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 Side:橘八重



 「はあ? もらっただと?

 そんなもんくれるヤツがどこに居るんだよ!

 嘘を吐くんじゃねえ、盗んだか奪ったかしたんだろうが!!」


 「盗むはともかく、奪うは無理でしょ。

 どうやって悪魔の人達から奪うんだよ。

 そんな事したら、即刻殺されるだろうに」


 「語るに落ちるたぁ、テメーの事だ。

 今、盗むって言ったからなぁ!!」


 「説明で言っただけだろうに何言ってんの?

 話が全く通じないんだけど、誰か通訳出来る?」


 周りを見回すと誰も関わりたくないのかスルーされた。


 まあ、分かるよ。

 こんな面倒臭いヤツと関わりたい人なんて居るわけが無い。

 ヤンキーってだけで誰だってお断りだよ。

 俺だって関わらなくていいなら、関わりたくない。


 そう思っていたら、仲裁に入った嫉妬の悪魔の人がこっちに向いて口を開く。

 下半身が蛇だから、嫉妬系の悪魔の人だって簡単に分かるので助かる。


 「確かにこちらの者の言う通り、貴方がその魔力濃度の装備を持つのは不自然です。

 誰かから貰ったのであれば、きちんとその名を出しなさい」


 「いやー、貴族の方なので名前を出していいか分からないんですよ。

 出していいなら出すのですが……」


 「はっ! 貴族とか言い出せば黙るとでも思ってんのか?

 テメーの頭の中にしかいねえ貴族とか出してくんじゃねえ!!」


 「この者の言う事など価値もありませんが、少なくとも頂いたのであれば名を出さぬのは無礼ですよ」


 「あっ、そうなんですね。それは知りませんでした。

 これはサキュバスの国の第四位魔性貴族であるアロハヌス家の御当主様より頂いた物です」


 「アロハヌス…………なんでしょう、急に嫌な予感がしてきたのですが?

 あまり聞きたくありませんが、それでも聞きます。

 無貌の方より頂いたのではありませんね?」


 「無貌って……ああ、エルトアリアさんの事ですか。違います。

 御当主であるシャルヴィオさんから頂いたものですよ」


 「私は嫉妬系の悪魔なのでサキュバスの国には詳しくないのですよね。

 誰か分かる方に………」


 そう言って嫉妬の悪魔の方が辺りを見回すと、ちょうどイージェルさんを発見。

 すぐに呼んで事情を確かめ始めた。


 「第四位魔性貴族家であるアロハヌス家の御当主は、確かにシャルヴィオ・アロハヌス様よぉ。

 とはいえ、よく知り合いになれたわねぇ。

 アロハヌス家の御当主は厳格な方として有名なんだけどぉ………」


 「まあ、色々とありまして………」


 「ほら見ろ。

 名前だけ出して嘘を吐いてやがる! コイツは口だけのヤツだ。

 ぜってーに嘘を吐いてるに決まってる!!」


 なんでそんな短絡的に決めつけるんだろうな?

 俺が良い物を持ってるのが気に入らないのか、それとも俺から奪おうとでも思っているのか……

 おそらくだけど、どっちかだろうなぁ。


 「そういえば、貴方まったく心が読めなくなってるわねぇ?

 もしかして精神防壁が使えるようになったぁ?

 それもアロハヌス家の方からかしら?」


 「それは違いますね。

 記憶の宝珠を運よく手に入れたからですが、これ以上は貴族家の中の事なのでちょっと……」


 「あー、うん、そうね。

 そこは私達が聞くと妙な事に巻き込まれかねないから遠慮したいわぁ。

 とはいえー、このままというのもちょっとねぇ………」


 「貴方は何か証明する物を持っていないのですか?

 アロハヌス家の家紋が入った物などは?」


 「いえ、流石にそんな物は持っていません」


 「そらみろ!! こいつはどっかから盗んできやがったに違いねえ。

 皆、コイツの顔をよく覚えておけ! 何を盗まれるか分からねえぞ!!」


 こいつもイジメをやっていたクズどもと同じだな。

 何も変わりはしない。

 一方的に決めつけて相手を悪だとし、それをする事で自分を正義の側に置こうとする。

 俺のクズ親とそっくりの虫唾が走るゴミだ。


 「ああ? なにガンくれてんだコラ!

