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0017




 Side:橘八重



 とりあえず起きた俺は、無表情メイドことエルトアリアさんの部屋を出た。

 そのまま案内されていくんだけど、どうやらここはメイド達の住む建物の地下らしい。

 というか、地下が丸ごとエルトアリアさんの場所であり、ここで好き放題してきたそうだ。


 「いわゆる雄を攫(さら)って来て無理矢理というのも、アロハヌス家に敵対する邪魔者を処分という事もしてきました。

 今までに色々としてきた事が染み付いている場所もありますよ?」


 「そうなんですか……」


 いや、そんなトコ見たくないし、興味も無いから。

 説明されても困るとしか言えない。

 少なくとも俺はそういうのとは無縁で生きてきているので、説明も見学もお断りです。


 「そうですか………数千年分ですから、長く楽しめる話ですよ?」


 「何故そこまで説明したがるのか分かりませんけど、本当に結構ですから。

 マジで止めてください。聞きたくないです」


 「そうですか、なら仕方ありませんね。

 それよりも腰が軽くなったからか、饒舌(じょうぜつ)になったようで何よりです」


 「饒舌(じょうぜつ)になったのは、それが理由じゃありませんよ。

 貴方相手に警戒しても意味が全く無いと分かったからです。

 それこそ最高位悪魔を前にして、人間が出来る事なんて何もありませんしね」


 「ありますよ?」


 「いや、ないでしょ」


 「自分から襲ってくれれば、私が悦びます」


 「ああ、そうですか」


 最高位悪魔とはいえ、やっぱりこの人もサキュバスなんだなぁ。

 むしろ俺よりも、この人の方がよっぽど本性を隠さなくなった気がするぞ?

 気絶するまでと違って無表情じゃないし。


 「それは当然です。

 なんと言っても肌を重ねた仲なんですから」


 「俺は全く記憶にありませんけどね」


 「記憶に無いほどに昂奮されていたとは」


 「気絶してたんだよ!!」


 「ふふふふ………」


 なんかもう疲れてくるけど、完全に遊ばれているだけだな。

 俺とこの人が軽口を叩いているからか、大部屋の中の人達の目が点になっている。

 という事は、正体を知らなかったのは俺だけか。


 「いや、そうではない。

 そもそも我が家で知っていたのは、我と古参のメイドだけだ。

 それ以外の誰も知ってはいなかった。

 とはいえ御先祖様は隠しておられなかったし、見つかってもメイドごっこをされながら娯楽として楽しむだけなのだよ」


 「そ、そうなんですか………容赦ないな」


 「私の娯楽ですからね」


 「「「「「………」」」」」


 まあ、本人達は真剣なのに娯楽扱いじゃなぁ………

 黙ってしまう気持ちも分からなくはない。

 それよりも何があるんだろう?

 まだ話があるとか言われていたような記憶があるけど。


 「うむ。

 まだ話があったのだが、御先祖様が君を連れて行ってしまったからな。

 しかもあれから半日だ。

 君も随分と搾られたとは思うが話を聞いてほしい」


 「え、半日?」


 俺がそう言ってエルトアリアさんを見ると、顔を横に逸らされた。

 目線どころじゃなく顔ごとだ。

 まさか気を失ってから半日も経過してるなんて思ってもみなかった。


 「まあ、そういう事だ。だからこそ手短に言っておく。

 君には苦労を掛けたし感謝もしている。

 よって色々と考えたのだが、我が家の倉庫に眠っていたこれらを君に渡そう。

 地球の金銭よりも、君にはこちらの方が価値があるだろう」


 そうシャルヴィオさんが言うと、執事のインキュバスの人が3つの物を持ってきた。

 一つは腕に装備する円盾で、ARの表示にはSD濃度102と出ている。

 異界浸食率は当然無いもののSD濃度が尋常じゃない。

 102なんて初めて見た。


 そして次はステッキだ。

 男性紳士が持ち歩いているか、喜劇王が持ってそうなヤツ。

 真っ黒だけど、SD濃度97とARに表示されてる。

 マジでとんでもない。


 そして最後の一つはローブだった。それもフード付きのローブだ。

 これに至ってはSD濃度が131と出てる。尋常じゃ無さすぎる。

 初回の探索で手に入れた棒なんて、SD濃度1で異界浸食率1%だったのに……


 「なんですか、その役立たずのゴミは?

