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55話『天からの贈り物! 』

ーー七福亭


ガヤガヤ

ワイワイ


昼時という事もありここはいつも以上に賑やかな声が店中に反響していた。

老若男女関係なく昼からでもはしゃげるのはこのお店の良い所だ。


「お待たせいたしましたー!」


ビールの入った五つのジョッキを軽々と片手で持ち、もう片方の手で料理を器用にいくつか持った店員さんが元気よくやって来る。


木製の円卓に座る五人の前にキンキンに冷えジョッキに汗をかいている黄金に輝く酒と、その一杯に対しては有り余る程に盛られた料理が置かれた。


「えー、それではミリティスの加入とリエルとの和解に乾杯だぁー!!」


高らかにジョッキを掲げ、弾けた泡が店内の照明を乱反射させ楽しそうに空中に消える。


「乾杯!」

「乾杯ッス〜!」

「よろしく頼む、乾杯」

「か、乾杯」


ガチンッ!


各々様々な気持ちを心に抱き、ルドルの音頭に合わせ優しく小気味良い音でジョッキ同士を合わせた。


ゴクゴクッ!

「「プハァーッ!」」


痛みに似た爽快感と刺激が喉を通過し身体を巡る感覚を覚え、皆同じ様な顔をして喉を潤した。


この時、ソーンの気持ちは自然と晴れやかな気持ちに溢れ現状の肯定が進む。

脳内で、内なる“居るだけ勇者”が騒ぎ立てる。


(よくよく考えれば、ミリティスの様な凄腕の冒険者がパーティーに加入するのは良いことじゃないか!)


(ルドル、リンビア、リエルに加えて周りをよく見れる眼を持っているミリティス…)


(これで俺の何もしない“居るだけ勇者”がより鮮明に浮き彫りになるぞ!!)


(あー、ヤバい!早く依頼を受けたい!そして見せつけたい!この俺の力を!!)


(そう!これは今までのことに耐えてきた俺に対しての天からの贈り物!追放を加速させてくれる仲間だ!!)


ジョッキを持つ手が興奮で震えそうな所を必死に抑え、平然を装う。



「ッカァー!!昼からでもビールは美味い!」



そんなソーンを見て彼女は心にモヤを落とす。

頬杖を付いてブスッと口を尖らせ頬を小さく丸く膨らませた。


(何よ、ソーン。その普通な感じ!)


(自分の部屋をミリティスに使わせるのがそんなに嫌じゃないの!?)


(私はそんなの許してないから!)



(…ハッ!いけない私!また嫉妬の渦に飲み込まれそうになってる!)



(“先輩”の余裕と美しさを見せないと…!)


(負けちゃダメよ!リエル!頑張れ私!)



「これなんだ?いただきまーす!」

バクッ!

「んん!うめー!!」



ほとんど寝起きの状態で酒を煽るリンビア。

見知らぬ人への興味で目を輝かせていた。

いつでも彼女は彼女だ。


(この人はどんな人ッスかね〜。装備を見るに銃を使うのは間違いないッス!)


(今朝の身のこなし、そして即座に私が先輩である事に気付き正した姿勢…ビンビンと出来るオーラを感じる…)


(また面白い人を連れてきたッスね!実験のし甲斐があるッス!!)



「こっちのも美味そうだな!」



ジョッキを静かにテーブルに置き。

スッと目を閉じる。


フーッ


一つ息をゆっくりと吐く。


(心地よい)


(さっきまであんな激闘を繰り広げた後だとは思えない程に)


(勘違いとはいえ酷いことをした…これからはソーンを筆頭に皆にも力を貸して行く…!)


(まず私がやる事は!)


(飲む!!)


カッと目を見開きジョッキを勢い良く握り、勢いそのままに口につけた。


ングングングッ!


見る見るうちに中の黄金の量は減り、喉を勢い良く流れいく。気が付けばミリティスは真っ直ぐ上を向いていた。


ドンッ

「ッンハァー!」


一気に飲み干したビールは口ひげの泡のみになっていた。


「おぉ!ミリティス!いけるクチか!おっしゃー!俺もぉ!」

「いいッスね〜、リンビアちゃんも負けないッスよー!」

「ちょっと二人とも落ち着いて飲みなさいよ」

「ハハハ、今日も賑やかだな」


—いいねぇ!兄ちゃん達!ドンドン飲みねぇ!!

—いよっ!


厨房からは店主が太く大きな両腕でドデカイ鍋を振るいながらガヤを飛ばす。

それにつづき店員さんも声を上げていた。


「その通りだ皆」

「どんどん飲んでどんどん食べてくれ、贖罪の意味も込めてここは私の奢りだ!」

「まじか!いいのか!奢りなんて!?」


パラパラッ


目の輝きが一層に増したルドルは早速メニューを開き次に頼むべき料理を考える最中、一つの真実を口にする。



「そう言えばさ、最近俺達ギルドで依頼受けてなくないか?」



皆をみて言うのではなく目線は変わらずメニューに向いていた。



確かに鬼猪の一件以来、依頼とは関係ない調査、“天魔教”のプルグと召喚されたマノンとの戦い、王国へと招待され、ミリティス加入…


本当にその通りだった。


俺はハッとした。


「そうなんだよ!!」


今、依頼へ出たいと言う気持ちとルドルの発言が重なり合い、この上ないタイミングを見つけた俺は必要以上の声量が出てしまった。


ビクッ!


「うわ、びっくりしたッス」

「どうしたのよ?」

「ギルド長も言ってたけど、冒険者の本懐は依頼を受け冒険をする事にあると!」


ピキーンッ!


適当に料理を頼んだルドルはメニューを閉じ、今度は別の色で目を輝かせ心を燃やし、やる気に満ち溢れている勇者を向き変える。


「ソーンが今まで以上に燃えている…!!行くか!?」

「私はいつでも用意は出来ているよ、ソーン」

「え、嘘でしょ!?今から!?疲れてないの!?」

「私は“非戦闘員”なので、いつでも帰る準備は出来てるッス!」


(確かにリエルの言う通り今朝の戦闘で三人には疲れがあるかもしれない…)


(その三人を下回るほどに何もしない…いや、これはちょっと違うな…)


(万全の皆のもとでこそ“俺の力”は輝き目にとまる!)


(何よりミリティスが疲れていては、彼女の観察眼が鈍る可能性もあるか…)


(ここは明日に向けて英気を養い体調を万全にする!これが今のベストアンサーだ!!)


この間0.5秒ーー

凄まじい思考力が駆け巡り答えに辿り着いた。

スッと力強く目を開く。


「確かにリエルの言う通りだな。今日は疲れを癒して明日依頼を受けに行くのが一番いいかもしれない。どうかな?」

「一利あるな!朝のトレーニングにしちゃちょっと疲れ過ぎた!それに飯も酒もまだまだ来るし!」

「ソーンが言うならもちろん従うよ」

「それがいいと思う。そうしましょー!」

「そうなれば祝い酒ッスよー!ソーンさん、ジョッキが空ッスよ!」

「ああ!輝かしい未来にもう一回乾杯だ!!」


既に頼まれていた追加のビールを手に持ち、心と共に宙に浮いた。


明日、自分の本領を発揮させると意気込みながら、待ち受ける新たなる依頼へと英気を養うのであった。

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