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 Side:橘八重



 ゲームの配信をしながらエルトアリアさん達の話を聞く。

 今は2つ目の神殿に行く前の攻略で、ハンマーを取りに行っている所だ。

 何でもコレがないと岩が壊せないらしい。

 あと配信でハートや魔力の器の場所を教えて貰えるので助かってる。


 『そこは序盤における最難関と言ってもいい場所だから慎重にな。

 なるべくダメージを受けないようにして進むんだ』


 『子供の頃、ここをクリア出来なくて苦労したなぁ。

 何回も泣きながらプレイした記憶があるわ』


 『分かる。子供がやるには難易度がたけーんだよな。

 特に名前は知らないけど、斧を振り回して来るヤツ。

 その中でも赤いのが斧を飛ばして来るんだよ』


 『オレもここは軽いトラウマだわ。

 正直に言って迷路をクリアするのにウロウロさせられるうえ、思っている以上に道中が長いんだよな。

 そしてハンマー取るまでの所に、斧のヤツが何回も出て来るし』


 「そんなに大変な場所なんだなぁ。

 今のところは問題なく進めてるけど、途中から難しくなるのかな?」


 「それもあるんだけど………橘君って反射神経がいいの?

 やたらに見切ってる気がする」


 「そんな事は無いと思うんですけど、上手く出来てるんですかね?」


 俺はゲーム初心者だからそこまで上手く出来ているとは思えないんだけど、それでも今のところは上手く進めてる感じはする。

 まあ、自画自賛だと言われればそれまでなんだけど……


 「もしそうでなかったら、それはおそらく契約の御蔭でしょうね。

 人間との契約でも魔力量が増えたり、身体能力が向上すると思いますし、反射神経も良くなってるんじゃないですか?」


 「えっ? 契約って身体能力も上がるんですか?」


 七尾さんが驚いた様子で聞くと、エギルターサさんが溜息混じりに教えてくれた。


 「何の為に契約をすると思っているのですか。

 そういった恩恵があるからこそ、自分の居所や感情を知られても構わないという契約をするんですよ。

 双方にメリットがあるから契約なのです。一方的な物ではありません」


 『そもそも魔王様って何で橘と契約したんです?

 そんなに<せいこんのしずく>ってヤツが大事なんですか?』


 「それはそうです。

 そもそも私は他の高位悪魔と比べても、精の器が10倍以上大きいのですよ。

 それだけ強い力を持つとも言えるのですが、それだけ子を成せないとも言えるわけです。

 人間もそうですが、子を成せるか成せないかには大きな意味がありますからね」


 「悪魔は人間ほどに変化が起きやすい訳ではないのです。

 人間は100年に一度のペースで天才が生まれるなら、悪魔は1000年に一度ぐらいでしょう。

 それぐらい悪魔の変化のペースは遅いのですよ。

 そんな悪魔に主様のような方が生まれた。

 突然変異と言っても過言ではありません」


 「言い方はアレですが、そうですね。

 だからこそ子を望まれ、だからこそ出来ない事に落胆されたのです。

 多くの者から精を得れば器は満たせるでしょう、ただしそれは大量の精が混じった状態なのです。

 そしてそのような質の悪い精では子は成せません」


 「ですので足りないわけですね。

 そもそも色欲の高位悪魔の精の器を満たすのも大変なのです。

 そのうえで10倍以上の主様の器となれば、どう足掻いても無理でしょう。

 考えれば分かる事ですね」


 「そのうえ主様がまだ下級や中級だった頃では、そこまでの強い因子になっていませんからね。

 相手の因子が強く出過ぎてしまい、せっかくの主様の因子が消されてしまう恐れが高い。

 それでは意味がありません」


 そういう理由だったのか。

 細かいところまでは話して貰ってなかったけど、エルトアリアさんがあまり話したくなさそうだったから、聞かなかったんだよな。

 あんまり良い事でもないし。


 (そうですね。

 私もあまり言いたい事ではないですし、知られて面白い話ではありませんので暈(ぼか)していたのですよ。

 とはいえ理由はそういうものです。

 精が混ざっていると子を成せないので、多くの者から集めても無駄なのですよ)


 それなら無駄な事はしないだろうなぁ。

 それに精の器を満たす事も出来ないならギリギリにするしかないし、飢えに慣れるというのも仕方ないんだろう。


 『おっと、迷路を抜けたな。そこを左に行けば目的地だ。

 それにしても上手く斧のヤツを倒したよ』


 「反射神経が良くなってるからかも。

 そういえばさっき契約の話をしてたけど、世界には他に契約をしてる人って居ないのかね?

