0018
Side:エルトアリア
さて、女王に説明して多少は改善させなければいけませんが、今日は執務室ですかね?
それとも地下で宴でも開いているのでしょうか………どうやら真面目に執務をしているようです。
珍しいですね? 明日は暴走するかもしれません。
転移してきた城の中庭から城へと入り、そして執務室へと向かいます。
向こうも私に気づいたでしょうが、特に気にする必要もないでしょう。
そう思っていたら、向こうから面倒なのが来ましたね。
「………お久しぶりでございます、エルトアリア様。
いったい何用で来られたのでしょうか?」
「お前が警戒しているのは分かりますが、異界探索者の事で言いたい事があるから来ただけです。
いちいち執務の手を止めるような事ではありませんよ」
「そうですか。………ではこちらへ」
相変わらず慇懃無礼なヤツですね。
とはいえコイツを敵に回すのは得策ではないので引きましょう。
私や女王は正面からの殴り合いを好みますが、コイツは他者に嫌がらせをする事が得意ですからね。
絡んでも面倒なだけです。
倒そうと思えば倒せるのですが、コイツを滅ぼしても城の政務が滞るだけで誰も得をしないのですよ。
だからこそ私にも女王にもズケズケ言ってくるのです。
最高位悪魔に対する敬いなぞ欠片も持ち合わせていませんからね、コイツは。
女王の執務室前まで来ましたが、変ですね? 扉に封印が施されている?
「逃走防止用です」
「ああ、そういう………。
真面目に執務をしているから、おかしいと思いましたよ。
いつもの女王なら地下で派手な宴を行い、発散してからでないと碌に仕事もしないはずですからね」
「代わりにその後は他の者の10倍以上の速度で政務を熟されるのですがね。
貴女様とは正反対の方でございますよ」
「随分と言いますね。
確かに私は大して食いませんし、代わりに仕事もしませんが」
「本当に貴女様は色欲の悪魔なのですか?
どちらかと言うと怠惰の悪魔だと思うのですが………」
「そこまで怠惰ではないから、私は色欲なのですよ。
下らない争いという名の娯楽、それを見る為には勤勉なので」
「色々と駄目すぎる気がしますがね………っと、開きました。
どうぞ」
薦めるので仕方なく私はドアノブを下げて扉を開く。
すると、中から高速で何かが飛んできた為、私はそれを自分の拳で迎撃します。
ドゴォォォォォォォォン!!!
「プレステアーーーッ!! ブチ殺すぞ、貴様ぁ!!!」
「久しぶりですね、女王。
まさか私が分からないほど激怒しているとは思いませんでしたよ」
「あら? エルじゃないの。
…………ところでプレステアはどこ?」
「さきほどまでここに居ましたが、どうやら逃げたようですね。
アレは貴女の怒りを多少下げる為に私を利用したのでしょう」
「………まあいいわ。
アイツが封印を解いたという事は、執務はこれで終わりって事でしょうしね。
何故か執務机の書類が、いつの間にか消えてるし」
「持って行ったのでしょうが、とりあえず部屋に戻りなさい。
怒りは多少冷えたでしょうし、宴をするにもインキュバスどもを集めなければいけないでしょう。
貴女が暴走しても耐えられる連中をね」
「まあ、そうね。
とはいえ最近は若い子の集まりも悪いのよ。
もっとイイ子はいないかしら?」
「相変わらずの色欲の権化で安心しますよ、逆に」
「むしろ最高位悪魔まで上りつめた癖に、異常なほど小食な貴女がおかしいのよ。
私達色欲の悪魔は多くの性と欲によってその力を増やすはず、にも関わらず貴女は………。
色欲の悪魔という存在に、真っ向から喧嘩を売ってるわよね?」
「そんな気もそんなつもりもありませんよ。
そもそも貴女ほどではないと言うだけです。
それはともかく、今日地球の異界探索者、それも新人と話す機会があったのですが……」
「なに?」
「どうも装備があまりにも貧弱なようですね。
その人物は地球製の物を持って異界に行ったそうですよ。
とりあえず向こうの物を持って行くように教えられていると聞きました。
異界の探索が上手くいっていないと聞いていますが、装備が悪すぎるからでは?」
「あー………それは割と色々なところで言われてるんだけど、あいつら平気で叛逆してくるから持たせるのもどうかという話になってるのよねー。
私は別にいいと思うんだけど、怠惰とかは鎮圧が面倒だから反対してるみたい」
「怠惰は当然反対するでしょうね。
憤怒か強欲辺りは賛成しそうですが」
「その通り。
憤怒と強欲は叩く機会に使えるから賛成してる。
該当の国々は好戦的ならしいから、何度も叩いておきたいみたいね。
ついでに若手の力の発散場所にちょうどいいって」
「あれらならそう言うでしょう。
憤怒と強欲が賛成。我が方も賛成となれば、残りが?」
「いいえ、ウチは賛成も反対もしていないわ。
憤怒と強欲と嫉妬が賛成、怠惰と傲慢と暴食が反対。
そして私達色欲が中立。こんなところね」
「暴食が反対………?
