0109
Side:内閣総理大臣
「そうか………それはいいが、そちらもしっかりと組織の立て直しを頼む。
ああ、もちろんこちらからも協力できる事はする。
しかしそちらが頑張ってくれねば話にならんのだからな。
本気でやってくれ」
私は今年出たばかりの新しい携帯電話を切って執務机の上に置く。
かつての携帯電話とは様変わりし、機能性も向上して使いやすくなった携帯。
無線で繋げば画面をモニターに映し出せるし、そこで携帯ゲームも出来る。
もちろん携帯ゲーム機には負けるのだが、これはこれで古いゲームに似た物が多く、私の年代の者にはとっつきやすい。
今の子供たちがやっているゲームは複雑だからな。
私のような年齢の者にはついていけん。
「それはともかくとして、愚か者どもめ。
彼の後ろには最高位悪魔の方がおられるという事の意味が分かっておらんのか。
警察の中身も一新せねばならんな。でなければ滅ぶぞ」
警視庁の中のバカどもが、彼の口を閉じさせようとしたらしい。
仮にそれをするにしても、やり方というものがある。
相手の後ろに最高位悪魔の方が居る以上は、慎重に慎重を重ねねばならん。
にも関わらず金で脅すようなやり方をしおって……!
「金で脅すなど犯罪と変わらん、こんな当たり前の事すら理解できておらんのか。
民間企業でも弁護士でも好きにすればよい。
しかし裁判官と警察と自衛隊は駄目に決まっておろうが。
己らの職務がなんであるかを理解しろというのだ!」
ダンッ!
ついついテーブルを叩いてしまったが、何故に己の職すら理解できんのだ。
治安を維持する者達だという自覚があれば、疚しい事などしてはならんと分かろうが。
それとも昨今の警察というのは、その程度の事も考えられんほど頭が悪いのか?
少なくとも警視庁に居るという事はエリートのはずであろう。
もしや社会経験の無いエリートだからこそ、安易に下らぬ事を考えてやるのか?
叩き上げのように現場を理解しておらぬから……
いや、現場では無いな、社会を理解しておらんのだ。
「新しく警視庁に入る者には社会見学でもさせねばならんのか? 小学生のように?
いい加減にせよとしか思わんな、まったく………」
そう一人でボヤいていると、誰かが執務室に入ってきた。
アポも無く入れるのは僅かな者しかいない。つまり……
「はっはっはっはっはっ、よほどお怒りのようだね?
とはいえ怒っていても良い考えは出ないよ。
少しは気分を変える為の事をするといい」
「気分を変えると言われても……」
「それこそ携帯ゲームをするなり、お菓子を食べたりアイスを食べたり、好きにすればいいさ。
内閣総理大臣の心が追い詰められているよりは、よっぽどマシだ」
「まあ、それはそうですがな。
………それで、いったい何の用ですか?」
目の前に居るのは党の重鎮だ。
そのうえ私の所属している会派の会長でもある。
与党の重鎮が、何もないのに総理大臣の下に来たりなどせん。
私は裏で厄介な事でもあったのかと身構えたものの……
「いや、なに、そんなに身構える事じゃない。
ウチの会派の中でも選挙はいつだという話になっているだけだ。
その声は思ってるより大きくてね、私がわざわざ来なきゃいけないくらいには」
「ああ、その事ですか。三年を越えましたからね。
そろそろ選挙があるのは当然として、問題は半年待って衆参ダブル選挙にするかどうかです。
無駄な税金を使わない為にも衆参ダブル選挙にしたいんですが……」
「我々にブラ下がってる大陸の犬が五月蠅いと。
まあ、あれらはいつも大陸の御用聞きしかせんからね。
むしろ分かりやすいとは思うけど、そろそろ選挙協力も無くして外してもいいと思うよ?」
「大丈夫ですか? アレらが居ないと選挙で勝てないとかいう連中が大量に居ますが……」
「心配いらないさ。
連中は悪魔の人達の御蔭でゴッソリと居なくなったし、支持基盤も揺らいでる。
悉く悪い奴らは連れて行かれてるし、何と言っても連中の宗教絡みで連れて行かれたのは多い。
