0108
Side:アルヴェーダ
くう………! 失敗した!!
まさか【精魂の雫】と知られるだけで、ここまで劇的な反応をするとは思わなかったわ。
特に高位悪魔の連中が騒ぎ立てるとは予想外にもほどがある。
下っ端から上級ぐらいまでなら突っぱねれば済むわ。
私が一喝すれば終わる話となる。
とはいえ高位悪魔の連中は別。
あいつらの中には私よりも長く生きている連中が居るし、老練な手練手管の連中が多い。
いちいち私が直々に対処しなきゃいけない所為で、非常に面倒な事になってる。
しかも連中は押して来ないから厄介なのよ。
押して来れば私が突っぱねる事ぐらい分かってる。
だからこそ搦手で来るのが面倒極まりない。
あいつら、それを少しは国の為に役立てなさいよ。
そしたらもっと国を守るのは楽だったはずでしょう?
それなのに碌に協力もしなかったんだから、いちいちこんな時だけ言ってくるな!
「相当に御怒りのようですが、長老方が突っついてきましたか」
「プレステア………面倒だから、貴方の方で処理しておいてちょうだい」
「お断りします。
あの方々は、そもそも私に手練手管を教えた方々です。
つまり私以上に面倒な方々なのですよ。
幾ら私が宰相でも、この役職程度で怯むような方々ではありません。
女王陛下が直接戦われるしかないでしょう」
「はぁ………どうしてあのクッソ面倒で国の為にならない連中の相手なんてしなくちゃいけないのよ。
なんでそんな連中に便宜を図らなきゃいけないっての?
本当にふざけてるとしか思えないわ」
「ならば支援を出汁に使ってみればどうですか?」
「なら私はお前をエルの生贄に使わせてもらうわ。
アレが激怒して暴れた際の生贄にね」
「それもお断りします。私はまだ滅びたくありませんので。
流石にあの方々もエルトアリア様が暴れると言えば黙られるのでは?
問答無用で黙らせてきた過去がありますし……」
「それが分かってるから私に言ってきてるのよ。
エルを怒らせない事も含めて、私になんとかしろってね」
「そんな事が出来たら、誰も苦労しませんが?
あの方々もいったい何を考えているのやら……
最高位悪魔の中でも最も危険な方に喧嘩を売れと言われても、それがバレた際の事は考えているのでしょうか?」
「考えてないんじゃない?
だから私に言ってくるんだろうし、だから高位悪魔止まりなのよ連中は。
搦手は得意だけど、私やエルのように突き抜けてないからね。
私は色欲の悪魔として、エルは悪魔の根源として突き抜けてる」
エルはどちらかと言うと、色欲の悪魔というより純粋な悪魔に近いのよね。
だからこそ最強の悪魔とも言えるんだけど。
「あの方の在り様はまさに古代の悪魔と変わりませんでしたからね。
今現在は人間に御執心だからか変わってこられましたが、かつては完全な悪魔そのものとも言える方でした」
「気に入らなきゃ平然と叩き潰す。
同胞ですら当たり前に喰らい素材として扱う。
それの実験すら同胞を利用して行う。
完成したらひっそりと動いて、他の悪魔で更なる実験データをとる」
「やりたい放題でしたからねえ。
本当に自分の興味が向く方向にのみ邁進………いえ、爆進する方でしたので」
「本当にね。
とはいえ、それもこれも子を成せないが故、そう言われたら返す言葉が全く無かったのよ。
エルだけはどう足掻いても子供が成せなかったからね、その慟哭は彼女にしか分からないわ」
あまりにも精の器が大きすぎて、生まれてすぐに子を成すのを切望されると同時に諦められた子。
忌み子でありながら祝福された子。最高にして最低の子。
様々な名で呼ばれていたエルは、周りの悪意も一心に受けていた。
だからこそ純粋な悪魔に近くなったのでしょうね。
「しかし希望が現れた途端、驚くべき執着を発揮されておられるようで」
「まあね。
とはいえ私もそこに滑り込んだけど、彼がおかしな事に巻き込まれていなければ無理だったわ。
