0127
Side:七尾はる
「それで、我の過去を語るのは良いが……何故イージェルは今頃そのような事を?
今までに幾らでも話す機会はあったろう」
「えっと………今までだと話せなかったと言ってました。
今は橘君に御執心で、その事もあって話せるようになってきたと」
「ああ、主様の魂の穢れですね。
八重様に会う前の主様であれば、確かに狂って壊れていた可能性があります。
それは話せないでしょうし、そういう意味ではイージェル殿も主様の事を考えて黙っていたのが分かります」
「ですね。最高位悪魔まで昇るには、良い悪いは別にして相応に魂が穢れます。
そして穢れが積み重なると、最後には壊れて狂うだけとなる。
もしかしたらですが、かつての長老達が目指したのはそれでしょうか? 破滅させようとした?」
「…………あり得んとは言えん。
あれらは狂っていたからな、何を考えていても不思議ではない。
我と言う最強を生み出す為に、どれだけのものを犠牲にしたかも分からん。
復讐の念で滅ぼしたし、あやつらの物など徹底的に破壊したからな。
今では不明だ」
「それでも魂が綺麗になっている以上、主様が壊れる事もありませんし、狙いは不発で終わりますね」
「は? 綺麗になっている……?」
「どうやら気づいておられないみたいですが、御自分の魂の状態は把握されておいた方が宜しいかと。
今までの穢れで酷い状態からは、随分と変わっておられますよ?」
そう言われた魔王様が目を瞑ったけど、それも十秒くらいで、すぐに「カッ」と目を開けた。
どうやら魂の穢れとやらに気づいてなかったみたい。
「本当に綺麗になっておるな。
それでも多少でしかないが、今までとは明らかに違うぞ」
「気づいておられなかったので言いますが、八重様と交わるようになってから急速に綺麗になっております。
おそらく<精魂の雫>には、そのような効果もあるのでしょう。
御蔭でこのまま行けば、魂が綺麗な最高位悪魔となられるやもしれません」
「魂が綺麗な最高位悪魔というのも、随分と矛盾した存在だな」
魔王様は苦笑しながら言ってるけど、それぐらい最高位悪魔とは穢れるものなのかな?
何故かは知らないけど、穢れないで済む方法とかないの?
「不思議に思っているかもしれぬが、最高位悪魔とは高位悪魔の上位にある者が、穢れを多く持ちて悪魔の本質に近づくと成るのだ。
それ故に穢れる事は避けて通れぬ。
そして最高位悪魔になると、それまでとは一線を画す強さを得る」
「代わりに穢れを溜め込む為、壊れて暴走する可能性も生まれます。
それ故に最高位悪魔の中には強制的に眠りについたり、穢れを他者に押し付けたりする者も居まして……
もちろん押し付けた者には少なくない謝礼が支払われますよ?」
「それでも各国が最高位悪魔を抱えるのは、それが大きな戦力になるからですね。
それと象徴ともなるからですが………小康状態になってからは、少々意味合いが変わってきています」
「我以外の最高位悪魔は皆がその本質に近い行動をする。
そなたらは七大罪などと呼んでおるようだが、我らは本質と呼ぶ。
その本質が故にな、抑えるのが難しいのだ。
特に最高位悪魔は」
「主様ほどに抑え込める方は普通は居ないのです。
むしろもっとも力が強い主様が、一番抑え込めているという事がおかしいとも言われておりました。
もちろん私達が必死に抑えてきたのもありますが」
「イージェル殿なども成れるのに成らない者の筆頭ですしね。
色欲の国の第三位実力者、<魂滅のイージェル>と呼ばれている者でも成ろうと思わないくらいですから」
こんめつ………ああ、魂を滅ぼすと書くのね。
………ちょっと待って、色欲の国の実力者で第三位?
それって魔王様と女王様の次に強いってこと!?
