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 Side:橘八重



 今日は異界探索の日だ。とはいえ七尾さんとは別になる。

 理由は今回ポリカーボネートの盾と金属バットで進むからだ。

 それ以外は全てタワーマンションに置いていく。

 七尾さんにも言われたが、まずは少しずつ地力を付けていくべきで、いきなり良い装備で進むのは良くないとのこと。


 エギルターサさんやグラドウェムさんからも稽古をつけてもらっているが、俺自身は欠片も強くなっていない。

 当然だけど練習も始めたところだし、一朝一夕で強くなったら誰もが異界探索者になるだろう。

 ならないという事は、そう簡単に強くはなれないという事だ。


 そもそも契約印がある時点で、俺の能力は向上している。

 具体的に何がどれだけ強くなったかは知らないけど、元の自分より強くなっているのは確実なわけだ。

 だからこそ、しっかりと基本から始めて上達しなきゃいけない。


 それにこの装備なら然して強いモンスターも出ないだろう。

 最初と同じ装備である以上は、進んでも然したるモンスターは出て来ないからな。

 そういえばマスクも外してるから、一つ一つ調べながら攻略しなきゃいけないのか。


 まあ、最悪は余らせてあるSDを使って脱出すればいいし、SDを使って戦う事も出来るから最初と同じ苦労は無いんだけどね。

 とはいえ相応の苦労をしないと強くなれないのは事実で、だったら相応の苦労というのをしないといけない。


 俺だってもっと奥に進めると思ってるし、進まないとおそらく進化は出来ないと思う。

 ちなみに七尾さんも<進化の部屋>に入った事があるが、そこで言われたのは<正統なる鬼の血筋>だったらしい。


 思わず「鬼の血筋?」って聞いたけど、七尾さんには思い当たる事が無いとの事だった。

 そりゃそうだよな。

 自分の血筋が鬼の血筋とか言われても、普通は意味不明だとしかならない。

 だって人間に対して鬼の血筋と言うのも変だし、「人間だよ」って言えば終わる話だ。


 でも<進化の部屋>で<正統なる鬼の血筋>と言われた以上は、全くの適当を言われた訳ではないはず。

 俺だって知らなかったのに<精魂の雫>だってハッキリ言われたくらいだ。

 あの部屋の白と黒は何かを知ってるんだと思う。

 それに最後の方は聞き取れなかったんだよな。

 何かを言ってたはずなんだけど……




 歌舞伎町へと来た俺は、並んでいる人達の最後尾に並んで順番を待つ。

 特に周りから話しかけられる事もなく、ましてジロジロと見られる事も無く虚界へ。

 何かあったのか、全く注目もされなかったな? 御蔭で助かるけど、不思議な気分だ。


 虚界についた俺はさっさと移動し、異界へと飛び込んだ。

 そして一つ目の地形だが、そこは見晴らしの良い草原だった。

 なかなかにラッキーというか、攻略がしやすい地形で助かる。


 俺が移動していくと、出て来たのは草で出来た人型だった。

 草人間とか草人と言われてるヤツで、大した強さも持っていない。

 俺は1SPだけ込めた金属バットで殴り、あっさりと撃破した。

 やはり初めての時と違い、魔力の扱い方を分かっているからか効率が良い気がする。


 エギルターサさんも、「魔力の扱い方が上手ければ上手いほど、魔法の威力も攻撃の威力も上がります」。

 そう言っていた。


 つまり同じ1SPでも、扱いが上手いか下手かで威力が変わるという事だ。

 必ずしも同じ威力にはならない。

 それは魔力でもSDでもSPでも変わらない事なんだろう。

 実際にそういう報告はあって、同じSPを使ったのに倒せなかったという探索者の書き込みはある。


 それが事実だと悪魔の方が証明してくれたようなものなんだけど、それはつまり非常に厄介な事でもある。

 そんな感覚頼りのものを情報として載せてもいいのかって事だ。


 必ずクレームを入れるヤツはいるし、情報の通りにすればいいと安易に考えるヤツは必ず出る。

 どれだけ注意を書いても、読まないヤツには意味が無いからなぁ。

 自己責任ではあるんだけど、その所為で死んだとか喚くヤツがいるから困るんだよ。


 かといって異界の情報収集も探索者にとって重要な仕事でもある。