宗教法人を隠れ蓑にした脱税が横行してたからねえ」
確かにそうだ。
それが奴らのお家芸みたいなものだったからな。
しかも、まともな寺社仏閣を出してきて課税すると困ると言い出していたのだ。
実際には腐った連中の為であろうに、よくもあんな汚い事が出来るものだと思う。
「何と言うか、まともな坊さんや神職の居る所は良いんだが、腐ってる所は問答無用でやられてるらしい。
悪魔の人達が優しかったんで調子に乗ってたんだろうが、今までの事を理由にして攻撃されてるな。
どう考えても泳がされてたってのが正しい」
「でしょうね。
そして真っ当な者は被害を受けないんですから、悪魔の人達の方がよっぽど人気者ですよ。
やはり手足を縛られているというのは良くないです」
「言いたい事は分かるが、コントロールが外れた時の事が怖い。
こちらでコントロールできる状態は維持せねばならん。
悪魔の人達ありきで政治をするわけにゃあ、いかんだろう?」
「…………そうですね。
正直に言ってあそこまで好き勝手にやれるのは羨ましいですけど、彼らと我々ではルールが違う。
我々は我々のルールをきちんと守らねば」
「そうそう。流石に全てを悪魔の人達に丸投げじゃあ、情けなさすぎる。
日本は日本人の国だ。
で、ある以上は我々が責任を持たなきゃ駄目だし、そうでないと日本とは言えない。
悪魔の人達が好き勝手するから大変だけど、その誘惑を絶って日本ここにありと示さにゃならん」
全く持ってその通りだな。
まず第一に日本国であるという事を我々政治家が示さねば始まらん。
腐れ野党のバカどもはどうでもいいが、与党の我々は正しく己を律さねば。
「その話はそれで終わるとして、アメリカさんは何か言ってきたかい?
例の彼の動画、私も見たんだけどねえ……ガッツリ映ってたからさ」
「特に何も言ってきてはいませんな。おそらく触れられたくないのでしょう。
もしくは向こうも、あの曹長に話を聞いている最中なのかもしれませんな。
それらや分析が終わり次第、こちらにコンタクトをとってくる可能性があります。
元とはいえ同盟国ですからな」
「今は悪魔の人達が居るんで、同盟とか無くなっちまったからなぁ。
とはいえアメリカとは喧嘩したくはない。
あそこは熱狂の国だ、良くも悪くも国が熱狂で動くってのは危険すぎる。
こっちにそれをぶつけられたら、まとぞろ特攻を言い出さなきゃいけないかもしれない」
「正気ですか!?」
「我々は政治家だ。
良い悪いは別にして、最悪の命令だろうが出す必要があるなら出さにゃあならん。
それが政治家の責任ってヤツだ。
後世の人に後ろ指差されようが、やらにゃならん事はする。
それが出来なきゃバッジは外さんとな」
「………」
本気か。とはいえあの当時の方々だって、そんな命令を出したくて出した訳じゃない。
戦争に負けるって事は、国家の全員が悲惨な目に遭うということ。
なれば特攻でもなんでも、必要な命令を下さなきゃいけなかったという気持ちは分かる。
あの後でアメリカは過酷な植民地政策を日本に課さなかったから批判されているが、当時の植民地政策の過酷さを知らないから批判できるのだ。
知っていれば、あんな風に日本がされるくらいなら特攻を命じてでも勝つ。
いや、勝たなきゃいけない。
そういう考え方になるのは当然だ。
そもそもハルノートを含めた事を意図的にマスメディアは出さないし、教育でもほとんど教えない。
教えれば、当時の戦争がアメリカ、もしくはソ連に“仕組まれていた”という事が分かるはずだ。
日本は“仕組まれた戦争”に巻き込まれた側でしかない。
「君も同じ事を考えたんだろうが、今度こそ“仕組まれた戦争”に巻き込まれないようにしないとな。
かつての方々の二の舞だけは踏んじゃいけねえ。
それじゃあ、愚かに過ぎる」
「ですな。
後ろ指を差されようが、それだけは何としてでも阻止せねば。
そして現在それをやろうとしているのは……」
「大陸だ」




