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Side:エルトアリア
まさか彼が住んでいるのが家畜小屋だとは思いませんでした。
いったいこの日本という国はどうなっているのでしょう?
私の夫………候補を家畜小屋に住まわせるなど、万死に値するのですがね?
「何か怒ってるみたいだけど、これが普通だよ。
そもそもタダで住まわせてもらってるし、お金のある人は引っ越すからね。
つまりここはお金の無い、いわば探索者の新人や底辺が住む所だよ。
だからあえてこういう所なんだ。
上に上がる意欲を持たせる為でもある」
「ああ、なるほど。
このような家畜小屋が嫌なら頑張って上へと上がれ、というのであれば分からなくもありませんね」
「それに実家とか、自分の家がある人はそっちから通ってるよ。
俺は実家に居たくないというか、迷惑を掛けるのが嫌だから出ただけだしね。
これ以上、祖父母に迷惑を掛けるのも嫌だったっていうのが大きい」
「そうですか。
それはともかく、この狭さでは満足にする事も出来ませんね。
ここでは流石に駄目です」
「いや、する気ないから。
仮にするにしても、ここじゃないよ。
まだ頭がそっちに行ってるの?
それはともかくとして、俺はまだまだお金が無いから、当分はこのオンボロアパート暮らしだよ」
「そうですか。
可能な限り早く日本に居を移す必要がありますね」
「仮に居を移しても一緒には住まないよ」
「えっ………」
カレハイッタイナニヲイッテイルノデショウ……
「いや、自分の力で上がらなきゃいけないんだから、自分で実力をつけて良い暮らしをしていくよ。
エルトアリアさんに乗っかって良い暮らしをするのは違うでしょ」
「そんな事はありません、どんどん乗っかればいいのです。
むしろ乗りかかって下さい」
「いや、断る。
それじゃ完全に駄目なヤツでしかないし、流石にヒモになる気は無いよ」
「ヒモ? 紐がなぜ出て来るので?」
「女性にくっついて働きもしないヤツをヒモって言うんだよ。
俺はそんなヤツになりたくないからね、これからも自分で暮らしをよくしていくよ」
「そうですか。
気にしなくてもいいのですよ?
私を満足させられるのは貴方だけなのですから。
それの対価だと思えばいいだけでしょう」
「いや、女性とするのに対価とかいう考え方はちょっと……」
「?」
なんだかよく分かりませんが、人間の男の拘りか何かでしょうか?
我が国では精を売っているインキュバスも普通に居るのですがね?
あれも結構大変な仕事ですし、需要は多いのですよ。
とはいえ彼が精を売りだしたらとんでもない事になるので、絶対に阻止しなければいけませんが。
「ですので当分はこのままですし、何より進化というのが気になるので異界探索は続けないといけませんからね」
「そうです、進化をしてもらわねば困るのでした。
今以上になれるのですから、それは素晴らしい事ですしね。
期待しか出来ません」
「それは期待が重すぎる気がするんですがね。
それはともかくとして、俺はもうゆっくりしようと思うのですが、エルトアリアさんはどうします?」
「私は一度屋敷へと帰って色々としなければならない事をしてきます。
早い方がいいですしね。
それでは………ルヲンヌ」
私は直接虚界の屋敷の自室へと飛び、そこで地球への移住準備を始めます。
なるべく良い場所にして、いつでも彼を引っ張り込めるようにしておかなければいけません。
彼の住む部屋があれでも、私との逢瀬の部屋があれではね。
納得など行きません。
屋敷の地下に彼を呼び込んでもいいのですが、どのみち娯楽が多そうな向こうに居を移す事はしなければいけない。
となれば今の内にやるのがいいでしょう。
急ぐべき時は急げ、です。
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Side:橘八重
一昨日、昨日と休んだからか体調は万全だ。
そして今日の朝、政府から緊急発表があった。
それはサキュバスの国より、探索者に対して武具の支援を行うというものだった。
どうやらエルトアリアさんが言っていた事が現実になったらしい。
最高SD濃度100までの武具を販売するとのこと。
SD濃度は20刻みで販売されるらしく、最低の物は別枠で5なんだそうだ。
そしてこれは安いらしい。
理由は簡単に作れるからと、新米の手慰み程度の物だからだそうだ。
掲示板では「新人の手慰みワロタ」と書かれていた。
虚界の国の職人は、新人でさえ魔力の篭もった物が作れるという事実に笑ったんだろう。
地球では誰も成功していないから当然だけど。
俺はちょっと強力過ぎる武具を貰っているのでアレだけど、これで虚界探索の難易度が下がるといいな。
今日探索に行ったら、明日一度SCCに行こう。
そろそろSDを売ってお金に換えておきたい。
差し引きはプラスだけど、売って確定させておきたいという気持ちもある。
何故なら掲示板にSDの価格は暴落するんじゃないか? って書かれていたからだ。
理由は武具が出回る事によって、沢山のSDを持って帰れるという事を挙げていた。
確かに供給が増えれば安くなるのは当然でもある。
なら売値が下がる可能性は十分にあるし、それなら今の内に売った方がいいに決まってる。
いや、今日の内に台場のSCCまで行って売ってこよう。損するのも嫌だし。
よし、善は急げだ。飯食ったらさっさと移動しよう。
俺は久しぶりに台場のSCCに来た。
んだが………同じ事を考えた人が多いのか、混雑している。
こんな中にローブとマスクをしている怪しい人物が居たら、目立たないはずもなく………
「おい、お前!!
そのローブとかどこで手に入れやがった!!」
こんなヤツが現れるよなぁ………。
なんだか厄介な事になったと思いつつ、“誰”とは言っていないので無視する事にした。
俺だと確定するまで惚けておこう。
「おい、お前!! 無視するんじゃねえよ!!
テメーだ、ガキ!!」
「………」
俺はSDを売ろうとしている人達の最後尾に並んでいるが、周りは明らかに俺だと分かっている。
が、俺は未だに無視を決め込んでいた。
「テメー、無視するとはいい度胸してるじゃねえか!!
ブチ殺されたいなら、ここで死ねや!!!」
なんだコイツ、短絡的すぎるだろ。
そう思ったら、特攻服を着たヤンキーだった。
思わず「げっ」っていう声が出たよ。
「ああん? テメー、オレ様を見て「げっ」とか言うってどういうこった。
あんまりナメてっと今すぐコロスゾ?」
「そこの貴方、いったい何をしているのですか?」
「げっ!?」
お前も言うのかよと思うが、コイツは俺と同じ中学卒業で異界探索者になった、俺より二歳年上のヤンキーだ。
界隈では割と有名な人物で、動画のファンも意外に多い。
特攻服の背中には「喧嘩一番」とデカイ字で刺繍がしてある人物で、動画のコメント欄や掲示板などでは「一番くん」と言われている。
「いったい何を騒いでいるのですか? 事と次第によっては叩き出しますよ」
「い、いや待ってくれ。
こいつが明らかにおかしい装備を持ってるから、オレは聞こうとしてただけだ」
「おかしい………? 特に何の変哲もない、さして魔力も篭もってない物がどうかしましたか?」
「いや、魔力が篭もってねえって、SD濃度131はおかしいだろ!
100を超えてるんだぜ!?
まだ発売もしてないはずなのに、なんでSD濃度が100を超えた物を持ってんだよ!!」
「そういえばそうですね?
貴方、それはどこで手に入れたのですか?」
「これは、とある家の方から頂いた物です。
色々としたので、そのお礼としてですね」
流石にアロハヌス家の名前を勝手に出すわけにはいかないからな。
濁すしかない。