 他の人の為になる事でもあるし、皆の情報が集まってるから死亡率が減ってるんだ。

 その事実は思っているよりも大きい。


 当初の異界探索者の死亡率は高かったんだ。

 そのうえSCS専用機器やナノマシンに録画機能が無かった為、自分の主観で感じた事の報告があまりに多かった。

 その所為で情報を勘違いする事が多発。

 死亡原因になったという報告も多かったって聞く。


 そこから動画を撮る機能が追加され、その動画を元に情報を精査する人達が現れ、現在はかなり正確な情報が集まるようになった。

 とはいえ本当に正しい情報なのかは難しいところではある。

 何故なら中林とかいう連中の動画が改竄されていた疑惑があるからだ。


 「よっと! ……草人間は弱いんだけど、どうしても動画が改竄されていた件が引っ掛かるんだよなぁ。

 本当に裏で悪魔の人が糸を引いているなら、あんな分かりやすい動画にして残すだろうか?

 悪魔の人達しか触れないだろうけど、やっている事は大陸の人間並みに杜撰(ずさん)だ」


 俺としてはそこが一番引っ掛かる。

 幾ら怠惰の悪魔とはいえ、頭の良い悪魔が杜撰(ずさん)な事をするだろうか?

 仮にやったのが大した事の無い下っ端でも、そんな雑なやり方はしないと思う。


 「適当に映像を止めてただけとか、音が切られてて入ってないとか。

 幾らなんでも雑に過ぎる。

 それにあの雑さは中国人特有の雑さだと思うんだよなー」


 何と言うか、あの国の人間って大体が雑なんだよ。

 もっとしっかりとすればいいのに、この程度という雑さで終わらせる。

 面倒なのか何なのかは知らないけど、適当に雑に終わらせて知らんぷり。

 そういうイメージが中国に対してはあるし、あの雑さはまさにソレなんだ。


 「雑だから中国人の仕業っていうのもアレだけど、でも悪魔の人達がわざわざ雑なやり方をするんだろうか?

 どうしても、そこが引っ掛かる」


 考えても答えは出ないし、意味は無いんだけど………。

 どうにもモヤると言うか納得がいかない。

 怠惰の悪魔といえど、果たして本当に怠惰なやり方しかしないんだろうか?

 本気で騙すならキッチリとすると思うし、悪魔がそんな分かりやすくするとは思えない。


 そう思いつつウロウロしていると、地形の色が変わっている場所を発見。

 俺はさっさと次の地形へと進んだ。


 「あのマスクだけはしてくれば良かったかな?

 あれ、落ちている物の場所とかも分かる優れ物なんだよ。

 もしかしたら見逃したかもしれないし、そうなると勿体ないし………次からマスクだけは着けてこよう」


 一人で居るとブツブツ言ってしまうのは仕方ない。

 これは俺だけじゃなく他の探索者も似たようなものだ。

 本当は狂っている地形を進んでいるからか、どうしても口から言葉が出てしまうんだろう。

 さっきの草原も、あくまで草原に見えているだけだし。


 「で、次の地形は岩場か。

 となるとゴーレムかドールかパペットか。

 俺的にはドールが助かるんだが………どうだろう?」


 岩とか石で出ているモンスターも出て来るのだが、一番小さなのがパペットだ。

 こいつは60センチぐらいしかないが、ナイフなどを持って攻撃してくる厄介さを持つ。

 そしてドールは160センチほどで、普通に武器を使ってくる。

 最後のゴーレムは250センチほどで、大きな拳でブン殴りに来るタイプ。


 つまりゴーレムは力が強く耐久力も高い。

 ドールは平均的で、パペットは小さくて厄介という仕様だ。

 どれがマシかといえばドール一択となる。


 「で、出て来るのがパペットというね。

 こいつら小さいけど石のナイフとか持って刺しに来るから怖いんだよなー。

 あれだ、チャッ〇ーみたいだと言えば、怖さは伝わると思う」


 マジで人形が殺しに来ると思えば、当然だけどかなり怖い。

 こっちよりも小さいけど、殺せる武器を持って襲ってくるので危険性は高い。

 そのうえ不気味な顔の人形が襲ってくるっていうのは、思っている以上に恐怖を掻き立てるんだ。


 血が付いたりしていたり、所々が壊れたりしているとそうでもないんだけど、ただ綺麗で無表情な人形が淡々と襲ってくるのは本気で怖い。

 目の前のヤツみたいに、さ!


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