0019
Side:エルトアリア
「それは無理よ。
未だ多くの者が生きているのだし、貴女が無表情に淡々と敵を始末していった狂気の宴は忘れられないわ。
あれは私をして、やり過ぎだと思うくらいだもの。
憤怒の連中でさえそう言っていたのを忘れたのかしら?」
「さて、なんのことやら………。
そういう貴女だって虚界十三傑の一柱、<搾精のアルヴェーダ>でしょうに」
「まあ、私はそのままだから言われても何とも思わないけどね。
貴女とは違って!」
「くっ、嫌なところを突いてきますね。
それよりも今思ったのですが、他の連中は生きているのですか?」
「露骨に話題を逸らそうとしてるから、あえて乗ってあげるわ。
とはいえ他の連中も私達と同じように生きているわよ。
そもそも最高位悪魔が簡単に滅ぶわけがないんだけど」
「まあ、それはそうですね」
虚界十三傑と呼ばれる最高位悪魔は、どれこれも癖が強い面々なんですよね。
それを言うと自分に返ってくるのが何とも言えませんが、他のも似たり寄ったりのおかしな連中ですので仕方ありません。
<高慢のルディオス>
<我王のデシュバラ>
<欲計のウォルメル>
<先獲のクーシュム>
<嫉心のヴィスル>
<妬魂のネルファレ>
<怠情のフィンカー>
<強食のアヌタンド>
<呑喰のユティフィ>
<怒豪のセグヌファ>
<怒塊のパーレンテオ>
<搾精のアルヴェーダ>
<無貌のエルトアリア>
「これが虚界十三傑だけど、未だに新たに加わる者も欠けた者も居ないわ。
怠惰系が一柱増えないかと思うけれど、あいつら怠惰だからねえ……」
「相変わらずですが、私だけが全く関係の無い二つ名なのですよね。
他の者は何かしら関りがあるのですが……」
「一人だけ顔が分からないとか正体不明という意味での無貌だものねえ。
実際には無表情に淡々と始末していったのを目撃した連中が、貴女を心の底から………
っていうか、魂から恐れたからだけど」
「幾らなんでも恐れすぎでしょう。私はそこまで怖い者ではありませんよ。
それに私を怒らせた愚か者どもが悪いのです」
「まあ、それはそうなんだけど、実に色欲的じゃなかったからね。
尚の事、多くの者が恐れたのだと思うわよ。
本当に淡々と始末していったし、あの<無貌の滅殺事件>は未だに語り継がれるくらいだもの」
「そんなもの語り継がなくていいです。
それよりも異界探索者の装備をなんとかする話の方が大事でしょう。
その所為で異界探索が捗っていないようなのです。
我が家の倉庫で埃を被っていた物でさえ、凄いと言い出す有様ですよ?」
「え? 本当に? ………それは酷いわね。
貴女の家だから質の良い物ではあるんでしょうけど、倉庫で眠ってたような物でも喜ぶというのはちょっと……」
「SD表記でいうところの100前後ですね。
私が普段使う物がSD表記で1700~1800である事を考えても分かるはずです」
「普通はそこまでの物を普段使いにしたりしないわよ。
それでも女王の私でさえ普段使いは1500~1600だから、100で喜ぶのはちょっとねえ………」
「それどころかSD濃度1、異界浸食率1%のゴミを持って帰ってきていたくらいです。
それでも地球製の物よりは良い物だと」
「あらら……ゴミどころじゃないわね。
っていうか、新人が魔力も篭もっていない物で戦ってるの?