 なんか居るような気がするんだけど……」


 「たぶん居るでしょうね。

 強欲や傲慢の連中なら、お遊びでやる可能性は十分にあります。

 あの連中は後先考えない者が多いので。

 それと怠惰の連中も可能性はあります。

 契約者の精神を吸い取る契約であれば、暴れる力を貸すぐらいはするでしょう」


 『精神を吸い取るって………』


 配信の書き込みにも引いたと思わしきコメントが幾つか書き込まれたみたいだ。

 ただし悪魔が精神を喰うなんて知られた事だろうに。


 「悪魔の人達が精神を食べるっていう話は前々からずっとされてるし、今更な話でしかないでしょ。

 なんで引いてるのか分からないけど、そんなに引くこと?」


 『吸い取るって言われたら、どうしてもチューチューされているイメージが湧くからじゃね?

 人間の中身がチューチューされて皮だけになる作品とかあるから……』


 「ああ、そういうこと。

 確かに言ってる事は分からなくもないけど、そんな事は悪魔の人達には無理でしょ」


 「そもそも私達の場合は人間の肉を食べるだけですし、他の者達は生で齧るのでは?

 そもそも私達は精が目的ですからね、肉をわざわざ食べたりはしませんよ。

 一番好んで食べるのは暴食でしょうね」


 グラドウェムさんがそう言うと、エルトアリアさんが補足した。


 「あくまでも食べるならであり、そもそもわざわざ食べる必要もありませんよ。

 だからこそ殺すのですし、家畜にするのです。

 色欲の悪魔にとって大事なのは精であって、肉ではありません。

 家畜牧場では今頃お尻の訓練を受けているでしょう」


 「…………いや、尻って……マジで?」


 「こんな事で嘘は吐きませんよ。

 そもそもインキュバスでも性欲に関わる精神を食べるのは変わりません。

 だからこそ人間の男の尻を訓練するのですしね。

 インキュバスの中にも戻って来なくなる者が居ますが、それはそれで仕方のない事なのでしょう」


 「クライヴィッセル卿だけは意味合いが違いますけどね」


 「アレは………そもそも何故あんな濃いのが無駄に長生きしてるんでしょうね?

 あの者は既に万に近い年月を生きているという、虚界で一番長生きな者ですが、もしやあの趣味が影響して長生きなのかもしれませんね」


 「あの趣味?」


 配信画面にもクライなんとか卿の趣味が気になるという書き込みがされているが、中には「嫌な予感がする」という書き込みもあった。


 「嫌な予感がした者は、その感覚を大事にした方がいいです。

 クライヴィッセル卿はインキュバスに女性の服を着させ、少女のように愛でるのが大好きな人物でして。

 変態紳士と言われていますね」


 なんてこった……! そっちの趣味の人が万に近い年月も生きてるのかよ!

 虚界っていうのは本当におっそろしい場所だ。


 「そこまでおかしいのはクライヴィッセル卿と、そのお仲間だけなので勘違いしないように。

 そもそも変態紳士同士で子を成すから始末に負えない部分はあるんですけど、変態紳士同士の子が変態紳士とは限らないんですよね。

 そこだけは助かってます」


 『万に近い年月を生きる「男の娘好き」とか、完全に本物の変態紳士だわ。

 それ以上なんも言えねえ』


 「なんか<男の娘>とかいう初めて聞く単語がありますが、同じ趣味ならクライヴィッセル卿の所に行けばいいです。

 如何にインキュバス、つまり男に女の恰好をさせて愛でるのが素晴らしいかを力説してくれますよ。

 私は聞きたくないですけどね」


 「一番年上の方ですから無下にもし辛いのですが、あの方の趣味は悪すぎます」


 エギルターサさんが堂々と切り捨てたけど、趣味の違う人に力説しても迷惑なだけだよ。

 それは嫌がらせに近い。


 俺だって趣味じゃない事を力説されても鬱陶(うっとう)しいとしか思わないしさ。


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