真っ先に賛成しそうな奴らが反対とは………明日にでも連中は滅ぶのですかね?」
「流石にそれは酷くない?
暴食の連中が反対してるのは、自分達の取り分が減るからよ。
他の奴らに食い物を奪われるという理由ね。
暴食系が主に行ったのは地球の南アメリカ大陸。とはいえ、あそこの多くを食い荒らしたのよ。
今は地球全体で減り過ぎるのを危惧してる感じかしら」
「既に食べ過ぎで危惧するほどとは……相変わらずですね、連中は。
己の食欲すら制御できませんか」
「制御してアレなのよ。制御しなきゃ食い尽くすまで食べてるわ。
そしてまた悪魔同士の戦争になる。
だからこそ人間が増えるまで自制してるのよ。
ま、増えたらまた食べるんでしょうけど」
「肉体までも食べているのですか?
それでは簡単に数が戻らないでしょう。
人間というのは肉体に依存する生き物ですよ?」
「だから今は負の感情を含めて、精神しか食べてないのよ。
ね? 自制してるでしょ?」
「確かに。
対象を生かさず殺さずで止めているというのは驚きですね。
むしろ喜んで食べそうですが、よく自制するものです。
それはともかく、我々は中立だから勝手に流せないと?
ですが、流さない所為で異界探索者の死亡率が高いと言えば済むでしょうに」
「まあ、人間の死亡率が高いと言えば、聞く耳は持つでしょうけどね。
なぜそこまで人間の異界探索者に拘るのかしら? 別にどうでもいいわよね?
それとも話を聞いた異界探索者に同情でもした?」
「私がそんな事をする性質だと本気で思っていますか?」
この女王とは長いのです、そんな事を思っているなど考えてもいないでしょうに。
というか、ここからは踏ん張って情報を流さないようにしないといけませんね。
流石にあの子の情報を流すわけにはいきません。
この者だと完全に囲ってしまいかねないので。
「まあ、思わないわね。
自分の家の子孫すら娯楽扱いの貴女だもの、人間如きに同情するとかある訳がないわ。
にも関わらず私に言ってくるという事は、何かしらそうした方がいい理由というものがあるのよ。
それも貴女は自分の意見を通す際に、大抵の場合において別のものを持ち出してくる。
たとえば………異界探索者の死亡率」
相変わらず面倒なヤツですね。
こういう所に鼻が利くからこそ女王なんてものをやっているのですが……
「どうやら当たってるようね。
となると理由は一つだけ、その話を聞いた異界探索者が人間の男で気に入った。
だからてだす………って事は食べたのね?」
「………」
「ふぅーーーん………
私が忙しくしている時に、人間の男を美味しく頂いていたわけかぁ……」
「そもそも貴女が忙しいのは女王だからでしょう。
私とは何の関わりもありませんよ」
「………表面を取り繕ってるけど、随分と焦ってるようね?
人間の男を食べたぐらいでは、そんなに焦ったりしないはず。
……………貴女、まさか【精魂の雫】を見つけたんじゃ……!」
コイツ! どうしてこうも勘がいいのですか!?
昔からですが、精神防壁は突破されていないのに何故か勘が鋭い時がある。
それが今回も当たっているとは、運が悪い。
「あの伝説のですか? そんなわけがないでしょう。
魂の強い力が精にまで溶け出す者。
強すぎる魂の力が故に、その精はサキュバスを狂わせるというものですが……
私が狂っているように見えますか?」
「………まあ、狂っているようには見えないわねぇ。
とはいえ結構な男を見つけたのは間違いなさそうじゃない?」
「そこは否定しませんが、渡しませんよ? ついでに味見もさせません」
「あら珍しい。貴女が囲うなんて、むしろ気になるわね?
虚界十三傑の一柱である<無貌のエルトアリア>が後ろ盾になると言うの?」
「それ嫌いなんですが、まだその二つ名が流布されているのですか……」
いい加減、その頭の悪そうな二つ名は消えてくれませんかね?
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