 テメー、今すぐコロスゾ!!」


 「お前も勝手な事を喚くな。

 この者が盗んだと決まった訳ではないのだ。

 もし本当であってみろ、貴様アロハヌス家に殺されるぞ。

 貴様の言っている事は貴族の面子を傷つけるに等しい」


 「………」


 流石にヤンキーだからか、相手の、それも上位者の面子を傷つけるのはマズイと理解したようだ。

 しかしこのままじゃ埒が明かないし、いつまで経っても換金できないぞ?

 どうするか………あ! 今思い出した。


 「今思い出したんですけど、間接的な証拠ならあります。

 ちょっと待ってください」


 俺はそう言ってローブを脱ぎ、そして中に着ていたTシャツを脱ぐ。

 今の季節は5月頃なので大丈夫だが、冬場だったら寒さで凍えてるところだ。

 それはともかく上半身を裸にした俺は、胸元のエルトアリアさんとの契約印を見せた。


 「なにやってんだ、テメー!

 そんな貧相な「契約印!?」モン……」


 「それもコレは!! いったいどうやって……!!!

 いえ、あの方が人間と契約をした!?

 そんな事が本当に!?」


 「あらぁ………コレは完全な証拠じゃないの。

 うわぁ………本気であの方と契約したのねぇ。

 それも対等な契約な上に、異常なほど強固に契約してあるわぁ。

 コレ完全に「私のモノに手を出すヤツは殺す」と言わんばかりじゃないの」


 「貴族どころではない。

 虚界十三傑と呼ばれる最高位悪魔の御一柱、<無貌のエルトアリア>様の契約印だ。

 あの<無貌の滅殺事件>にて、怒らせた者達を無表情に淡々と始末していった、あの<無貌のエルトアリア>様のだ。

 初めて見たぞ、この契約印」


 「私も初めてよぉ。

 でもここにハッキリと書かれているわ。

 エルトアリア・ウェル・デヌートゥラ・アロハヌスって」


 イージェルさんが契約印の外周に沿って指を滑らせるのでくすぐったい。

 ちなみに契約印は二重の〇になっていて、その二重になっている部分に契約者の名前が書かれているらしい。

 魔法文字と呼ばれる物らしく、俺にはサッパリ読めない。


 そして〇の中心には女性の横顔が描かれている。

 何故か顔は描かれていないものの、輪郭や髪は描かれていて、どう見てもエルトアリアさんの横顔なんだよな。


 「もうこの契約印が間違いのない本物の証よぉ。

 そもそもエルトアリア様は初代アロハヌス家の御当主であり、女王陛下と肩を並べる我が国の重鎮。

 その方の契約印を見せられて信用しないバカは居ないわねぇ」


 「………」


 ヤンキー君は完全に黙ったうえ、周囲は「ヒソヒソ」と話してる。

 どっちかは分からないが、おそらく俺がどうこう言われている訳じゃないと思う。


 「そろそろ服を着ても大丈夫ですかね?」


 「ええ、いいわよ。

 とはいえ………少し前まで唯の新人だったのに、いきなりとんでもない方と契約したわねぇ。

 ここに居る者達にも言っておくけど、この子に何かすると虚界十三傑が一柱、最高位悪魔である<無貌のエルトアリア>様に喧嘩を売る事になるから注意しなさい。

 即刻殺されるわよぉ。

 あの方は一切の容赦をしない方だから」


 「うむ。

 先程も言った、<無貌の滅殺事件>を起こした方でもある。

 同じ最高位悪魔の方ぐらいしか止める事は出来んからな。

 それに………」


 「本当に強固に契約してあるのよねえ………。

 この契約の時、とても長い時間が掛かってなかったぁ?」


 「それなりには長かったと思います。

 とはいえ契約の長さ自体をそもそも知らないので………」


 「ああ、人間には分からないかぁ。

 とはいえここまで強いと逆に怖いわねぇ。

 何がここまでエルトアリア様を掻き立てたのかしらぁ?

 女王陛下ですら、どうにもならないほどの強固な契約にしてあるもの、ちょっと気になるわねぇ。

 といっても命が惜しいから首は突っ込まないけど」


 「それがいいだろう。私も興味はあるが、首を突っ込む気はない。

 ここまで強固だと、なにかした段階でエルトアリア様にバレる。

 これは逐一監視されているに等しい契約だ」


 「えっ!? ……聞いてないんですけど?」


 「…………御愁傷様ね?」


 そんな同情が山ほど篭もった声なんて、聞きたくなかったです。


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