「あやつは温和に見せているだけで、中身は我と同じくらいに苛烈な者なのだ。
温和なのはそう見せているだけだし、その方が騙されてくれて都合がいいと平然と言う者だからな。
そなた達が思うておるイメージとは全く違うぞ?」
「温和な部分があるのも事実なのですけどね、あの方も<舐められたら負け>な方なのですよ。
なので舐めて来た相手には容赦をしないというだけです。
流石に主様ほどの拷問はされません。
その前にさっさと魂滅させる方でもあるので、二つ名がそうなっているのですし」
「ちなみに第一位は主様である<無貌のエルトアリア>。
第二位は女王である<搾精のアルヴェーダ>。
第三位が先程から言っている<魂滅のイージェル>。
第四位が<静止のエギルターサ>。
そして第五位が私、<爆砕のグラドウェム>となっております」
『魔王様の右腕が弱いはずが無いんだけど、まさかの第四位と第五位。
シャレにもなってねえ……』
『問題は第一位と第二位、第四位と第五位と契約してる橘だろ。
マジで大丈夫か?』
『嫉妬も湧かないくらいに大丈夫か? って思うわ。
流石にマズイいんじゃないの?』
「契約は普通一柱だけと言っても、魂の容量が足りねばそれだけ効果が落ちると言うだけだ。
普通の人間であれば、契約が出来る悪魔と契約したとて十全に力は発揮できん。
その程度の魂しか持ち合わせておらんからな」
じゃあ、なんで橘君はそんな大量の契約をしても問題ないの?
「ではなぜ八重様は? そう思われた方も多いでしょうが、それは<精魂の雫>である事が関係していると思われます。
魂としては人間と変わらないと思っていたのですが、言うなればその密度? 濃さ? そういったものが違うようなのですね」
「うむ。だからこそ我らも気づかなんだという訳だ。
いうなれば懐が異様に深いというべきか。
契約をしても全てが受け止められてしまっておる。
なので四柱との契約でも何ら問題ないわけだ。
底の無い井戸だとでも思えばいい」
「人間と同じ魂の規格、だから井戸ですね。
しかしその底が無いので、全てを受け止める事が出来てしまった」
「そう考えると尋常じゃないね。
私なんてイージェルとの契約も十分に得られてないと思うし」
「…………確かにそうだが、半分くらいは発揮できておるのではないか?
それでも他の人間に比べれば大きいぞ? そもそも八重が異様なだけだ。
悪魔の基準で考えても底なしの井戸なのだからな」
『基準を悪魔にしても底なしなのは笑う。
どんだけだよと思うけど、魂の穢れを綺麗に出来るってヤバくない?
橘って狙われたりしないの?』
「可能性はあるが、そんなものは元からだ。
女王が<精魂の雫>だとバラしてしまったからな。
あれから警戒もしているし、我らの誰かが基本的には張り付いておる。なので、おそらくは問題あるまい。
何より四柱との契約で、八重の状態は常に把握できるからな。
何かあればすぐに動くし居場所も分かる」
『位置情報を悪用した、恋人のストーキングみたいだな』
『今だと夫婦の場合もあるでよ』
『旦那の位置情報を特定したりとかな。
そう考えると契約も変わらないのか?
橘だけ一方的に把握されているわけだし』
『でも、その御蔭で良い所で暮らしてるんだし、それぐらいは許容すべきだろ。
オレだって同じ立場なら気にしないと思うぜ?』
『言いたい事は分かる。
最近は使ってないけど、良い武具だって融通してもらってるんだし当然だ。
まあ、そもそもその橘が何も言ってないんだから問題ないだろ』
そういえばそうね?
プライベートが無いって事なんだけど、橘君ってそこは気にしてない気がする。
何故かは知らないけど。
『その橘は現在ボス戦、って思ったら倒したか。これで笛を入手だから、ようやく南に行けるな。
もう半分も折り返したし、後はラストまで行くだけだ』
何故か話には加わらずに淡々とゲームしてたけど、単に入れる会話じゃないから黙ってただけかな?