それって魔力の使えない人間に、魂の力だけで戦えって言ってるのに等しいわよ。
そんな危険な事をよくさせるわね?」
「だから私がわざわざ来ているのですよ。
流石に人間に異界探索をさせるにも、武具が悪すぎては話になりません。
せめて100前後の物までは流すべきでしょう。
それ以上は異界で手に入れろと言えば済みますしね」
「まあね。
それに100前後じゃ、私達悪魔相手にどうこう出来る物でもないわ。
なら人間どもに流しても問題なさそうね。
どんな形が良いかは、作りたい者に任せればいいし」
「我が家の物は腕盾とステッキとローブでしたね。
腕盾はおそらく遠距離からの【魔法】を防ぐ用に買った余りでしょう。
下っ端の者達なら必要としますからね。
ステッキとローブに関しては素材が良いから残していただけでしょう」
「まあ、ステッキとローブじゃねえ。
とはいえ虚界においても異界においても、重要なのは魔力であって物理的なものではないもの。
ステッキでも良い物であれば立派な武器になるわ」
「ええ。
その程度の物を渡せば生存率が上がるのですから、出来得る限りは助けてやるべきです。
ついでに地球の金をせしめればいいでしょう。
日本の娯楽が気に入った者も多いと聞きますし」
「それねえ、本当に多いのよ。
特にあのアダルトグッズ? とかいうの。あれには感心するわ。
よくあそこまで考えついて作るものだとね。
城の職人なんて最初の頃は悔し涙を流していたくらいだもの、「何故、思いつかなかったんだ」って感じで」
「まあ、それが日本人の面白いところなのでしょうね。
貴女が殴り勝って良かったですよ」
「私が欲を前にして負けるなんてあり得ないわね。
しかもその欲が多分に性欲を含むなら猶更よ」
「本当に貴女は<搾精のアルヴェーダ>ですよ。
では私はそろそろ帰りますから、後を宜しくお願いします」
「まあ、それはいいけど……よっぽど人間の男が気に入ったみたいね?
淡々としていて怖いと言われた貴女はどこに行ったのかしら?」
「さて? そんなものは知りませんね。
では……ルヲンヌ」
私は女王との話を切り上げて、さっさと屋敷に戻ります。
あまり長々と話していてヒントを出すのも嫌ですからね。
…
……
………
「バレないと思っているのかしら?
エルが急に来たという事と話の内容から新人なのは確定。
そして鳥居の前には監視カメラが付いているのよ?
確認すれば分かるんだけど……地球の物には詳しくないのかしら?
あれ、魔力を使ってないから悪魔ほど警戒しないのよ。
それがたとえ十三傑の一柱でもね」
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Side:橘八重
「ふっ、ん~~~~~っ! はぁ………朝か。
起きて朝飯買いに行かないと。
その前に顔洗って歯を磨こう」
祖父母が口を酸っぱくして言っていた事がある。
それが朝起きたらすぐに歯を磨けという事だ。
何でも祖父が歯科医の知り合いに聞いたところ、朝起きてすぐの口の中は排水口ぐらい汚れているらしい。
もしくは便器の内側。
祖父はそれを聞いた日から、起きたらすぐにうがいをして歯磨きをするようになったとのこと。
だって磨かずに物を食ったり飲んだりするって事はさ、排水口とか便器の汚れを胃に入れるって事になるんだ。
そりゃ祖父が嫌がるのも当然だよ。
俺も聞いて以来、朝起きたらすぐに歯磨きをするようにしてる。
祖母は元からそうだったらしいから、慌てた祖父に呆れていたらしいけど………
よし! 歯磨きは終わりだ。
共同のキッチンにしか水の出る蛇口が無いが、コレばっかりは仕方ない。
そもそもオンボロアパートに個別の蛇口なんていう贅沢は存在しない。
「おはようございます」
「あ、おはようございます」
七尾さんが居たので挨拶すると、挨拶を返してくれた。
この人もアレがあったのに明るい方だなと思う。
実際どん底まで落ちたはずなのに、それでも明るく笑えるって凄いよ。
自分が同じ立場で出来るかって考えたら無理だ。
俺は適当に七尾さんと会話した後、朝食をコンビニまで買いに行くといって話を終わらせた。
まだ朝の6時とはいえ、早くに行って買っておくに越した事はない。
ちなみに俺は朝はパン派であって、朝もごはん派じゃない。
夕食は米がないと納得できないけど、朝はどっちかというとパンだ。
これは祖父母の家がそうだったからなんだけどね。




