別系統の悪魔に変わる、なんて事は普通にあるのです。

 その悪魔が強くそれを求めればね」


 「傲慢が嫉妬になったり、暴食が強欲になったりするって事ですか?

 肉体もそれに合わせて変わる?」


 「ええ、変わりますよ。

 そもそも私達悪魔は肉体に依存していないのです。

 だからこそ系統が変われば肉体も変わる。

 あくまでも系統別に肉体が変わっているだけです。

 不思議な事ですけどね。

 サキュバスやインキュバスは元々こうですが、中には肉体が変化してきた系統の悪魔も居ますよ」


 なんだか悪魔ってややこしいな。

 肉体の見た目が変わったりするのは、肉体に依存していないからなんだろうけど、それにしても系統の中でも変わるとは……


 「例えばですが、怠惰の昔の姿は手足が長くて毛の多い生き物の姿でした。

 滅多に動く事すらなく、いつも億劫(おっくう)そうにしていましたね」


 手足が長くて億劫(おっくう)そうにしてる?

 ………ナマケモノかな?


 「そのナマケモノを知りませんが、怠惰は確かに怠け者ですね。

 だからこそ怠惰なのですし。

 それに嫉妬はかつて二足歩行の狼だった時期もあります。

 元々が蛇だったので、今は古い時に戻ったという感じですね」


 「二足歩行の狼って、それ普通にワーウルフかコボルトじゃないの?

 ゲームでそんなイメージあるけど」


 「ゲームがよく分かりませんが、強欲はかつて狐の顔を持っていた時期がありますね。

 今は何故かツルツルになってますけど。

 それに憤怒は角を持った馬の上半身を持っていましたよ。

 その時の下半身は猪のような四つ足でしたが」


 「バラバラというかメチャクチャというか……。

 まあ、人間の想像に当てはめてはいけないんでしょうけど、不思議な見た目になるんですね?」


 「そうですね。

 暴食もかつては四つ足で顔が蠅でしたよ、今は豚の顔と人間型の体ですが。

 古くから全く姿が変わらないのは、私達色欲だけです。

 何故か私達だけは全く姿が変わらないのですが、私達にとっては楽でいいというぐらいでしかありません」


 楽でいいって………。

 つまり姿形に拘りは無いって事なんだろうな。

 とはいえ人間じゃなく別の姿になった段階で、おそらく俺の性欲は全く湧かなくなるだろうけど。

 流石に人間型以外に性欲は持てないし、そこまで変態じゃないからね、俺。


 「!? ……これは意地でも今の姿を維持しなければいけませんね!」


 「そこまで気合を入れなくても………。

 日本に行っている色欲の人達って多いですし、人間を誘惑するなら人間型の方が有利ですから放っといても変わらないのでは?」


 「それならいいのですが………」


 なんだか悩み始めたな?

 それはともかくとして、そろそろ地球に帰してほしいんだけど、なんだか言い出せない雰囲気だ。

 もうちょっと待たなきゃ無理か。


 エルトアリアさんが何かしても、種族全体の見た目なんてどうにもならないと思うけどな。

 それとも何かしらの方法で変えてるのかもしれない。


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