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Side:イージェル
あらあら、また怪我をした人間が出たのねぇ。
本当にワザと怪我をしてくる人間が多くて困っちゃうわ。
まあ、そんな困ったさんは食べちゃうんだけど。
それにしても最近は色々な人間から言い寄られるサキュバスも増えたわねぇ。
当初は遠巻きに恐々と見られていただけなのに。
まあ、人間の男って割に精が余っている事が多いし、それを私達が頂いても何も問題が無いのよねえ。
私達にとっては高々80年ほどしか生きない生物だし、その間の存在だもの。
多少優しくしてあげれば簡単に精をくれるんだから助かるわ。
お互いに都合が良いのだから、何も問題は無いのよぉ。
たまに人間の女が何か言ってくるけれど、大した意味も無い戯言だもの。
気に入らないなら自分で男を誘惑すればいいのよ。
男が引っ掛からないなら、それは努力が足りないというだけね。
この地球の自然を見ても同じでしょう? オスがメスに必死に求愛をしてるじゃないの。
でもメスが必死にオスに求愛をする種も居る。
どっちが求愛行動をとっても構わないの、大事なのは誘惑に成功するかどうかでしかない。
その努力をしない者ほど文句を言うのよねえ、何故か。
雛鳥が口を開けていれば餌が貰えるように、男が勝手に群がって来て好きに選べると思ってるんだから、本当におバカさんなのよ。
そのまま、その醜い妄想に浸ってればいいのに、何故わざわざ現実に出て来るのかしら?
本当に分からない。
「は、はぁ………悪魔の方はそのように考えられるのですね?」
「インタビューっていうから受けてるけどぉ、貴方達って私もサキュバスだという事を忘れてる?
心の声が漏れ過ぎてるわよ?」
私がそう言うと、途端に顔を青くして黙るアナウンサーとかいう女。
こいつが雛鳥のように口を開けて男を強請ってるだけの女よ。
分かりやすいったらないわねぇ。
「今は私達悪魔が居るのよぉ?
男だって精を吐き出したければ悪魔の店に行けばいい。
つまりぃ、性欲を満たす為だけに女の機嫌をとる必要は無くなったと言えるのよねえ………その意味を分かってる?」
「!?」
「良い悪いは別にして、男が受けている性欲という本能は強いのよ。
そこからの指令で行動をそちらに向けられているとも言えるわ。
でも、悪魔が性欲を解消してくれるなら、無理に人間の女に言い寄る必要もなくなる。
日本は新たな時代に入ってるのよぉ?
暢気にしてたら………一人身のままかもね?」
「!!!」
「「「「「………」」」」」
どうやらカメラマンを始め、身内の男連中には受けが悪いようね?
この女の本性がバレてるからかしら。
流石に性格的に好きになるタイプじゃないって事ね。
まあ、心の奥底では男を舐め切ってる女だもの、男の方も何となく分かるのでしょう。
そういう所は。
「あ、貴女のような悪魔に男女の機微が分かるとでも?」
「??? ……貴女が何を言っているのか分からないわ。
そもそも求愛行動は本能に根付くもの。
つまり求愛には当然性欲も含まれる。
それが含まれないものは、そもそも本物の愛ではない。
何故なら本能まで愛せて、初めて愛でしょうに。
嫌なものとして目を背けてる時点で、本物の愛は持っていないわよね?」
何故か人間の女の中にはプラトニックがどうとか、性欲は野蛮だとか考える者が居る。
愛とは相手の全てを含めてよ。
その相手の本能を否定している時点で、それは愛ではないわ。
自己愛なら鏡に向かってすればいいのよ、そうやって自分で自分を慰めていればね。
「たかが悪魔如きに何故そんな事を言われなければいけないの!!!」
「そうやって他者を見下している時点でその程度なのよ。
そして、その程度だからこそ見下されるの。
たかだか数十年しか生きていない者が、いったい何を言っているのやら。
私にはそのようにしか思えないわね?
