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第51話『俺は傷だらけの剣士ジョー』

俺は《傷だらけの剣士ジョー》

一つの目標の為に依頼をこなすただの冒険者さ


王国騎士団や上位ランクのツワモノが揃う中王国のギルドの中でランクBとなかなかの好成績を残してる—

もちろん俺一人の力ではないけどな


《アシー》《バン》《ルイルイ》《ノビーン》


“四人の従者”を従えて今日も戦うだけだ



「おい、ジョーなに黄昏てんだ」

戦闘になると一番槍としていつも出張ってくれる、頼れる存在。

だが、口が悪く強気で手が出るのが早いのがアシー。

とりあえず俺に噛み付いてくるのが玉にキズだ。


「よしなさいよ、ジョーだって黄昏れたい時だってあるでしょう?」

俺をイジっているのかマジで言ってるのか、アシーをなだめてくれているのはバン。

気の利く四人の優しいお姉さんだ。

実際、怒らせたら一番怖いのはバンである。


「ルイルイ♪」

無邪気!そのひと言に尽きる!

空気を和ませてくれるのはいつもこの子だ。

ルイルイしか言わないが、何となく言ってることは分かる。

きっと今のは『お腹空いた』か『遊ぼう』のどちらかだろう。


「もう帰りたいぞ〜」

今日も今日とてやる気が誰よりもないノビーンは、眠くもないのに地面に寝そべり目を閉じている。

楽をすることばかり考えて、最早効率がとても良い。


そんな賑やかな四人の従者だ。


そして今日も人知れず傷だらけの鎧と身体で金を稼ぐ。


ーー




ゲシッ!

「聞いてんのかよ!おい!」


岩場に隆起した座るに適している石に、膝を立てカッコよく座っていた俺の背中に罵声と衝撃が走る。

とりあえず噛み付いてくるというのはこういう事だ…


「うわ!」


ズガガガーッ

地面の細かい凹凸を剥き出しの顔で直接感じる。


「何すんだ!アシー!痛てーだろ!」

「何じゃないだろ!ウチを無視すんな!」


頬を撫でいたわる俺を前に石の上に立ったアシーが、

太陽を背負い黒いシルエットとなって見下ろしていた。


「無視されて淋しかったのね、可愛いアシーだこと」


石の上で偉そうに振る舞うアシーを見上げ、まるで幼い我が子の成長を見守るような優しい声でフフフと微笑んだ。


「違うわ!こいつがカッコつけてる自分に酔ってウチを無視するから!」

「べ、別に酔ってないわ!」

「ルーイルイ!」


シュバッ

ドデーン!


私もー!と空を泳ぐように俺の上に手足を伸ばして飛び乗ってくる無邪気なルイルイ。


「おいおい、ルイルイ遊んでるわけじゃないんだぞー」

「ルイルイ?」


二人が楽しそうだったから、三人で一緒に遊ぼ?純粋な無垢な丸い瞳で俺を見つめる。



「ねーねー、遊んでるだけならもう帰ってもいいー?」


ノビーンは自己主張が強い!

しかも寝そべってないでやる気を出せ!


「だから遊んでねーって!」


ルイルイと戯れながらもしっかりと訂正は入れる。

その姿は最早遊んでいた。


「私も混ざってもいいかしら?」

「だぁー!もー!」


丁寧にルイルイをどかし起き上がりよく言い聞かせるように指を立てた。


「よく聞け!俺たちは遊びに来たんじゃないんだ!“ヤツ”を見つけ、そして消す!そのために来たんだ!」

「分かったら観測を続けろい」


遠くを、その“ヤツ”が現れるであろう地点を見つめる。


「フン!でもその情報ってホントにあってるの?」


目を細め唇を尖らせながらジョーの言う事をしっかりと守る。


「さてねぇ、匿名の情報だけれど王国がそれを通したって事はある程度の信憑性はあるって事じゃないかしら?」

「ふぅん。ならいいけど」


ブスッとしながら腕を組み森の方に目線を送る。


「ここできっちりと借りを何千倍にもして返すぞ!」


(あの惨劇はもう起こさせないために…!!)



