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第56話『これは相乗効果!!』

翌日。


リンビア以外の四人は街のギルドの依頼掲示板の前に居た。

張り出されている依頼は、


ー薬草採取

ー迷子の子犬の捜索

ースライムの生態調査

ー引っ越しの手伝い


…他多数。


など。

どれも難易度は低く、報酬は100〜300ジューロン程度だ。

だがここの街のギルドにも当然ランク制度はある。


E〜Aまでの五つに分類される。


外に張り出されているものはE〜Dの冒険者用で、取り分け難しい事も危険な事もほとんど無い。


この前の鬼猪の一件は別だが…。


そしてソーンはそんな優しい掲示板の前で、絶望の淵に立たされていた。



ーーー


ー“セブンスヘブン”一行昇格のご案内ー


鬼猪討伐及び王国の危機を退け、王から直接勲章を授与された事を加味し


“ランクE”から“ランクB”への昇格をここに記す。


ーギルド長


ーーー




俺達『セブンスヘブン』は大した依頼もほとんど受けていないが“ランクB“に昇格していた。


その通知はそれを貼るためだけに用意された木製の立て看板にデカデカと貼り出され、前を通る冒険者達は何事かと確認している。


ーーセブンスヘブン?どんなパーティーだっけ?

ーーそれが俺もわからないんだよ

ーーランクEからBに飛び級なんて相当凄い冒険者なんだな!

ーーそらそうだろ!王様からの勲章だぞ!


どんなパーティーなのかとその立て看板の前は、街の冒険者達でざわついていた。



(な、なんで…!!何の実績もないのに!)



動悸は早まり大きな音となって耳の奥に響く。

焦りからか滲むようにじっとりと額に脂汗をかく。


(国の危機を救ったのはマルコさんでしょ!?)


(これはダメだろ!不正は良くない!うん!)


(それにミリティスが新しく入ったんだ!ランクは調整しないといけないよな!!)


(ギルド長に直談判しないと…)


絶望に打ちひしがれるソーンの隣では興奮に震え今にも叫びだしそうな男が一人。


「…ソーン」

「俺達が…ランク…Bに昇格…!!」

ルドルが拳を握りしめ、震える声で呟く。


「ねぇねぇ!これって凄いことよね!?」

リエルも目を輝かせて立て看板を見つめる。


「流石だ。むしろランクBじゃ低いくらいじゃないか?」


続くように驚きと喜びの声を上げる。



キィーッ



無言のままギルドの扉を押し、固くなった表情がほぐれることなく受付台までまっすぐ進んだ。


「あ、おいソーン」

「どうしたの?」

「嬉しすぎて言葉も出ないんじゃないかー?」


スタスタと中へ入っていくソーンを追うようにして三人もギルド内へと入っていった。

いつもの様に冒険者達で賑やかな雰囲気のギルドはある話題で持ちきり。


ーセブンスヘブンを知るものはいるか


ーセブンスヘブンとはどんな実力なのか


ーセブンスヘブンに可愛い子はいるのか


ーセブンスヘブンより俺達のほうが強い!


など、想像と憶測が飛び交い。

当の本人達が中に入ってきていることは誰も分からなかった。


「あ!こんにちは!クリーガーさん!なんだかお久しぶりですね!!」


元気な声と冒険者を安心させてくれる笑顔で迎えてくれるのは、看板受付嬢のウィンクだ。

彼女はランクなどは気にせず皆に等しく優しかった。



そして気を遣うのも相当上手かった。



(聞きましたよ、クリーガーさん!)

(この国の王様から勲章貰ったんですって!?)

(凄い名誉なことじゃないですか!!)

(それに一気にランクBに上がるなんて流石すぎます!!)

(ギルド長も大喜びしてましたよ、“久々”にウチからもランクBの冒険者パーティーが出てきたって!)



興奮する気持ちを抑えながら、鼻息は荒く顔は近くでも、前にルドルから『勇者であることは言いふらさないでくれ』と言われているからか、この一件のことも全体に聞こえる声ではなくヒソヒソと小声で話してくれていた。



ウィンクだけでなくギルド長までもがこの事実に喜び歓喜していた。街のギルドは王国のギルドと比べ冒険者の実力も依頼内容も低く、ランクレベルとしても二階級ほどの差がある。



とは言え、街のギルドからランクBのパーティーが出てきたということはとても喜ばしいことだった。


そんな喜びの渦の中、開くのに力がいるほど重くなった口を開こうとした時。


「その事なんだけど…」

「あ!マフティスさんにリエルさんまで!こんにちは!!」


ソーンの後に続き入って来た皆を同じ笑顔で迎える。


「どもっ!」

ポケットに入れていた手を軽快に上げ軽い笑顔で返事をする。


「こんにちは、ウィンク。今日も元気いっぱいね」

外面完璧なリエルは丁寧に優しく、そして綺麗な微笑みでしっかりと挨拶を交わした。


「そのお隣の方はっ!?もしかして新しいお仲間ですか!?」


リエルの隣をゆっくりと歩くミリティスを見ていった。彼女の距離感は既に他人のそれではなく、セブンスヘブンの一員として認知される雰囲気を醸し出していた。


「初めまして、ミリティス=リットだ。これからここのギルドで世話になる、よろしく頼む」


きっちりと腰を曲げ頭を下げ初めて会う人への礼儀を持ち対応する。


「はい!こちらこそよろしくお願いします!リットさん!」

「私はウィンク=スターリングといいます!」


キラリンッ☆


(星が…!?)


