第57話『ミリティス、』
――大連山
いくつもの天を貫く山々が連なり形成される一大山脈。
嘘か真か。
個別に成り立っていた大きな大地は、頂上とされる霊峰『天上領山』に吸い寄せられるようにしてその隙間を埋めていったそうだ。
その天上領山は文字通り、天の上まで高く聳え立ち近づく者を許さない場所だった。
近付けば近づく程に天候は荒れ狂い、魔物の数も増え、より手強くなり、この世の誰にも頂上への到達は不可能かと思えた。
『地上の生き物が天の上に立つなど許さない』と言われているように。
だが、大連山が形成されてから一人の男がその頂に足を踏み入れたと言う。
その男は登りきった所でつまらなそうな顔をして『こんなものか』と呟いたらしい。
それ以来、命知らずの冒険者達がこぞってその男の背を追いつの間にか大きな修練場と化していた。
だがここ最近、その修練場と化したはずの大連山には冒険者の姿や魔物の姿が激減。
そのせいもあり大きな静寂が広がり、寂しさと不気味さがより際立ち近寄る者は少なくなったと言う。
そして俺達セブンスヘブンは、その原因の調査を何故か“街のギルド”から依頼されたのだった。
大連山の麓まで来た俺たち。
入山の許可は下りているが、前に来たときとは違い“最強の安心感“は今はない。
いくら調査を依頼されたからとはいえ、深追いは危険だ。
なんて言ったって俺たちはランクBなんだから!
「いやー、しっかしスゲー山だな!」
「大連山って言うだけあって、迫力が違うわね」
この景色は他では出会えない。
緩やかな傾斜から始まり、多くの動植物も生息している。穏やかで静かな空気感が漂う。
この奥には強大な魔物や、荒れる天候なんて待っている訳がないと錯覚していまうほどに。
「俺ここに来たのは初めてなんだけど、こんなに静かなのか?」
想像以上に静まり返っていた事に違和感を覚えたのか、ルドルは眉間にシワを寄せ顎に手を当てながらそう呟いた。
「さっきギルド長からあった通りって事じゃないかしら?」
「前はもっとむさい冒険者で溢れかえっていたんだろうし」
この静かな状況が清々しいと言わんばかりに、青く綺麗に整えられた髪をなびかせる。
(むさい冒険者って、リエル…)
だが、確かに二人の言う通り冒険者や魔物の姿や気配は感じなかった…
「ミリティス、何か見えるか?」
今日はリンビアが居ないためサーチが出来るような装置は無い。
ミリティスの眼を頼りに、索敵を任せた。
「今は何も見えない。動物の気配が少しあるくらいだな」
「まぁそうだよな…」
「とりあえず、進んでみようぜ!ここに居ても何も分かんないだろ!」
「そうね!それがいいわ」
リエルもセブンスヘブンとして依頼をこなすのは初めてで、良い所をソーンに見せようとやる気に満ち溢れていた。
一行は麓から大連山の始まりを登り出す。
道中、ソーンは不本意な評価を出された父マクラウルとの最終試練へ向かう時の言葉を思い出した。
――『しかし、今日は何だか変だな。こんなに天気もいいのに静かすぎないか?』
――『普段ならもう少し、モンスターの声や冒険者達の声がしてもいいと思うんだが』
あの時はこの言葉を対して気にしていなかったが、思えば“音”が聞こえない。
文字通り“静か”過ぎる。
「ソーン」
皆の最後尾を歩いていた俺の足をミリティスの左腕が止めた。
「どうした?」
「…何か来る」
そう言われてみれば微かに地面が振動するような揺れを感じ、徐々に俺たちに向かって大きくなっているのに気がつく。
(この微細な揺れに気づけるのか、ミリティスは…!)
(これはいいぞ!)
「二人とも待ってくれ、ミリティスが何かの気配を感じだった!」
「どうしたの?」
「何かの気配?何処だ!全然感じない!」
何処から来るか分からないその“気配”に皆に緊張感が走り、各々武器に手をかけ構える。
ドタドタッ!
バタバタッ!
「おい!ちょっと待てって!」
「ビビってんのか!?こっちに“ヤツ”の気配があるんだよ!」
「あらあら、良い所を見せたいのね」
「ルーイルーイ!!」
「もう、疲れた〜」
草木を割りその“五人”はセブンスヘブンの前に姿を現した、その瞬間。
ドンッ!!
誰の合図も無いまま、両陣営は瞬時に臨戦体制を取った―—
ルドルは腕を赤黒く染め模様を走らせ、拳を堅く強く握りしめる。
その前に立つのは愛らしいモフモフの純白の耳をピョコンと伸ばし、膝を軽く曲げ太腿の筋肉を隆起させるアシー。
杖に魔法陣を纏わせ辺り一帯の温度を一瞬にして奪い、氷龍をいつでも放てる様に構えるリエル。
対するは、バン。
バンの頭からは木の枝の様な形状の鮮やかな緑色と茶色の角が生えていた。
大きく太い尻尾は硬い鱗で覆われており、その姿は古代の竜族を連想させる。
黒い半円状のモフモフの耳をプクッと出し、肉球の付いた大きな手から鋭利に尖った鋭い爪を光らせるルイルイ。
ダラリと下げられた両腕は地面に届きそうなほどだった。
その隣では気怠そうに欠伸をするノビーン。
頭からはくるりと円を描く様に巻いた螺旋状の角を二本生やし、細く引き締まった輝くふわふわな真っ白い毛並みの両足は地面をしっかりと掴み今にも突進してきそうだった。
ミリティスの二丁の銃口はそんな二人を確実に捉え、引き金指を掛け迎え撃つため魔力を高める。
――ただし、後方に位置する“二人”を除く、全員が。
お互いの陣営の後方に居る黄金の剣を持つ男と髭面で傷だらけの男―
両者は剣に手をかけ、交差した視線で何かを合図し合う。――その瞬間
ドヒュンッ!!
踏み込んだ足が大地を爆裂させ、そこから生み出された神速が空を裂いて音を置き去りにした。




