0025
Side:橘八重
どこに寝かされているかは分からないけど、俺はどこかに寝かされているらしい。
今だに視界が真っ暗で見えないので、ここが本当に築地かどうかも分からない。
とはいえそれより何より、なんか胸を触られてるんだけど。
俺そんな趣味ないよ?
「何の趣味の事を言っているのか分かりませんが、これは必要な事をしているだけです。
ええ、必要な事をしているだけです」
いや、必要な事って言われてもサッパリ意味が分からないんですけど?
男の胸なんて触って、いったい何の意味があるんですかね。
「今からですよ。
ムル・ヲスク・ラ・デミク・フォル・カーム・アロ・サイブ・ゲルヒ・ア・ガルト・オム・ヒ・デルサ・ゾ・ガームイナス・エルデ・クヌ…………」
なんか急に長い詠唱が始まったぞ?
【魔法】なんだと思うけど、一音節で使える最高位悪魔が長く詠唱してるって……なんだか怖い気がするな。
呪いでも掛けられるんだろうか?
そういうのは、ちょっとお断りしたいんですが……
「………オル・ゾルム・アン・ゲレデ・コーム・ウェノ・エルトアリア!!!」
うん? エルトアリアって自分の名前じゃん。
なんで【魔法】に自分の名前を加えてんの?
「ふぅ………大丈夫ですね、完全に定着しています。
先程行っていたのは【魔法】ではなく、<印章の儀式>です。
もっと分かりやすく言うとマーキングですね。
こいつは私のモノだ、とする為のマーキングです」
えっ? 何やってくれてんの!?
っていうか悪魔のマーキングって、それ契約って言いませんかね?
勝手に契約されるってどういう事よ!?
「よく知ってますね。
とはいえ契約は一方的に不利になるようなものではありません。
契約印が刻まれた以上、貴方と私の間には魂の繋がりが出来ました。
それによって位置が分かるのと、力を貸す事ができます」
力を貸すって言われても、俺は唯の人間なので意味が無いのでは?
魔力も扱えませんし、得が全く無いような………
「いいえ。
私が力を貸せば虚界十三傑でさえ貴方の心を読むのは不可能となります。
伊達に私も虚界十三傑と呼ばれる最高位悪魔ではありませんからね。
その程度の事は可能なのですよ」
心を読まれなくなるのは助かりますけど、普通に俺の心を読んでますよね?
後、それをする理由が分からないんですが。
「貴方の心は読めるというより筒抜けです。
何故なら契約していますからね。
そもそも契約している間柄であれば、声に出さずとも会話は可能です。
魂の繋がりとはそういうものなのですよ」
そうですか。それって、っと、視界が戻ってきた。
どうやら回復したみたいだ。良かった、良かった。
「とにかく回復しましたし、話すなら俺が住んでるオンボロアパートに行きましょう。
あそこなら…………駄目だ。
あそこ壁が薄いから隣に聞こえる」
「壁が薄い所で襲おうなんて、私を自分の女だとアピールしたいのですね。
いいですよ、ぜひどうぞ」
「なんで乗り気なのかは横に置くとして、そういう意味じゃありませんよ。
聞かれたら困る話でもあるんでしょ?
前回と同じノリの割には強引でしたからね」
「…………意外と女性をよく見ているようで。
そういうところは良いところですから、伸ばしていくといいですよ」
「はあ、どうも。
とはいえ困ったな、オンボロアパートが駄目となると、他に内緒話が出来るところは………」
「あるのではないですか? 男女がヤる為に泊まるホテルがあると聞きますよ?」
「堂々とハッキリ言い過ぎな気がするのは気のせいですかね?
流石にラ〇ホテルは………と思うのですが、背に腹は代えられませんか」
「もっと嫌がると思っていたのですが、意外に乗り気なようで何よりです」
「乗り気じゃなくて、ああいう所なら防音がしっかりしてると思ったからですよ」
なんかいい加減疲れてくるが、とにかく移動しよう。
中央区にずっと居ても仕方ない。
挙句、現在地がよく分からないし、調べてさっさと移動しないと。
という事で歩き始めたんだが、メイド服の女性と並んで歩いてるからか、メチャクチャ目立ってる。
これ逆に失敗なのでは? ここまで目立ったら内緒話とか無理な気がする。
ファミレスとかの方が良いですかね?
「そうですね。
心で会話すればいいだけですので、そちらでも構いませんよ。
直接的に魂が繋がっていますので、同じ領域に居れば会話が可能です。
流石に地球と虚界の間では無理ですがね」
「それはそうでしょう。
そこで通信というか会話ができたら画期的だと思います。
研究そのものはされている気がしますけどね」
「まあ、そういった研究はしているでしょう。
あの女王の事ですし、既に命令もしているでしょうね。
地球の様々な物は良い刺激になったみたいですし。
とりあえず適当な場所で構いませんから、さっさと入りましょうか。
ゴミどもの欲が鬱陶しいので」
「あそこに喫茶店があるので、あそこに入りましょう」
サキュバスもインキュバスも自分に向けられた欲は一瞬で感知できるって言うしな。
そんなのが四方八方から来たら、確かに鬱陶しいだろうな。
カラン、カラン
喫茶店のドアを開けて中に入る。
適当に入った店なのでよく分かっていないが、席に座って飲み物を注文。
俺はアイスコーヒーを頼んだが、エルトアリアさんはクリームソーダを注文していた。
店員の女性がエルトアリアさんを見て固まってるが、気持ちは分かる。
元々からしてビックリするほど美人なんだよ。
ただその無表情っぷりが怖いだけでね。
いや、美人が無表情だから余計に怖いのかもしれない。
今も無表情だけど、だからこそ怖さで固まったのかもしれないな。
(そんな事は無いでしょう。
それはともかくとして、これからは心での会話に切り替えます。
まず、契約をした最大の理由は貴方の心を他の悪魔に読ませない為です)
(それは聞きましたけど、いったいそれに何の意味があるんですか?
もちろん読まれないならそれに越した事はないですけど、そこまでする理由が分かりません)
(貴方は<精魂の雫>………という言葉を聞いた事がありませんね?
もし知っていたら、そんな無防備なはずがありませんから)
(聞いた事はあります。
っていうか、今日異界の中で聞きました。
わけの分からない靄のような連中が喋ってたのを聞いただけですけど)
「お待たせしましたー。
アイスコーヒーとクリームソーダです。
ごゆっくりどうぞー」
飲み物が来たのでストローからアイスコーヒーを飲み、少し口を潤わせる。
心で会話するから意味は無いんだけど、なんとなく話を進めるというか、自分の中のスイッチを切り替える感じの行動だ。
目の前の人は器用にクリームソーダを食べながら話してくるけどね。
(まさか<精魂の雫>を知っているとは思いませんでしたが、異界の中でとはどういう事です?)
(今日、色の変わった扉というものがあってですね。
そんなの初めて見たなと思いつつ、ドアノブに手を掛けたら気を失ったんですよ。
その時夢みたいな感じのものを見て、そこに白い靄と黒い靄が沢山あったんです。
白い靄は大きかったんですけどね)
(ふむふむ、それで?)
先を促されたから話すけど、そもそも<精魂の雫>っていう言葉を聞いただけだから、その意味は全く分かってないんだよなー。
結局なんなんだろう。
エルトアリアさんが、わざわざ契約してまで読ませないようにする理由はあると思うんだけど……
話を続けてたら説明してくれるかな?
駄目ならちょっと強引にでも聞き出そう。
気になるし。