ーーー

ーー



ジョー達がここへ来た理由。

それは五人の出自にまつわる。


まだジョー達が幼く、知り合いでなかった頃。


五人はここから遥か遠くの《カシュラム》と言う街で暮らしていた。


昔から人間と獣人の親交が盛んで、差別などのない平和な街。



——家族と楽しく朝食を囲んでいたある時。


——平和な街を脅かす“ヤツ”が突然現れた。


ーー街の広場がざわつき、辺りが騒がしくなる。


「ちょっとジョー、どこ行くの!?」


子供ながらに胸騒ぎを覚えた俺は、親の声すら聞かずに家から飛び出し広場へと向かった。


辺りは住人でごった返し、その中心には細長く不気味な雰囲気を漂わせる男が立っていた。


(誰だ…?この辺じゃ見たことのない雰囲気の人だな)


「皆さま…ご機嫌麗しゅう」


長く細い腕をひらりと動かし、サラサラの切り揃えられた髪を下に垂らしながら大きく頭を下げる。


その声は自然と聴き入ってしまう声量と高さ。

ざわついていた人達も静かに口を閉じていった。


「ワタシは《ルメノンス》…天を統べる魔王を崇拝するモノでございます」

「皆さまは…何を信じますか?」


“ルメノンス”と名乗った男は顔を上げ、ギョロ付いた目を動かし全員に語りかけるように目を合わせ演説を続けた。


右手を出し、そっと広げる。


「愛…友情…未来…?」


左手を出し、同様の仕草。


「親…恋人…子供…?」


不気味さの原因であるこの青白い顔がニタァ…と口角を上げる。


「それは…全てノイズだぁ…」


ねっとりとした粘り気のある喋り口調で群衆の道にへばりつく声。


その男は広げた両の掌を見せつけるようにゆっくりと握りつぶした。


その光景に周りの人達は息を呑み、この街は水を打ったように静まり返っていた。


フン…

「では…分かりやすくご説明…いたしますねぇ…」


ビシュュンッ

長細い腕が一人の幼い獣人の子供の首根っこを抑え、釣りでもするかの様に引き寄せた。


「ライオォーー!!」


突然の状況に考える間もなく獣人の男が咆哮を上げる。

腕を千切れるんじゃないかという勢いで精一杯伸ばし、自らの息子を救い出そうと必死に掴もうとする。


「パパァァァー!!」


泣き叫びこれから自分がどうなるかを想像しきった、恐怖と緊張で歪み崩れた顔が今でも忘れられない。


「それです…よ…」


獣人の子を抱え狂気に満ちた微笑み。

父親をジッと見つめる目線。

突き立てた長く尖った爪。


“それ”と言うその謎の言葉と、動きを見せつけられた人々は金縛りにあったかのように微動だにしない。


ただ一人を除いて。


「頼む…やめてくれ…」

「その子だけは…代わりに俺を好きにしてくれ…お願いします…」

自然とその人は膝を付き両手を地面に置き懇願していた。


「子を想う父…自らの力だけじゃ生きられないず…愛を求める子…」


ハァ…


ポイッ。

「痛て…えっ?」


“ルメノンス”は突然

抱えていた子供をゴミのように地面に放り捨てた。


「パパー!!」

涙を流しながら地べたを這いずリながら、なりふり構わず必死に自分を待つ父親の元へ小さい腕と足を動かす。


「ライオー!!」

膝をついたまま太くたくましい腕をこれでもかと広げ、愛する息子を胸に思いっきり抱きしめられると。


「あぁー何という神の御慈悲…!ありが——」


ザシュッ


父親の腕に抱かれたのは腹部に大きな穴が空いた我が子だった…


「な……」

「ライオぉぉぁお!!!!」


赤く染められた我が子を、赤く染まった腕で抱きかながら聞こえる悲痛な叫びは、見る者すべての目を伏せたくなるような光景だった。


「ああ…何と無意味な事…」

「神の慈悲…?そんな物がこの世に存在したことがあっただろうか?」

「それすらも…天魔教の前ではノイズに過ぎない…」


手に付いた血を振り払いポケットから出した純白のハンカチで丁寧に拭き取る。


「泣く必要なんて…ありません」

「皆様は…大事な“贄”なのですから」


諭すように優しい声でここに居る人々全員に語りかけた。


そしてヤツは着ていた黒いローブから身の丈程もある長く細く禍々しい剣を引き抜く。


ニタァ…


「はぁ…いつ見ても美しい…早くあなた様の元へお運びいたします…」


恍惚な表情はこれから起きる惨劇がどのような物なのか容易く想像をさせた。


「それでは皆様…天を統べる魔王の元でお会いしましょう」



「に、逃げろー!」

「キャーーー!!」

「ママどこーー!?」


悲鳴と怒号が鼓膜を破らんばかりに響き渡り、平和だった広場は一瞬で地獄と化した。


人々は我先にとその“恐怖”から逃げ出し、他人のことはお構いなし。


どこに向かうわけでもなくただただそこから離れる為に…


俺はその光景を震える小さな体を自ら抱き瞬きすら忘れて見つめ続けることしか出来なかった。

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