54話『俺…ちゃんと断った…よな?』
「それで…えっ〜と…」
「ミリティス=リットだ。ミリティスでいい」
「ミリティスさん。私はリエル=ミラーです」
「名字で呼ばれるのは好きじゃないから、私もリエルでいいですよ」
事を収めた一行は拠点へ帰り、各々装備を解除し日常へと戻っていた。
鋭い角度で照らしていた空の光は真上から世界を照らしていた。
「『さん』も敬語もいらない」
「分かったわ」
「それで、ミリティス。そのお酒の作り方?ってどうやるの?」
「私も作ってみたい!」
拠点に配置された大きなテーブルに向き合って座る四人は一息ついて談笑をしている。
そんなテーブルから身を乗り出すように、そのソーンの好物の“お酒の作り方”を興味津々にミリティスに顔を近づける。
「作り方?それは分からないが美味しい飲み方なら知ってる」
「あら?そうなの?」
(あれ?聞き間違えたかしら?)
一瞬、リエルの頭の上に疑問符が浮かぶ。だが、リエルはすぐに美しい笑みを戻した。
「それでもいいわ!今度私もそのBARに行ってみたい!」
「もちろんだ、せっかく“パーティーに加入”させてもらったんだ。一杯奢らせてほしい」
真剣な眼差しで、冷静に静かな声でセブンスヘブンに加入したと言うミリティスに驚きを隠せない男が居た。
「「加入!?」」
(ん!?)
(か、加入!?)
(俺…ちゃんと断った…よな?)
(どういう事?)
(ただソーンにお酒の飲み方?を教えに来ただけじゃないの?)
(何で加入なんて話になるのよ!)
「おぉー!!!銃のねーちゃんセブンスヘブンの一員になるか!いいじゃん!」
「五人目は最強の狙撃手か!これで俺たちも一気に強くなるぞー!」
((ルドル!))
そんな周りの空気とは裏腹にルドル一人は強い人がパーティーに入ることを歓迎し、承諾していた。
「いや、ちょっとーー」
ギィー…。
バタンッ…!
ハッチが重めの音をさせながら地下と繋がった。
「!!」
ガタンッ!
咄嗟に椅子から立ち上がり銃に手をかける。
ヌッ
地下から出てきた紫色の頭が四人の視線を全て奪った。
フア〜
「…おはようッス〜」
大きくあくびをし眠い目を擦りながら、まるで這い出てきた化け物の様にノソノソと姿を現した。
「お、おはよう」
「おーっす!」
「おはよう、リンビア」
「……」
目を細く力を入れボヤける視界で四人の姿を捉える。
寝ぼけているのか人が多い気がした。
(んー?)
スチャッ
グルグルメガネを掛け、目を凝らしそこに居る人を確認した。
「ソーンさん…ルドルさん…リエルさん…」
無言で銃に手をかけ警戒を緩めないミリティスと、疑問と不安を抱いた視線がぶつかる。
「……」
「……」
彼女は地下から這い出てきたその得体のしれないグルグルメガネから、目線をずらすことをしなかった。
「あの…誰ッス…か?」
何もしようとしない仲間たちに、助けを求めるように目配せをしこの状況の説明を求めた。
手を添える銃に撃たれてしまう恐怖感を覚え、ハッチの中から出て行けずに紫色の頭が見え隠れする。
「ソーン」
こっちはこっちで挨拶の後何も動きがないソーンに、自分はどうしたらいいのか分からないとばかりに指示を仰いだ。
振り向いては何をされるか分からないこの状況に、常に相手の行動を観察し声だけをソーンへ向けた。
「リンビア、こちらはミリティス=リットさんと言ってーー」
「さっきセブンスヘブンの“仲間“なったぞ!」
ソーンの言葉の隙間を見計らい、空かさずルドルは新しく仲間になった強い狙撃手を自慢気に言った。
ピキーンッ!
その言葉にリンビアは、ニィっと口角を上げ飛び上がる。ハッチの縁に両足を置いて仁王立ち。
そして見下ろす様に顎を上げメガネの隙間からミリティスを覗いた。
「新しい仲間ッスか?このスーパー科学者のリンビアちゃんに挨拶がないのはおかしいんじゃないッスかー?新人」
先輩である私に挨拶するのは当然だと、途端にふんぞり返って先輩風を吹かせ強気に出る。
銃に添えていた手を瞬時に引き綺麗で無駄のない所作で頭を下げた。
「これは失礼した。スーパー科学者のリンビア女史。これからお世話になる」
(リンビア女史…)
(うぉー!なんといい響きなんッスかー!)
(この後輩…出来る…!!)
トロトロに下品なニンマリ顔で、幸福度の高い分泌物が脳内に広がり一瞬で懐柔されていった。
「そこまで言うなら仕方ないッスね〜、すぐ部屋作るッスから!」
「リエルさんの隣とかでいいッスかね〜」
スッ!ガチャガチャンッ!