そういう意味ではゴミどもに多少の感謝はあるのよ? 手心は加えさせないけど」
「その必要はそもそもないでしょう。
連中は今、尻の訓練に入っているという報告もあります。
それが終われば完成でしょう。
どちらも使える者の出来上がりとなりますね」
「一部に戻ってこない連中がいるけど、それは仕方ないかしらね。
淫気の制御は上手くしてる?」
私がそう言うと、プレステアは一瞬げんなりした顔をした後、瞬時に表情をいつもの顔に戻した。
プレステアが少しでも表情を崩すって珍しいわね? 何か大きな問題があったんじゃ……
「当然、完璧です。
拷問官は“あの”クライヴィッセル卿ですので」
私はその名前を聞いた瞬間、何故プレステアの表情が変わったのかを悟った。
まさかアレが今回の事の拷問官をしているとは思わなかったわ。
「おぉぅ………アレが動いていたの? あの変態紳士が?」
「御本人の前で言うと怒るのでお止め下さい。
あの方は………愛でるだけですよ。
何故か異様に尻の穴に執着されるだけの方です。
ええ、それだけです」
「考えたくないからって、思考を放棄するのはやめなさい。
そもそもあの変態紳士は何故インキュバスに女の恰好をさせて少女のように愛でるのか、不思議で仕方がないのよね。
たまにそれで戻って来なくなるヤツが居るけど、戻ってこない比率は人間の方が高いわね?」
「ですね? これからもあの方へのいけに、ゴホンッ! 拷問対象は優先して送りましょう。
安寧の為に」
プレステアでさえ嫌がるのだから、流石はクライヴィッセル卿としか思えないわね。
まあ、基本的に他者の話を聞かないうえに、女の恰好をした男が如何に素晴らしいのかを延々と語り続けるのだもの。
誰も関わりたくないのは当然なのよねえ。
「ええ、そうね。それが一番いいわ。
それはともかく、我が国って特筆しておかしなヤツが多いわよね?
他の悪魔の国では、ここまでおかしなヤツも居ないわよ。
………いえ、黙ってるだけで居るのかしら?」
「多くの方が暇を持て余して消えて行かれたのは別として、未だ生きる事に執着している方々はいますからね。
他の国にそれが居ないとは………」
「言えないわよね。
どこも大変な思いをしながら国を運営してるんでしょうけど、どうして一癖も二癖もある連中が今も生きてるのよ」
「一癖も二癖もあるから生きる事に執着するのでは?」
「最悪の返答をありがとう。
下らない話をしていないで、そろそろ本格的に面倒な連中をどうにかしないといけないわ。
でないと政務の邪魔をされ続けるだけよ」
私は話が逸れているのを戻したのだけれど、良い案は全く浮かばない。
何と言っても連中には長く生きて来た歴史がある。
私達も古いけど、連中の中には万に届きそうな年齢の奴すら居るのよ。
ワザと最高位悪魔になろうとしていない、そう思える連中までね。
「ワザと実力を落とすっていうのもどうなのかと思うけど、あの連中が最高位になっていないっていうのもおかしいのよ。
その機会は幾らでもあったはず、にも関わらずだもの、何かあるのでしょうね?」
「おそらくはそうだと思われます。
というより最高位悪魔になっていないとおかしい方々も居ますからね。
あえて面倒なので、なっていないという可能性も捨てきれませんが……」
「私みたいに王位を譲られるから?」
「…………はい」
言いにくそうにしているプレステアには悪いけど、あの方もそうだったからねえ。
自分より実力のある者に王位を託す。
晩年は私に搾られ過ぎて逃げていたけれど、かつては王位を譲れて安堵していたという感じだったもの。
力の強い者に後を託すというのは普通の感情なのでしょう。
その所為で面倒な政務とかをずっと熟す羽目になっていると考えると、力が強いのも決して良い事とは言えないのよねえ。
意図的に力を強くしないという気持ちが分かるくらいには。