 手に入れたという事は拾ったのですか?

 わざわざゴミを?」


 「ゴミゴミって言いますけどね、そもそも地球産の物を持って行ってるんです。

 それには何も付いていない訳ですから、それよりは遥かに良いんですよ。

 たとえSD濃度が1で異界浸食率が1%でも」


 「ふむ………もう少し装備を充実させた方が、人間の異界探索者の死亡率は減りますか。

 これは女王に教えておいた方が良さそうです。

 こんな倉庫で埃を被っていた物で喜ぶんですからね」


 「まあ、そうなのですがな………

 とはいえ、これらも質が悪い訳ではありませんよ」


 「それは分かっています。

 質まで悪ければブン殴っているところですよ。

 倉庫とはいえゴミを置いているという事ですからね。

 それはともかくとして、装備事情は早めに情報としてあげておく必要がありますね。

 ルヲンヌ」


 そう言った瞬間、エルトアリアさんは消えてしまった。

 ここに来る時にも使ってた【転移魔法】なんだろうけど、やっぱり凄いな。

 初めて見た。


 「御先祖様も慌(あわただ)しい方だな。

 それはともかく、これからも異界に挑戦する君には役に立つだろうから受け取ってくれ。

 倉庫にあるよりも使う者の手にあった方が良いからな」


 「ありがとうございます」


 俺は深々とお辞儀してから3つの物を受け取った。

 とはいえこの強力な装備に慢心せずに居ないとな。

 調子に乗って早死にとかバカすぎるし。


 「半日過ぎているとの事なので、そろそろお暇(いとま)していいでしょうか?」


 「そうだな。日本はもう夜だろうし、帰らないと怪しまれるだろう。

 おい、お客を日本への鳥居まで案内せよ」


 「かしこまりました」


 俺はもう一度頭を下げて挨拶した後、インキュバスの執事の人に従って入り口まで歩き、外に出る。

 その後、【転移魔法】を使ったのか一気に鳥居の前まで戻ってきた。

 両肩を掴まなくても転移って出来たんだな。


 インキュバスの人に挨拶をした後、俺は鳥居の波紋から地球へと戻る。

 すると歌舞伎町は既に夜の街と化していた。


 俺はすぐに電車に乗って文京区に戻り、そのままオンボロアパートの自分の部屋へと戻った。

 この時間だから助かったけど、向こうで何日も過ごしてたら死亡判定を受けるところだったよ。


 俺は自分の部屋に入った後で鍵を閉め、押し入れの中にあった弁当をレンジで温める。

 夕食にと買っておいた物だからいいけど、まさか向こうであんな事になるとはなぁ………


 ついでに気絶している間に喰われたって、最早ある意味でギャグだよ。

 とんでもない高位の女性に喰われるなんていうエロ漫画的な展開、普通の人の人生には存在しないしあり得ない。

 それがあったんだから、世の中って何が起こるか分からないもんだよ。


 「とはいえ何も覚えていないんじゃ、意味は無い「チン!」けどな。

 っと、弁当が温まったから食おうっと。

 今日は朝からゼリーしか食ってなかったんで、腹が減ってたんだよなー」


 俺は弁当を食べながら「帰りに飲み物を買ってくればよかった」と後悔しつつ食べ進める。

 視界ではインターネットに接続し、掲示板やニュースを表示しながら食べていく。

 何か面白いものはないかな?


 そんな事をしている最中、ふと気づいたので視界の右上端を確認。

 すると、残りSDが86まで減っていた。


 「えっ? 残りSD86?

 何でこんなに少ないんだよ。どういう事だ?」


 確認した時には残り1612あったんだ。

 精神防壁とやらでSDを消費したとしたら………

 おそらく【火炎嵐】一回で1500ほど消費してる計算になる。


 尋常じゃない消費量だが、ミミックは1体で1800ほどSDをくれるって事か?


 「それが本当なら美味しい相手だと思うけど、ミミックって初心者じゃ勝てないほど強いって言われてるからなぁ………

 脱出に1000、そして保険の【火炎嵐】の為に1500。

 最低でもこれぐらいSDは必要だ。じゃないと安全に探索出来ない」


 つまり2500も必要なのか……

 トップ層ならともかく、初心者じゃ厳しい数字だ。


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