あさましい自分がそんなに誇らしいの? 無様ねえ……」
「お前みたいな下っ端悪魔が何様のつもりよ!!」
「あらあら、自分がどれだけ無様な姿を晒しているかも気づいてないとは………。
ただ癇癪を起こしているだけの子供ねえ。
ついでに言っておくけど………舐めるなよ、小娘?」
「「「「「「!!!」」」」」」
私がそう言った瞬間、一気に緊張感が走り人間どもの顔が青を通り越して白くなる。
今は朝の番組での生インタビューなので、これは映ったままなのよね。
だからそろそろ言っておくかと思ってたのよ。
都合が良かったわ。
「私はイージェル・ヴィルドサス・ルウドオール。
高位悪魔の上位にして、既に6000年の時を数えた悪魔。
お前如き羽虫が何様のつもりだ?」
「ぁ……ぅ………」
「そもそもお前の心の奥の悪辣で醜いところ、私が見えていないなどと本気で思っているのか?
それに………日本に来ている悪魔に下っ端は居ない。
そんな知識すら持ち合わせていないとはな」
「………」
「これほどの醜さでも、テレビカメラという厚化粧を施せば騙せるのか?
仮に騙せても、相対している私は騙せないのだが………その程度の事すら分からぬほど頭が悪いか。
通りでエルトアリアを激怒させるはずだ。
己の矮小さも理解しておらんとはな」
「………」
「あ、あの」
「何かしら? 下らない事でなければ答えるわよ」
「その、魔王様とはどういった関わりで……」
「ああ、あの子そういう風に言われてるんだっけ。
私はかつてエルトアリアが生まれた村の者よ。
つまり同じ村の出身者というわけね」
「え? 同じ村の?」
「そうよ。あの子は生まれながらにして色々とあったの。
あまりにも大きすぎる精の器に、村の皆が喜び、そして皆が絶望した。
あの子の力はあまりにも強かった、それ故に子が成せないという事を絶望したというわけね。
始まりにして終わりの子。一代限りの王。古代悪魔の呪い。
様々な名で呼ばれたわ」
「それは、器が満たせないという話でしょうか?」
「そうよ。
それゆえに村の長老達はエルトアリアに様々な苦労をかけ、あの子はそれを背負って古代悪魔となってしまった。
いわゆる貴方達が悪魔と思う、本物の悪魔にね。
あの子は拷問や虐殺に呪詛や魂の実験など、ありとあらゆる物事を行ったわ。
禁忌など己の前には存在しないとばかりにね」
「「「「「「………」」」」」」
「ちなみに最初に標的になったのは村の長老達よ。
でもそれも仕方ないわ、あそこまで悪し様に言い続けていたら当然でしょう。
怨みも憎しみも相当に強かったでしょうし、結果として実験材料にされて終わり。
その後も、あの子を舐め腐った者は悉く同じ目に遭った」
「「「「「「………」」」」」」
「それぐらい怨みや憎しみは強く、あの子という存在そのものを歪めてしまったの。
まあ、それはいいんだけど、私が何を言いたいかというと………」
「な、なに………?」
アナウンサーの女が怯えた目で私を見てくる。
しかし恐怖した感情では無防備に過ぎるわ。
私はかつて村のお婆から様々な事を習ったのよ。
まあ、あのお婆もエルトアリアに殺されたんだけどね。
余計な事を言い過ぎて。
「ふーん………あなたにその思想を植え付けたのは、中学生の頃に会った講師ね?
男女平等? また頭のおかしいのに洗脳されたものねえ」
「!?」
「男と女が、オスとメスが平等な訳がないでしょう。
貴方はオスの本能が理解できるというの?
それが耐えがたいものであると、己の行動すら変えてくるほど強いものだと理解できるの?
無理でしょう、ならなぜ平等が成立すると思ってるのかしら。
相手の事が分からないのに」
「………」
声を出そうとして出せないようね。
となると、この女はそこまで強烈な洗脳や暗示は受けてないみたい。
完全に洗脳されている者は、自分の思い通りにならないと全てを否定するもの。
たとえ理屈が通っておらず、矛盾していてもね。