どこからともなく両手いっぱいの工具の山を持ち、今にでも作業に取り掛かろうとするがーー。
「いや、新しく作って貰わなくて結構だ」
その行動を静止するように静かで冷静な声が放たれた。
「え?ここに住まないッスか?まさか野宿…!?」
「それは幾らなんでも…二階はまだ私以外使ってないから全然ーー」
「部屋なら“そこ”を使わせて貰うから問題ない」
「「そこ…?」」
彼女の強く、しなやかな指が真っ直ぐに指した先には黄金の剣が立て掛けられ、王国に招かれた際にトレンが用意してくれた金色のロングジャケットが綺麗に掛けられていた。
そこは紛れもなくソーンの部屋に相違なかった。
「そこは俺の部ーー」
「な!ん!で!アンタがソーンの部屋を使うわけ!?」
ソーンの言葉を待たずして、目を吊り上げ語尾を強く強調し、先程までの綺麗で優しい雰囲気は消えた。
力の籠もった指先はミリティスの胸に今にも刺さりそうな勢いで、向けられていた。
「それはちょっといきなり不潔じゃないッスか!?それならむしろソーンさんは私の部屋に…ジュルリ…」
「私はソーンの一番近い人として守り抜くと決めた。そこで暮らすのに理由はそれだけで十分」
涼しい顔をして、当たり前だと言わんばかりの表情で淡々と話すミリティスとリエル、リンビアは最早会話が出来てるのか怪しさすらあった。
「そもそも私はアンタのパーティー加入だって許してないんだけど!?」
「それはあのツンツンの彼から許可を貰っている。観るに彼がここの二番手だろ?それ以降の人が何を言ってもあまり意味はないと思うが?」
「ぐぬぬ……」
ギャーギャー。
ワーワー。
三人の女性たちは各々の気持ちをその一言に対して、ぶつけ続ける。
「なぁ、ソーン」
「あ、ああ」
「あの銃のねーちゃん、ミリティスだっけか?そんなにそこの部屋がよかったら、俺の部屋広すぎるからこっちに来てもいいぜ?」
腕を組み考え込んでいた俺は、ルドルのその話の根本を無視した言葉に話の着地点を見いだした。
「流石だぜ!ルドル!」
「お?おお!だろ!そうと決まれば七福亭に早く行こうぜ!もう俺は腹が減って死にそうだ…」
空腹で鳴き止まないお腹に手を当て、今にも倒れてしまいそうな表情をした。
確かに朝から何も食べていない。
俺もそろそろ空腹が限界に近くなって来ていた。
「皆!」
「「「……??」」」
「とりあえず、部屋のことは後で決めよう!」
「もし、どうしてもミリティスがそこの部屋がよければそうしてもいいし!な!」
キランッ!
口元から白い歯をのぞかせた勇者スマイルを見せ、三人をなだめ落ち着かせようと試みた。
(ミリティス加入もなし崩しになりそうで怖い…ここは一旦仕切り直さないと…)
「…え…!?」
「それなら私もそこの部屋にする!!」
ソーンの部屋の使用許可が下りた途端、興奮気味のリエルのまさかの発言はソーン以上に周りを黙らせた。
と同時に、見る見るうちに身体顔に熱が込み上げ体温を上げた。
「だ、だってそうじゃない!何をしでかすか分かったもんじゃないんだから!」
グゥ~…。
恥ずかしさを上塗りする様にリエルのお腹が食事を催促する。
「い、今のは私じゃないからね!」
「ルル、ルドルでしょどうせ!」
犯人であろう自分のお腹を両腕で一向に収まらないどころか、増すばかりの火照りを少しでも軽減するように言葉を吐く。
ハハハ
「リエルも腹が減れば、音が鳴るんだな!」
「だ、だから!」
「早い事七福亭にでも行こうぜ!」
そんなリエルに対し嬉しそうにルドルが言う。
フフッ
「笑わないで!」
「いや、楽しそうなパーティーだと思って」
「フン!忘れないでよ!私だってここじゃ“先輩”なんだからね!」
ニマニマ
リンビアはどんどんドツボにはまる彼女の微笑ましい光景を楽しく見守っていた。
「行きましょうソーン!」
ガシッとソーン腕に腕を組み半ば強引に外へ出た。
「待てよー!俺も腹減ってお腹がなりそうだー!」
「うっさい!!」
「リンビア女史、私たちも行こうか」
「そうッスね!」
こうしてミリティスは自然と、そしてなし崩しに加入となった。
これでセブンスヘブンは五人となりルドルの求める人数までは後二人になった。
(あれ?追放からなんか遠のいてない!?)