「ではリットさん、まずは冒険者登録をさせて下さい!こちらにご記入をお願いします!」

「分かった」


ーーー

ーー


ウィンクは事務的な手続きを流れるような手際でこなしていく。

整ったお手本の様なペンの持ち方で、お手本の様な字を書き進めるミリティスの用紙を受付台から覗き込む。


カキカキカッ


ミリティスの書く手が一瞬止まる。ウィンクはその隙を逃さず、先回りするように身を乗り出した。


「所属パーティーはセブ…っあ!」

(そこにはセブンスヘブンと書いて下さい)


カキカキッ


「ここは、何で書いたらいいんだ?」

「ここはランク…っあ!」

(ここはランクBって書いて下さい)


カキカキッ



(何で小声なんだ…?)


「ここはーー」


カキカキッ



そんな疑問を持ちつつもウィンクのナイスなアシストにより、冒険者登録の書類を難なく早く書き終えた。



「はい!お疲れ様でした!以上で登録させてもらいますね!」

「非常に洗練されたアシストだった。ありがとう、助かった」



書類を受け取り、そのまま後ろの扉を開き足早に裏へと消えていったウィンク。



少ししてー



ガチャッ



扉が優しく開いた。そこからのっそりと出てきたのは大柄で優しそうな男の人。つまり俺達をランクBに上げた張本人だった。


「いやー!これはこれは!セブンスーー」

(ギルド長!ダメですよ!人が多いんですから!)


「おっと、スマンスマン」

(ランクB昇格おめでとう!俺も鼻が高いよ)


ウィンクに諭されギルド長もその大きな顔を皆に近づけて、ヒソヒソと小さな声で祝福した。


ギルドの二人はテンション高く大盛り上がりで、でも声のトーンは落とし気味に。周りの職員達からもチラチラとセブンスヘブンに送る目線が刺さる。


そしてランクB以上になると下位の依頼を受けても報酬は半分になり評価も付きづらい事など昇格後の説明をされ、最後に“特別な依頼”があると神妙な顔でギルド長は言った。


「その依頼内容なんだけどーー」

「あ!その前にクリーガーさん!先程何か言いかけてませんでしたか?遮ってしまってすいませんでした!」


ここでの最初のやり取りを思い出したウィンクは、ハッとしこのタイミングでソーンへと会話をパスする。


(い、言えるわけがない…このテンションの二人…)


完全に言うタイミングを外された俺は、本心を心にグッと押し止めた。


「いや、別に大したことじゃないんだ…」

「そうですか?もし何かあればいつでも仰ってくださいね!私たちはいつでも“味方“ですから!」

「う、うん。ありがとう…!」

「はい!ではギルド長お願いします!」



コホンッ



「それでその内容なんだけどーー」


ーーー

ーー


(ランクB…)


(何でだ!!)


(一体どこから間違えてしまったのか…)



ピキーンッ!



(いや、待てよ…)



「だってよ、ソーン。どうする?」

「ん?あぁ。そうだな、ルドルの判断に任せるよ」



(ミリティスの加入とランクBへの昇格…)


(これは相乗効果!!)


(高いレベルの依頼で俺の本当の力を見せつければ…)


(上手く行けば即刻追放もあり得るかもしれん!!)


ーー

ーーー



「ありがとう!この依頼は皆に任せるよ。承認!」


トンッ


ギルド長はホッとした表情で依頼の書かれている書類に承認の判を押しウィンクへと渡した。


「では皆さん!良い冒険者ライフを!」


のっそりと大きな腕を上げて、喜びの詰まった優しい笑顔で俺達を見送った。


「“大連山”の調査お願いしますねー!行ってらっしゃいー!」


キラリンッ☆

いつもの様に可憐なウィンクで星を飛ばしたのを、目の当たりにし俺は我に返った。


(え!?今“大連山”って言った!?)

(なんかこう、凶悪なゴブリンの群れ討伐くらいじゃないの!?ランクBだよ!?)

(何で大連山なんかにーーー!!)


セブンスヘブンはソーンの冒険者としての始まりの地、大連山の調査へと向かうのであった。

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